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第1章

43 真実の姿

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 やはりお兄様は国王陛下の命令で、お義姉様と結婚したようだ。

 二人の関係は、特に仲良くしている姿は見せない。

 共同事業をしているように感じていた。

 どちらも不満があるような……けれど、その不満は腹の底に押し込めているような、そんな雰囲気がする。

 決して仲が悪いわけではないけれど、とても仲がいいとも言えない。そんな雰囲気を二人は纏っている。

 正真正銘、政略結婚である。

 しかも国王陛下が直接決められた縁談だったので、それに従わなくてはならなかったのだろう。

 お父様は、不満を抱えたまま二人を結婚させたのであろう。

 本人達も互いに想い合う前に無理矢理結婚させられた可能性が高い。

 そんな結婚に、愛など生まれるはずもない。寧ろ不満が残っても仕方がない。

 お父様は国王陛下に不満があったので、私にいろんな縁談を持ってきて、結婚させたのは、国王陛下がレインの妻に私を選ぶからだと感じた。

 私は国王陛下の命令ではなく、自分でこの地に移り住み、レインと出会った。

 お父様はレインが私と結婚したがっていることを、私がフェルトと離婚したときに、釣書を見て気づいていたはずだ。

 私が看護師になろうと学校に入ったことも、この辺境区に移住したことも、お父様から見たら想定外だったのかもしれない。

 私はベッドに横になりながら、考えていた。

 レインは、私をベッドに寝かせて、医師に診察を頼み、私の体調が落ち着くまで、近くにいてくれた。

 結い上げてもらった髪は下ろされ、長い髪を手に取り、何気なくその髪の色を見る。

 レインと同じ特別な色だ。

 今は、レインは私の家族の相手をしているだろう。

 こんな所でのんびり寝ている場合じゃない。

 あのリリーだ、レインにちょっかいをかける可能性が高い。

 レインがリリーに奪われてしまう。

 私はベッドから下りて、家族がいるはずの応接室に向かった。


「お姉様はレイン辺境伯のことが信じられなくなって、この辺境区から出て行ったのですわ。私はお姉様の気持ちが手に取るように分かるのですわ」


 応接室の前でリリーの声を聞いて、足を止めた。

 リリーは鋭い。

 全てお見通しなのね?

 私は廊下で、リリーの声を聞いて部屋に入れなくなった。

 あの子はいつもいつも余計なことを言うの?

 リリーの言葉に嘘はないけれど、私はその事は隠しておきたかったのよ。


「それは、本当か?」

「おそらく。私がニナを裏切ったと思い出て行こうと考えたのだと思いますが、ニナは帰還した私と話し合い私の言葉を信じてくれました」

「娘の背中に刀傷を負わせたのだ。やはり辺境区に行かせるべきではなかった。傷一つ無い美しい乙女に育てたのだぞ」

「申し訳ございません」


 レインはお父様に謝罪をしている。

 そんなにお父様は私を想っていたのかしら?


 レイン辺境伯と我が息子、リックとは同い年である事は知っておるな?」


「はい、学校も同じでした」


 それは初耳だ。

 お兄様はレインと昔から知り合いだったのね。

 お友達ではなかったのかしら?

 レインが我が家に来たことは、一度もなかった。


「王位継承順位はレイン辺境伯となっておるが、リックも正当なブルーリングス王国の国王の血筋で、どちらが国王になっても変わりない。国王陛下がレイン辺境伯を18才の時に、この地に赴かせ、先手を取らせた事で、ブルーリングス王国の国王になる順位を一位にさせたのだ。リックには侯爵家から乙女を宛がわれた。ブルーリングス王国の血筋ではない乙女だ」


 お父様は、アリシアンお義姉様のことをお名前で呼ばれないのね?

 なんだか不思議ね。

「リックは表面上、結婚式は挙げたが、結婚証明書も提出していない。寝所も別で過ごしておる。リックにはブルーリングス王国の血族を迎えるつもりでいる」


 二人は、白い結婚でしたのね?

 アリシアンお義姉様とは他人でしたのね?

 いつも不機嫌そうな顔をしていたのは、正式な夫婦ではないから?


「アイドリース伯爵、そろそろ私は実家に戻りたいと思っております。もう3年は経ちました。白い結婚も認められるでしょう」


 アリシアンお義姉様はお父様におっしゃった言葉遣いで、他人を意識させた。

「ニナの遺骨をもらいに来るために、アリシアン様に足を運んでいただいたのです。なのに、ニナは健在で、遺骨になっていればリリーをこの地に置き、レイン辺境伯と結婚をさせるつもりであったのだ」

「ニナでは、問題があるのですか?」

 レインが困惑したように聞いている。

 私も困惑している。

 どうして、私ではいけないの?


「リックは、ブルーリングス王国の色を持って生まれてきたというのに、王位を決めるときに、髪の色や瞳の色など関係ないと国王陛下に言われたのだ。だったら、国王陛下が勝手に決めたブルーリングス王国の国王陛下には、ブルーリングス王国の色を持たないリリーが相応しい。色など関係ないと言われたのだ。ニナは相応しくはない」


 私はレインに相応しくないのね。

 少なくとも、お父様は望んでいないのね。

 血を繋いできた私には、他国の血を混ぜるつもりでいたのね?

 お父様は、ブルーリングス王国の再建の話を国王陛下と話した時に、お兄様の事を邪険にされて、私のこの色に不満を持った。

 だから、私の結婚は学校を卒業してすぐだったのね。

 お父様にとって、私はいなくてもいい娘だったのでしょう。

「ニナが死んでいれば、跡継ぎはリリーに簡単に決まっていたのに、まだしぶとく生きていたとは、想定外だ。だが、レイン辺境伯、ニナとの結婚は認めん。君はリリーと結婚すればいい」


 私はお父様の言葉を聞いて、落胆した。

 お父様からの愛情は、微塵も感じられない。

 私が生きていたことが残念で仕方がなかったような言い方です。

 本心でしょうね。

 私が幼い頃は、私を姫だと言ってくださったのに、今では悪魔でも見る目をする。

 すすり泣きしていたお母様は、すすり泣きから「ひひひ」と薄気味悪い笑い声を出していらっしゃる。


「生きていた?ははっ!罪人のように燃やして、骨と灰にしてしまおうと思っていたのに。なんて親不孝な娘なのでしょう」


 信じていたお母様もなの?

 背中の傷より、新たにできた胸の傷が痛かった。

 この家族の中で仲間はずれは、私だけのようです。

 私は立っているのも疲れてしまって、廊下の壁に凭れて、ズルズルと廊下に座り込んだ。

 長い髪が、廊下に広がっていった。

 汚れてしまうと思っても、もう、髪などどうでもいい。

 今まで私はお母様にだけは好かれていると思っていた。

 それなのに、罪人のような荼毘のふしかたで、私をこの世から消してしまいたかったの?

 悲しい。

 とても寂しい。

 お父様やお兄様からは愛情は感じなかったけれど。

 お兄様がレインに負けたから、レインと同色の私はいらなくなったのね。

 結婚も反対されてしまった。

 私はレインが好きなのに、好きなレインとリリーが結婚するの?

 それがブルーリングス王国の再建になるなら、私は身を引くべきなの?


「アイドリース伯爵、貴方にとって、ニナは不要なのですか?」

「ああ、あの子の血は穢してやりたい。生きていたのなら、碌でもない男の元に嫁がせて、ブルーリングス王国の血を消してやりたい」


 お父様の本心を聞いて、頬を涙が伝って落ちていく。

 私の血が穢らわしい?

 私の血だって、ブルーリングス王国の王族の血筋を持っているのよ?

 お兄様やリリーは尊くて、どうして私だけ汚れているような言い方をするの?


「それでは、私はニナを頂きますので」

 レインは明るい声で言った。


「リリー嬢とは結婚しません。もうニナと結婚していますから」

(レイン……)

 いつの間にか私の前にレインは屈んで、私の涙をハンカチで拭ってくれた。


「ニナおいで」

 レインの手が伸びてきて、私はその手に縋り付いた。

「あら、お姉様、盗み聞き?髪が廊下に広がって汚いわ」

 一瞬のうちに、私はレインに抱き上げられた。

「アルク、客人はお帰りのようだ。見送りを頼む」

「はい」

 レインは私を抱きしめてくれる。

「辛いことを聞かせたね」

 私は首を左右に振った。

「家族の気持ちを知ることができてよかったわ。わたしは何も知らなかったから。でも、お父様やお兄様には嫌われているって感じていたの。お母様まで私を嫌っていたなんて知らなかったの。それがとても辛い」

 辛くて、涙が頬を伝う。
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