10 / 36
第一章
9 紅茶
しおりを挟む
アウローラのいない日は、たった一日だけだった。
「シェル様、この間は、ごめんなさい。熱いお茶がいけなかったのよ。冷まして持ってきてくれれば、火傷はしなかったはずよ」
犯人はリリアンだと言わんばかりの攻撃が始まった。
「お茶は熱いものだろう」
兄が呆れたように、口にするが、殿下はアウローラにしがみつかれて、なにも口にしない。
「殿下、ご気分が優れませんか?」
兄が声をかけると、ハッとしたように顔を上げる。
「身動きしたら、お茶がこぼれるのかと思うと動けなくてね」
「大丈夫よ、アウローラはもう無茶な動きはしません。シェル様を傷つけたりしません。熱いお茶を出さなければ安心なのです」
リリアンはミニキッチンで茶葉の片付けをして、食器棚に鍵をかけた。
「後で片付けに来ますので、そのままでお帰りください。お先に失礼します」
アウローラは朝から何度も熱いお茶を淹れたリリアンが悪いと繰り返している。
お茶は熱いものなのに。
アイスティーでも作れるように冷蔵庫を買ってもらったが、殿下は温かいお茶が好きなので、殿下の好みで出している。
テーブルの周りで子供のように動くアウローラが気をつければ防げた事故なのに、今ではリリアンが殿下に怪我をさせたと、クラスでも言いまくり、リリアンは肩身の狭い思いをしている。
教室でこそこそ話されると、居場所がない。
前世では、こんな場面はなかったわ。
それでもここで腹を立てて、アウローラを責め立てれば前世と同じループに入って行きそうで、リリアンは口を閉ざしている。
授業間際になるとアウローラが戻ってきて、またリリアンが熱いお茶を出して、殿下を危険に晒したと言いふらしている。
リリアンは席を立ち、教室を出て行った。
同じ空気を吸うだけでも、息が詰まる。
生徒会室に入り、テーブルの上に置かれたカップを片付け始める。ゆっくりトレーにカップを置き、茶菓子用のお洒落なお皿を重ね、ミニキッチンに運ぶ。
運んできたものをシンクに降ろして、トレーを片付け、食器を洗って片付けていく。
テーブルも拭いて綺麗にしたところで、リリアンは自分のために紅茶を淹れる。
とても疲れていた。
香りを楽しみ、口を潤す。
……悪夢を思い出す。
問題は秋祭りに粗相をしないようにしなければ、どうにか挽回できるだろうか?
紅茶が熱いのが普通だと思ってくれる人が、どれくらいいるだろう?
(クラスのみんながアウローラの味方だったら、秋祭りも出づらい。学校中でわたくしが悪者だと言いふらしていたら、どんな顔で秋祭りに出たらいいのかしら?)
今でも居場所がなくて、隠れるように教室を出てきて生徒会室にいる。
殿下を好きになった気持ちが、風船の空気が抜けるように萎んでいく……。
(どうして殿下はわたくしの味方をしてくれないのだろう。味方になってくれないなら、婚約解消をしてくれたらいいと思う。
期待を持たせるような言葉もわたくしを傷つけるだけなのに、気付いてはくれないのね……?)
あ、そうか!
