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第1章

41 馬車

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 ダイニングに通えるようになって一週間後、私は運動の許可が下りました。

 早速、看護師の制服に着替えて、掃除を始めました。


「ニナ、一度に動くな」とレインは言いますが、ずっとベッドで寝ている生活にも飽きているのよ。


 動けば、背中は痛むけれど、この痛みはこれから一生私と共にあるのですから、早めに慣れておきたいのです。

 私が掃除を始めたので、メリッサさんも一緒に掃除をしてくださいます。

 私の部屋と寝室は毎日、メリッサさんが綺麗にしてくださったので、今日はレインの仕事部屋と会議室を掃除することにしました。

 窓掃除で、手を上げると、背中が引き攣って痛みが出ます。


「ああ、痛いわ」

「王妃様、最初から無理をしたらよくないですわ」

「そうね、窓拭きはもう少し、慣れてからにするわ」


 テーブルを拭いていたメリッサさんと、場所を交換した。

 私はテーブルを拭いて、椅子も拭いていくと、最後にモップを持って床を拭く。

 窓拭きは外の景色が見られて好きなのです。

 窓の桟の汚れも取らなくてはならないので面倒ですが、磨けば古びた建物が生まれ変わるようで好きなのです。

 レインが留守の間に、大掃除をしたので、まだそんなに汚れてはいないと思うけれど、埃は毎日でも少しずつ溜まっていくので気になっていた。

「あら、珍しいですわ」と、メリッサさんが声を出した。

「どうかなさったんですか?」

「馬車が4台来たのです。宮殿の門番に止められております」


 私はモップを持ったまま窓の外を覗いた。

 確かに馬車が4台止まっている。

 門番の騎士が、一人宮殿の方に走っていく。

「あの馬車は貴族の馬車ね。家紋までは見えないから分からないけれど。こんな遠方の辺境区に観光で来られる方はいないと思うけれど、どんな物好きな貴族様でしょうか?客間を掃除しておいたほうがいいかしら?」

「そうですね、この辺りには貴族様が泊まれる宿はありません」

「では、移動いたしましょう」

「王妃様、あまり無理はなさらないでください。後で傷が痛みますわ」

「でも、この宮殿にはメイドはいないですから」

「そうですが」

「ちゃちゃっと済ましてしまいましょう。以前、掃除したので、それほど汚れてはいないわ」

「分かりました」

 メリッサさんは水の入ったバケツを持ってくださいました。

 私はモップと雑巾を持って、客間に移動していく。

 客間に移動をすると、直ぐに掃除に取りかかる。

「王妃様、レイン辺境伯がお呼びだ」

 明け放れていた廊下から声がしたので、私はそちらを向く。

 軍服を着たアルク様が、立っていた。

 いつもと違って、困った顔をされている。

「アルク様、どうなさったの?」

「私に敬称はいりませんから。客人が来ている。メリッサ、5名分の部屋を掃除しておいて欲しい。たぶん、滞在されるであろう」

「承知しました」

 メリッサさんは、頭を下げた。

「さあ、王妃様行きますよ」

「はい」

 メリッサさんは、私からモップを受け取るとお辞儀をした。

「どなたが来られたのですか?」

「王妃様のご家族がいらしたのだ。その頭にある布は取った方がよいかと。ドレスも着替えた方がいいかもしれぬが、待たせるのもよくない。そのままで挨拶をしてください」

「はい」

 私は頭に付けていた三角巾を外して、歩きながら畳んでポケットに入れた。

 今日の髪型は、メリッサさんに結ってもらった。

 頭にお団子が一つある結び方だ。

 貴族の令嬢はしない結び方だが、メリッサさんは貴族の貴婦人の髪型を知らなかったので仕方がない。

 きっとお小言を言われるだろう。

 私は大きな溜息を漏らした。


「どうなさった?」

「会いたくないのよ」

 アルク様は何か察したのか、頷いた。
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