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43   ウエディングドレスの仮縫い

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 部屋に戻ったわたくしは、軽く湯浴みをした。

 外は暑いので、汗の匂いをつけてウエディングドレスを身につけたくはない。

 サッパリさせて、先に淹れておかれたお茶を飲む。

 ネルフは髪を梳かして、オイルを塗り込み、タオルで乾かしている。


「今日は髪をアップに致しましょうか?」

「そうね、お願いしすます」


 メリスは部屋の端で、ひたすらドレスに刺繍をしている。


「そうだわ、イグレッシア王子からの贈り物の髪留めを使えるかしら?」

「承知しました」


 ネルフは宝石箱からいろんな青い宝石が集まった髪飾りを持ってきた。

 櫛で梳かすと、髪を編み込みながら、髪を結っていく。髪飾りを付けて、手鏡を渡してくれた。

 背後を正面のドレッサーに写すと宝石の位置を確認した。

 きちんと綺麗に付いていた。


「位置は宜しいでしょうか?」

「ええ、いいわ。ありがとう」

「では、コルセットを締めていきます」

「はい」


 十分細いと思うけれど、ギュウギュウに締め付けられていく。


「どうして、こんなに締め付けなくちゃいけないのかしら?」

「美しく見えるためですわ」


 ネルフはしっかり締め付けると、まだ仕立て上がったばかりの新しいドレスを持ってきた。

 それを身につけていく。


「お嬢様、とても美しいですわ」

「そうね、ポイントに綺麗な青が入っているから、ネックレスは要らないわね。指輪だけお揃いの物を着けていくわ」


 ドレッサーの前から立ち、宝石箱から指輪を取り出すと、扉がノックされた。

 ネルフが扉を開けに行った。

 イグが開けられた扉の前にいる。


「どうかしら?この間、作っていただいたドレスを着てみたのですけれど」


 イグの頬が僅かに赤くなる。

 とっても純粋なお方よね。


「とても似合うよ」

「ありがとう」


 イグは普段着より畏まった洋服を着ている。

 ちょっと頑張り過ぎちゃったかな?


「入ってもいいかな?」

「どうぞ、お入りになって」


 イグは部屋に入ると、わたくしの両手を掴んで、そこに指輪がある事に気づいた。

 その途端、嬉しそうな表情をする。

 なんだか、照れくさい。


「そろそろ時間かしら?」

「ああ、迎えに来たんだ」

「準備はできたわ」

「では、行こうか?」

「はい」


 メリスとネルフは立ってお辞儀をした。

 二人に見送られながら、わたくしはイグに手を繋がれ、歩いて行く。


「普段から、新しい洋服を着ればいいのに」

「そうね、でもね」


 わたくしは、お腹に触れる。


「ネルフが気合いを入れて、コルセットを締め付けるのよ。苦しいわ」

「そんなに締め付けなくても、マリアは細いだろう?」

「しっかり締め付けた方が美しくなると言うのよ」

「もう十分に美しいのに」


 イグは苦笑を漏らす。


「ネルフはわたくしを美しくするのが、仕事ですもの」

「そんなに締め付けたら、呼吸ができなくなってしまうだろう?」

「そうね、美しくなるのは、大変だわ」


 いつものようにサロンに案内された。

 ノックをすると、中から扉が開けられた。


「主役の登場だ」

「遅くなりました」

「あら、この間のドレスね。とても似合っているわ」

 王妃様は直ぐ気づき、褒めてくださる。

 お父様も嬉しそうにしている。

 メイドがお茶を淹れている。


「お嬢様、早速ですが、ドレスの試着をお願いします」

「はい」

 サロンの中に、衝立が置かれている。そこで着替えるようだ。

「さあ、着替えていらっしゃい」

「はい」


 わたくしは立ち上がると、仕立屋の後をついて行く。

 衝立の後ろで、ドレスを脱いで、仮縫いのウエディングドレスを身につける。

 仕立屋が上手に着せてくれる。


「さあ、こちらにどうぞ」

「はい」


 仕立屋が、エスコートしてくれる。


「こちらで、宜しいでしょうか?」


 皆さんが拍手してくださる。


「素敵ね」

「美しい」

「マリア、美しいよ」

「なんて美しいんだ」


 最後に感激の声を出したイグは、立ち上がると、すぐにわたくしの手を取った。


「直しは良さそうですが、少しウエストを細く直しますか?」

「いいえ、これ以上、締め付けられたら、とても歩けそうにないわ」

「では、このままで本縫いを行います」

「お願いします」


 わたくしは、イグに微笑む。

 イグはまた頬を赤くした。


「裏に行くか?」

「ええ、お願いします」


 イグにエスコートされて、衝立の後ろに行く。


「本当に僕の妻になってくれるのだな?」

「ええ、そうよ」


 わたくしは微笑んだ。

 今度こそ、本物の結婚ができるのだ。

 イグは指先にキスをして、手を離して、衝立の向こうに行った。

 ドレスは仕立屋が脱がせてくれる。ドレスも着せてくれる。

 わたくしは、イグの横に座った。

 仕立屋は、ドレスを片付けて、「完成し次第お持ちします」と告げて、ドレスや衝立を片付け始める。

 仕立屋の使用人が、荷物を運び出すと、陛下が、電気のことを詳しく知りたいとおっしゃった。


「わたくしの研究所に招待いたします。実際に見てみると分かると思います」

「では、早めに視察に行きたい」

「はい、研究所はいつでも開いているので、いつでも見学ができます」

「マリアーノ嬢は、帝国の皇帝陛下と知り合いなのだな?」

「はい、1年ほど留学しておりました。帰国してから研究所を作ったのです。今、研究所の所長をしているのは、帝国で一緒に学んだ、年上の男性です。帝国に自宅があり、医薬品の研究をしたいと言うので、わたくしの工場で、医薬品の研究もしております。わたくしの化粧品の研究にも熱心で、とても助かっております」

「マリアーノ嬢は、キエフシアに電気の勉強をさせるべきだと考えているのだな?」

「はい、この国には、まだ電気がありません。その便利さを知ったら、この国は、変わります。ろうそくやランプが電気に変わります。工場も手動から自動化に変わります。わたくしの工場を見学してみてください」


 わたくしは、深く頭を下げた。


「では、見学して、よく考えよう。結婚式に帝国の皇帝陛下と電気の先生を招待したと聞いた。それまでに返事ができるように動きたい」

「はい」

「キエフシア王子にも是非、見て戴きたいです」

「その様にいたそう。日程は早めに決めよう。クリュシタ伯爵、邸に泊めてもらってもいいだろうか?」

「いつでも、おいでください」


 父は頭を下げた。


「お父様、エステサロンの不審な男のことや、化粧品を欲しがるお客様のことは、何か分かりましたか?」

「まだ、従業員に話を聞いただけだ。組織か個人かまでも、分かってはいない」

「そうですか?」

「従業員には、よく言って聞かせた。暫く、様子を見よう。領地から騎士を一人連れてきた。護衛を頼むつもりでいる」

「はい、ありがとうございます」


 陛下も王妃様もイグも身を乗り出す。


「何か問題が起きたのか?」


 わたくしは、従業員の話をした。


「マリアの化粧品のサンプルを欲しがる業者は多いでしょう」と王妃様は言う。


 その通りなので、わたくしも外に漏らさない努力をしている。

 今の所、個人を狙って、サンプルを手に入れようとしているが、その方法が、気に入らない。

 乙女心を利用した結婚詐欺と同等だと思うのだ。


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