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番外編 爺達の思惑
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番外編 爺達の思惑
大地君の釣り仲間にホテルに招待されて、土曜日の早朝に泊まりで海釣りに出かけることになった。
招待状をくれたのは大黒さんというホテルを経営している、社長の松永さんと年齢も変わらないお爺さんらしい。
大地君の釣り仲間は30人ほどいるらしい。ほとんどすべて、どこかの社長だったり、病院経営者だったりと地位も名誉もあるという。
大地君のお父さんは、既に引退しているが労働基準監督官という国家公務員だったらしい。その伝で、いろんな会社の社長さん達と知り合いになったらしい。
元々海釣りの好きな大地君のお父さんに、海釣りの好きな仲間がだんだん集まってできていった仲間達だった。
企業を経営する社長たちは、三人兄弟で末っ子の大地君を溺愛して、幼い大地君と大人気なく勝負を挑んでいたらしい。
今、勤めている会社の社長の松永さんも、会社を賭けて勝負をした一人だ。そうして松永さんは、大地君を自分の会社の後継者にするために、会社事業のあれこれを、今、実際に教えている。
その噂を聞いた釣り仲間達は、いても立ってもいられない。
その昔、大地君と勝負をした仲間達は、立派に成長し、なんでも籍をいれたという噂を聞きつけ、大地君の嫁の姿を一目見たくて、ウズウズしているという。
わたしは、大地君のお兄さんが言っていた『棚ぼた坊主』という言葉を思い出した。
大地君のスマホに連絡があったのは、1週間前だった。
『皆で集まるぞ。欠席は認められない。嫁を紹介しないとは、どんな了見だ?集合場所はわしのホテルじゃ』
まるで脅迫状のような招待を受けて、大地君は引き攣った笑顔を見せていた。
「花菜ちゃん、来週の土曜日と日曜日、釣り仲間の老人たちに付き合ってくれるか?」
「いいけど」
「たぶん、うちの社長も来ると思うけど、あの爺たち何か企んでいるぞ。本当に海釣りかな?」
そう言いながら、部屋の中から、久しぶりに釣り竿を出してきて、手入れを始めた。
季節は秋になり、まだ残暑が残っている。
海釣りにはあまり適した季節ではない。
ホテルに集まり、宴会でも開くつもりかもしれない。
☆
ホテルに到着すると、暇を持て余した老人達が集まっていた。
大地君の両親と兄弟達も集まっていた。
「今から結婚式じゃ」
大黒さんは、わたしと大地君を別々の部屋に案内させた。
わたしは白無垢に綿帽子を被り、綺麗にお化粧をされて、付き人の女性に連れられて、大地君と合流した。
神殿の間には、いつの間にか母と祖父も来ていた。
「お母さん」
「花菜」
お母さんは、嬉しそうに手を振っている。
会社の社長もきていた。
社長はニヤリと笑った。
「やっぱりやられた」
大地君は、顔を赤くして、集まった皆さんに頭を下げている。
「ほれ、結婚式じゃ」
大黒さんは、大地君の尻を叩くと、神殿の前まで連れていった。
わたしも付き人が、大地君と並ぶように、神殿の前まで連れて行かれた。
「大地君、なんだか大変な事になってるわ」
「まあ、ここは流されよう」
神聖な神前式に体が緊張する。神職の修祓の儀に祝詞、三三九度に、大地君が夫婦になる誓いの言葉を即興で唱える。
玉串しれに巫女の舞が始まり、神主があいさつを始めた。
神職の後に退場して、後から母や祖父、大地君の両親、兄弟と子供達、老人達がわやわやと歩いてくる。
集合写真を撮られて、今度は、会食が始まるらしい。
「お召し替えです」
と連行されて、ウエディングドレスに着替えると、大地君もタキシードに着替えている。
今度の大地君のタキシードは黒いタキシードだった。靴まで揃えられて、とっても似合っている。
「花菜ちゃん、すごく綺麗だよ」
最初に着たウエディングドレスより、良い物なのだろう。
レースが繊細で美しい。
丈は長くはないが、清楚だ。
綺麗にアップされた髪に生花が飾られて、その生花と同じ物が大地君の胸のポケットに飾られている。ブーケは大きく美しい胡蝶蘭でできている。
二人で写真撮影をされた。
「さあ、皆様、お待ちかねでございますよ」
案内人が、わたし達をエスコートしてくれる。
立派な披露宴会場に案内されて、老人達が大騒ぎで歌を歌い拍手で騒いでいる。
「新郎新婦入場です」
司会者の声で、騒いでいた老人達は目を輝かせ、じっと黙った。
音楽に合わせて入場すると、会場から拍手が沸き起こる。
わたし達は新郎新婦が座る席に座った。
老人達が一人ずつわいわいと祝いの言葉を言い始め、あれやこれやと大地君に無理難題を押しつけてくる。
「新婦をお姫様抱っこじゃ」
大地君は、もう何度もわたしを抱き上げて、汗を拭っている。
「今度は抱き上げて、皆に紹介して歩け」
次々に言われる祝いの言葉の後の罰ゲームのような命令に、大地君は従順に従っている。
最後の老人は「キスして見せよ」と命令した。
「それは内緒だ」
大地君は、わたしを引き寄せると、後ろを向いてわたしにキスをした。
「ケチだのう」
老人達はそれでも満足したのか、皆、拍手をくれた。
大地君は、わたしの背中を支えながら、「ありがとうございます」とお礼を言った。
30人近くいた老人達の命令をすべて聞き終えて、宴会は食事と老人達のカラオケ大会に変わっていった。
「花菜ちゃん、疲れただろう?」
「大地君こそ」
「いつかされる予感があったから」
わたしは苦笑した。
母を見ると、笑いながら、嬉しそうだった。
「小次郎爺ちゃんも嬉しそうだな」
「うん」
思いがけず、結婚式を挙げることができた。
費用はすべて、老人達が持ち寄った資金で行われたらしい。
式場と式は、このホテル所有の大黒さんからのプレゼントらしい。
昔、釣りで大地君に「勝ったら、将来結婚式を挙げるときに費用を出してやろう」と約束して完敗したらしい。
母と大地君の両親は、晴れて、挨拶もできてよかった。
顔合わせをいつしようかと思っていたので、いい機会に恵まれた。
母にも結婚式を見せることもできた。
親孝行もできただろうか?
