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2   男のプライドと意地

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「薫、会いたかった」 
 車を降りたオレは、先についていた荷物を片付けていた薫に抱きついていった。 
「ちょっと、・・・邪魔」 
 お正月に来たときは、ちゃんと抱き留めてくれたのに、薫は迷惑そうに顔をしかめオレのことを引きはがした。 
「え?」 
 初めは久しぶりに会う照れから、オレを拒絶しているのかと思った。 
 でも、違った。 
「迷惑だ!べたべたするのはやめてくれ!」 
 物心つく前から、薫とは兄弟のようにつきあってきたのに、オレは薫のこんな冷たい声を聞いたことがなかった。 
「薫?でも、オレ、ずっと・・・」 
 薫に会いたかったのに・・・。 
 喉の奥に何かが引っかかったかのように、息が詰まる。 
 切れ切れにいうオレの言葉を遮って、薫は「煩い!」と怒鳴った。 
 穏やかで優しい薫は、オレに怒鳴ったことなどなかったのに。 
 強い口調に体がすくみ上る。 
 オレ、きっと情けない顔をしてると思う。 
 熱いものがこみあげてきて、瞬きしたら零れ落ちてしまいそうで。 
 綺麗に整った薫の顔は、無表情でとても冷たく見えた。本当に同一人物なのか、わからなくなるくらい。 
 いつもは蜂蜜みたいに甘々で、見つめられたらどろどろに溶けてしまいそうになるのに、今は刺すような冷たさでオレを睨む。 
 背筋が震えた。 
 熊にばったり出会った時だって、これほど震え上がらなかった。 
 それくらい震えた。 
「ひとりで片付けろ!」 
 薫はオレから目を逸らすと、段ボールをとんと蹴った。 
 するとお気に入りとマジックで書かれた箱が,ごとっと音を立てて崩れ、中身が盛大にこぼれ落ちる。 
 毛布にクッション、新聞紙のかたまり・・・。 
 一瞬、箱の中身を気にかけたようだったが、無表情のまま薫はオレに背を向けた。 
「オレ、薫になにやったんだ?」 
 オレの頭の中は真っ白になっていた。 
 一人で帰ってしまった薫は、お正月に会ったままの堂坂家の二男の堂坂薫のはずなのに。 
 いくら大学生になったからって、この変わりようはなに? 
 オレは段ボールの積まれたガレージに埋もれるようにしゃがみこむと、新聞紙のかたまりを拾い上げた。 
「そんな・・・」 
 新聞紙の上から形を確かめると、新聞紙の中で小さなものが動く。どうやら落ちたときの衝撃で、割れてしまったようだ。 
 まるでオレたちの関係を暗示するようで、不安になる。 
 オレは割れたマグカップを胸に抱えると、小さくなっていく薫の背中を、じっと目で追っていった。 
  
 
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