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第2章

51 壊れたシュラハト伯爵家

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 ガシャンと瓶の割れる音がした。


「もっと持って来い」

「はい」


 小さな男の子が震えながら、キッチンに入っていく。

 どうやらこの部屋の中に、使用人はいないようです。


「遅い!」


 バタンと椅子が倒れました。

 子供の泣き声がキッチンでします。


「・・・い、よ。こわいよ」


 何かに怯えているようです。

 窓から覗いていた私達は、邸に入っていきました。

 鍵はかかっていませんでした。

 レインとお兄様が先頭に立って、その後を騎士が続く。



「わーん」


 泣き声が大きくなりました。

 私も邸の中に入って行きました。

 私の横には、シュロと近衛騎士がいます。

 父親は、テーブルに突っ伏して、眠ったようです。

 では、キッチンの奥にいるのは誰でしょう。

 子供は泣き続けている。

「怖い」と言っておりますので、何かあったのでしょう。

「その手を離しなさい」とお兄様の声がします。

「子供を解放しなさい」とレインの声もします。

「ああ、なんで、この邸は貧乏になってしまったのだろうね?娘を売ったお金も、博打ですって、食べる物もなくなってしまった。もう、この子を捌いて、食べるよりないわね」


 ドンと音がして、子供の泣き声が大きくなった。

 キッチンを見ると、子供が調理台の上に寝かされている。

 母親は、包丁を持って、子供を解体しようとしている。

 手を出せば、子供はどこかを刺されてしまう。

 緊張状態で、誰も手を出せないようだ。


(どうしよう)


 私は、気を散らしたらどうかと思った。


(でるかしら?)


 私は息を吸い込むと、「きゃ――――!」と悲鳴を出した。

 母親の視線がわたしを見た瞬間、子供は保護されて、包丁は取り上げられた。


(よかったわ)


 まさか、リリーの作戦が成功するなんて。

 男の子は、相当、怖かったのか、おしっこを漏らして、まだ泣いている。


「殺人未遂で逮捕だ」


 レインはそう言うと、騎士達が母親を捕獲した。


「外で寝ている父親も逮捕だ。この邸の中に誰かいないか確かめてきてくれ。あと、この子の服を探してきてくれ」


 残りの騎士達が走って行く。


「ニナ、立派な悲鳴だった」とレインが笑う。

「声が出てよかったわ」

 男の子は、泣き疲れてきたのか、お兄様の腕の中で眠りかけている。

 それにしても、この邸は、誰も使用人がいない。

 子供を食べようとしていたことが異常過ぎて、母親が恐ろしい。

 騎士が、着替えを何着か持ってきた。

 下履きを履き替えさせて、シャツを脱がすと、この子にもたくさんの痣があった。

 今は幸い夏なので、肌に一枚羽織らせて、馬車に乗せる。

 お兄様は、ずっと抱いている。

 まるで、この子を守るように、私が見たことのないお兄様です。

 本当は優しかったと、その姿を見て思った。


「邸の中には、誰もおりません」と騎士の報告があり、王宮に戻っていく。


 母親は博打だと言っていた。

 父親が博打に手を出し、事業も傾き、使用人を雇うお金がなくなり誰もいなくなってしまったのだろう。

 サーシャは一生懸命にケーキを食べていた。

 怖い事よりも、食欲に負けてしまったみたいだ。

 食べ物がないキッチンで、今夜は何を食べるつもりだったのだろう?

 本気で、子供を食べようとしていたとしたら、ものすごい恐怖だと思う。

 保護できて、よかった。

 ブルーリングス王国の子供は、一人でも足りない。この先を作る貴重な国の宝だ。

 こちらにいる間に、どれくらいのブルーリングス王国の血筋の者がいるか調査をしたい。

 子供がどれくらいいるのかも、把握しておきたい。

 国を作っても、誰も戻ってこなければ寂しい。

 冬は寒いと言っていたので、難しいのだろうか。

 王宮に到着すると、国王陛下とエイドリック王子が待っていた。


「すまない。レイン、リック」


 エイドリック王子は、戻って来た二人を見て、お兄様の腕の中で眠る子供に気づいたようだ。


「両親は捕らえてきた。牢屋に入れて置いてくれ」


 レインは、慣れた様子で指示を出す。

 国王陛下は、子供の寝顔を見ている。

 第二応接室に入ると、おじいちゃん先生とサーシャが話をしていた。

 レアルタに気づくと、サーシャは緊張している。

 ベッドに寝かせたレアルタを、おじいちゃん医師が診察している。


「調理台で解体されそうになっていた」と、レインが言う。


 サーシャが「レアルタ」と呼ぶと、レアルタの目が開いた。

 この子は綺麗なブルーアイをしていた。


「お姉ちゃん、怖かったよ」

「一緒にいなくて、ごめんね。痛いところない?」

「今日はないよ。おじちゃん達が助けてくれたんだ」


 おじちゃん達と呼ばれた、お兄様とレインは苦笑していた。

 今日は遅いと言うことで、お兄様は、お嫁さんと助けた坊やを連れて、邸に戻っていった。

 邸に帰ったら、三人でお風呂に入ると言っていたので、あの邸も賑やかになるでしょう。

 お兄様は、王子様でしたよ。お婆様。

 私もああして守られて来たのでしょう。

 今なら感謝できる。

 私も両親に、殺されていたかもしれないのですから。

 サーシャもレアルタも王家の血筋を持っていた。

 レアルタの髪色は短すぎて分からなかったけれど、綺麗なブルーアイを持っていた。大切なバトンを持った者は、やはり特別だ。

 私達は血の繋がった一族なのだ。

 この絆を大切にしていきたい。
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