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第1章

6 メイド

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 部屋に案内されると、私の荷物が運び入れられていた。

 私を案内してくれたのは、メイド服を着た女性だ。

 髪を肩まで切った女性は、まるでリリーのようだ。

 彼女は貴族ではなく、農家の令嬢で、この宮殿に雇われて働いているそうだ。

 畑の収穫時期は、実家に戻るが、それ以外は宮殿に勤めていると言っていた。


「ニナ様、お風呂はお手伝いなさいますか?」

「いいえ、自分の事は自分でできます」

「そうですか?貴族の令嬢と聞きましたので、お手伝いが必要だと思っておりました」

「私は一度、結婚に失敗した者です。令嬢と言っても、生粋の令嬢とは違うのよ。それに、看護学校では、寄宿舎に住み込みで学びましたので、心遣いはいりませんわ」

「ニナ様の元旦那様は、こんなに美しいニナ様がいて、何が不満で離縁などしたのでしょう?」

「離縁を言い渡したのは、私の方よ。元夫は、私の妹と不倫をしていたの。私と結婚式を挙げた翌日が記念日なんですって。私を一年も騙して、許せなかったのですわ」

「結婚式の翌日から不倫していたなんて、なんと不実な男でしょう」

「そうね。元夫にも頭にきましたが、私の物を全て欲しがる妹の存在も、ウンザリしていたのよ。元夫は妹の方を選んだわ。そのくせ、妹は離縁してうちに戻っていましたわ。人の人生を引っかき回す、妹が嫌いでしたのよ」

「私も妹はおりますが、素直ないい子達ですわ」

「アニーの妹は、優しいいい子なのね」

「はい、両親のお手伝いもしています。年頃になってきたので、少し心配ですけれど」


 アニーは、素直ないい子でした。

 自分の家族を愛して、大切にしています。

 妹の存在も案じています。

 いいお姉さんで、仕事も真面目にしています。

 私はいい姉だったかしら?

 昔からリリーの事が嫌いで、構いもしなかった。

 決していい姉ではなかったわね。

 リリーの性格が曲がってしまったのは、私の対応も悪かったのかしら?


「ニナ様、お風呂の支度ができましたので、どうぞお入りください」

「ありがとう」


 要塞のような宮殿は、電気も走っていて快適だ。

 夜の灯りは、少し光度を下げているが、それでも、あるかないかでいったら、電気がある生活に慣れているので、灯りがあってよかった。


「お風呂の後に、レイン辺境伯が食事を誘いにいらっしゃると思いますが、まだお時間が早いので、ゆっくり入浴できると思います」

「ありがとう、アニー」


 私は看護師の制服を脱ぐと、お風呂に入った。

 中央都市にあるような洗顔や身体を洗う石鹸やシャンプー等が揃えられていた。

 予め、私のために準備していたのだろう。

 レイン辺境伯は、本気のようだ。

 私が一度離縁をしていた事も理解の上での求婚だった。

 私も私を想ってくれる人と結ばれたい。

 一生を一人で過ごす事は、きっと寂しいと思う。

 できれば、もう一度、結婚をしたい。

 この地ならば、リリーが来ることもないだろう。

 レイン辺境伯の好意に甘えてもいいのだろうか?

 私は、あの方を愛せるだろうか?

 私と同じ白銀の髪に、同色に近い瞳の色は、今は無きブルーリングス王国の印。

 同じ印を持っているから惹かれるのだろうか?

 それとも、私だから愛してくれるのか?

 今日会ったばかりのレイン辺境伯の事ばかりを考えていると、お風呂の扉をノックされた。                      


「ニナ様、眠っておられるのですか?溺れてしまいますわ」

「ごめんなさい。起きているわ。ちょっと考え事をしていたのよ」

「そろそろお時間ですわ」

「今、出ますわ」


 湯船から出て、タオルで身体を拭う。

 バスローブを着て、出て行くと、アニーは、私の長い髪を見て、感動している。


「なんて、長いのでしょう。レイン辺境伯と同じお色で、とても素敵です」


 私は苦笑した。

 まだ髪すら梳かしていないのに、凄い褒め言葉だ。

 この部屋にドライヤーはあるのかしら?


「ニナ様、櫛と髪を乾かす物は、鏡の前にありますわ」

「ありがとう」

「レイン辺境伯が買い求めてきた物です。少し前、レイン辺境伯は馬で中央都市まで買い物に出かけていたのですわ。きっとその時に、ニナ様をお迎えする準備をしていたのでしょう」

「レイン辺境伯自ら?」

「ええ、ドレスもたくさんあります。後でご覧ください」


 私は照れくさくなった。

 レイン辺境伯は甘やかすのが、上手な方なのでしょうか。
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