上 下
56 / 93
第2章

56 孤児院

しおりを挟む
 中央通りのマフィンのお店に、レインと出かけた。

 お付きの者は、今日もシュロです。

 髪をストールで隠していきました。

 今日も賑わっております。

 殿方がいるのが珍しいので、お客さんは、今日はおとなしいです。でも、レインを見て『素敵!』『抱かれたい!』等と溜息付きで囁かれております。

 私はジロッとレインを見ます。

 レインが喜んでいたら足を踏んづけてやろうと思ったのですが、レインは無関心のご様子。


「ニナ、あの壁に飾られているのはなんだ?」とお店の装飾を夢中で見ておりました。

「私のお小遣いでは買えないシフォンケーキですわ。クリームが付いていない物は持ち歩いても大丈夫ですが、夏はクリームで飾れた物は溶けてしまうので、お店から近くの邸で、しかも冷蔵庫がある貴族の方が買っていかれるのですわ」


 ちょっと失礼と並んでいた後方から、ちょび髭を生やした年配のたぶん貴族の男性が、並んでいる列を飛ばして、最前列に出た。


「お客様、並んでください」と店員が言いましたが、「なんだと?わしはアグロス子爵の当主であるぞ。暇な平民は並んでおればいい。わしはこの後、王宮に出向き差し入れをしたいと思っているのだ。どちらが偉い身であるか、考えるまでもないと思うが」と喚き散らした。


 子爵風情が、王宮で何をなさるのか?と私は思いました。

 どうせ、邸に持って帰り、我が子のおやつにするつもりなのだろう。


「アグロス子爵殿、ここは平民も貴族も平等に並んで買い物をするお店ですぞ」とレインは、一言を言った。 

 アグロス子爵は、レインの顔を見て、顔をしかめた。

「レイン辺境伯」

「今日は王宮で何かありましたか?会議は明日へ変更になりましたよ。ご存じなかったのですか?それともご自宅にお持ち帰りでございましょうか?」

 私はレインの腕から手を離した。

 私がしがみついていては、レインが自由に動けない。


「ブルーリングス王国の国王陛下、王妃が並んでおるのに、それを抜かして買い物をなさるのか?買い物の仕方をエイドリック王子と相談して、会議で討論をした方がよかろうか?」

「失礼いたした」

 アグロス子爵は、居たたまれず、店から出て行った。

 ああ、スッキリした。

 私は、貴族だから並ばなくてもいいと思っている殿方はきらいなのよ。

 さすが、レイン。


「ブルーリングス王国、国王陛下、王妃様、ありがとうございます」と、店長が出てきた。

 レインは私のストールを引っ張り、外してしまった。

 シュロがふわりとしたストールを素早く手に取り、たたんでいる。

「白い」

「目が青い」と、民が騒ぎ出す。

「白い髪、青い瞳はブルーリングス王国の特徴であるぞ。ブルーリングス王国はニクス王国と友好国で、血も混ざっておるために、ニクス王国の民の中からも、時々、我々のような白銀の髪にブルーアイの子が生まれる・・・」

 お店の中も、外も人が集まっている。

 策士ね。

 人の口に戸は立てられぬ・・・この人気店で宣伝するだけで、噂が一人歩きをする。

「さあ、順番に買い物をするがいい」

「国王陛下、宜しければ、こちらにおいでください」と店主に誘われて、レインは店主の後を着いていく。近衛も動く。

「王妃様は、この前も来てくださいましたね」

「私はニクス王国生まれで、この近くに住んでおりましたから、子供の頃から通っておりましたわ」

「それは気づきませんでした」

「私が、ここのマフィンが美味しいと言ったので、今日は夫が連れてきてくださったのですわ」

「人気店だと窺っていたが、人が多いですね」

「お陰様で」


 お店の奥から、紅茶とクリームたっぷりのシフォンケーキが、テーブルに置かれた。店員が、近衛騎士にも配っている。


「夏の季節はなかなか売れないのですが、貴族様が時々買っていかれるシフォンケーキです。お礼にもなりませんが、どうぞ召し上がってください」

「ありがとうございます。一度、食べてみたかったのですが、子供の小遣いでは買えない物でしたので・・・」


 フワフワで、クリームは舌の上で溶ける。飾られたフルーツは甘く、少し酸っぱい。


「美味しいわ」

「確かに口にしたことのない味と食感だ」

「レイン、素直に美味しいと言えばいいのよ」

「そうだな、美味しい」とレインは言い換えた。

「店主、このケーキは幾つ準備ができる?」

「そうですね、お時間をいただけば10個はできます」

「では、10個頼む。それから、マフィンは20個頼む」

「マフィンのお味はどうなさいますか?」

「子供が好きな味を頼む。孤児院に持って行くつもりだ」

「レイン、私も欲しいわ」

「選んできなさい」

「最後に並ぶことになってしまうので、お味を教えてください」

「それなら、紅茶とチョコ、リンゴが欲しいわ、あとシュロに紅茶とリンゴをお願いします」

「承知しました」

「ニナ様、私の分はいりませんわ。ニナ様のお小遣いがなくなってしまいますわ」

「今日はレインに買ってもらうわ」


 店員が、焼きたてを袋に入れてくれた。

「レインと半分ずつで食べましょう」

「足りるのか?」

「また連れてきてくれた方が嬉しいわ」

 シフォンケーキは一度、王宮に戻り、冷蔵庫を占領して、それから孤児院に向かいました。


 時間が、お昼過ぎなので、眠っている子もいました。

 レインが言った通りです。

 預けられている子供は、白っぽい髪だったり、美しい白銀だったり、目の色もブルーアイが混ざっていたり、美しいブルーアイの子がいました。

 マフィンをおやつにしてもらうつもりで、手の空いている保母に聞いてみますと、生まれたばかりの子が捨てられていたりするそうです。

 私達が考えていた以上に、ニクス王国にブルーリングス王国が混ざっております。

 この様に差別されないように、お触れを出していただかなければ、ブルーリングス王国の子が差別され非難され、正常な教育も受けられないでしょう。

 もはや、ニクス王国の中に、ブルーリングス王国が存在している状態です。

 秘密の合い言葉を知っている者もいるそうです。その合い言葉と共に捨てられた子もいたとか。


「レイン、子供達を辺境区に連れて行きますか?」

「悩んでいる。連れて行きたいが、環境はニクス王国の中央都市の方がいい。教育を受けられるようにする術はないか。辺境区の冬は、かなり寒い。子供には辛いかもしれぬ」

「そんなに寒いの?」

「ニナはまだ辺境区の冬を知らないからね」


 レインは大きく成長した子供と面会をした。

 理不尽な目に遭っているか尋ねていた。これから何処でどのように生きたいと思っているのか聞いて、祖国という言葉を使って、ブルーリングス王国の存在を教えていた。

 辺境区で生きたいと考えられる者ならば、普通の民と同じ待遇で、差別のない日常で暮らせることを約束して、生活できるようにすると言い、考えておいて欲しいと告げた。

 孤児院は13才で独り立ちする。

 保母も話を一緒に聞いていてくれたので、子供が迷っていれば、相談に乗ってくれるだろう。
しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...