26 / 93
第1章
26 計画 レイン視点
しおりを挟む
「ありがとう」
「約束は守ってもらう。必ず友好国になり条約を結べるようにしてくれ」
「まず、婚約をしましょう。私が王妃になる条件をのんでください」
「分かった」
俺は旅館に戻って、夫婦の為に用意された部屋にエリザベス王女と共に入った。
寝台に座り、近くで話をする。
この計画のあらましを聞かなくては、安易に手は貸せない。
エリザベス王女は、蚊の鳴くような小さな声で話している。
俺もそれに合わせて、近くで囁くように話している。
自然に肩が触れあい、他人から見たら親密そうに見えるであろう。
俺の護衛にもエリザベス王女の護衛にも声は聞こえていないであろう。
「婚約が成立したら、友好国になり条約を結ぶ契約書を書いていただくわ。婚約パーティーを開くと言うかも知れないわね。その辺りはお父様の指示に従ってくれるかしら。レイン辺境伯が、自分の言いなりになるところを見れば安心して気を許すと思うの」
「分かった」
「契約を結べば、お父様が国に対して何かしたら、国際裁判所が許さないわ。国際裁判所がブルーリングス王国を守ってくれるわ」
「それで?」
「結婚式を挙げてしまいましょう。勿論、嘘の結婚式よ。直ぐに手配をするわ。結婚式を行って、両国が親戚同士になるわね。お父様はきっと大喜びするでしょう。二週間経ったら、歌劇団が他国に出発するわ。エルビスと共に、私は旅立つわ。それから二日後、レイン辺境伯には、『花嫁がいなくなった』と騒いで欲しいの。その頃は、私はこの国の国境を越えて、他国に行くわ。私が目指している国は、フラッオーネ帝国なの。この土地からはかなり遠い帝国ですけれど、あの国は国際裁判所もあるし、民が自由に暮らせる国なの。その国まで歌劇団に連れて行ってもらうのよ。歌劇団の団長には、多すぎるほどの金貨を寄付したのよ。私達を送ってくれると約束もしてもらっているわ」
「その歌劇団は信用できるのか?」
「信用しているの。エルビスも私も長い旅をしたことがないの。だから団長にお願いしたのよ。持っている宝石やドレスを売って手に入れた金貨を先払いしたの」
大丈夫なんだろうか?
信用できる者なのか?
心配になってきた。
「エルビスという男は、幾つなのだ?」
「私と同じ20才よ。次男だから家督は継げないの。だから、フラッオーネ帝国に移住して、商売を始めようと思っているの。お金を金貨に替えて、旅支度もできているわ」
「何という歌劇団だ?」
「メイティ歌劇団よ、猛獣もいるのよ」
「どこで会った者だ?」
「エルビスとこれからの事を相談していたら、手を貸してくれると言っていたわ」
「胡散臭いとは思わないのか?」
「天の助けだと思ったわ。私は政略結婚させられるし、エルビスは平民になり商人になるか騎士団に入団するかと悩んでいたのよ。私達が幸せな結婚をするためには、この国では無理なの。お父様の手の届かない場所に行かなければ、連れ戻されてしまうわ」
「その手助けを俺にさせるつもりなのだな?」
「手助けは、私がいなくなったと言うまでだわ。そんなに迷惑は掛けないから」
「十分に迷惑を掛けられておる。俺は花嫁に逃げられたと汚点が残るし、愛する妻の耳に入れば、妻を傷つける」
「けれど、友好国になり平和条約ももらえるでしょう?」
「全く口の減らない子供だ。その歌劇団が安全なのか確認したのか?」
「エルビスが大丈夫だと言ったのよ」
俺は胡散臭い話に乗らされるようだ。
世間知らずの王女様を騙すくらい簡単に思えるが、一応警告はした。
ブリッサ王国と友好国になり平和条約を結ぶことが目的なので、王女様の暴走までは面倒見切れない。
「明日は王宮に戻り、お父様に報告するわ。きっと喜んで友好国になり条約を結んでくれるわ」
「だといいが」
寝台は一つしか無い。
「エリザベス王女は、今夜はこの寝台で寝るといい。俺は、そこのソファーで寝る」
「駄目よ。監視が見ているわ。同じ寝台で眠りましょう。それから、呼び方は注意してね。私のことはエリと呼ぶのよ」
「同じ寝台は困る。後で誤解される」
「誤解されるために、一緒にいるのよ。さあ、灯りを消して」
俺は寝台から立つと、灯りを消した。
仕方なく、エリザベス王女と共に寝台に横になった。
緊張して、眠れなかった。
隣では、エリザベス王女は、グッスリ眠っている。
いったいどんな図太い神経をしているのだ?
