【完結】もう我慢できません、貴方とは離縁いたします。その夫は、貴方に差し上げます。その代わり二度と私に関わらないでちょうだい。

綾月百花   

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第1章

26 計画 レイン視点

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「ありがとう」

「約束は守ってもらう。必ず友好国になり条約を結べるようにしてくれ」

「まず、婚約をしましょう。私が王妃になる条件をのんでください」

「分かった」

 俺は旅館に戻って、夫婦の為に用意された部屋にエリザベス王女と共に入った。

 寝台に座り、近くで話をする。

 この計画のあらましを聞かなくては、安易に手は貸せない。

 エリザベス王女は、蚊の鳴くような小さな声で話している。

 俺もそれに合わせて、近くで囁くように話している。

 自然に肩が触れあい、他人から見たら親密そうに見えるであろう。

 俺の護衛にもエリザベス王女の護衛にも声は聞こえていないであろう。


「婚約が成立したら、友好国になり条約を結ぶ契約書を書いていただくわ。婚約パーティーを開くと言うかも知れないわね。その辺りはお父様の指示に従ってくれるかしら。レイン辺境伯が、自分の言いなりになるところを見れば安心して気を許すと思うの」

「分かった」

「契約を結べば、お父様が国に対して何かしたら、国際裁判所が許さないわ。国際裁判所がブルーリングス王国を守ってくれるわ」

「それで?」

「結婚式を挙げてしまいましょう。勿論、嘘の結婚式よ。直ぐに手配をするわ。結婚式を行って、両国が親戚同士になるわね。お父様はきっと大喜びするでしょう。二週間経ったら、歌劇団が他国に出発するわ。エルビスと共に、私は旅立つわ。それから二日後、レイン辺境伯には、『花嫁がいなくなった』と騒いで欲しいの。その頃は、私はこの国の国境を越えて、他国に行くわ。私が目指している国は、フラッオーネ帝国なの。この土地からはかなり遠い帝国ですけれど、あの国は国際裁判所もあるし、民が自由に暮らせる国なの。その国まで歌劇団に連れて行ってもらうのよ。歌劇団の団長には、多すぎるほどの金貨を寄付したのよ。私達を送ってくれると約束もしてもらっているわ」

「その歌劇団は信用できるのか?」

「信用しているの。エルビスも私も長い旅をしたことがないの。だから団長にお願いしたのよ。持っている宝石やドレスを売って手に入れた金貨を先払いしたの」

 大丈夫なんだろうか?

 信用できる者なのか?

 心配になってきた。


「エルビスという男は、幾つなのだ?」

「私と同じ20才よ。次男だから家督は継げないの。だから、フラッオーネ帝国に移住して、商売を始めようと思っているの。お金を金貨に替えて、旅支度もできているわ」

「何という歌劇団だ?」

「メイティ歌劇団よ、猛獣もいるのよ」

「どこで会った者だ?」

「エルビスとこれからの事を相談していたら、手を貸してくれると言っていたわ」

「胡散臭いとは思わないのか?」

「天の助けだと思ったわ。私は政略結婚させられるし、エルビスは平民になり商人になるか騎士団に入団するかと悩んでいたのよ。私達が幸せな結婚をするためには、この国では無理なの。お父様の手の届かない場所に行かなければ、連れ戻されてしまうわ」

「その手助けを俺にさせるつもりなのだな?」

「手助けは、私がいなくなったと言うまでだわ。そんなに迷惑は掛けないから」

「十分に迷惑を掛けられておる。俺は花嫁に逃げられたと汚点が残るし、愛する妻の耳に入れば、妻を傷つける」

「けれど、友好国になり平和条約ももらえるでしょう?」

「全く口の減らない子供だ。その歌劇団が安全なのか確認したのか?」

「エルビスが大丈夫だと言ったのよ」

 俺は胡散臭い話に乗らされるようだ。

 世間知らずの王女様を騙すくらい簡単に思えるが、一応警告はした。

 ブリッサ王国と友好国になり平和条約を結ぶことが目的なので、王女様の暴走までは面倒見切れない。


「明日は王宮に戻り、お父様に報告するわ。きっと喜んで友好国になり条約を結んでくれるわ」

「だといいが」


 寝台は一つしか無い。


「エリザベス王女は、今夜はこの寝台で寝るといい。俺は、そこのソファーで寝る」

「駄目よ。監視が見ているわ。同じ寝台で眠りましょう。それから、呼び方は注意してね。私のことはエリと呼ぶのよ」

「同じ寝台は困る。後で誤解される」

「誤解されるために、一緒にいるのよ。さあ、灯りを消して」


 俺は寝台から立つと、灯りを消した。

 仕方なく、エリザベス王女と共に寝台に横になった。

 緊張して、眠れなかった。

 隣では、エリザベス王女は、グッスリ眠っている。

 いったいどんな図太い神経をしているのだ?
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