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第1章
44 お行儀が悪い
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「まあなんて美味しい料理かしら。毎日、お姉様はこんなご馳走を食べてきたのね。なんか狡いわ」
私とレインがダイニングルームに入った途端に、リリーの声がした。
お父様とお母様は、食事をしながら、この地の名産のワインを飲んでいた。
アリシアン様は、既に食事を終えたようで「失礼」と言いながら、私達とすれ違いにダイニングを出て行った。
我が家は毎日、一緒に食事をしていた。
食前、食後は神に祈りを捧げていたのだ。
なんだか違う家庭を見ているような気がする。
「ねえ、レイン、レインはお兄様のことは知っていたの?」
「ああ、国王陛下からは血の繋がりのある親戚だと言われた。
同時にあの頃は、どちらも後継者第一位だとも言われていた。
俺が国王になるためには、一足早く大人にならなくてはならないと言われた。
それがこの土地に赴き、隣国、ブリッサ王国と和平を結ぶ事だと言われた。
国王陛下は俺の事を生まれた時から育ててくれていた。
その俺にブルーリングス王国の王になれと幼い頃からエイドリックと教育をしてくれていた。
学校ではエイドリックとリックと三人で一位の座を競い合っていた。
学校を卒業して直ぐに、俺はこの辺境区にやって来た。俺が王だと皆に知らしめる必要がある。
俺を生んで死んだ母上や母上を思いながら後妻を娶らなかった父のために、俺はブルーリングス王国の王になろうと心に決めていた。
ニナには悪いが、両親や兄弟に囲まれて、何の苦労もせずに、ブルーリングス王国の色があるだけで、次期王だと言い出したリックには負けるわけにはいかない。
妹にニナがいることは知らなかったのだ」
「そうね」
お父様が変わられた時期も、その頃からだったかしら。
お兄様の学力を気にして、我が家には毎日、家庭教師が来ていた。
お父様はお兄様に『一位を明け渡すな』と言っていたような気がする。
こうしてみると、レインもお兄様もビストリ様もハルマ様も同い年くらいに見える。
「俺達は偶然、同い年だったのだ。クローネだけ二つ年上だ。皆、血が汚れるのを気にしていた。ブルーリングス王国の血筋を持っている者はあまりいなかった。そのうちで、純血を守り続けていた家はそれほど多くはない。
王家に近づく者は、それほどはいなかった。それこそ、俺とニナの兄くらいだ。
ハルマとビストリは、王家の近衛騎士の子孫だ」
「レインのお父様は何処にいらっしゃるの?」
「父上は前辺境伯だった。俺を国王陛下に預けて、この地にいた。父上がこの地にいた頃は、日々、戦死者が出るほど荒れていたらしい。
戦いながら、この土地の鉱山を守り、発展もさせていたようだ。名君と呼ばれた父だったが、俺が学園の卒業式を迎える前に、10才くらいの子供に殺されたそうだ。
食事ももらえない飢えた子に施しを与え、日々戦いと国の為に生きて来た父上は呆気なく子供に殺されて、呆れて言葉も出なかったよ。
父の近衛騎士が病院に運んだが、既に息絶えていたそうだ。
子供は村の子であったらしい。
父親を戦死したばかりだったとか。子供は父親が戦死した責任は、父上にあると主張していた。
父上の近衛騎士が子を殺そうとした時に、子の母親が我が子を殺し、自分も自害したそうだ。
なんとも後味の悪い最後だ。
父上は和平のために、俺にも会いに来ないほど、この地で頑張って戦ってきたというのに、命をかけて守ってきた自国の子供に殺されたのだ。民への施しについて、俺は考えさせられた」
きっと優しいお父様だったのでしょう。
レインは一人になってしまったのだ。きっとたくさん泣いたでしょう。
私はレインを羨ましく思ったことを恥じた。
周りの環境はよかったかもしれないけれど、決して幸せだったと胸を張れないほど、たくさん傷ついてきたのだと思った。
気づかずに、私はレインを抱きしめていた。
「慰めてくれるのか?ニナは優しいな」と、そう言いながら、レインは私の髪を撫でてくれた。
そっとアルク様が近づいてきた。
「どうだ?」
「暫く滞在されるそうです。長旅に疲れたと奥様とリリー嬢が言い出し、お腹が空いたと仰いましたので、先にお食事を召し上がって頂いております」
「そうか、アルク、助かった」
「いいえ」
アルク様は疲れた顔をなさっていた。
「アルク様、ご迷惑をかけてすみません」
「王妃様、敬称はいりません。ご家族の前では特に気をつけてくださいますようにお願いしますよ」
アルク様、アルクは私の瞳に視線を合わせて、そう言った。
レインの為なのね。
「はい」
アルクは私に微笑んで、レインの肩に手を置いた。
「いつも以上に気をつけなさい。客人は悪意を持った客人ですぞ。レインフィールドに何かあれば、ニナ様は一人になってしまう。もう一人の身ではないのですぞ。いいな?」
「アルクもな。俺の家族はニナとアルクだ」
アルクは優しげに微笑んだ。
交わされる視線だけで、どちらも信頼しているのだと分かる。
私も仲間に入れてもらえて、嬉しかった。
「何をこそこそ話しているの?私達はお姉様の親族よ。もっともてなしてくれなくちゃ」
突然、にょっと顔を出したのはリリーだった。
どうやら食事を終えたようで、暇そうに座っているし、リリーは席を立ってしまっている。
なんとお行儀の悪い姿でしょうか。
リリーはいつもと変わらないが、両親は呆れるほど作法がなっていない。いつもは礼儀作法にうるさい二人だというのに。
お父様はダイニングテーブルに足を上げているし、お母様はダイニングテーブルに片肘を突いて二人で話している。
テーブルの上を片付けに出てきたシェフは、怖々、テーブルの上を片付けている。
「ねえ、レイン。傷物のお姉様より、私の方が魅力的よ」
猫なで声になったリリーは、まだ喪服を着ている。
ニクス王国では、死人を天に送るまで、黒いドレスを着る。
私が生きていることが分かっても、喪服から着替えないのは、喪服しか持ってきていないのか、それとも私を殺すつもりなのか?
私はそんな安っぽい骨壺に入るつもりはないわ。
ブルーリングス王国の色を持つ乙女は、今の所、私だけなのかしら?
サーシャ様がブルーリングス王国の色を持っていれば、ビストリ様の許嫁にはなっていないはずだ。
身分も考慮されているんだったわね。
ハルマ様とビストリ様の先祖は、王の近衛騎士だったらしい。
王族の血を引く者は、やはりレインと我が家の子供達だけだ。
お兄様はアリシアン様と別れて、誰と結婚するつもりなのだろう。
私とレインがダイニングルームに入った途端に、リリーの声がした。
お父様とお母様は、食事をしながら、この地の名産のワインを飲んでいた。
アリシアン様は、既に食事を終えたようで「失礼」と言いながら、私達とすれ違いにダイニングを出て行った。
我が家は毎日、一緒に食事をしていた。
食前、食後は神に祈りを捧げていたのだ。
なんだか違う家庭を見ているような気がする。
「ねえ、レイン、レインはお兄様のことは知っていたの?」
「ああ、国王陛下からは血の繋がりのある親戚だと言われた。
同時にあの頃は、どちらも後継者第一位だとも言われていた。
俺が国王になるためには、一足早く大人にならなくてはならないと言われた。
それがこの土地に赴き、隣国、ブリッサ王国と和平を結ぶ事だと言われた。
国王陛下は俺の事を生まれた時から育ててくれていた。
その俺にブルーリングス王国の王になれと幼い頃からエイドリックと教育をしてくれていた。
学校ではエイドリックとリックと三人で一位の座を競い合っていた。
学校を卒業して直ぐに、俺はこの辺境区にやって来た。俺が王だと皆に知らしめる必要がある。
俺を生んで死んだ母上や母上を思いながら後妻を娶らなかった父のために、俺はブルーリングス王国の王になろうと心に決めていた。
ニナには悪いが、両親や兄弟に囲まれて、何の苦労もせずに、ブルーリングス王国の色があるだけで、次期王だと言い出したリックには負けるわけにはいかない。
妹にニナがいることは知らなかったのだ」
「そうね」
お父様が変わられた時期も、その頃からだったかしら。
お兄様の学力を気にして、我が家には毎日、家庭教師が来ていた。
お父様はお兄様に『一位を明け渡すな』と言っていたような気がする。
こうしてみると、レインもお兄様もビストリ様もハルマ様も同い年くらいに見える。
「俺達は偶然、同い年だったのだ。クローネだけ二つ年上だ。皆、血が汚れるのを気にしていた。ブルーリングス王国の血筋を持っている者はあまりいなかった。そのうちで、純血を守り続けていた家はそれほど多くはない。
王家に近づく者は、それほどはいなかった。それこそ、俺とニナの兄くらいだ。
ハルマとビストリは、王家の近衛騎士の子孫だ」
「レインのお父様は何処にいらっしゃるの?」
「父上は前辺境伯だった。俺を国王陛下に預けて、この地にいた。父上がこの地にいた頃は、日々、戦死者が出るほど荒れていたらしい。
戦いながら、この土地の鉱山を守り、発展もさせていたようだ。名君と呼ばれた父だったが、俺が学園の卒業式を迎える前に、10才くらいの子供に殺されたそうだ。
食事ももらえない飢えた子に施しを与え、日々戦いと国の為に生きて来た父上は呆気なく子供に殺されて、呆れて言葉も出なかったよ。
父の近衛騎士が病院に運んだが、既に息絶えていたそうだ。
子供は村の子であったらしい。
父親を戦死したばかりだったとか。子供は父親が戦死した責任は、父上にあると主張していた。
父上の近衛騎士が子を殺そうとした時に、子の母親が我が子を殺し、自分も自害したそうだ。
なんとも後味の悪い最後だ。
父上は和平のために、俺にも会いに来ないほど、この地で頑張って戦ってきたというのに、命をかけて守ってきた自国の子供に殺されたのだ。民への施しについて、俺は考えさせられた」
きっと優しいお父様だったのでしょう。
レインは一人になってしまったのだ。きっとたくさん泣いたでしょう。
私はレインを羨ましく思ったことを恥じた。
周りの環境はよかったかもしれないけれど、決して幸せだったと胸を張れないほど、たくさん傷ついてきたのだと思った。
気づかずに、私はレインを抱きしめていた。
「慰めてくれるのか?ニナは優しいな」と、そう言いながら、レインは私の髪を撫でてくれた。
そっとアルク様が近づいてきた。
「どうだ?」
「暫く滞在されるそうです。長旅に疲れたと奥様とリリー嬢が言い出し、お腹が空いたと仰いましたので、先にお食事を召し上がって頂いております」
「そうか、アルク、助かった」
「いいえ」
アルク様は疲れた顔をなさっていた。
「アルク様、ご迷惑をかけてすみません」
「王妃様、敬称はいりません。ご家族の前では特に気をつけてくださいますようにお願いしますよ」
アルク様、アルクは私の瞳に視線を合わせて、そう言った。
レインの為なのね。
「はい」
アルクは私に微笑んで、レインの肩に手を置いた。
「いつも以上に気をつけなさい。客人は悪意を持った客人ですぞ。レインフィールドに何かあれば、ニナ様は一人になってしまう。もう一人の身ではないのですぞ。いいな?」
「アルクもな。俺の家族はニナとアルクだ」
アルクは優しげに微笑んだ。
交わされる視線だけで、どちらも信頼しているのだと分かる。
私も仲間に入れてもらえて、嬉しかった。
「何をこそこそ話しているの?私達はお姉様の親族よ。もっともてなしてくれなくちゃ」
突然、にょっと顔を出したのはリリーだった。
どうやら食事を終えたようで、暇そうに座っているし、リリーは席を立ってしまっている。
なんとお行儀の悪い姿でしょうか。
リリーはいつもと変わらないが、両親は呆れるほど作法がなっていない。いつもは礼儀作法にうるさい二人だというのに。
お父様はダイニングテーブルに足を上げているし、お母様はダイニングテーブルに片肘を突いて二人で話している。
テーブルの上を片付けに出てきたシェフは、怖々、テーブルの上を片付けている。
「ねえ、レイン。傷物のお姉様より、私の方が魅力的よ」
猫なで声になったリリーは、まだ喪服を着ている。
ニクス王国では、死人を天に送るまで、黒いドレスを着る。
私が生きていることが分かっても、喪服から着替えないのは、喪服しか持ってきていないのか、それとも私を殺すつもりなのか?
私はそんな安っぽい骨壺に入るつもりはないわ。
ブルーリングス王国の色を持つ乙女は、今の所、私だけなのかしら?
サーシャ様がブルーリングス王国の色を持っていれば、ビストリ様の許嫁にはなっていないはずだ。
身分も考慮されているんだったわね。
ハルマ様とビストリ様の先祖は、王の近衛騎士だったらしい。
王族の血を引く者は、やはりレインと我が家の子供達だけだ。
お兄様はアリシアン様と別れて、誰と結婚するつもりなのだろう。
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