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第1章
33 駆け落ち レイン視点
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「レイン、ありがとう。私は出て行くわ。手紙はお父様への物と念のためにレインの奥様に書いておいたわ。これで夫婦喧嘩は起きないわ。あと、二日だけ待って欲しい」
俺は二通の手紙を受け取った。
エリザベス王女は、髪を一つに結び、黒っぽい乗馬服を着ている。
荷物は、既に婚約者の元にあるらしい。
今日は、歌劇団の公演を見に来た。
確かに客も大勢入っていて、見応えもあった。
婚約をしているというエルビスにも会った。
体格のしっかりした若者だった。
騎士団に入っても十分にやって行けそうな気もしたが、エルビスはもっと自由に生きたいらしい。
学園時代に二人は巡り会い、ずっと隠れて付き合ってきたのだと、エリザベス王女は教えてくれた。
エルビスは既に家を出て、歌劇団に入団しているそうだ。
今は下働きから始めているという。
護衛の目があるので、エルビスと直接話をすることは不可能だった。
遠くから、エルビスは俺に会釈した。
団長には会わせてもらった。団長は女性だった。
「フラッオーネ帝国まで責任を持って送って行く。安心して欲しい」
「よろしく頼む」
俺は念のために、団長に頭を下げた。
「責任を持って送って行く。私の出身はフラッオーネ帝国でね。まあ、家柄もよく、こんななりをしているが公爵令嬢だ。皇帝陛下とは姻戚だ」
「それは安心できます」
俺は団長と握手をする。
団長は男のように、髪を刈り上げ、綺麗にお化粧をしていた。
整った顔立ちは、かなりの美形であると分かる。
貴族の象徴の髪を、剃ってしまったのは、その貴族の令嬢という立場を放棄したのだろうか?
それでも、大勢の仲間を纏める資質を持ち、大きな劇団を作り各地を回る事は容易くはないだろう。
この人ならば、信頼できるかもしれない。
「ブルーリングス王国がまた地図に載るのだな。楽しみにしている」
「ありがとうございます」
最終公演が終わり、皆がテントを片付けている。
今夜、このテントに泊まり、明日の早朝に旅立つのだという。
それなのでエリザベス王女は、このままここに泊まり、明日の出発に備えるらしい。
「それでは、エリザベス王女元気でな」
「レイン辺境伯、感謝します」
エリザベス王女は、最後に綺麗なお辞儀をした。
俺はエリザベス王女の身代わりと一緒に馬車に乗る。
身代わりの女性は、宿泊地まで同行して、部屋に入ると「それでは」と声をかけて、窓から出て行った。
俺は二日間の間、部屋に閉じこもっているしかない。
食事も部屋にこもって、一人で食べて、ただ無駄な時間を過ごす。
俺にとって無駄な時間だが、この時間にエリザベス王女達が国境を渡るならば、少なくともエリザベス王女の護衛に知られるわけにはいかない。
エリザベス王女の模造品は、布で作られた人形だ。
美しいドレスを身につけて、カツラを被っている。
扉の開閉だけなので、俺が素早く、食事をもらい扉を閉める。
アルクと護衛騎士は、俺の行動が変だと気づいてからは、あまり接近してこなくなった。
寧ろ、エリザベス王女の護衛を誘って、話をしたり、チェスをしたりしてくれている。
やっとニナのもとに戻れる。
長かった二週間、寂しい想いをさせてしまった。
帰ったら、早めに新しい指輪を見に行こう。
首都に一度戻って、ウエディングドレスを作りに行ってもいいだろう。
ニナの両親にも会いたい。
必ず幸せにすると誓わなければ。
約束の二日が過ぎたので、俺はやっと部屋から出て行った。
直ぐに、アルクが近づいてきた。
「すまなかった。エリザベス王女に頼まれていたのだ」
「エリザベス王女は、何処だ?」
エリザベス王女の護衛騎士が掴み掛かってきた。
俺は手紙を、護衛騎士に手渡した。
「エリザベス王女が自ら書いた物だ。内容は知らない。俺は、エリザベス王女に頼まれて行動を共にしていただけだ」
エリザベス王女の護衛達は、国王陛下宛の手紙を受け取って動揺している。
開けて見てみたいが、国王陛下宛の手紙なので勝手に見ることはできない。
「これは!至急、国王陛下にお伝えしなくては」
護衛騎士達は、走り去っていく。
「レインフィールド、事情を話せ」
俺は、エリザベス王女にうまく誘導されていた話を最初から最後までアルクと俺の護衛騎士に話した。
「結果的に、友好関係は結ばれた。直ぐに国に戻ろう。ニナのことが気がかりだ」
「まったく呆れた」
アルクは怒ったが、エリザベス王女に操作されていたのだから仕方がない。
指輪を瞳の色の指輪に交換した。
嘘の指輪は、軍服のポケットに片付けた。
