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第1章
19 反抗
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目を開けると、レインが私を見ていた。
「おはよう、身体の具合はどうだ?」
「おはよう、どうかしら?」
抱きしめられていたままレインは、起き上がった。
「少し怠いわ、それから少し身体の節々が痛む程度よ。たいしたことはないわ」
「昨夜、身体は軽く拭ったが、不快な所はないか?」
「ないわ、ありがとう」
「着替えは必要だな?」
「そうね、一日中、ネグリジェでいるのは、よくないわ。部屋の外に出られないもの」
「今日はニナの部屋で、ゆっくりしているといい」
「そうさせてもらうわ」
「また夜にお風呂に入れるよ」
「はい、お願いします」
私は自分の下腹部に触れた。
「どうかしたのか?」
「レインを迎えられて、嬉しかったの。痛くもなかったの。フェルトとは何度も試したのに、痛くてできなかったのよ。フェルトより大きな性器を持っているレインと結ばれた事が、とても嬉しいの」
レインは私をギュッと抱きしめた。
「俺と結ばれる運命だったのだ」
「そうね」
私もレインを抱きしめて、自然にキスをしていた。
互いに裸で、直接触れる素肌が、気持ちいい。
レインが私の額に額を付ける。
「俺と結ばれるのは、嫌ではなかったのだな?」
「私、今、とても幸せなの。もっと抱いて、私に子供をプレゼントしてください」
「世継ぎは必要だ。ニナがそう言ってくれて嬉しい。俺の子を産んでくれ」
「頑張ります」
私の生真面目な応えに、レインは微笑んだ。そして、もう一度、レインはキスをしてきた。
戯れるような、キスは、やはり気持ちがいい。
私は、レインのキスの虜になっている。
キスだけで、イってしまう。
快感になれていない身体は、容易く上り詰めてしまう。
「イってしまったか?」
レインは私を抱き留めて、優しく抱きしめた。
そっと私を抱きしめたままベッドに横にしてくれた。
フワフワとした心地よい快感に包まれながら、愛おしいレインに抱きしめられている。
幸せの中をたゆたう。
「ニナ、ニナの部屋に行けそうか?」
「ええ、こうしていたいけれど、アニーが来てしまうわね」
「ああ、そうだな。今日は国王陛下に届けてもらう手紙をしたためたい」
「私も実家に結婚をしたことを報告するわ。手紙を書きます。一緒に届けてくださいますか?」
「ああ、いいとも」
「では、部屋に送って行こう」
「お願いします」
先にレインが起き上がると、扉を開けて、私の元に戻ってきた。
私を抱き上げようとするレインに、私は「歩けるわ」と告げたけれど、レインは私を横抱きにした。
「ごめんなさい。いつも運ばせてしまって」
「これは夫の勤めだ。妻を抱いて、俺の愛を受け止めてくれたニナへの感謝だ」
「レインって、とても優しいのね。私、レインの腕に包まれていると、とても幸せなの。ずっと愛してね」
レインは微笑んだ。
「なんと愛らしい。ニナは俺の宝だ。宝は自分で守らなくては、無くしてからでは遅い。俺には甘えてくれ」
レインは、私の部屋の前に到着すると、いったん私を下ろして、扉を開けた。
私は自分で歩いて部屋に入ろうとしたら、手を握られて、私をまた抱き上げた。
「レインは甘やかしすぎよ。自分で歩けるわ」
「結婚式の翌日は、一日中、ベッドにいるものだ。それなのに、置いていく事を許して欲しい」
「気にしていないわ。お仕事、頑張って欲しい」
「朝食は一緒に食べよう。この部屋に持ってくる」
「ありがとう」
レインは、私をベッドに下ろした。
「着替えは、無理にしなくてもいい」
「レインの言葉に従っていたら、堕落してしまいそうよ」
「とにかく、今日は休みなさい」
「分かりました」
レインは私の頬にキスをすると、ベッドルームを出て行った。
その後に、部屋の開閉の音がした。
私はベッドに突っ伏した。
恥ずかしいのと、やはり身体は本調子ではない。
結ばれたところが、少し痛む。
けれど、その痛みも気怠い身体も、今は嬉しかった。
レインが与えてくれる物は、全て喜びに変わる。
これを愛と呼ぶのだろうと思った。
そうだったわ。レインが来るまでに、両親に手紙を書いておこう。
着替える前に、簡単な手紙を書いた。
『お父様、お母様へ
お父様、お母様、お元気でしょうか?
ニナは元気です。
大切なお知らせがあります。
ニナは、レイン辺境伯と結婚を致しました。
この先、辺境区で共に生きていこうと思います。
どうかお元気で。
ニナ』
お父様は全て知っていたのなら、要件だけで通じるはずだ。
白い封筒に簡単な手紙を入れて、封筒の表にお父様の名前を書いて、裏面に私の名前を書いた。
それにのり付けして、机の上に置いた。
その後に洗顔しクロークルームに入り、楽そうなドレスに着替える。
髪は結わなかった。
淡いピンクのドレスは胸の下からドレープがあり、ゆったりしている。
まるで妊婦のようにも見えなくはないが、食後に横になるのなら、着心地は良いだろう。
テーブルに座っていようか迷ったが、きっとレインが来るのはもう少し先のような気がしてベッドに横になる。
この幸せな気持ちを零さないように、指輪を胸に抱いた。
+
人の気配がして、目を覚ました。
私はベッドから降りて、部屋に移動した。
テーブルにはトレーに載った食事があった。
私が書いた手紙は、持って行ってくれたようだ。その代わりに、レインからの手紙があった。
綺麗な文字で、文字からも誠実さが伝わってくる。
そこには私が眠っていたので起こさなかったと、したためられている。
目が覚めて、食べられそうなら食べて欲しいと書かれていた
人の気配は、クロークルームからしている。
私は静かにクロークルームに入っていった。
そこにはアニーがいて、私のドレスを着ていた。
15才のアニーには、私のドレスは当然大きすぎる。
裾を引きずって、宝石箱を開けて、いろんな物に触れている。
「アニー、何をしているの?」
アニーはビックリして飛び上がっている。
「あの、綺麗だったから」
「そのドレスはアニーには大きすぎるし、アニーの物ではないのよ。勝手に触れてはいけません。宝石箱の中の物はレイン辺境伯からいただいた大切な物です。手に持っている物を全て置きなさい」
「はい、すみません」
アニーの指は、大量な指輪をはめている。
サイズも合っていないのに、綺麗な物に惹かれてしたとしても、主人の物に勝手に触れることは、メイド見習いだとしても許されることではない。
指に触れていた指輪を、宝石箱の中に急いで落として、慌てて蓋を閉めている。
綺麗に並んでいた指輪は、ぐちゃぐちゃになっている。
ドレスのファスナーが届かないのか、無理矢理脱ごうとしている。
このままでは、ドレスが破れてしまう。
仕方なくファスナーを下ろしてやると急いでドレスを脱いで、ハンガーに掛けようとしているけれど、上手くできないようだ。
「そのままにしておきなさい」
「はい」
そのドレスは、昨日私が着ていたドレスです。
純白で、ウエディングドレスの代わりにしたドレスです。
汚れがないか見ると、裾に埃が付き少し黒ずんでいます。
それから、襟元も汚れています。
農家の子なので、お風呂は毎日、入っていないのかもしれません。
薄汚れたドレスを抱えて、記念のドレスが汚れてしまった事が悲しくてしかたがありません。
「ニナ様、ごめんなさい」
「許せません。このドレスはウエディングドレスの代わりにしたドレスです。大切な思い出のあるドレスです」
「ニナ様、すみません」
私はドレスを畳み、棚の上に置きました。
これは洗わなければ、綺麗になりません。
アニーはまだネックレスと髪飾りを付けていました。
それを外して、元の場所に片付ける。
宝石箱の中に散らかった指輪も、元の場所に戻していく。
アニーは立ったまま、その様子を見ています。
いい子だと思っていたのに、主人の物を勝手に触るなんて信じられません。
「もうしては、いけませんよ」
私は怒っていたけれど、15才の女の子なら興味を持つ物だと、自分の怒りを抑え込みました。
「はい、もう触ったりしません」
「約束よ」
「はい」
アニーは深く頭を下げたので、アニーを許すことにしました。
「アニー、洗濯場に行って、洗濯石鹸をもらってきなさい。これは、アニーが汚してしまったから、洗わなくてはならないのよ。だから、石鹸をもらってきなさい」
アニーはじっと私を見て、頭を下げた。
「行ってきます」
アニーが何を思って私を見ていたかは、私には分からない。けれど、その視線は反抗的な視線だった。
素直だと思っていたけれど、心の中までは知ることはできない。
これからは気をつけよう。
私は取り敢えず、食事を食べることにした。
ドーム型の蓋を開けると、なんだかスッキリした食事だった。
サンドイッチは、二きれ。
スープは三分の一ほどになっている。
サラダは普通だった。
グラスは二つに水が入っている。
イチゴは二個お皿に載っていた。
スプーンとフォークは洗い立てのように、トレーに水が残っている。
誰かが食べた後のように見えた。
まさかとは思うけれど、アニーが手を付けたのかしら?
私はドーム型の蓋をした。
これを運んできたレインに確認すれば、分かることだ。
私は朝食を諦めた。
誰かが手を付けた食べ物を口にするのは不潔だし、万が一、毒が入っていたら危険だ。
ノックもなしにいきなり扉が開いて、私は驚いて飛び上がった。
入ってきたのは、アニーだった。
「石鹸を貰ってきました」
「アニー、扉を開けるときはノックをしてくれないかしら?いきなり入ってきたら驚くでしょう?」
「これから気をつけます」
「そうね、これからは気をつけてね」
「食事を終えたのですか?」
「いいえ、食事は後にするわ。先に洗濯をしてしまうわね。アニーはもう帰ってもいいわよ」
「どうして、そんな意地悪なことを言うのですか?」
「意地悪ではないわ。これから、ドレスを洗濯するのよ。アニーに洗濯はできないでしょう?今日は帰っていいわ」
アニーは私を睨んだ。
憎しみの眼差しが、私を射貫く。
どうして、これほど憎まれなければならないの?
悪いことをしたのは、アニーよ。
「私が汚したから、怒っているのね?」
「そうね、怒っているわ。今日は帰ってください」
アニーは私を睨んで、部屋から出て行った。
最初の印象とは違っていて、戸惑う。
私はアニーの後ろ姿を見て、考える。
中央都市のメイドでは考えられない。
主人の持ち物に触れる事も。
況してや、主人のドレスを勝手に着るなんて。
どうしたらいいの?
「おはよう、身体の具合はどうだ?」
「おはよう、どうかしら?」
抱きしめられていたままレインは、起き上がった。
「少し怠いわ、それから少し身体の節々が痛む程度よ。たいしたことはないわ」
「昨夜、身体は軽く拭ったが、不快な所はないか?」
「ないわ、ありがとう」
「着替えは必要だな?」
「そうね、一日中、ネグリジェでいるのは、よくないわ。部屋の外に出られないもの」
「今日はニナの部屋で、ゆっくりしているといい」
「そうさせてもらうわ」
「また夜にお風呂に入れるよ」
「はい、お願いします」
私は自分の下腹部に触れた。
「どうかしたのか?」
「レインを迎えられて、嬉しかったの。痛くもなかったの。フェルトとは何度も試したのに、痛くてできなかったのよ。フェルトより大きな性器を持っているレインと結ばれた事が、とても嬉しいの」
レインは私をギュッと抱きしめた。
「俺と結ばれる運命だったのだ」
「そうね」
私もレインを抱きしめて、自然にキスをしていた。
互いに裸で、直接触れる素肌が、気持ちいい。
レインが私の額に額を付ける。
「俺と結ばれるのは、嫌ではなかったのだな?」
「私、今、とても幸せなの。もっと抱いて、私に子供をプレゼントしてください」
「世継ぎは必要だ。ニナがそう言ってくれて嬉しい。俺の子を産んでくれ」
「頑張ります」
私の生真面目な応えに、レインは微笑んだ。そして、もう一度、レインはキスをしてきた。
戯れるような、キスは、やはり気持ちがいい。
私は、レインのキスの虜になっている。
キスだけで、イってしまう。
快感になれていない身体は、容易く上り詰めてしまう。
「イってしまったか?」
レインは私を抱き留めて、優しく抱きしめた。
そっと私を抱きしめたままベッドに横にしてくれた。
フワフワとした心地よい快感に包まれながら、愛おしいレインに抱きしめられている。
幸せの中をたゆたう。
「ニナ、ニナの部屋に行けそうか?」
「ええ、こうしていたいけれど、アニーが来てしまうわね」
「ああ、そうだな。今日は国王陛下に届けてもらう手紙をしたためたい」
「私も実家に結婚をしたことを報告するわ。手紙を書きます。一緒に届けてくださいますか?」
「ああ、いいとも」
「では、部屋に送って行こう」
「お願いします」
先にレインが起き上がると、扉を開けて、私の元に戻ってきた。
私を抱き上げようとするレインに、私は「歩けるわ」と告げたけれど、レインは私を横抱きにした。
「ごめんなさい。いつも運ばせてしまって」