「約束は守ってもらう。必ず友好国になり条約を結べるようにしてくれ」
「まず、婚約をしましょう。私が王妃になる条件をのんでください」
「分かった」
俺は旅館に戻って、夫婦の為に用意された部屋にエリザベス王女と共に入った。
寝台に座り、近くで話をする。
この計画のあらましを聞かなくては、安易に手は貸せない。
エリザベス王女は、蚊の鳴くような小さな声で話している。
俺もそれに合わせて、近くで囁くように話している。
自然に肩が触れあい、他人から見たら親密そうに見えるであろう。
俺の護衛にもエリザベス王女の護衛にも声は聞こえていないであろう。
「婚約が成立したら、友好国になり条約を結ぶ契約書を書いていただくわ。婚約パーティーを開くと言うかも知れないわね。その辺りはお父様の指示に従ってくれるかしら。レイン辺境伯が、自分の言いなりになるところを見れば安心して気を許すと思うの」
「分かった」
「契約を結べば、お父様が国に対して何かしたら、国際裁判所が許さないわ。国際裁判所がブルーリングス王国を守ってくれるわ」
「それで?」
「結婚式を挙げてしまいましょう。勿論、嘘の結婚式よ。直ぐに手配をするわ。結婚式を行って、両国が親戚同士になるわね。お父様はきっと大喜びするでしょう。二週間経ったら、歌劇団が他国に出発するわ。エルビスと共に、私は旅立つわ。それから二日後、レイン辺境伯には、『花嫁がいなくなった』と騒いで欲しいの。その頃は、私はこの国の国境を越えて、他国に行くわ。私が目指している国は、フラッオーネ帝国なの。この土地からはかなり遠い帝国ですけれど、あの国は国際裁判所もあるし、民が自由に暮らせる国なの。その国まで歌劇団に連れて行ってもらうのよ。歌劇団の団長には、多すぎるほどの金貨を寄付したのよ。私達を送ってくれると約束もしてもらっているわ」
「その歌劇団は信用できるのか?」
「信用しているの。エルビスも私も長い旅をしたことがないの。だから団長にお願いしたのよ。持っている宝石やドレスを売って手に入れた金貨を先払いしたの」
大丈夫なんだろうか?
信用できる者なのか?
心配になってきた。
「エルビスという男は、幾つなのだ?」
「私と同じ20才よ。次男だから家督は継げないの。だから、フラッオーネ帝国に移住して、商売を始めようと思っているの。お金を金貨に替えて、旅支度もできているわ」
「何という歌劇団だ?」
「メイティ歌劇団よ、猛獣もいるのよ」
「どこで会った者だ?」
「エルビスとこれからの事を相談していたら、手を貸してくれると言っていたわ」
「胡散臭いとは思わないのか?」
「天の助けだと思ったわ。私は政略結婚させられるし、エルビスは平民になり商人になるか騎士団に入団するかと悩んでいたのよ。私達が幸せな結婚をするためには、この国では無理なの。お父様の手の届かない場所に行かなければ、連れ戻されてしまうわ」
「その手助けを俺にさせるつもりなのだな?」
「手助けは、私がいなくなったと言うまでだわ。そんなに迷惑は掛けないから」
「十分に迷惑を掛けられておる。俺は花嫁に逃げられたと汚点が残るし、愛する妻の耳に入れば、妻を傷つける」
「けれど、友好国になり平和条約ももらえるでしょう?」
「全く口の減らない子供だ。その歌劇団が安全なのか確認したのか?」
「エルビスが大丈夫だと言ったのよ」
俺は胡散臭い話に乗らされるようだ。
世間知らずの王女様を騙すくらい簡単に思えるが、一応警告はした。
ブリッサ王国と友好国になり平和条約を結ぶことが目的なので、王女様の暴走までは面倒見切れない。
「明日は王宮に戻り、お父様に報告するわ。きっと喜んで友好国になり条約を結んでくれるわ」
「だといいが」
寝台は一つしか無い。
「エリザベス王女は、今夜はこの寝台で寝るといい。俺は、そこのソファーで寝る」
「駄目よ。監視が見ているわ。同じ寝台で眠りましょう。それから、呼び方は注意してね。私のことはエリと呼ぶのよ」
「同じ寝台は困る。後で誤解される」
「誤解されるために、一緒にいるのよ。さあ、灯りを消して」
俺は寝台から立つと、灯りを消した。
仕方なく、エリザベス王女と共に寝台に横になった。
緊張して、眠れなかった。
隣では、エリザベス王女は、グッスリ眠っている。
いったいどんな図太い神経をしているのだ?
1
お気に入りに追加
2,266
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定


将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる