29 / 36
第四章
4 お金が木の葉になる問題
しおりを挟む「父上、長老が転生したアウローラに殺されました」
「なんだと!」
「生徒会室にアウローラが訊ねてきたのです。それで長老に相談しようと思い訪ねたら、長老ではなくアウローラがおりました。小さな子供も一緒に転生したようです。子供の相手をさせたら死んだと」
「転生の魔術も自分で行ったと言っておりました」
グラナードも口添えする。
リリアンは、部屋の中にいるが、ずっと黙っている。
「魔女は死なぬのか?」
「わかりません。村人はおりませんでした」
「調査をしてみよう」
「お願いします」
扉がノックされ、側近が出た。
「陛下、町から遣いの騎士が来ております」
「入れ」
騎士が一人入り、国王の前で跪いた。
「また商店のお金が木の葉に変わる事件が頻発しております。商店の店主が、店じまいしなければと泣きついております」
「またか」
秋祭りの時も、ドレス店の店主が泣きついてきた。
伝票を調べたらアウローラに、シェルがデザインしたドレスを発送したことがわかった。
犯人は、またアウローラだろう。
木の葉をお金に見せかけることくらい、何の悪気もなくやってみせるだろう。
「アウローラですね」
シェルが国王に訊く。
「以前の時もアウローラしか犯人になり得なかった。さて、どうするか」
「火で焼いても残っていた魔女だ。長老が殺された今、どのように殺そうか?」
国王の側近が、難しい顔をする。
「町中で被害が出ております。洋服店や貴金属店、食料品はほぼ毎日のように。このままでは経営が難しくなる店も出て、経済が不安定になります」
「山に食べ物がなくなった熊と同じではないでしょうか?食べるために木の葉をお金変えて、買い物して食事を食べる」
シェルがぽつりと口にした。
「だからといって、お金を与えて済むことでもない。相手は魔術を使う。人を操り、罪を犯しても罪だとは思っていないだろう」
「……そうですね」
「しばらく好きなようにさせて、暗殺するのはどうでしょう」
側近の一人が声を上げた。
「一週間様子を見よう」
国王陛下は判断した。騎士が頭を下げて、出て行った。
「シェル、グラナード、リリアン。気になるだろうが、近づくな」
「はい」
三人で返事をすると、陛下は部屋から出て行った。
「僕たちが太刀打ちできる相手ではない」
「また操られたら、今度は魔術を解いてくれる長老はいない」
「怖いですね」
リリアンは転生をして今、こうして生きている。
人生を生き直している。
間違いを起こさないように気をつけながら。
アウローラは、変わらないのだろうか?
お金があったら、おとなしく暮らしてくれるのだろうか?
訊いてみたいが、また呪いをかけられたら、やはり怖い。
背中の痣はまだ残っている。
剣に鞘が付いていたから生きているが、鞘が抜かれていたら、今度こそ死んでいた。
「殿下、今日は妹を連れて帰ります。殿下はできるだけ一人にならないように、お過ごしください」
「リリアンを頼む」
兄は微笑み、リリアンの肩を少し押すと、殿下の腕の中に包まれた。
「殿下」
「リリアンは僕の婚約者だ。僕が学園を卒業したら、お嫁に来ないか?」
「殿下」
「返事はすぐでなくていい」
「はい」
そっと拘束を解かれ、リリアンは兄の元に戻された。
頭の中で花が咲き乱れる。
斬首刑にされて、人生をやり直し、婚約解消もお願いしたのに、殿下は妻にと思ってくださる。
婚約解消はしなくていいのでしょうか?
ずっと医師として生きていてもいいと思っていたのに……。
いつの間にか馬車に乗せられ、自宅に戻っていた。
「お嬢様。背中の痣はなかなか消えませんね」
「まだそんなに目立つ?」
「痛むでしょうに」
お風呂に入るとき、背中を洗われ、「いたたあ」と声を上げる。
鞘が付いていて本当に良かった。
心臓のちょうど後ろあたりだし、一刺しで死んでいたかもしれない。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる