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第2章

53 サーシャ

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 中央通りのマフィンのお店は、今も流行っていた。

 侍女のシュロがお供に付いています。五人の近衛騎士が私の周りにいます。

 人が多いので、早めに欲しい物を選んでいきます。

 私は自分も欲しいのですが、サーシャの分も買ってあげたくて、どんな物が好きなのか考えながら選んでおります。

 シュロも、自分の物を選んで、素早く会計に行っています。

 私のトレーは大盛りです。

 シュロがそれを見て笑っております。


「二つに分けて欲しいの」

「はい、申しつけてください」


 私はサーシャとレアルタの顔を思い浮かべながら、より分けていきます。


「承知しました。お会計は・・・」


 私はお小遣いからお金を払いました。

 その時、後ろを通った方が、私のストールを引っかけてしまい、髪を隠していたストールが落ちてしまいました。

「白いぞ」

「白いわ」と人々が騒ぎ出しました。

 昔は騒がれたことはなかったのです。それなのに何故?シュロが急いで、私の髪を隠します。

 こんな事は初めてで、困惑します。

 今まで日陰にいたように、全く目立たなかったのに、とても不思議です。

 人の目が私を追っております。

「髪は白くて、目は宝石のようなブルーアイだ。人間か?神か妖精か?それとも悪魔か?」と人々が混乱しております。
 
 さすがに悪魔は酷いですわ。

「王妃、先に馬車に戻ってください」と近衛の一人が耳元で言った。

「はい」

 商品はまだ包んでもらっています。

 シュロにお願いして、先に馬車に戻って、外の様子を見ていると、外からも私は見られています。

 変ね。

 どうしたのかしら?

 直ぐにシュロが戻って来た。


「凄いですね。皆さん、ニナ様のことを妖精だと言っておいででしたわ」

「妖精ですか?」

「この首都では珍しい色ですので」

「珍しいのね。子供が突然、この色で生まれてきたら、お母さんは驚いてしまいそうね?」

「言われてみれば、そうですね」

「これはレインと話し合わなくては、万が一、生まれたての子を殺してしまうこともあるわね」

「そうですね」


 馬車は急いで出て行った。

 少し遠回りをして、兄様の邸、私の実家に戻りました。

 行くことを報せていなかったので、留守なら、マフィンを預けていこうと思っておりました。ですが、お兄様は在宅中で、サーシャもレアルタもおりました。

「突然の訪問、ごめんなさい。今日はマフィンを買いに行ったのよ。サーシャやレアルタにも食べて欲しくて、買ってきたのよ」

「ニナは昔に比べて活動的になったのだな?」

「私、学校の帰りに、寄り道していたのですわ。このお店のマフィンが美味しくて、こっそりお店に行っていたのですわ」

「それは知らなかった」

「お父様は、知っていたかもしれないわ。この店を教えてくれた御者を私専用から、ご自身専用にしてしまったのですわ」

「そうか、会っていくか?」

「いいですか?」

「自分の実家だ。好きなだけこればいい」

「お兄様、ありがとうございます」

 私はシュロと久しぶりに実家に戻りました。

 メイドにマフィンを手渡し、リビングに入っていくと、サーシャもレアルタも私を見ました。

「お姉様」

 この間は、頼りないおねえさまだったのに、もう言葉遣いがよくなっております。

「こんにちは、今日は私の好物のマフィンを買ってきたの。一緒に食べましょう」

 メイドはお茶も淹れて、大皿に広げたマフィンと、小皿を持ってきた。

 ソファーセットに綺麗に置いてくださいました。

 メイドが出て行くと、お兄様が代わりに入って来ます。



「マフィンか?」

「食べたことありますか?」

「いいや?」

「どうぞ、たくさん召し上がってください」



 二人はどう食べていいのか分からないのか、硬直してしまった。

 このお店のマフィンは、外の生地がしっかり焼かれているので、手で持って食べられる。



「お兄様もいかがですか?」

「では、いただくか」


 ソファーに座ると、手でマフィンを持って食べている。

 その様子を見て、サーシャもレアルタも真似て食べ出した。

 無心に食べる様子を見ると、来てよかったと思う。

 一個を食べ終えて、レアルタがもっと欲しそうにしている。


「食べていいのよ」


 遠慮気味に手を伸ばしたレアルタが、もう一つ掴んだ。

 嬉しそうな顔が笑顔に変わる。



「これは何処の店だ?」

「中央通りにあるマフィンの専門店よ。いつも混んでいるから、通れば気づくと思うわ」

「俺は気づかなかったな」


 お皿の上に一つだけ残った。

 残ったのではなく、サーシャの分だ。

 食べるのが遅くて、残ったみたいになってしまったのだ。


「それは、サーシャの分だわ」

「でも、最後の一つよ」

「私とお兄様は、一つで用意してきたのよ。サーシャとレアルタは二つで用意したのよ。サーシャはまだ一つしか食べてないわ」

「食べてもいいの?」

「どうぞ」


 不安な顔に、笑みの花が咲く。

 この子は、大人になったら、きっと美しくなると思う。



「お兄様、リリーから便りは来ましたか?」

「いや、どこにいるのかも分からない」

「一緒にいるはずのハルマ様は、サーシャの兄になるのですわ。ご挨拶もないのですか?」

「ハルマは18才から辺境区にいた。この子達との触れあいはないだろう。弟妹でも弟妹には思えないかもしれないな」

「そういうものですか?」


 妹や弟を預けるなら、お願いをすべきだと思うのだが、簡単な『お願いします』の言葉も言えないのは、大人として情けないと思うのです。



「子供が誘拐される事件が頻発しているそうです。気をつけてくださいね」

「ああ、エイドリック王子に聞いた。護衛を増やしている。ニナも誘拐されるなよ?」

「私は子供ではないわ」

「その容姿は目立つ」

「目立たないんじゃなかったかしら?」

「ニナは美しくなったと自覚しなさい」

「もう、お兄様。煽てるのは、サーシャとレアルタだけにしてください」



 私はお兄様に初めて、美しくなったと言われ、本当は嬉しかったけれど、同時に照れくさかったので、お兄様の腕をバシバシ叩くと、サーシャが目に涙を貯めてしまった。



「リック様を叩かないで、可哀想だわ」と、言った。

「サーシャ、今のは、ニナとじゃれていたのだよ。ニナとは兄妹だからね」

「本当ですか?」

「ごめんなさいね。サーシャの大切なお兄様を叩いてしまって、もうしないわ」


 サーシャはコクンと頷いた。

 ずいぶん、仲良くなったようで、安心した。


「では、お兄様、私は帰りますね。レインが心配しますので」

「ああ、来てくれて、ありがとう」


 私が立つと、サーシャがじっとわたしを見て、それから立ち上がりました。


「お姉様、ありがとうございました」と言って、お辞儀をした。

「おいとましますわ」と、私も、お辞儀をした。
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