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第2章

55 調書

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 ニクス王国の中央都市で起きる殺人事件の資料を調べてみた。

 思った通り、子殺しが意外に多い。

 調書を読んでいくと、妻が不倫をしてできた子だと父親の言葉が書かれている。

 ただ、子の容姿までは書かれてはいない。

 夫とか妻が、ブルーリングス王国の血筋を持っていれば、私のように白銀の髪を持ち、ブルーアイを持つ子が生まれる。

 亡くなった子が可哀想。

 何も罪を重ねたわけではなく、ただ両親と幸せに生きるために生まれてきたのに。

 犯行は、父親だったり母親だったりしていた。

 不倫をしていないのなら、それを証明しろと言われたから、仕方なく、子を殺しましたと書かれています。

 私はまだ子は産んだことはありませんが、子を産むのは命がけだと聞きます。

 死ぬほどの苦しみを乗り越えて、我が子に会ってみたら、なんだか違う。夫に責められ泣く泣く子を殺してしまうなど。とても辛いです。ページを捲ると、自死と書かれています。

 子を殺した母親が、自分が犯した罪に耐えられず、子を殺した刃物で、自死したそうです。

 もっと頁を捲っていたら、誰かが調書の資料を引き抜きました。

 顔を上げると、レインが立っていました。

「勉強熱心だが、心を傷めるほど辛いなら読むな」

「私はブルーリングス王国の王妃でしょう?国民の一大事だわ」

「自覚ができて、素晴らしいが、ここはニクス王国だ。ニクス王国の事件はニクス王国の国王陛下が調査をする」

「それはそうだけれど」


 レインの隣にはエイドリック王子が立っていた。


「その印が付いたところが、子殺しの頁か?」

「そうですわ」


 私は一つずつ読んで、子殺しの頁に付箋を貼っていた。


「不倫を疑われ、子を産んだばかりの母親が子を殺して、自死をしているわ」

「子の様子などは書かれていたか?」

「書かれていないわ。この調書は、手抜きだわ」


 きちんと髪や瞳の色まで書かれていたら、分かりやすいのに、色や匂いといった細かな事が、すっぽりと抜け落ちている。

 事件の調書なら、もっと丁寧に書くべきだと思う。


「おお、手抜きか。騎士にきちんと指導をしておこう」

「それが宜しいかと思いますわ」

「手抜きの騎士に、子の様子を聞きに行かせる。今度は手抜きしないように注意をしておこう」

「お願いいたします」


 私はお辞儀をする。

 エイドリック王子が去って行った。

 レインは残って、「やり過ぎだ」と、私の前髪を、指先で跳ね上げた。


「最近、国王陛下の姿が見られませんが、どこか具合が悪いのでしょうか?」

「ああ、悪いのは王妃の方だ。子が生まれそうなようだ。難産らしく、つきっきりでおられるそうだ」

「無事に生まれてくるといいのだけれど」

「そうだな」


 レインと資料室を出て行く。


「今日のレインは何をするの?」

「今日は教会に併設されている孤児院に行ってみようと思うのだが、ニナも行くか?」

「行くわ」

「手土産はニナが好きだと言っていたマフィンにするか?そういえば、ニナはどこからマフィンを買ったのだ?」

「私、マフィンを買えないほど貧乏ではないわ。ここから辺境区に行く賃金は持ってないけれど」

「小遣いを渡すのを忘れていたな」

「レインがいる場所に行けるくらいの賃金は、欲しいわ」

「ああ、分かった」


 レインは私の手を握ると、私の手を握って、指先にキスをした。


「孤児院の様子を見れば、ブルーリングス王国の色を持った子が預けられているのかが分かると思ったのだ」

「いい考えだわ」


 レインは私の頭から爪先まで見て、頷いた。



「今日も美しい」

「私、そんなに変わったかしら?」

「出会った時も美しかったが、今は以前より美しい」

「レインも出会った頃より、素敵になったわ」

 私を宝物のように抱いてくれるところが一番好きだとは、言えなかった。

 だって、照れくさいんですもの。
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