明日からお茶を淹れなきゃいいのか!……と思い浮かぶ。
……この部屋にも寄りつかなければ、不快な思いも寂しい想いもせずにすむ。
パッと目の前が開けたようになった。
お兄様には不便をかけるが、命の危機がかかっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ホラーに応募したいと書き直しをしたのですが、どうやら、一度、投稿した物は変更できないようなので、ファンタジーとして適応されるようです。
取り敢えず、最後まで準備ができたら、解放します。
ホラー要素が強くなりすぎるので、ソフトにしてラストは同じにします。
「シェル様、この間は、ごめんなさい。熱いお茶がいけなかったのよ。冷まして持ってきてくれれば、火傷はしなかったはずよ」
犯人はリリアンだと言わんばかりの攻撃が始まった。
「お茶は熱いものだろう」
兄が呆れたように、口にするが、殿下はアウローラにしがみつかれて、なにも口にしない。
「殿下、ご気分が優れませんか?」
兄が声をかけると、ハッとしたように顔を上げる。
「身動きしたら、お茶がこぼれるのかと思うと動けなくてね」
「大丈夫よ、アウローラはもう無茶な動きはしません。シェル様を傷つけたりしません。熱いお茶を出さなければ安心なのです」
リリアンはミニキッチンで茶葉の片付けをして、食器棚に鍵をかけた。
「後で片付けに来ますので、そのままでお帰りください。お先に失礼します」
アウローラは朝から何度も熱いお茶を淹れたリリアンが悪いと繰り返している。
お茶は熱いものなのに。
アイスティーでも作れるように冷蔵庫を買ってもらったが、殿下は温かいお茶が好きなので、殿下の好みで出している。
テーブルの周りで子供のように動くアウローラが気をつければ防げた事故なのに、今ではリリアンが殿下に怪我をさせたと、クラスでも言いまくり、リリアンは肩身の狭い思いをしている。
教室でこそこそ話されると、居場所がない。
前世では、こんな場面はなかったわ。
それでもここで腹を立てて、アウローラを責め立てれば前世と同じループに入って行きそうで、リリアンは口を閉ざしている。
授業間際になるとアウローラが戻ってきて、またリリアンが熱いお茶を出して、殿下を危険に晒したと言いふらしている。
リリアンは席を立ち、教室を出て行った。
同じ空気を吸うだけでも、息が詰まる。
生徒会室に入り、テーブルの上に置かれたカップを片付け始める。ゆっくりトレーにカップを置き、茶菓子用のお洒落なお皿を重ね、ミニキッチンに運ぶ。
運んできたものをシンクに降ろして、トレーを片付け、食器を洗って片付けていく。
テーブルも拭いて綺麗にしたところで、リリアンは自分のために紅茶を淹れる。
とても疲れていた。
香りを楽しみ、口を潤す。
……悪夢を思い出す。
問題は秋祭りに粗相をしないようにしなければ、どうにか挽回できるだろうか?
紅茶が熱いのが普通だと思ってくれる人が、どれくらいいるだろう?
(クラスのみんながアウローラの味方だったら、秋祭りも出づらい。学校中でわたくしが悪者だと言いふらしていたら、どんな顔で秋祭りに出たらいいのかしら?)
今でも居場所がなくて、隠れるように教室を出てきて生徒会室にいる。
殿下を好きになった気持ちが、風船の空気が抜けるように萎んでいく……。
(どうして殿下はわたくしの味方をしてくれないのだろう。味方になってくれないなら、婚約解消をしてくれたらいいと思う。
期待を持たせるような言葉もわたくしを傷つけるだけなのに、気付いてはくれないのね……?)
あ、そうか!
明日からお茶を淹れなきゃいいのか!……と思い浮かぶ。
……この部屋にも寄りつかなければ、不快な思いも寂しい想いもせずにすむ。
パッと目の前が開けたようになった。
お兄様には不便をかけるが、命の危機がかかっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ホラーに応募したいと書き直しをしたのですが、どうやら、一度、投稿した物は変更できないようなので、ファンタジーとして適応されるようです。
取り敢えず、最後まで準備ができたら、解放します。
ホラー要素が強くなりすぎるので、ソフトにしてラストは同じにします。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない
あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。
久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。
いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。
ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。
わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言?
もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方!
そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして────
※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。
※設定は相変わらずゆるんゆるん。
※シャティエル王国シリーズ4作目!
※過去の拙作
『相互理解は難しい(略)』の29年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、
『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。
上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。
※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)>
※ちょくちょく修正します。誤字撲滅!
※全9話
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる