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26 デイジーお姉様の婚約者 (2)
しおりを挟む「覚えているか?………この場所は、貴女と出会った場所だ」
眩しそうに目を細めながら、エドアルドは月を見上げた。
「忘れるはずがありません」
クラリーチェも同じように、月を見上げた。
穏やかな風が、クラリーチェの髪をふわりと掬い上げる。
「あの日以降、貴女が父の後宮にいると分かっていながらも、ここに来れば貴女に会えるような気がして、何日も………何日もここへ来た」
気がつくと、いつの間にかエドアルドがクラリーチェを見つめていた。
思わぬ告白に、クラリーチェは乱れる髪を手で抑えながらエドアルドを見つめ返す。
「すぐ近くに居ながら………会えない。もどかしい日々だった。………だが、今貴女はこうして私の隣にいて、微笑んでいてくれる。それが、堪らなく幸せだ」
切なそうな、けれども嬉しそうな表情を浮かべて、エドアルドはクラリーチェを再び抱き締めた。
「………私も………、幸せです」
温かなエドアルドの腕の中で、クラリーチェはぽつりと呟いた。
「………貴女を誰よりも幸せにすると決めたのだから、幸せを感じてもらわないと困るのだがな」
少し照れたようにそう呟くエドアルドを見上げると、クラリーチェは微笑んだ。
「貴女は、リベラートが根性の曲がった脅しをかけた時に『こんなにも愛おしいと思える人に出逢えただけでも奇跡のようなのに、その人の愛を得られたのは、幸運以外の何物でもない』と言った。………私も同じように、貴女と出会えた事が幸運以外の何物でもないと思っている。………だから、私は世界一の幸せ者だ」
クラリーチェを貪るように見つめるエドアルドの水色の双眸が僅かに細められた。
「………愛している、クラリーチェ」
甘く蕩けるような声で、エドアルドが愛を告げると、クラリーチェは彼の背中に回した手に、力を込めた。
「私も、愛しています」
はっきりとそう告げるとエドアルドの顔が近づいてきて、柔らかなものが唇に触れた。
目を閉じて、互いの存在を感覚だけで確かめ合う。
まるでこの世に、二人きりしかいないようなそんな錯覚さえ生まれるくらい、長い時間口付けを交わしていた。
その時だった。
ドォーン
突然、空を切るような轟音が静寂を破った。同時にぱあっと周囲が明るくなる。
「………は、花火…………?」
クラリーチェもエドアルドも驚いて、抱き合ったまま呆然と空を見上げた。
次々に、月の輝く夜空へと儚い大輪の花が浮かび上がっては消えていく。
「………花火を打ち明けるなどとは、聞いていないぞ………?」
エドアルドは微妙に、顔を顰めた。
眩しそうに目を細めながら、エドアルドは月を見上げた。
「忘れるはずがありません」
クラリーチェも同じように、月を見上げた。
穏やかな風が、クラリーチェの髪をふわりと掬い上げる。
「あの日以降、貴女が父の後宮にいると分かっていながらも、ここに来れば貴女に会えるような気がして、何日も………何日もここへ来た」
気がつくと、いつの間にかエドアルドがクラリーチェを見つめていた。
思わぬ告白に、クラリーチェは乱れる髪を手で抑えながらエドアルドを見つめ返す。
「すぐ近くに居ながら………会えない。もどかしい日々だった。………だが、今貴女はこうして私の隣にいて、微笑んでいてくれる。それが、堪らなく幸せだ」
切なそうな、けれども嬉しそうな表情を浮かべて、エドアルドはクラリーチェを再び抱き締めた。
「………私も………、幸せです」
温かなエドアルドの腕の中で、クラリーチェはぽつりと呟いた。
「………貴女を誰よりも幸せにすると決めたのだから、幸せを感じてもらわないと困るのだがな」
少し照れたようにそう呟くエドアルドを見上げると、クラリーチェは微笑んだ。
「貴女は、リベラートが根性の曲がった脅しをかけた時に『こんなにも愛おしいと思える人に出逢えただけでも奇跡のようなのに、その人の愛を得られたのは、幸運以外の何物でもない』と言った。………私も同じように、貴女と出会えた事が幸運以外の何物でもないと思っている。………だから、私は世界一の幸せ者だ」
クラリーチェを貪るように見つめるエドアルドの水色の双眸が僅かに細められた。
「………愛している、クラリーチェ」
甘く蕩けるような声で、エドアルドが愛を告げると、クラリーチェは彼の背中に回した手に、力を込めた。
「私も、愛しています」
はっきりとそう告げるとエドアルドの顔が近づいてきて、柔らかなものが唇に触れた。
目を閉じて、互いの存在を感覚だけで確かめ合う。
まるでこの世に、二人きりしかいないようなそんな錯覚さえ生まれるくらい、長い時間口付けを交わしていた。
その時だった。
ドォーン
突然、空を切るような轟音が静寂を破った。同時にぱあっと周囲が明るくなる。
「………は、花火…………?」
クラリーチェもエドアルドも驚いて、抱き合ったまま呆然と空を見上げた。
次々に、月の輝く夜空へと儚い大輪の花が浮かび上がっては消えていく。
「………花火を打ち明けるなどとは、聞いていないぞ………?」
エドアルドは微妙に、顔を顰めた。
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