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39 夜明け
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夜明け前、テントの外に出た。
興奮しているのか、いつになく早く目が覚めた。
テントを張ったのは、ヘンデル王国の国境前だ。
まだ、ヘンデル王国は、今日滅亡することにも気づいていないであろう。
森の中に、早起きをしたヘルティアーマ王国の騎士も出てきている。
国を攻める事に賛成している派と未だに反対している派に別れている。
今、目が合ったのは、反対派の貴族であろう。
反対派は、無理に戦う必要はないが、邪魔はするなと言われている。
国を攻める夜明け前には、反対派の者が、不安な顔でふらつく姿をよく見かける。
だが、反対派の者も攻め入る国に報せに行く者は、さすがにいない。
一応、交代制で、騎士団が見張りをしている。
見張りに見つかれば、国王陛下が多めに見ていても、冷酷な国王陛下は見せしめに、人前で切り刻んで、足下から順に焦がして、殺していくだろう。
元々が冷酷非道であるから、ここまで独断で戦争をしてきたのだ。
元のヘルティアーマ王国から、いくつ国を滅ぼしたか、もう数えるのも飽きた。
それほどの国を手に入れ、これから帝国でも作るつもりなのか?
どの国も王都は荒れ果て、指導者と言われる者は殺してきた。
焼けて平地になった王都を、生き残った民は、まるで幽霊のように歩いていた。
食べ物は田舎に行けばあるかもしれないが、王都付近には焼け野原になって、何もない。
悠然と立っていた王宮すら、瓦礫も残ってはいない。
飢えを凌ぐためならば、これほど多くの国を滅ぼす必要はないと思うけれど、国王陛下はどうしてかテスティス王国に拘っていた。
テスティス王国と言えば、男が一人訪ねてきた事があった。
あの男の何が気になったのだろうか?
わたくしは、その話しはマクシモムから少し聞いただけだ。
恨みを持つほどの国であったのか?
それとも、恨まれても欲しい国であったのか?
誰も国王陛下が何を求めて、何のためにここまで戦ってきたのか知る者はいない。
独断政治その物だ。
逆らえば、そこにあるのは死あるのみ。
邪魔さえしなければ、許されているが、最終的にテスティス王国を滅ぼした後に、国王陛下は何を言い出すか、国王陛下の側近すら知らない。
静かに、夜の時間は終わりを迎え、辺りが白くなってきた。
テントの中から、朝食の準備をする炊き出し班が出てきて、素早く朝食の支度を始めた。
貴族達も目を覚まし、テントの中から出てきている。
炊き出し班を手伝う者と摘まみ食いをする者と様々だ。
人の笑い声も聞こえるが、沈黙を貫いているテントも多い。
実際に戦っていない貴族の朝食は、後回しにされる。
それにしても、マクシモムは何処へ行ってしまったのだろうか?
わたくしと婚約破棄された事は知っているのだろうか?
噂にはなっているのだから、隠れていても、どこかで耳にするはずだが。
そして、新しい婚約者は、わたくしに話しかけてはこない。
国王陛下の命令に従っただけだと、態度で示している。
そうね、わたくしも新しい婚約者には、それほど興味があるわけでもない。
略奪愛だとか、口にする者もいる。
シャルマン王子は、幼い頃から、ジュリアンという婚約者がいて、そろそろ結婚の話しも出てきていた。
それを無理矢理別れさせて、ジュリアンは捨てられたのだ。
公爵家という、王家の遠い親戚だったというのに。
国王陛下は、第一夫人よりも第二夫人を愛している。
その第二夫人の子、第二夫人が生んだ王子を、王家の遠い親戚と婚約させたのは、国王陛下が、シャルマンを大切に想っていたからだと思っていたのだ。
わたくしは、確かに国王陛下のお気に入りであるけれど、人の物を奪うつもりは微塵もない。
ただ、わたくしは王妃にはなりたいと思っている。
相手は誰でもいい。
国王陛下がくれるというなら、わたくしはいただくだけだ。
それが王子であっても、勲章であっても、変わらない。
食事ができたようで、炊き出し班の場所に、我が国の国旗が掲げられた。
それが、食事の合図だ。
わたくしは、朝食をいただくために、炊き出し班の所へ歩いて行く。
運悪く、シャルマン王子と出くわして、わたくしは朝の挨拶をしなくてはならなくなった。
「おはようございます。シャルマン王太子」
「おはよう。アルテア」
ニコリとも微笑まない挨拶は、形式的な物だ。
意味はない。
「今日も頑張りましょう」
「ああ、そうだな」
シャルマン王子は、まだ、この戦いで攻撃魔法を使ってはいない。
すなわち、誰も殺してはいないのだ。
前線に出ているだけ、マクシモムよりマシなのかもしれない。
シャルマン王子は、付き人と、わたくしから離れていった。
あからさまなのよ。
嫌いならば、言葉に出して、国王陛下におっしゃったらいいのに。
わたくしは好きではないから、心が痛むことはないのよ。
朝食は略奪してきた、コメとスープ。
朝食は軽めなのだ。
その代わり、夕食は豪華になる。
略奪してきた食料を使って、わたくし達が戦っている間に、食事の支度をしているのだ。
朝食が簡単なのは、敵国に火を使っている灯りが見えないように、匂いが流れて行かないようにとの配慮である。
これも、国王陛下の指示なので、誰も文句は言わない。
トレーを受け取り、わたくしは木陰に座って、簡単な食事をいただく。
「こんな所で、一人で食べているのか?」
「あら、お兄様、お父様とお母様は?」
「後から来るって」
「そう。テントに食事を運んであげたら喜ぶわ」
「来るって言ったのだから、来るんだろう?」
「もう、本当に頑固ね」
「頑固はどっちだよ?暗いうちは外に出ていくなって、父上も母上も言っていただろう。目が覚めたら、姿が見えないから、皆、心配して、俺は起こされて、探しに出されたんだぞ」
「あら、ごめんなさい」
「アルテアが襲われるはずもないと思うけれど、一応、女だしな。男より強いけれどな」
「そうね」
確かにわたくしを襲おうとしたら、反対に殺してしまうかもしれないわね。
わたくしは誰より強いもの。
お兄様は、わたくしと一緒に食事をいただいた。
お兄様の婚約者は、今回の戦いで、避難テントの中にいる。
戦いが怖いと言っている。
そんなところが、可愛らしいと言っているが、戦いが始まってから、二人が会っている姿は見かけない。
お兄様も、婚約者の元に行かない。
この婚約は破談になる可能性が高いだろう。
戦う者は、戦う者と意気投合するが、隠れている者は、戦っている者を恐れている。また反対に、戦わない者は反逆者と思う。
互いに考え方が違うのだ。
価値観が違えば、想い合う心も変わってくる。
「食べ終わったら、一度、テントに戻れよ」
「ええ、そのつもりよ」
お兄様が立ち上がったので、わたくしも立ち上がった。
トレーを戻して、二人でテントに戻って行く。
もう少し、休憩したら、今日の戦いが始まる。
土の魔術師達が、配置につき始めた。
彼らが魔術を使えば、あっという間にヘンデル王国に到着する。
興奮しているのか、いつになく早く目が覚めた。
テントを張ったのは、ヘンデル王国の国境前だ。
まだ、ヘンデル王国は、今日滅亡することにも気づいていないであろう。
森の中に、早起きをしたヘルティアーマ王国の騎士も出てきている。
国を攻める事に賛成している派と未だに反対している派に別れている。
今、目が合ったのは、反対派の貴族であろう。
反対派は、無理に戦う必要はないが、邪魔はするなと言われている。
国を攻める夜明け前には、反対派の者が、不安な顔でふらつく姿をよく見かける。
だが、反対派の者も攻め入る国に報せに行く者は、さすがにいない。
一応、交代制で、騎士団が見張りをしている。
見張りに見つかれば、国王陛下が多めに見ていても、冷酷な国王陛下は見せしめに、人前で切り刻んで、足下から順に焦がして、殺していくだろう。
元々が冷酷非道であるから、ここまで独断で戦争をしてきたのだ。
元のヘルティアーマ王国から、いくつ国を滅ぼしたか、もう数えるのも飽きた。
それほどの国を手に入れ、これから帝国でも作るつもりなのか?
どの国も王都は荒れ果て、指導者と言われる者は殺してきた。
焼けて平地になった王都を、生き残った民は、まるで幽霊のように歩いていた。
食べ物は田舎に行けばあるかもしれないが、王都付近には焼け野原になって、何もない。
悠然と立っていた王宮すら、瓦礫も残ってはいない。
飢えを凌ぐためならば、これほど多くの国を滅ぼす必要はないと思うけれど、国王陛下はどうしてかテスティス王国に拘っていた。
テスティス王国と言えば、男が一人訪ねてきた事があった。
あの男の何が気になったのだろうか?
わたくしは、その話しはマクシモムから少し聞いただけだ。
恨みを持つほどの国であったのか?
それとも、恨まれても欲しい国であったのか?
