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秘密の場所で永遠を誓って
・・・
しおりを挟む「ここが秘密の場所?」
高速道路と一般道を走って一時間。車を止めて、山道を歩くこと十分。そこに山小屋が建っていた。
月明かりの下、その山小屋は古ぼけていて、まるでお化け屋敷のようにも見えた。
「そうらしい」
薫も初めて来たようで、その古ぼけた山小屋を、じっと見つめる。
「取り敢えず、入ってみようか?」
明人兄から預かった鍵を使い、扉を開けてみる。
ギッと軋んだ音を立てて、扉は開いた。
月明かりに照らされて見える部屋の中は、荒れているようには見えなかった。ホッとしながら薫の後に続いて小屋の中に入る。
玄関のあがりに燭台があり、薫は蝋燭に火を点していた。
ぼわっと淡くオレンジ色の光が、室内を照らしたとき、玄関の扉がかちりと閉じた。
(こ、怖いっ)
ビクンと体が跳ね上がり、咄嗟に薫にしがみつくと、オレンジ色の灯りの中で、薫が微笑む。
「素敵な家だね」
「う、うん」
オレには今一つ素敵な場所かどうか分からなかったが、薫は嬉しそうに瞳を輝かせている。
「奥に行こう」
ぎゅっと手を握られ、部屋の奥へ導かれる。
見たとところ、電機は通ってないようた。
居間にも、電灯はなかった。
ただ燭台がところどころ置かれ、薫は一つ一つに火を点していく。
部屋の中が徐々に明るくなっていく、
ほんわりと柔らかな灯りで、浮かびあがってきた室内は、薫が言うように素敵な部屋だった。
ふたりのために用意された、極上な居間だ。
それは向かい合って座っても、キスができるんじゃないかと思えるほど、こじんまりしている。
テーブルも向かい合うように置かれた二つの椅子も、彫刻が施された芸術的な一品のようだ。
その他にも、いかにも寛さんが好みそうな、調度品が置かれ、その調度品の中には、猛さんが好みそうな食器などが納められていた。
ふたりの囁き声が聞こえそうなほど、優しさに包まれた空間だった。
オレは淡いローズピンクのカーテンを開いてみた。すると大きな窓が姿を現す。
そこから見える景色は、満天の星空だった。
「綺麗・・・」
思わずため息がこぼれるほどに。
上弦の月が蜜色の細雨を降り注ぎ、闇の中に沈みかけた木々の梢や手入れされた小さな庭を、優しい光で包み込んでいる。
「愛する二人の子供たちへだって」
薫はテーブルの上に置かれた桃色のカードを手に取り読み上げた。
「誰?」
「優のパパたち」
オレのパパなら、薫にだってパパなのに。
「妙に理解のある親っていうのも、照れくさいよな」
「うん」
薫はテーブルの中央に置かれたフラワーアレンジから、白い小花を一本抜くと、クンと香りをかぎオレの髪に飾る。
とても照れくさかった。
薫は瞳を細めてオレの髪を撫でている。
その仕草や表情から、滅茶苦茶愛されているって伝わってくる。
「飲み物も軽食も冷蔵庫だって」
怖いくらいに幸せだ。
「え?パパたちが準備してくれたの?」
薫は「みたいだ」と苦笑しながら、オレの手を取る。
「どこかに潜んでいたりして」
薫は居間の中を大きく一周して、扉の前で言った。
「嘘?」
ガチャ―――
扉を開いた薫は、暗い部屋の中を覗き込む。
部屋の中は十畳くらいの寝室だった。
中央に金とホワイトで装飾された、洒落たベッドがあった。
窓から差し込む月明かりが、ベッドを照らしている。
愛らしいワイルドストロベリーの羽毛布団は温かそうで、床までつくほどのたっぷりとしたフリルがとてもゴージャスに見えた。
他にはナイトテーブルが一つ。
寝るためだけの部屋のようだ。
オレの手を引いて、薫は部屋の中に入っていく。
「ここは、親父と寛さんが、こっそり過ごしてた部屋なんだって」
ナイトテーブルの上には黒と白のバスローブが、並べて置かれていた。
「こっそり?」
至れり尽くせりに、顔面が熱くなる。
「親に反対されたからね。デートもままならなくて。ここで待ち合わせして、こっそり会ってたんだって」
薫がバスローブの間から、グリーンのカードを取り出した。
薫はそのカードを見て、くすっと笑いながら、オレにそのカードをくれた。
『薫に苛められたら、いつでもおいで。仕返しの方法一緒に考えてあげるよ~お兄ちゃんより』
(仕返し。明人兄と仕返し?)
