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8 女の子になりたい
2 女の子デビュー
しおりを挟む奈都は初めて女子の制服を着て学校に行った。
初登校の日は、響介が学校まで車で送ってくれた。亜稀も一緒だ。
三年の教室は1階なので、奈都の負担は少ないが、移動教室は亜稀が手伝いに来てくれる。
校長室で校長と担任に、制服の許可をもらった。
響介が帰ると、亜稀が奈都の手を引いてくれる。
「奈都、かわいいよ」
「ありがとう」
夏休みから続けて休んだ新学期の一ヶ月と生理が来るまでの1ヶ月、4ヶ月の間に、奈都の髪は、背中あたりまで伸びている。
女子の制服を着ていても、まったく違和感がない。
「緊張してるの?」
「うん」
いつにもまして、口数が少ない。
入院する前は、もっと明るかった奈都は、学校復帰してから学校では笑わなくなっていた。言葉もほとんど話さない。言葉の発音はもとに戻っているが、自信がないのだという。
教室の前で亜稀と別れる。
「亜稀、ありがとう」
「しばらくいようか?」
「見られたくない」
「わかった」
教室に行くと、好奇な目で見られた。
「やっぱり女に戻ったんだね」
ほとんどが小学受験で入った者ばかりなので、奈都が小学4年の途中まで女子の制服を着ていたことを知っている。だから、大半の生徒は驚かなかったが、揶揄はあった。
「トランスジェンダーって聞いてたけど、男でなくてよくなったんだ?」
小学受験で、その後、外部入学者もほとんどいないこの学園は、セレブが集まっていても虐めは陰湿だ。
「遅い生理でも来たんじゃないの?」
女子たちからは嫌われていたので、刺さる言葉も仕方がない。
奈都を受け入れてくれていた男子は、奈都を庇ってくれる。
「女子たち、虐めるなよ。奈都が女だってことは、みんな知ってたし。僻みっぽく見えるぞ」
「奈都、美人だし。女子に戻ったっていいだろう?」
「男子にちやほやされたかったんじゃないの?」
女子たちはぷいっと顔を背ける。
奈都は黙って席に座った。
亜稀が教室に入ってきた。
「姉が頭の手術したことはみんな知ってると思う。子供の頃も頭の手術してるんだ。それで記憶が戻ったんだよ。姉を虐めないで。一ヶ月も入院したんだ。辛いリハビリして、やっと歩けるようになったんだ。まだ体が不自由なんだよ。だから助けてやって」
教室がざわめいた。
「亜稀君が言うなら」
何人かの女子が言った。
奈都は亜稀の顔を見る。亜稀は深く頭を下げていた。
頭を上げた亜稀は、奈都に笑みを見せた。
「困ったことがあったら、電話して。すぐ来るから」
亜稀が初めて姉と呼んだ。
奈都が頷くと、亜稀は颯爽と教室を出て行った。
亜稀の言葉が嬉しくて、涙が流れてきた。
ポケットからハンカチを取り出そうとして、落としてしまった。
立ち上がって、拾おうとしたとき、
「ごめん」
一部の女子たちが集まってきた。一人がハンカチを拾って手渡してくれる。
「金森さんが子供の頃、頭の手術をしたことを知らなかった」
「ずっと体育休んでいたのに、気づかなかった」
「記憶喪失だったなんて知らなかったんだ」
「今まで無視したり虐めたりして、ごめん」
女子たちが頭を下げてくれた。
記憶喪失は本当だけど、思い出していないし、手術をしたのは小学校に入る前だ。
男装を始めた理由は、兄弟たちの真似らしいがよく覚えていない。
でも、亜稀が話した小さな嘘は、クラスの雰囲気を変えた。
「わたしもごめんなさい。よく覚えてないの」
覚えてないのは本当だから、嘘は言っていない。
亜稀のお陰で、クラス全体の虐めはなくなった。
定期テストでダントツ一位を取るまでは。
「覚えてないって、嘘じゃない」と囁かれるようになった。
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