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第2章
56 孤児院
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中央通りのマフィンのお店に、レインと出かけた。
お付きの者は、今日もシュロです。
髪をストールで隠していきました。
今日も賑わっております。
殿方がいるのが珍しいので、お客さんは、今日はおとなしいです。でも、レインを見て『素敵!』『抱かれたい!』等と溜息付きで囁かれております。
私はジロッとレインを見ます。
レインが喜んでいたら足を踏んづけてやろうと思ったのですが、レインは無関心のご様子。
「ニナ、あの壁に飾られているのはなんだ?」とお店の装飾を夢中で見ておりました。
「私のお小遣いでは買えないシフォンケーキですわ。クリームが付いていない物は持ち歩いても大丈夫ですが、夏はクリームで飾れた物は溶けてしまうので、お店から近くの邸で、しかも冷蔵庫がある貴族の方が買っていかれるのですわ」
ちょっと失礼と並んでいた後方から、ちょび髭を生やした年配のたぶん貴族の男性が、並んでいる列を飛ばして、最前列に出た。
「お客様、並んでください」と店員が言いましたが、「なんだと?わしはアグロス子爵の当主であるぞ。暇な平民は並んでおればいい。わしはこの後、王宮に出向き差し入れをしたいと思っているのだ。どちらが偉い身であるか、考えるまでもないと思うが」と喚き散らした。
子爵風情が、王宮で何をなさるのか?と私は思いました。
どうせ、邸に持って帰り、我が子のおやつにするつもりなのだろう。
「アグロス子爵殿、ここは平民も貴族も平等に並んで買い物をするお店ですぞ」とレインは、一言を言った。
アグロス子爵は、レインの顔を見て、顔をしかめた。
「レイン辺境伯」
「今日は王宮で何かありましたか?会議は明日へ変更になりましたよ。ご存じなかったのですか?それともご自宅にお持ち帰りでございましょうか?」
私はレインの腕から手を離した。
私がしがみついていては、レインが自由に動けない。
「ブルーリングス王国の国王陛下、王妃が並んでおるのに、それを抜かして買い物をなさるのか?買い物の仕方をエイドリック王子と相談して、会議で討論をした方がよかろうか?」
「失礼いたした」
アグロス子爵は、居たたまれず、店から出て行った。
ああ、スッキリした。
私は、貴族だから並ばなくてもいいと思っている殿方はきらいなのよ。
さすが、レイン。
「ブルーリングス王国、国王陛下、王妃様、ありがとうございます」と、店長が出てきた。
レインは私のストールを引っ張り、外してしまった。
シュロがふわりとしたストールを素早く手に取り、たたんでいる。
「白い」
「目が青い」と、民が騒ぎ出す。
「白い髪、青い瞳はブルーリングス王国の特徴であるぞ。ブルーリングス王国はニクス王国と友好国で、血も混ざっておるために、ニクス王国の民の中からも、時々、我々のような白銀の髪にブルーアイの子が生まれる・・・」
お店の中も、外も人が集まっている。
策士ね。
人の口に戸は立てられぬ・・・この人気店で宣伝するだけで、噂が一人歩きをする。
「さあ、順番に買い物をするがいい」
「国王陛下、宜しければ、こちらにおいでください」と店主に誘われて、レインは店主の後を着いていく。近衛も動く。
「王妃様は、この前も来てくださいましたね」
「私はニクス王国生まれで、この近くに住んでおりましたから、子供の頃から通っておりましたわ」
「それは気づきませんでした」
「私が、ここのマフィンが美味しいと言ったので、今日は夫が連れてきてくださったのですわ」
「人気店だと窺っていたが、人が多いですね」
「お陰様で」
お店の奥から、紅茶とクリームたっぷりのシフォンケーキが、テーブルに置かれた。店員が、近衛騎士にも配っている。
「夏の季節はなかなか売れないのですが、貴族様が時々買っていかれるシフォンケーキです。お礼にもなりませんが、どうぞ召し上がってください」
「ありがとうございます。一度、食べてみたかったのですが、子供の小遣いでは買えない物でしたので・・・」
フワフワで、クリームは舌の上で溶ける。飾られたフルーツは甘く、少し酸っぱい。
「美味しいわ」
「確かに口にしたことのない味と食感だ」
「レイン、素直に美味しいと言えばいいのよ」
「そうだな、美味しい」とレインは言い換えた。
「店主、このケーキは幾つ準備ができる?」
「そうですね、お時間をいただけば10個はできます」
「では、10個頼む。それから、マフィンは20個頼む」
「マフィンのお味はどうなさいますか?」
「子供が好きな味を頼む。孤児院に持って行くつもりだ」
「レイン、私も欲しいわ」
「選んできなさい」
「最後に並ぶことになってしまうので、お味を教えてください」
「それなら、紅茶とチョコ、リンゴが欲しいわ、あとシュロに紅茶とリンゴをお願いします」
「承知しました」
「ニナ様、私の分はいりませんわ。ニナ様のお小遣いがなくなってしまいますわ」
「今日はレインに買ってもらうわ」
店員が、焼きたてを袋に入れてくれた。
「レインと半分ずつで食べましょう」
「足りるのか?」
「また連れてきてくれた方が嬉しいわ」
シフォンケーキは一度、王宮に戻り、冷蔵庫を占領して、それから孤児院に向かいました。
時間が、お昼過ぎなので、眠っている子もいました。
レインが言った通りです。
預けられている子供は、白っぽい髪だったり、美しい白銀だったり、目の色もブルーアイが混ざっていたり、美しいブルーアイの子がいました。
マフィンをおやつにしてもらうつもりで、手の空いている保母に聞いてみますと、生まれたばかりの子が捨てられていたりするそうです。
私達が考えていた以上に、ニクス王国にブルーリングス王国が混ざっております。
この様に差別されないように、お触れを出していただかなければ、ブルーリングス王国の子が差別され非難され、正常な教育も受けられないでしょう。
もはや、ニクス王国の中に、ブルーリングス王国が存在している状態です。
秘密の合い言葉を知っている者もいるそうです。その合い言葉と共に捨てられた子もいたとか。
「レイン、子供達を辺境区に連れて行きますか?」
「悩んでいる。連れて行きたいが、環境はニクス王国の中央都市の方がいい。教育を受けられるようにする術はないか。辺境区の冬は、かなり寒い。子供には辛いかもしれぬ」
「そんなに寒いの?」
「ニナはまだ辺境区の冬を知らないからね」
レインは大きく成長した子供と面会をした。
理不尽な目に遭っているか尋ねていた。これから何処でどのように生きたいと思っているのか聞いて、祖国という言葉を使って、ブルーリングス王国の存在を教えていた。
辺境区で生きたいと考えられる者ならば、普通の民と同じ待遇で、差別のない日常で暮らせることを約束して、生活できるようにすると言い、考えておいて欲しいと告げた。
孤児院は13才で独り立ちする。
保母も話を一緒に聞いていてくれたので、子供が迷っていれば、相談に乗ってくれるだろう。
お付きの者は、今日もシュロです。
髪をストールで隠していきました。
今日も賑わっております。
殿方がいるのが珍しいので、お客さんは、今日はおとなしいです。でも、レインを見て『素敵!』『抱かれたい!』等と溜息付きで囁かれております。
私はジロッとレインを見ます。
レインが喜んでいたら足を踏んづけてやろうと思ったのですが、レインは無関心のご様子。
「ニナ、あの壁に飾られているのはなんだ?」とお店の装飾を夢中で見ておりました。
「私のお小遣いでは買えないシフォンケーキですわ。クリームが付いていない物は持ち歩いても大丈夫ですが、夏はクリームで飾れた物は溶けてしまうので、お店から近くの邸で、しかも冷蔵庫がある貴族の方が買っていかれるのですわ」
ちょっと失礼と並んでいた後方から、ちょび髭を生やした年配のたぶん貴族の男性が、並んでいる列を飛ばして、最前列に出た。
「お客様、並んでください」と店員が言いましたが、「なんだと?わしはアグロス子爵の当主であるぞ。暇な平民は並んでおればいい。わしはこの後、王宮に出向き差し入れをしたいと思っているのだ。どちらが偉い身であるか、考えるまでもないと思うが」と喚き散らした。
子爵風情が、王宮で何をなさるのか?と私は思いました。
どうせ、邸に持って帰り、我が子のおやつにするつもりなのだろう。
「アグロス子爵殿、ここは平民も貴族も平等に並んで買い物をするお店ですぞ」とレインは、一言を言った。
アグロス子爵は、レインの顔を見て、顔をしかめた。
「レイン辺境伯」
「今日は王宮で何かありましたか?会議は明日へ変更になりましたよ。ご存じなかったのですか?それともご自宅にお持ち帰りでございましょうか?」
私はレインの腕から手を離した。
私がしがみついていては、レインが自由に動けない。
「ブルーリングス王国の国王陛下、王妃が並んでおるのに、それを抜かして買い物をなさるのか?買い物の仕方をエイドリック王子と相談して、会議で討論をした方がよかろうか?」
「失礼いたした」
アグロス子爵は、居たたまれず、店から出て行った。
ああ、スッキリした。
私は、貴族だから並ばなくてもいいと思っている殿方はきらいなのよ。
さすが、レイン。
「ブルーリングス王国、国王陛下、王妃様、ありがとうございます」と、店長が出てきた。
レインは私のストールを引っ張り、外してしまった。
シュロがふわりとしたストールを素早く手に取り、たたんでいる。
「白い」
「目が青い」と、民が騒ぎ出す。
「白い髪、青い瞳はブルーリングス王国の特徴であるぞ。ブルーリングス王国はニクス王国と友好国で、血も混ざっておるために、ニクス王国の民の中からも、時々、我々のような白銀の髪にブルーアイの子が生まれる・・・」
お店の中も、外も人が集まっている。
策士ね。
人の口に戸は立てられぬ・・・この人気店で宣伝するだけで、噂が一人歩きをする。
「さあ、順番に買い物をするがいい」
「国王陛下、宜しければ、こちらにおいでください」と店主に誘われて、レインは店主の後を着いていく。近衛も動く。
「王妃様は、この前も来てくださいましたね」
「私はニクス王国生まれで、この近くに住んでおりましたから、子供の頃から通っておりましたわ」
「それは気づきませんでした」
「私が、ここのマフィンが美味しいと言ったので、今日は夫が連れてきてくださったのですわ」
「人気店だと窺っていたが、人が多いですね」
「お陰様で」
お店の奥から、紅茶とクリームたっぷりのシフォンケーキが、テーブルに置かれた。店員が、近衛騎士にも配っている。
「夏の季節はなかなか売れないのですが、貴族様が時々買っていかれるシフォンケーキです。お礼にもなりませんが、どうぞ召し上がってください」
「ありがとうございます。一度、食べてみたかったのですが、子供の小遣いでは買えない物でしたので・・・」
フワフワで、クリームは舌の上で溶ける。飾られたフルーツは甘く、少し酸っぱい。
「美味しいわ」
「確かに口にしたことのない味と食感だ」
「レイン、素直に美味しいと言えばいいのよ」
「そうだな、美味しい」とレインは言い換えた。
「店主、このケーキは幾つ準備ができる?」
「そうですね、お時間をいただけば10個はできます」
「では、10個頼む。それから、マフィンは20個頼む」
「マフィンのお味はどうなさいますか?」
「子供が好きな味を頼む。孤児院に持って行くつもりだ」
「レイン、私も欲しいわ」
「選んできなさい」
「最後に並ぶことになってしまうので、お味を教えてください」
「それなら、紅茶とチョコ、リンゴが欲しいわ、あとシュロに紅茶とリンゴをお願いします」
「承知しました」
「ニナ様、私の分はいりませんわ。ニナ様のお小遣いがなくなってしまいますわ」
「今日はレインに買ってもらうわ」
店員が、焼きたてを袋に入れてくれた。
「レインと半分ずつで食べましょう」
「足りるのか?」
「また連れてきてくれた方が嬉しいわ」
シフォンケーキは一度、王宮に戻り、冷蔵庫を占領して、それから孤児院に向かいました。
時間が、お昼過ぎなので、眠っている子もいました。
レインが言った通りです。
預けられている子供は、白っぽい髪だったり、美しい白銀だったり、目の色もブルーアイが混ざっていたり、美しいブルーアイの子がいました。
マフィンをおやつにしてもらうつもりで、手の空いている保母に聞いてみますと、生まれたばかりの子が捨てられていたりするそうです。
私達が考えていた以上に、ニクス王国にブルーリングス王国が混ざっております。
この様に差別されないように、お触れを出していただかなければ、ブルーリングス王国の子が差別され非難され、正常な教育も受けられないでしょう。
もはや、ニクス王国の中に、ブルーリングス王国が存在している状態です。
秘密の合い言葉を知っている者もいるそうです。その合い言葉と共に捨てられた子もいたとか。
「レイン、子供達を辺境区に連れて行きますか?」
「悩んでいる。連れて行きたいが、環境はニクス王国の中央都市の方がいい。教育を受けられるようにする術はないか。辺境区の冬は、かなり寒い。子供には辛いかもしれぬ」
「そんなに寒いの?」
「ニナはまだ辺境区の冬を知らないからね」
レインは大きく成長した子供と面会をした。
理不尽な目に遭っているか尋ねていた。これから何処でどのように生きたいと思っているのか聞いて、祖国という言葉を使って、ブルーリングス王国の存在を教えていた。
辺境区で生きたいと考えられる者ならば、普通の民と同じ待遇で、差別のない日常で暮らせることを約束して、生活できるようにすると言い、考えておいて欲しいと告げた。
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