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第1章

4 素晴らしい辺境区

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 3週間の馬車の旅を終えると、やっと到着した辺境区。

 辺境区には、背の高い砦があった。

 それが国境らしい。

 厳重な砦を見て、こんな立派な砦があるのに、いざこざが起きるのだろうか?と疑問に思う。

 砦は、山の中に消えていく。

 線を引いたように、国境全部に砦を作ることは、きっと不可能なのだと思った。

 街は巨大な要塞都市となっている。

 王宮と大差ない大きな建物は、辺境伯の邸のようだ。

 辺境伯は、普通の伯爵とは違う。

 王と同じ命令を下すことができる、事実上、公爵と同等の地位があり。敬称は国王陛下と同じ、陛下です。

 武装農民もたくさんいると、授業で習いました。

 ここは、軍隊のたまり場であり、他にも産業が発展した土地だとか。


「では、皆さん、長旅お疲れ様でした。お部屋に案内いたします」


 この馬車に乗っていたのは、6名。

 看護学校に入学できる者が、まず少ない上に、授業について行けず脱落者も出る。

 残ったのは6名。

 男性看護師が5名で、女性は私だけだった。

 貴族の次男、三男が看護師になっていた。

 平民になるより、確かに遣り甲斐も格も違う。

 ただ、ここは絶対に安全ではないと言われている。

 敵国に攻められたら、真っ先に戦に巻き込まれる。

 命の保証はないと……。

 男性は、帯剣も許されているが、私は剣術ができないので、持っているのは、ナイフの一本。

 これは、自衛と緊急事態時の治療に使われる。

 切れ味は抜群だ。

 案内された部屋は、二階の個室だった。

 荷物を置いて、ベッドに腰掛ける。

 部屋には、ベッドと書き物をするための机があるだけだ。

 お風呂は、共同風呂だと言っていた。

 女性は、いないとのことで、一番初めか、最後に入るしかないと説明されている。

 看護師と言えば、女性を連想するが、さすがに戦場に来るのは、男性くらいのようだ。

 お母様が知ったら、卒倒するだろう。

 お父様もお兄様も知っていたかもしれないけれど、私を止めはしなかった。

 荷物を置いたら、一階の食堂に集合と言われていたので、階段を降りていく。

 これから、野戦病院と入院病棟を見学に行くのだ。

 食堂に入ると、男臭い。

 男ばかりの職場なので、仕方がない。

 皆さん、背が高くて、ガッチリとした体格をしている。

 押しつぶされるかと思ったけれど、一定距離開けられて、押しつぶされることはなかった。

 その代わり、男性の射るような視線が、全身に纏わり付く。恐怖を感じる程度に、背筋を震わす。

 私は女性看護師の正装である白色のドレスを着て、同色のエプロンをはめている。髪もしっかり結い上げているが、他に女性がいないので、目立っても仕方がない。

 軍服を着た男性が、部屋に入ってきた。

 騒がしかった部屋が、一瞬のうちに静かになった。


「ここに、ニナ・アイドリース爵令嬢はおりますか?」

「はい、私です」


 私は、返事をして、一歩前に出た。

 軍服を着た男性が、私の前に歩いてくる。

 集まっている皆さんは、シーンと静まりかえった。

 誰でしょうか?

 頬に切り傷のある殿方は、厳ついお顔に軍服を着ている。

 王都の軍服と違い、辺境区の軍服は深緑色で、ボタンは金色だ。勲章が幾つも付いている。

 帽子も同色で、帽子の横に、黄色いラインが三本入っている。

 存在だけで、震え上がりそうな容姿だ。

 目の色は濃茶で、髪の色と同色だ。

 年齢は、私より、ずっと年上に見える。

 そのお方が、私の真ん前で、足を止めたのだ。

 怖い。

 私が女だから、帰れとおっしゃるのかしら?

 ドキドキしていると、軍服を着た殿方は、私の姿を頭の先から足下まで見た。

 それから、静かな声を出した。


「辺境伯がお呼びだ」

「私をでしょうか?」

「そのままの姿で構わない。一緒に来て欲しい」

「はい、でも、今から病院の案内が始まるのですが」

「優先順位は、辺境伯であるぞ」

「はい、失礼いたしました」


 私は頭を下げた。

 軍服の殿方は、一つ頷いた。

 怖そうであるが、理不尽に怖いわけではなさそうだ。


「では、こちらに来なさい」

「はい」


 私は軍服の男性の後を歩いて行く。

 寮の中を歩いて、外へ出て行く。

 外に馬車が止まっていた。


「馬車に乗ってくれ」

「はい」


 軍服の男は、どうやら馬車を操るようだ。

 皆が、軍服の男に頭を下げている。

 辺境伯は、確か。

 レイン辺境伯で、国王陛下から公爵の位を戴いて、確か名前が変わったような。

 結婚前に新聞で読んだが、よく覚えていない。

 怖い人ではないといいな。

 ここは、どこもかしこも男ばかりで、ときどき、見かけるのは平民の女性のようだ。

 好き好んで、貴族の令嬢が来るところではないわね。

 馬車は静かに走っている。

 どんなに思い出そうとしても、それ以上の情報は出てこなかった。
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