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第1章

29 援軍帰還 

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 早朝に出かけた援軍が夕暮れ時に戻って来た。

 私は駆け寄った。

 ハルマ様とビストリ様も駆けつけている。


「レインはどうした?」


 ハルマ様が問いかけた。


「それが、ブリッサ王国で、結婚式を挙げられたそうです。今は新婚旅行中だとか。新聞をもらいました。写真も。戦争ではないようです」


 私は語られる言葉を一つずつ、かみ砕いて理解していく。

 私と結婚をしたのに、どうして結婚をしたのでしょうか?


「いいことが一つありました。ブリッサ王国と友好国になり平和条約を結んだとか。これで戦争は起きません。ブリッサ王国のエリザベス王女と結婚することが条件だったそうです。『エリザベス王女を王妃に迎えるならば』という条件での、調印式だったとか。

 これはいいことなのね。

 もう戦争は起きない。

 けれど、王妃の座は、エリザベス王女になったのね。

 それなら、私がここにいてはいけない。

 私はレインに捨てられたのね。

 今は新婚旅行中だから、戻って来ないのね。

 ハルマ様とビストリ様が見ている新聞を覗き込むと、エリザベス王女は、きちんとしたウエディングドレスを着
て、レインもお揃いのような礼服を着ている。

 私の時は、普通の白いドレスだったものね。

 嘘の結婚式だったのかしら?

 それともあの教会は、古すぎて神様もいなかったのかもしれないわね。

 レインの指には、見たこともない指輪をしている。

 私の指にも指輪はないから、新しい物をはめても仕方がないのよね。

 私の居場所は、もうここにはないことが分かった。

 一番大切なことは、戦争が起きないことですもの。

 ブルーリングス王国は私がいなくても、エリザベス王女と結ばれても、復興できるもの。

 私のこの髪色や瞳の色も、関係ないのね。

 お婆様、王子様は私とは違う相手と結婚したみたいです。

 お払い箱になった私は、何処に行けばいいの?

 私は皆が集まったそこから抜け出した。

 途中で捨てたモップを拾い、掃除道具を片付けに行きました。

 新婚旅行から戻ったら、この国に新しい王妃様が来て、私は第二夫人になるのでしょうか?

 それとも、お払い箱でしょうか?

 こんな裏切りは、リリーの時より酷いかしら?

 いいえ、国を守ったのなら、私との結婚は、たいしたことがないことだったのよ。

 少なくともレインの天秤は、私を捨てたのです。

 捨てられた私が行ける場所は、何処でしょう。

 もう実家に戻ってしまおうかしら?

 でも、またリリーと婚約者を奪い合う生活は疲れてしまった。

 私は部屋に戻ると、自分の荷物を纏めることにした。

 レインが用意してくれたドレスは、残して行く。

 もらった宝石も私の物ではないわ。

 宝石箱から、私の私物の髪飾りだけ取り出した。

 後は、残して行く。

 私の居場所は、ここではない。

 首都に戻り、看護師寮に入り、看護師として働こう。

 元々、そのつもりで看護師の資格を取ったんですもの。

 荷物を持つと、夕暮れの道を鞄を持って歩いて行く。

 馬車で三週間かかった旅は、歩いてどれくらいかかるのだろうか。

 お金は多少は持っているけれど、たくさんはない。

 宿場町に泊まるほどは、持っていない。

 途中で働きながら戻って行くか、馬車を借りて賃金をお父様に支払ってもらうか。

 勝手に邸を出てきた私のために、馬車の賃金を払ってくれるでしょうか?

 やはり少しずつ働きながら、帰る方が賢明かもしれない。


「ニナ様、どこに行くの?」


 声を掛けてきたのは、アニーだ。

 久しぶりに見るアニーは、健康的に日焼けをしていた。

 外で遊んでいたのでしょう。


「ここには新しい王妃様が来るのよ」

「あの、私、返したい物があるの。でも、宮殿に入ってはいけないって言われたから」


 アニーは私の手に、指輪をくれた。

 探し続けた私とレインの瞳と同じ色の宝石が付いた指輪だ。

 やはりアニーが持っていたのね。


「ごめんなさい。川に投げたのは、綺麗な石です。指輪は持っていたの」

「アニー、返してくれてありがとう。お願いがあるんだけど聞いてくれるかしら?」

「はい」

「この指輪はレイン辺境伯に返してください。もう、私が持っていてはいけない物だから」


 私はアニーに指輪を渡した。



「約束は守ってね」

「はい、ニナ様」

「さようなら、アニー」

「さようなら、ニナ様」


 私はアニーの前から去って行った。

 道沿いにゆっくり歩いて行く。

 夕暮れの太陽が、オレンジ色に輝き、最後の光を放っている。

 とても綺麗だ。

 歩きながらその光を見ていると、徐々に夜の時間が迫ってくる。

 少しでも明るい時間に遠くまで歩こうと、歩みを早くする。

 私はレインのことが好きだった。

 心から愛していた。

 これから、もっと愛を深めていけると思っていた。

 出会いは運命だと思ったのに、この思いも幻想だったのね。

 そもそも私に王妃が務まるわけがない。

 第二夫人には、なりたくはない。

 私は私だけを愛してくれる人と一緒になりたい。

 知らぬ間に帳が降りて、道がよく見えなくなった。

 月は出ているけれど、私の心のようにどんよりしていた。

 雨が降るかもしれない。

 どんよりした月明かりの中を歩いて行く。

 今は、少しでも辺境区から離れたかった。

 レインは、もう探しには来ない。

 捨てられた私は、もう神様も信じられない。

 暗い夜道をただ歩いて行く。
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