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第1章

22 レイン出陣

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 レインは朝食が済むと、アルク様と護衛の騎士を伴って、隣国、ブリッサ王国に出かけていった。

 友好国になるために、月に一度ほどブリッサ王国の王妃様のお見舞いも兼ねて、足を運んでいるという。

 レイニア草を輸出するタイミングで、会談が行われる。

 その日のうちに帰宅する事もあるが、数日、泊まることもあるという。

 私の事をハルマ様とビストリ様にお願いして、馬で出かけていった。

 ハルマ様とビストリ様はレインの護衛騎士でもあるが、万が一、レインに何かあれば、ブルーリングス王国の王の座を譲る役目もあるという。

 それなので、表だってレインとは行動を共にしない。

 全て、ブルーリングス王国の建立の為なのだと、出発の時にレインから知らされた。

 ハルマ様とビストリ様は、無事に帰ってこいとレインに言っていた。

 私は馬で駆けていく、レインの姿が見えなくなるまで見送った。

 きっと帰ってくる。

 そう信じている。

 今更、一人にされるのは寂しすぎる。

 もうレインがいなければ、生きていけない。

 愛とは、人を弱くする。


「ニナ嬢、レインが帰宅するまで、宮殿の中にいて欲しい」


 ハルマ様が私にそう言った。私は指輪を探しに行くつもりでいた。


「レインから指輪を探しに出すなと言われている」


 ビストリ様が私の髪型を見て、そう言った。

 今日の私の髪型は、きちんと結い上げている。

 川の中に入れる髪型をしている。

 レインには全てお見通しなのだ。


「レインが帰ってきたときに、ニナ嬢が健在でないとレインが悲しむ。指輪一つくらいで、レインの気持ちは変わったりしない。それとも、その指輪がなければ、レインへの気持ちは変わるのか?」

 ハルマ様とビストリ様は、真っ直ぐ、私を見て問いかける。

「変わりません」

「ならば、レインが帰宅するまで宮殿の中で過ごして欲しい」

「はい」


 私は指輪があった場所を、反対の手で握った。


「今日のレインは命がけで、ブリッサ王国に出かけている。俺達は、ニナ嬢の事を頼まれている。レインの為におとなしくしてくれ」

「はい」

「部屋には一人で戻れるな?」

「戻れます」

「昼食の時間には、ダイニングルームに来てくれ」

「はい」


 今日は天気がよかった。

 ハルマ様とビストリ様の言葉に逆らうことは、レインの言葉に逆らうことだ。

 指輪を探しに行くのは、我慢しなくてはならない。

 悔しいが、私は部屋に戻った。

 それなら、宮殿の掃除をしようと思った。

 看護師の制服に着替えて、頭に三角巾をして、モップと雑巾とバケツを洗濯場のメイドにもらってきた。

 洗濯場のメイドは、どうやらレインと私の関係を知らないようだ。

 私の事をお嬢様と呼ぶ。

 レインはまだお披露目会をしていないので、仕方がない。

 私は、先ず自分の部屋を掃除することにした。

 窓も拭き、窓枠も綺麗にして、棚も机も綺麗にしてから、モップを掛けていく。

 黒い煤があった部屋の床が、輝いている。

 ワックスもあったらもっと綺麗になるのに、ワックスはないようだ。

 自分の部屋の掃除を終えると、レインの部屋の掃除を始めた。

 ちょうど、昼頃になったので、手を洗い、頭の三角巾を外し、看護師の制服のままダイニングに向かった。

 ハルマ様とビストリ様は、私が来るのを待っていた。

「遅くなりました」

「看護師の制服を着て、どうしたのだ?」

「部屋の掃除をしておりました」

「メイドがいないから、確かに汚れているな?」

「はい、真っ黒になります。宜しければ、順番に部屋を掃除しましょうか?」

「それは助かるが」


 ハルマ様が言葉にして、ビストリ様に足を蹴られています。


「やることもないので、この際、この宮殿の大掃除でもしようかと思いましたの。指輪を探しにいけないのなら、私にやることがないのです。気分転換ですわ」

「それなら、頼もうか」

「俺の部屋も頼む」

「今、レインの部屋の掃除をしておりますので、終わったら、ハルマ様とビストリ様のお部屋に窺います」

「慌てずとも、構わないのだぞ」

「ええ、ゆっくりやっております」



 今日も私の席に私のトレーが置かれました。

 シェフに「ありがとう」とお礼を言うと「どういたしまして」と返事が返ってきた。

 丁度いい量で、食べやすい物でした。

 トレーはビストリ様が片付けてくださいました。

 午後からも、掃除をしております。

 レインの執務室の机の上は片付いておりました。

 机と椅子を拭き、窓と窓枠も拭いて、ソファーセットも綺麗に致しました。

 床にモップを掛けていく。

 次はベッドルームも綺麗にしていく。

 お風呂も磨いて、ピカピカにしていく。

 寝具のシーツも替えて、新しくしました。

 カーテンも外してしまう。

 寝室には、レインの執務室に行くためのドアとは違うドアがありました。

 その部屋に行くと、少しかび臭く感じました。

 窓を開けて換気をします。

 それから、一つずつ机やソファーセットも綺麗にしていきます。

 窓を拭くと、かなり汚れています。窓枠も綺麗にして、椅子を使って、カーテンも外しました。

 急いで、洗い場に運んで、洗濯をしてしまいます。

 洗い場のメイドは、時間で来ているのか、午後の陽の当たる時間はいないようです。

 早朝には洗濯をしておりますが、午前中で帰宅して、夕方前に洗濯物を片付けに来るようです。

 空いた洗濯干しに洗い立ての洗濯物を干していきます。

 シーツとカーテンを干して、青空を見上げる。

 レインはいつ戻るのでしょう。

 無事に帰ってくることを祈る。

 時間を見ると、洗濯をして乾く時間までそれほどありません。

 私は先にハルマ様とビストリ様のお部屋にお邪魔して、カーテンとシーツを外し、先に洗濯してしまいます。

 それを干してから、掃除をすることにしました。

 少々、疲れを感じながら、窓を拭き窓枠も磨いて、高いところの埃を落としてしまう。 

 それからモップを掛けて、綺麗にしていく。

 どの部屋も等しく、汚いのです。

「すまないな」

「誰も掃除はしないのですか?」

「メイドはいない。さすがに、農家の奥方に宮殿の中までは掃除を頼めないのでな。人手も足りていない」

「そうなのですね」


 ハルマ様とビストリ様の机には、書類などがあったが、ソファーセットを先に綺麗にすると、綺麗にしたソファーセットのテーブルに荷物を移動させて、机の上も拭いて欲しいと言われました。

 机の引き出しの取っ手も、錆と埃で綺麗とは言えない。それを磨いて、綺麗にする。

 ビストリ様の机の上には、女性の写真があったが、きちんと見る前に、移動されてしまった。きっとサーシャさんだろう。

 二人の部屋の掃除を終えると、ベッドに新しいシーツを掛けて、順に干しておいたカーテンを椅子に乗って付けていく。

 厚手のカーテンはまだ完全に乾いていないが、部屋の中に吊しておけば乾くであろう。

 カーテンは大きいので、重い。

 腕が悲鳴を上げている。

 たくさん洗って干したので、その全てを元通りにしなくてはならない。

 明日からは、もっと計画的にカーテンの洗濯をしようと思った。

 その日の夜は、レインは戻らなかった。

 夕食はダイニングで、ハルマ様とビストリ様と三人で頂いた。

 髪を洗うのが辛くて、腕が上がらない。

 桶がいつも以上に重く感じて、上手く髪が洗えなかった。
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