ある意味、明人兄は薫よりあくが強いから、想像するとちょっと怖い。
(明人兄なら、薫にどんなことをするのかな?)
「それは今でもずっと続いてるんだって、心当たりない?」
カードを食い入るように見ていると、薫が耳元で小さく囁いた。
オレははっと顔を上げた。
今は目の前の薫だ。仕返しの方法を考える前に、仲良くなることを考えなきゃ。
「そういえば、時々」
不意にいなくなっていたことがあった。
「出張が多いな・・・とは、思ってた」
たいがいは、一泊。長くても二、三日で戻ってきていたので、出張だと思っていたのだ。
「なんか、狡い!オレだって薫に会いたかったのに」
ブッと膨れると、すかさず薫がチュッとキスをする。
「俺も知らなかったんだけど、前に一度、明人兄が口を滑らしたことがあって。この間、親父たちを問い詰めたんだよ。そしたら内緒で教えてくれたんだ」
ママたちには内緒なんだって・・・。
「うわっ、これって不倫じゃないの?」
つい興奮して大きな声を上げると、薫はシィッと唇に指をあてがう。
「ごめん、内緒、内緒・・・」
部屋の中をきょろきょろと窺うオレに、薫は声を潜めて、また囁いた。
「もう、俺たち共犯者だからな。絶対に言うなよ」
オレは明人兄からのカードを両手で持ったまま、何度も頷いていた。
「と、いうことで」
薫はオレの手からカードを抜き取ると、床に落とした。
「あっ・・・」
カードは床を滑るように部屋の隅までいき、止まった。
「明人兄に告げ口されないように、俺も頑張らないと」
「わっ・・・」
薫はいったんオレを引き寄せると、そのままベッドに倒れていった。
「でも、宝探しは?この小屋のことだったの?」
「この小屋じゃないよ。でも、外は真っ暗だし、今は宝探しよりも、優の恥ずかしい場所をいっぱい探りたい」
どうしてこんなに手が早いの?っていうか、どうしてそんなに恥ずかしいことを真顔で言えるのー。
オレは心の中で絶叫しながらも、脱がせやすいように協力し、
「オ、オレだって」
とても似合っていたラベンダー色のシャツのボタンを慎重にはずし、スラックスも弛めていった。
「じゃ、勝負。朝までにどれだけたくさん見つけられるか競争」
「え?」
互いに生まれたままの姿になると、薫は勝負を挑んできた。
拒絶する前に、薫の唇がオレの唇を塞ぐ。
「ん・・・ゃぁ・・・」
いきなり胸を抓られて、オレはビクンと体を反らせた。
「ほら優も頑張って、勝負は先手必勝だよ」
楽しそうに言う薫は、オレの体に新たなバラ色の花弁を散らせていく。
「薫、ちょっと、待って・・・あっ、ハンディ。ハンディ・・・ちょうだい。ぁっっ、・・・ぁぁ」
経験不足のオレに、巧みな愛撫を施してくる薫を、膝で押しとどめようと力を込めたとき、
「っ!」
薫の体がビクンと揺れた。
「へへっ・・・」
男の急所は誰しも変わらないようで。
オレは恐る恐る膝を弛めた。
こうなったら、笑って誤魔化そう。
「悪気はなかったんだ」
よしよしと、オレは膝で締め上げた勃起した薫を撫でると、薫は恨めしそうにオレを流し見た。
「経験不足だって?」
オレの手の中で、薫がひとまわり大きくなる。
「そ、そう」
「ふーん」
また薫の体が小さく揺れた。
「もしかして、とても感じてる?」
先端から溢れ出た先走りの滑りを借りて、括れから先端の割れ目を、指先で撫で上げる。
「お蔭様で」
薫は完全に体を起こすと、オレを引き寄せた。
「ハンディは、いらなさそうだね」
オレの手の中で、また薫の重量が増す。
「ううっ、そんなこと・・・」
さっさと手を放してしまえばよかったと思っても、後の祭り。
「褒めてるのに・・・謙遜するなよ」
優しく微笑んでみせるけれど、薫の目はギラギラしている。
「うう、ありがと」
薫の視線に促され、オレは重量を増した薫に唇を寄せ、先走りを舌に絡めた。
「しっかり濡らして、優が気持ちよくなれるように」
背筋を撫でていた掌が、そのまま恥ずかしい場所に降りていく。
くるっと蕾を撫でた指先が、ツンと起ちあがった欲望に絡みつく。
「ぁっ・・・」
先端から蜜を搾り取るように、指先が敏感な部分だけを刺激する。薫の愛撫に慣れているオレは、すぐに薫の指先を濡らしていた。
「いい子だ」
髪を撫でていた薫の指先が、耳の中にもぐりこむ。
「ゃぁっ・・・」
敏感になっている体にが、ぞくっと震えたとき、プツッと体の中に薫の指が潜り込んだ。
「美味しいものは最後にとっておく主義だけど、たまには先に食べたくなった」
いい?
耳元で囁かれ、オレはますます体をビクビクさせた。
だって、目の前には天を向いた薫が、鼻先を突いていて、オレの腹の中を指が強引に入ってくる。
「でも、優のここ狭いから、いきなりは無理かな?」
「無、無理・・・」
入り口を拡げられる痛みも、圧迫感もなかなか慣れられない。
「でも、もう指は三本入ったよ」
ほらと、薫はオレの手を持って、薫の指を咥えて、いっぱいに広がっている蕾に、手を導く。
「やっ・・・」
恥ずかしくて、咄嗟に薫の手を振り払っていた。
べったりと濡れたその場所は、貪欲に薫の指を咥え、ひくひくとしていた。
酷く自分が飢えているように思えた。だけど、
「やっぱり嫌?」
薫の指がオレの中から出ていく。
「あっ、やぁっ・・・」
「無理強いして優を泣かすと、明人兄に告げ口されるから」
内壁が薫の指を引き留めるように、絡みつく。
「諦めるよ」
薫の指が出て行ったあと、名残惜しそうにその場所が切なく疼き、体が震えた。
ふうと溜息を漏らした薫は、くるっと体の向きを変えベッドに横になってしまった。
「薫・・・」
昂ぶったオレの体を残して。
「優も寝なさい」
背を向けたまま薫は言って、大きな欠伸をした。
「すぐに朝になっちゃうよ」
羽毛布団を引き上げる薫は、きっとまたお仕置きモードかもしれない。
約束をすっぽかしたし。
薫を信じられなかったし。
二発も平手で叩いちゃったし。
だけど、原因はすべて薫だよ。そりゃ、オレも早とちりしたけどさ。
やられっぱなしなんて、癪に障る。
「意地悪!」
背を向けた薫の背を、足蹴りした。
オレだって、いつまでも従順でいい子のままじゃないんだよ。
いじめっ子の薫への警告のつもりだったのに、思わず力が入り過ぎて、報復になってしまった。
「痛っ!」
ドスッと床に、薫が落ちた。
「優!」
薫は地の底から響くような低い声でオレの名前を呼ぶと、大魔神のように立ち上がった。
「そういう悪戯をする子は、お仕置きをしなきゃね」
背筋が震えるような微笑みを浮かべて。
「ひゃ、ごめんなさい」
逃げ出そうと、ベッドから飛び降りようとしたけれど、薫はオレの足をぐっと掴むとベッドの上に貼り付けにした。
「覚悟はいい?」
「よくない。まだできてない!」
月の光に照らされた薫が、フフフと笑った。
その姿は生き血を食らう吸血鬼のように、妖艶で艶麗で、怖いくらいに美しかった。
「もう逃げられないよ」
優も俺も・・・。
囁きながらの、獣じみたキスは、オレの体をすぐに熱くした。
「逃がさないから」
オレは薫に負けないくらいの愛で、薫にキスを返した。
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