「これは夫の勤めだ。妻を抱いて、俺の愛を受け止めてくれたニナへの感謝だ」
「レインって、とても優しいのね。私、レインの腕に包まれていると、とても幸せなの。ずっと愛してね」
レインは微笑んだ。
「なんと愛らしい。ニナは俺の宝だ。宝は自分で守らなくては、無くしてからでは遅い。俺には甘えてくれ」
レインは、私の部屋の前に到着すると、いったん私を下ろして、扉を開けた。
私は自分で歩いて部屋に入ろうとしたら、手を握られて、私をまた抱き上げた。
「レインは甘やかしすぎよ。自分で歩けるわ」
「結婚式の翌日は、一日中、ベッドにいるものだ。それなのに、置いていく事を許して欲しい」
「気にしていないわ。お仕事、頑張って欲しい」
「朝食は一緒に食べよう。この部屋に持ってくる」
「ありがとう」
レインは、私をベッドに下ろした。
「着替えは、無理にしなくてもいい」
「レインの言葉に従っていたら、堕落してしまいそうよ」
「とにかく、今日は休みなさい」
「分かりました」
レインは私の頬にキスをすると、ベッドルームを出て行った。
その後に、部屋の開閉の音がした。
私はベッドに突っ伏した。
恥ずかしいのと、やはり身体は本調子ではない。
結ばれたところが、少し痛む。
けれど、その痛みも気怠い身体も、今は嬉しかった。
レインが与えてくれる物は、全て喜びに変わる。
これを愛と呼ぶのだろうと思った。
そうだったわ。レインが来るまでに、両親に手紙を書いておこう。
着替える前に、簡単な手紙を書いた。
『お父様、お母様へ
お父様、お母様、お元気でしょうか?
ニナは元気です。
大切なお知らせがあります。
ニナは、レイン辺境伯と結婚を致しました。
この先、辺境区で共に生きていこうと思います。
どうかお元気で。
ニナ』
お父様は全て知っていたのなら、要件だけで通じるはずだ。
白い封筒に簡単な手紙を入れて、封筒の表にお父様の名前を書いて、裏面に私の名前を書いた。
それにのり付けして、机の上に置いた。
その後に洗顔しクロークルームに入り、楽そうなドレスに着替える。
髪は結わなかった。
淡いピンクのドレスは胸の下からドレープがあり、ゆったりしている。
まるで妊婦のようにも見えなくはないが、食後に横になるのなら、着心地は良いだろう。
テーブルに座っていようか迷ったが、きっとレインが来るのはもう少し先のような気がしてベッドに横になる。
この幸せな気持ちを零さないように、指輪を胸に抱いた。
+
人の気配がして、目を覚ました。
私はベッドから降りて、部屋に移動した。
テーブルにはトレーに載った食事があった。
私が書いた手紙は、持って行ってくれたようだ。その代わりに、レインからの手紙があった。
綺麗な文字で、文字からも誠実さが伝わってくる。
そこには私が眠っていたので起こさなかったと、したためられている。
目が覚めて、食べられそうなら食べて欲しいと書かれていた
人の気配は、クロークルームからしている。
私は静かにクロークルームに入っていった。
そこにはアニーがいて、私のドレスを着ていた。
15才のアニーには、私のドレスは当然大きすぎる。
裾を引きずって、宝石箱を開けて、いろんな物に触れている。
「アニー、何をしているの?」
アニーはビックリして飛び上がっている。
「あの、綺麗だったから」
「そのドレスはアニーには大きすぎるし、アニーの物ではないのよ。勝手に触れてはいけません。宝石箱の中の物はレイン辺境伯からいただいた大切な物です。手に持っている物を全て置きなさい」
「はい、すみません」
アニーの指は、大量な指輪をはめている。
サイズも合っていないのに、綺麗な物に惹かれてしたとしても、主人の物に勝手に触れることは、メイド見習いだとしても許されることではない。
指に触れていた指輪を、宝石箱の中に急いで落として、慌てて蓋を閉めている。
綺麗に並んでいた指輪は、ぐちゃぐちゃになっている。
ドレスのファスナーが届かないのか、無理矢理脱ごうとしている。
このままでは、ドレスが破れてしまう。
仕方なくファスナーを下ろしてやると急いでドレスを脱いで、ハンガーに掛けようとしているけれど、上手くできないようだ。
「そのままにしておきなさい」
「はい」
そのドレスは、昨日私が着ていたドレスです。
純白で、ウエディングドレスの代わりにしたドレスです。
汚れがないか見ると、裾に埃が付き少し黒ずんでいます。
それから、襟元も汚れています。
農家の子なので、お風呂は毎日、入っていないのかもしれません。
薄汚れたドレスを抱えて、記念のドレスが汚れてしまった事が悲しくてしかたがありません。
「ニナ様、ごめんなさい」
「許せません。このドレスはウエディングドレスの代わりにしたドレスです。大切な思い出のあるドレスです」
「ニナ様、すみません」
私はドレスを畳み、棚の上に置きました。
これは洗わなければ、綺麗になりません。
アニーはまだネックレスと髪飾りを付けていました。
それを外して、元の場所に片付ける。
宝石箱の中に散らかった指輪も、元の場所に戻していく。
アニーは立ったまま、その様子を見ています。
いい子だと思っていたのに、主人の物を勝手に触るなんて信じられません。
「もうしては、いけませんよ」
私は怒っていたけれど、15才の女の子なら興味を持つ物だと、自分の怒りを抑え込みました。
「はい、もう触ったりしません」
「約束よ」
「はい」
アニーは深く頭を下げたので、アニーを許すことにしました。
「アニー、洗濯場に行って、洗濯石鹸をもらってきなさい。これは、アニーが汚してしまったから、洗わなくてはならないのよ。だから、石鹸をもらってきなさい」
アニーはじっと私を見て、頭を下げた。
「行ってきます」
アニーが何を思って私を見ていたかは、私には分からない。けれど、その視線は反抗的な視線だった。
素直だと思っていたけれど、心の中までは知ることはできない。
これからは気をつけよう。
私は取り敢えず、食事を食べることにした。
ドーム型の蓋を開けると、なんだかスッキリした食事だった。
サンドイッチは、二きれ。
スープは三分の一ほどになっている。
サラダは普通だった。
グラスは二つに水が入っている。
イチゴは二個お皿に載っていた。
スプーンとフォークは洗い立てのように、トレーに水が残っている。
誰かが食べた後のように見えた。
まさかとは思うけれど、アニーが手を付けたのかしら?
私はドーム型の蓋をした。
これを運んできたレインに確認すれば、分かることだ。
私は朝食を諦めた。
誰かが手を付けた食べ物を口にするのは不潔だし、万が一、毒が入っていたら危険だ。
ノックもなしにいきなり扉が開いて、私は驚いて飛び上がった。
入ってきたのは、アニーだった。
「石鹸を貰ってきました」
「アニー、扉を開けるときはノックをしてくれないかしら?いきなり入ってきたら驚くでしょう?」
「これから気をつけます」
「そうね、これからは気をつけてね」
「食事を終えたのですか?」
「いいえ、食事は後にするわ。先に洗濯をしてしまうわね。アニーはもう帰ってもいいわよ」
「どうして、そんな意地悪なことを言うのですか?」
「意地悪ではないわ。これから、ドレスを洗濯するのよ。アニーに洗濯はできないでしょう?今日は帰っていいわ」
アニーは私を睨んだ。
憎しみの眼差しが、私を射貫く。
どうして、これほど憎まれなければならないの?
悪いことをしたのは、アニーよ。
「私が汚したから、怒っているのね?」
「そうね、怒っているわ。今日は帰ってください」
アニーは私を睨んで、部屋から出て行った。
最初の印象とは違っていて、戸惑う。
私はアニーの後ろ姿を見て、考える。
中央都市のメイドでは考えられない。
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