「大地、おまえの人脈は大切にしろよ」
「おう、兄ちゃん」
「初めまして、次男の陸斗です。家内の有紀です」
「はじめまして」
わたしは頭を深く下げた。
「俺たちは千葉に住んでいますけれど、良かったら遊びに来てください」
「はい」
「陸斗兄ちゃん、花菜ちゃんを紹介するのが遅くなった」
「まあ、話には聞いていたからな」
「これから、お願いします」
大地君が、頭を下げてくれて、わたしも頭を下げた。
「畏まらなくて、いいから。仲が良さそうで良かった」
次男の陸斗さんは、内科医をしているらしい。今は大学病院にいるらしい。
皆さん、素晴らしく頭が良さそうだ。
お爺ちゃんがアルバムを持って来て、皆に見せている。
「あの時の女の子か、縁があったんだな」
老人達が騒いでいる。
「いい式だった」
翔大さんが、大地君に言った。
本当にいい式だった。
突然、何が始まったか分からなかったが、素晴らしく温かな結婚式に披露宴だった。
この縁を大切にしたいと思う。
大地君の釣り仲間にホテルに招待されて、土曜日の早朝に泊まりで海釣りに出かけることになった。
招待状をくれたのは大黒さんというホテルを経営している、社長の松永さんと年齢も変わらないお爺さんらしい。
大地君の釣り仲間は30人ほどいるらしい。ほとんどすべて、どこかの社長だったり、病院経営者だったりと地位も名誉もあるという。
大地君のお父さんは、既に引退しているが労働基準監督官という国家公務員だったらしい。その伝で、いろんな会社の社長さん達と知り合いになったらしい。
元々海釣りの好きな大地君のお父さんに、海釣りの好きな仲間がだんだん集まってできていった仲間達だった。
企業を経営する社長たちは、三人兄弟で末っ子の大地君を溺愛して、幼い大地君と大人気なく勝負を挑んでいたらしい。
今、勤めている会社の社長の松永さんも、会社を賭けて勝負をした一人だ。そうして松永さんは、大地君を自分の会社の後継者にするために、会社事業のあれこれを、今、実際に教えている。
その噂を聞いた釣り仲間達は、いても立ってもいられない。
その昔、大地君と勝負をした仲間達は、立派に成長し、なんでも籍をいれたという噂を聞きつけ、大地君の嫁の姿を一目見たくて、ウズウズしているという。
わたしは、大地君のお兄さんが言っていた『棚ぼた坊主』という言葉を思い出した。
大地君のスマホに連絡があったのは、1週間前だった。
『皆で集まるぞ。欠席は認められない。嫁を紹介しないとは、どんな了見だ?集合場所はわしのホテルじゃ』
まるで脅迫状のような招待を受けて、大地君は引き攣った笑顔を見せていた。
「花菜ちゃん、来週の土曜日と日曜日、釣り仲間の老人たちに付き合ってくれるか?」
「いいけど」
「たぶん、うちの社長も来ると思うけど、あの爺たち何か企んでいるぞ。本当に海釣りかな?」
そう言いながら、部屋の中から、久しぶりに釣り竿を出してきて、手入れを始めた。
季節は秋になり、まだ残暑が残っている。
海釣りにはあまり適した季節ではない。
ホテルに集まり、宴会でも開くつもりかもしれない。
☆
ホテルに到着すると、暇を持て余した老人達が集まっていた。
大地君の両親と兄弟達も集まっていた。
「今から結婚式じゃ」
大黒さんは、わたしと大地君を別々の部屋に案内させた。
わたしは白無垢に綿帽子を被り、綺麗にお化粧をされて、付き人の女性に連れられて、大地君と合流した。
神殿の間には、いつの間にか母と祖父も来ていた。
「お母さん」
「花菜」
お母さんは、嬉しそうに手を振っている。
会社の社長もきていた。
社長はニヤリと笑った。
「やっぱりやられた」
大地君は、顔を赤くして、集まった皆さんに頭を下げている。
「ほれ、結婚式じゃ」
大黒さんは、大地君の尻を叩くと、神殿の前まで連れていった。
わたしも付き人が、大地君と並ぶように、神殿の前まで連れて行かれた。
「大地君、なんだか大変な事になってるわ」
「まあ、ここは流されよう」
神聖な神前式に体が緊張する。神職の修祓の儀に祝詞、三三九度に、大地君が夫婦になる誓いの言葉を即興で唱える。
玉串しれに巫女の舞が始まり、神主があいさつを始めた。
神職の後に退場して、後から母や祖父、大地君の両親、兄弟と子供達、老人達がわやわやと歩いてくる。
集合写真を撮られて、今度は、会食が始まるらしい。
「お召し替えです」
と連行されて、ウエディングドレスに着替えると、大地君もタキシードに着替えている。
今度の大地君のタキシードは黒いタキシードだった。靴まで揃えられて、とっても似合っている。
「花菜ちゃん、すごく綺麗だよ」
最初に着たウエディングドレスより、良い物なのだろう。
レースが繊細で美しい。
丈は長くはないが、清楚だ。
綺麗にアップされた髪に生花が飾られて、その生花と同じ物が大地君の胸のポケットに飾られている。ブーケは大きく美しい胡蝶蘭でできている。
二人で写真撮影をされた。
「さあ、皆様、お待ちかねでございますよ」
案内人が、わたし達をエスコートしてくれる。
立派な披露宴会場に案内されて、老人達が大騒ぎで歌を歌い拍手で騒いでいる。
「新郎新婦入場です」
司会者の声で、騒いでいた老人達は目を輝かせ、じっと黙った。
音楽に合わせて入場すると、会場から拍手が沸き起こる。
わたし達は新郎新婦が座る席に座った。
老人達が一人ずつわいわいと祝いの言葉を言い始め、あれやこれやと大地君に無理難題を押しつけてくる。
「新婦をお姫様抱っこじゃ」
大地君は、もう何度もわたしを抱き上げて、汗を拭っている。
「今度は抱き上げて、皆に紹介して歩け」
次々に言われる祝いの言葉の後の罰ゲームのような命令に、大地君は従順に従っている。
最後の老人は「キスして見せよ」と命令した。
「それは内緒だ」
大地君は、わたしを引き寄せると、後ろを向いてわたしにキスをした。
「ケチだのう」
老人達はそれでも満足したのか、皆、拍手をくれた。
大地君は、わたしの背中を支えながら、「ありがとうございます」とお礼を言った。
30人近くいた老人達の命令をすべて聞き終えて、宴会は食事と老人達のカラオケ大会に変わっていった。
「花菜ちゃん、疲れただろう?」
「大地君こそ」
「いつかされる予感があったから」
わたしは苦笑した。
母を見ると、笑いながら、嬉しそうだった。
「小次郎爺ちゃんも嬉しそうだな」
「うん」
思いがけず、結婚式を挙げることができた。
費用はすべて、老人達が持ち寄った資金で行われたらしい。
式場と式は、このホテル所有の大黒さんからのプレゼントらしい。
昔、釣りで大地君に「勝ったら、将来結婚式を挙げるときに費用を出してやろう」と約束して完敗したらしい。
母と大地君の両親は、晴れて、挨拶もできてよかった。
顔合わせをいつしようかと思っていたので、いい機会に恵まれた。
母にも結婚式を見せることもできた。
親孝行もできただろうか?
「大地、おまえの人脈は大切にしろよ」
「おう、兄ちゃん」
「初めまして、次男の陸斗です。家内の有紀です」
「はじめまして」
わたしは頭を深く下げた。
「俺たちは千葉に住んでいますけれど、良かったら遊びに来てください」
「はい」
「陸斗兄ちゃん、花菜ちゃんを紹介するのが遅くなった」
「まあ、話には聞いていたからな」
「これから、お願いします」
大地君が、頭を下げてくれて、わたしも頭を下げた。
「畏まらなくて、いいから。仲が良さそうで良かった」
次男の陸斗さんは、内科医をしているらしい。今は大学病院にいるらしい。
皆さん、素晴らしく頭が良さそうだ。
お爺ちゃんがアルバムを持って来て、皆に見せている。
「あの時の女の子か、縁があったんだな」
老人達が騒いでいる。
「いい式だった」
翔大さんが、大地君に言った。
本当にいい式だった。
突然、何が始まったか分からなかったが、素晴らしく温かな結婚式に披露宴だった。
この縁を大切にしたいと思う。
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