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2 男のプライドと意地
2 男のプライドと意地
しおりを挟む〈薫、会いたい〉
《俺も優に会いたい》
・・・・・・・
〈今日、オレのこと考えてくれた?〉
《ずっと優のこと考えてるよ》
・・・・・・・
〈春休み、遊びに行ってもいい?〉
《休み中都合が悪いんだ。だから会えない》
〈忙しいの?〉
《ああ、今も忙しい》
〈薫に会いたい、触れたいよ〉
〈薫、薫、会いたい。薫がほしい〉
〈薫、オレ、戻れるみたい。寛さんが復職するって、やっと薫と一緒にいられる〉
〈返事が来なくてさみしいよ。明日、朝一で戻るから、薫、待っていてくれるよね?〉
オレは薫と離れ離れになった三年間一日も欠かしたことのない二人のチャットルールに文字を打ち込む。
遠く離れた田舎に発つ日に、猛さんと万里江さんにプレゼントされたおそろいのスマホ。チャットルームもほとんど一方的なもので、既読こそついていたが、返事はいつのまにかなくなっていた。
お正月からすでに四か月が過ぎていた。
「薫、そんなに忙しいのかな?」
そうだよな、薫は大学受験だったし、車の免許も取に行っていたはず、バイトや大学生活に追われていてもおかしくはない。
もうすぐ直接会えるのだから、手伝えることがあったら手伝おう。
四月の初旬。高校の入学式には間に合わなかったが、オレは薫と同じ学舎に通うことができるようになった。もちろん高校生と大学生だから、同じ教室ってわけにはいかない。だけど、同じ敷地内にいられるんだ。それだけじゃない、住む場所だって、公園を挟んだ隣同士。もしかしたら同じ家にだって住めるかもしれない。
オレはお気に入りの毛布を抱えて、ベッドにごろんと転がった。
ベッドの横には、いくつかの段ボール箱が無造作に置かれ、そのうちの一つだけが、まだ大きく蓋を開けている。
そのお気に入りと記された箱の中には、薫からもらった大量の戦利品が入っている。
初めはオレが欲しがった。
薫と離れるのが寂しくて、薫に強請ったのだ。
薫はお手軽なやつだと笑ったが、どんなに高価なものをもらうより、薫を感じられるから。
オレが欲しがったものもあれば、薫があらかじめ準備しておいてくれたものもある。これらは、オレの身の回り品のすべてだ・・・と言っても過言じゃない。
学校で使うシャープペンから眠るときに身に着けるパジャマ。はたまた食事の時に使う箸まで、すべてそろってしまうから、その量も半端じゃない。
そして、これが戦利品・・・ということは、オレはこのすべての数だけ、薫と秘密の行為をしたことになる。
ものすごく恥ずかしいけれど、いつも薫がそばにいるみたいで、オレは安心できるんだ。
オレはベッドの上から手を伸ばし、段ボール箱の一番上に載っている新聞紙で包まれたかたまりを取った。そして、慎重に新聞紙の包みを開く。
これはお正月に薫からもらった黒豚がプリントされた少女趣味のマグカップだ。これを見ても、薫がオレを小さな子ども扱いしているのがわかる。
「オレ、もう高校生なんだぜ!」戦利品を手にしたとき、薫に言ったけど「関係ないね」の一言。たぶん、薫は可愛いものが好きなんだと思う。だって、自分もお揃いのキーホルダーを持っていたんだ。「車の鍵につけるんだ」なんて、今どきの女の子もそんな可愛いキーホルダーつけたりしないのに。だけど、薫が好きならオレも好きだから。薫がくれたものは、全部オレの宝物だから。薫がどんな趣味でも構わないんだけど。
オレは黒豚のついたマグカップを両手で包み込むと、そっと唇を寄せる。陶製のひんやりとした感触なのに、なぜだか温かな気持ちになる。
「キスしたいな・・・」
マグカップを胸に抱き、オレは窓の外に浮かぶ蜜色の半月を見つめ熱い吐息で囁いた。
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