上 下
31 / 93
第1章

31 ニナ嬢捜索

しおりを挟む
「ハルマ、馬車は王都まででいいな?」

「ああ、俺の実家に頼む。サーシャもいるから女同士話し合えることもあるかもしれない」

「だといいが、ニナ嬢は、結婚指輪も失い、ウエディングドレスの代わりのワンピースも汚れてしまったのだろう。心の傷は大きいはずだ」

「手紙を書いた。それを御者に預ける」

 俺は馬車の御者に手紙を預けた。


「父上に渡して欲しい」

「畏まりました」


 御者は騎士団の騎士だ。

 俺とビストリは馬に跨がった。

 先に探し出す必要がある。

 馬車も走り出したが、夜道である事もあるが、馬車は馬よりも遅い。


「雨が降りそうな嫌な夜空だ」

「先ほどより、雲が厚くなっているな?」

「早めに探せたらいいのだが」

 俺は雲に隠された月を見上げた。



 +



「きゃ、助けてください。お金は持っていません」


 私は鞄を抱えて、走った。

 夜道を歩いていたら、突然、大勢の男達が姿を現した。

 盗賊だと思う。

 私はポケットに入っているナイフを握った。

 迫り来る男に、ナイフを横に振る。


「うわぁ、こいつ、ナイフを持っているぞ」

「押し倒せ」

「いや」


 私はナイフを振り回す。

 男に鞄をぶつけて、逃げる。

 背中に、焼けるような痛みが襲って来た。

 手に持っていた鞄を落として、地面に手を突いた。

 このまま襲われるならば、自害しよう。

 私はブルーリングス王国の王女だ。

 男は鞭も使っている。

 肌を鞭が焼く。

 悲鳴が出そうなほど痛い。

 剣を持つ者、ナイフを持つ者、まだたくさんいる。

 私の周りに盗賊がいる。

 完全に囲まれてしまった。

 必死に逃げる私の腕を掴むと、ぐっと引かれた。

 バランスを崩して倒れていくと、男が私を跨いだ。

 襲われる。

 ナイフで、男の顔を切ったら、思いっきり殴られて、意識が途切れる。

 遠くで私の名を呼ぶ声を聞いたような気がした。



 +



「その卑しい手を離せ」

「威勢のいい若造だ」


 俺は相棒と剣を抜き、盗賊と戦った。

 ニナ嬢は地面に倒れている。

 意識はないようだ。

 俺はビストリと戦った。だが、盗賊は俺達の勢いに、負傷者を置き去りにして逃げていった。


「ニナ嬢」

「怪我は?」

「暗くて見えない」


 このまま首都まで連れて行くつもりでいたが、怪我の具合が分からない。


「ニナ嬢の荷物を探してくれ」

「ああ」



 馬車がやって来た。



「どうです?」


 騎士が降りてきて、顔を覗き込んできた。



「病院に連れて行ってくれ」


 俺はニナ嬢を抱き上げて、馬車に乗った。

 ビストリが旅行鞄を持ってきた。


「たぶん、これだけだと思うが、朝が来たら、確かめてみよう」

「病院に行く」

「ハルマの馬を繋げる」

「ああ、頼む」


 ニナ嬢は浅い呼吸をしている。

 意識はない。

 洋服にしみ込む温かなものは血だろうか?

 俺は目を閉じた。

 戦場で、傷を負った者を抱えた時のような感触がする。この濡れた感触は、血ではないと思いたい。



 +



「背中に刀傷がある。顔は殴られた傷だ。小さな傷は、腕や足にもあるが、傷が残る傷は、背中の傷だけだ。後は、目が覚めない。頭を強打して、意識を失ったのか、そのまま眠ったのか?様子をみよう」

 病院で処置を終えた。

 医師は的確に状況を伝えている。

 守れなかった。

 レインは何というか?

 俺達を怒るだろうか?

 それとも、もうニナ嬢に興味を持たないだろうか?


「このまま入院になります。背中の傷が開くと、大きな傷跡になりますから、絶対安静です」

「お願いします」

 俺とビストリは、病院にニナ嬢を預けて、宮殿に戻ってきた。

 遅い夕食を食べた。

 今日はいつも以上に疲れている。

 この頃、いつも一緒に食べていたニナ嬢の食事は、手をつけられずに片付けられた。

 キッチンのシェフに言っておかなければ。


「ニナ嬢は怪我をして、病院に入院した」

「怪我ですか?」


 ここで働いているシェフ達が集まってきた。



「具合は悪いのですか?」

「まだ分からない」

「そうですか?」

「心配です」


 シェフ達は沈んだ表情になった。

 ニナ嬢は、何事も一生懸命にやっていたので、宮殿に勤める者達は好感を持っていたようだ。


「俺はもう寝るよ。なんだか疲れた」

「ああ、俺も疲れた。今日は寝るよ」


 食事の後は、酒を飲んだり、チェスをしたりして楽しんでいたが、そういう気分ではなかった。

 明日の朝、ニナ嬢が襲われた場所に行き、ニナ嬢の持ち物が落ちていないか確かめなくてはならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久
恋愛
初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。 弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。 それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。 「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。 生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。 しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。 どうせまた捨てられる。 諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――? ※Rシーンには[*]をつけています。(プロローグのみ夫の浮気R有) ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

処理中です...