朝食をいただき、その後、馬にて帰国する。
ずいぶん遠くまで来てしまったので、宮殿に戻るには一日かかるかもしれない。
早くニナに会いたい。
俺は二通の手紙を受け取った。
エリザベス王女は、髪を一つに結び、黒っぽい乗馬服を着ている。
荷物は、既に婚約者の元にあるらしい。
今日は、歌劇団の公演を見に来た。
確かに客も大勢入っていて、見応えもあった。
婚約をしているというエルビスにも会った。
体格のしっかりした若者だった。
騎士団に入っても十分にやって行けそうな気もしたが、エルビスはもっと自由に生きたいらしい。
学園時代に二人は巡り会い、ずっと隠れて付き合ってきたのだと、エリザベス王女は教えてくれた。
エルビスは既に家を出て、歌劇団に入団しているそうだ。
今は下働きから始めているという。
護衛の目があるので、エルビスと直接話をすることは不可能だった。
遠くから、エルビスは俺に会釈した。
団長には会わせてもらった。団長は女性だった。
「フラッオーネ帝国まで責任を持って送って行く。安心して欲しい」
「よろしく頼む」
俺は念のために、団長に頭を下げた。
「責任を持って送って行く。私の出身はフラッオーネ帝国でね。まあ、家柄もよく、こんななりをしているが公爵令嬢だ。皇帝陛下とは姻戚だ」
「それは安心できます」
俺は団長と握手をする。
団長は男のように、髪を刈り上げ、綺麗にお化粧をしていた。
整った顔立ちは、かなりの美形であると分かる。
貴族の象徴の髪を、剃ってしまったのは、その貴族の令嬢という立場を放棄したのだろうか?
それでも、大勢の仲間を纏める資質を持ち、大きな劇団を作り各地を回る事は容易くはないだろう。
この人ならば、信頼できるかもしれない。
「ブルーリングス王国がまた地図に載るのだな。楽しみにしている」
「ありがとうございます」
最終公演が終わり、皆がテントを片付けている。
今夜、このテントに泊まり、明日の早朝に旅立つのだという。
それなのでエリザベス王女は、このままここに泊まり、明日の出発に備えるらしい。
「それでは、エリザベス王女元気でな」
「レイン辺境伯、感謝します」
エリザベス王女は、最後に綺麗なお辞儀をした。
俺はエリザベス王女の身代わりと一緒に馬車に乗る。
身代わりの女性は、宿泊地まで同行して、部屋に入ると「それでは」と声をかけて、窓から出て行った。
俺は二日間の間、部屋に閉じこもっているしかない。
食事も部屋にこもって、一人で食べて、ただ無駄な時間を過ごす。
俺にとって無駄な時間だが、この時間にエリザベス王女達が国境を渡るならば、少なくともエリザベス王女の護衛に知られるわけにはいかない。
エリザベス王女の模造品は、布で作られた人形だ。
美しいドレスを身につけて、カツラを被っている。
扉の開閉だけなので、俺が素早く、食事をもらい扉を閉める。
アルクと護衛騎士は、俺の行動が変だと気づいてからは、あまり接近してこなくなった。
寧ろ、エリザベス王女の護衛を誘って、話をしたり、チェスをしたりしてくれている。
やっとニナのもとに戻れる。
長かった二週間、寂しい想いをさせてしまった。
帰ったら、早めに新しい指輪を見に行こう。
首都に一度戻って、ウエディングドレスを作りに行ってもいいだろう。
ニナの両親にも会いたい。
必ず幸せにすると誓わなければ。
約束の二日が過ぎたので、俺はやっと部屋から出て行った。
直ぐに、アルクが近づいてきた。
「すまなかった。エリザベス王女に頼まれていたのだ」
「エリザベス王女は、何処だ?」
エリザベス王女の護衛騎士が掴み掛かってきた。
俺は手紙を、護衛騎士に手渡した。
「エリザベス王女が自ら書いた物だ。内容は知らない。俺は、エリザベス王女に頼まれて行動を共にしていただけだ」
エリザベス王女の護衛達は、国王陛下宛の手紙を受け取って動揺している。
開けて見てみたいが、国王陛下宛の手紙なので勝手に見ることはできない。
「これは!至急、国王陛下にお伝えしなくては」
護衛騎士達は、走り去っていく。
「レインフィールド、事情を話せ」
俺は、エリザベス王女にうまく誘導されていた話を最初から最後までアルクと俺の護衛騎士に話した。
「結果的に、友好関係は結ばれた。直ぐに国に戻ろう。ニナのことが気がかりだ」
「まったく呆れた」
アルクは怒ったが、エリザベス王女に操作されていたのだから仕方がない。
指輪を瞳の色の指輪に交換した。
嘘の指輪は、軍服のポケットに片付けた。
朝食をいただき、その後、馬にて帰国する。
ずいぶん遠くまで来てしまったので、宮殿に戻るには一日かかるかもしれない。
早くニナに会いたい。
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