誰も国王陛下が何を求めて、何のためにここまで戦ってきたのか知る者はいない。
独断政治その物だ。
逆らえば、そこにあるのは死あるのみ。
邪魔さえしなければ、許されているが、最終的にテスティス王国を滅ぼした後に、国王陛下は何を言い出すか、国王陛下の側近すら知らない。
静かに、夜の時間は終わりを迎え、辺りが白くなってきた。
テントの中から、朝食の準備をする炊き出し班が出てきて、素早く朝食の支度を始めた。
貴族達も目を覚まし、テントの中から出てきている。
炊き出し班を手伝う者と摘まみ食いをする者と様々だ。
人の笑い声も聞こえるが、沈黙を貫いているテントも多い。
実際に戦っていない貴族の朝食は、後回しにされる。
それにしても、マクシモムは何処へ行ってしまったのだろうか?
わたくしと婚約破棄された事は知っているのだろうか?
噂にはなっているのだから、隠れていても、どこかで耳にするはずだが。
そして、新しい婚約者は、わたくしに話しかけてはこない。
国王陛下の命令に従っただけだと、態度で示している。
そうね、わたくしも新しい婚約者には、それほど興味があるわけでもない。
略奪愛だとか、口にする者もいる。
シャルマン王子は、幼い頃から、ジュリアンという婚約者がいて、そろそろ結婚の話しも出てきていた。
それを無理矢理別れさせて、ジュリアンは捨てられたのだ。
公爵家という、王家の遠い親戚だったというのに。
国王陛下は、第一夫人よりも第二夫人を愛している。
その第二夫人の子、第二夫人が生んだ王子を、王家の遠い親戚と婚約させたのは、国王陛下が、シャルマンを大切に想っていたからだと思っていたのだ。
わたくしは、確かに国王陛下のお気に入りであるけれど、人の物を奪うつもりは微塵もない。
ただ、わたくしは王妃にはなりたいと思っている。
相手は誰でもいい。
国王陛下がくれるというなら、わたくしはいただくだけだ。
それが王子であっても、勲章であっても、変わらない。
食事ができたようで、炊き出し班の場所に、我が国の国旗が掲げられた。
それが、食事の合図だ。
わたくしは、朝食をいただくために、炊き出し班の所へ歩いて行く。
運悪く、シャルマン王子と出くわして、わたくしは朝の挨拶をしなくてはならなくなった。
「おはようございます。シャルマン王太子」
「おはよう。アルテア」
ニコリとも微笑まない挨拶は、形式的な物だ。
意味はない。
「今日も頑張りましょう」
「ああ、そうだな」
シャルマン王子は、まだ、この戦いで攻撃魔法を使ってはいない。
すなわち、誰も殺してはいないのだ。
前線に出ているだけ、マクシモムよりマシなのかもしれない。
シャルマン王子は、付き人と、わたくしから離れていった。
あからさまなのよ。
嫌いならば、言葉に出して、国王陛下におっしゃったらいいのに。
わたくしは好きではないから、心が痛むことはないのよ。
朝食は略奪してきた、コメとスープ。
朝食は軽めなのだ。
その代わり、夕食は豪華になる。
略奪してきた食料を使って、わたくし達が戦っている間に、食事の支度をしているのだ。
朝食が簡単なのは、敵国に火を使っている灯りが見えないように、匂いが流れて行かないようにとの配慮である。
これも、国王陛下の指示なので、誰も文句は言わない。
トレーを受け取り、わたくしは木陰に座って、簡単な食事をいただく。
「こんな所で、一人で食べているのか?」
「あら、お兄様、お父様とお母様は?」
「後から来るって」
「そう。テントに食事を運んであげたら喜ぶわ」
「来るって言ったのだから、来るんだろう?」
「もう、本当に頑固ね」
「頑固はどっちだよ?暗いうちは外に出ていくなって、父上も母上も言っていただろう。目が覚めたら、姿が見えないから、皆、心配して、俺は起こされて、探しに出されたんだぞ」
「あら、ごめんなさい」
「アルテアが襲われるはずもないと思うけれど、一応、女だしな。男より強いけれどな」
「そうね」
確かにわたくしを襲おうとしたら、反対に殺してしまうかもしれないわね。
わたくしは誰より強いもの。
お兄様は、わたくしと一緒に食事をいただいた。
お兄様の婚約者は、今回の戦いで、避難テントの中にいる。
戦いが怖いと言っている。
そんなところが、可愛らしいと言っているが、戦いが始まってから、二人が会っている姿は見かけない。
お兄様も、婚約者の元に行かない。
この婚約は破談になる可能性が高いだろう。
戦う者は、戦う者と意気投合するが、隠れている者は、戦っている者を恐れている。また反対に、戦わない者は反逆者と思う。
互いに考え方が違うのだ。
価値観が違えば、想い合う心も変わってくる。
「食べ終わったら、一度、テントに戻れよ」
「ええ、そのつもりよ」
お兄様が立ち上がったので、わたくしも立ち上がった。
トレーを戻して、二人でテントに戻って行く。
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