綾月百花   

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「稲田君、この間は、ありがとう。下着が透けてしまっていたから、すごく助かったの。クリーニングに出したから、お返しするのが遅くなって、ごめんなさい」


 彼女は篠田葵と名乗った。

 学年も同じで、それからお付き合いを始めた。

 大学を卒業してからも、お付き合いしている。

 勤め先は違うけれど、就職と同時に同棲を始めた。

 今では柊と葵とファーストネームで呼び合っている。

『声』は今でも聞こえる。

 柊を導く『声』は、誰の声だろうと考えた事はあるけれど、結局、思い当たらない。

『声』の事は葵に秘密にしている。

 もし、気持ちが悪いと言われたら、気分がよくない。

 何かあれば、自分がこっそり教えればいいと思った。




「葵、今日は1本早い電車に乗った方がいいよ」

「うん、分かった」



 そう、『声』が聞こえたのだ。

 いつもの電車で事故が起こると……。



「行ってきます」

「行ってらっしゃい」



 葵はスーツを着て、駆けていった。

 柊も出掛ける準備をして、戸締まりをして出掛けた。




 俺は葵に『声』の事を話したことはない。

 たまに『声』が聞こえたときに、助言する程度だ。

 いつも、葵は俺の助言を聞いてくれる。




『葵が死ぬ』




『声』が不吉なことを言った。

 柊はハッとした。

 時計を見ると、電車に乗る時間だ。

 直ぐにスマホで連絡した。

 けれど、葵は出ない。

 柊は駅に走った。

 駅までは、それほど離れていない。


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