66 / 71
66 マリアナがいない
しおりを挟む
シリピリーの婚約解消の手続きは、一応、国同士の約束であった為に、使者を送る事に決定した。極寒の中の移動は、かなりの激務になる。
猛者を従えていても、寒さで疲弊してしまう。
誰を使者にするかと、父上と父の近衛騎士も含めて、相談になった。
馬車は、途中までならいけるだろうが、影の話しでは、山岳地帯だという。
雪の中で登山をするのは危険だと、結局、正式な婚約解消は暖かくなってからすることになった。
騎士だとしても、誰一人として捨て人ではない。帰還して、その次の仕事もしてもらわなくてはならない。
送り込んだ影は、今日中に撤退しているだろうか?
無事に帰還できることを願いながら、長い会議は終わった。
やっとマリアナのもとに戻れる。
それにしても、今日のアナは何をそんなに願っていたのだろう。
ナイフや剣は、何に使うために欲しがったのだろうか?
あの時は、自害をするのではないかと心配して、きちんと話しを聞かなかった。
母上も、剣もナイフも持っている。
自分に危害が与えられた時に、自衛できる手段がないことは不安なのだろうか?
ドゥオーモ王国では、もしかしたら、持っていたのかもしれない。
きちんと話しを聞いてやるべきだ。
侍女達と茶会をしていてくれると安心できるのだが、アナはアメリアの婚約パーティーで、アルギュロスに他人だと言われてから塞ぎ込んでいた。
ずっと何かを考えていた。
アナの思考はとても複雑で、裏を読むと表が出たり表を読むと明後日の事を考えていたり、予想も付かない。
子供の頃も変わった思考の持ち主で、幼いアナに振り回されていたが、成長したアナは、口に出して考えないので、もっと複雑になった感じがする。
ただ愛おしさは、昔より深い。
辛い思いをしてきたアナを、必ず幸せにしてみせると決意している。
アナの部屋の前に立つと、アナに付けている護衛の男が敬礼した。
「何もなかったな?」
「何もございません」
「今夜は夜勤か?」
「はい」
「しっかり護衛を頼む」
「承知しました」
男は敬礼した。
俺は扉をノックして、扉を開けた。
アナがいると思っていたが、そこにいたのは、アナの侍女達だった。
やることがないのか、部屋の片付けをしていた。
「奥様はお眠りになりました。寝室にずいぶん前に入られました」
「ずいぶん早いな?どこか具合が悪いのか?」
「寒いとおっしゃって、白狐のコートをお召しになったまま部屋に入っていかれました」
「確かに今夜は冷える」
「寒いとおっしゃって出てこられたら、暖炉を付けるつもりでしたが、とても静かで眠られたのかもしれません」
「部屋の中を見てこよう。皆も休んでいいぞ」
「はい、お部屋の具合を見てくださってから休ませてもらいます。暖炉が必要なら、どうぞおっしゃってください」
侍女長のカリタは頭を下げた。
他の侍女も頭を下げている。
俺は寝室の扉を開けた。
確かに冷える。
ベッドを覗き込んだら、アナはいなかった。
「護衛は何をしていた。いないではないか」
俺の声を聞いた侍女達と扉の番をしていた護衛の騎士が駆け込んでくる。
「どちらの扉も開いておりません」
「まさか」
俺は床にある隠し扉に触れようとしたら、埃が隠し扉の周りに散っている。
「いつの間に?」
間違いなく、この隠し扉から逃げ出したのだ。
「騎士を集めよ!マリアナを捜索してくれ。外に出ておる」
「はっ!」
今日の当番の騎士が駆けだした。
侍女達はおろおろしている。
「すみませんでした」
皆が揃って頭を下げる。
「おまえ達には落ち度はない。では、行ってくる」
俺はこの通路の先を知っている。
そこに向かって走った。
猛者を従えていても、寒さで疲弊してしまう。
誰を使者にするかと、父上と父の近衛騎士も含めて、相談になった。
馬車は、途中までならいけるだろうが、影の話しでは、山岳地帯だという。
雪の中で登山をするのは危険だと、結局、正式な婚約解消は暖かくなってからすることになった。
騎士だとしても、誰一人として捨て人ではない。帰還して、その次の仕事もしてもらわなくてはならない。
送り込んだ影は、今日中に撤退しているだろうか?
無事に帰還できることを願いながら、長い会議は終わった。
やっとマリアナのもとに戻れる。
それにしても、今日のアナは何をそんなに願っていたのだろう。
ナイフや剣は、何に使うために欲しがったのだろうか?
あの時は、自害をするのではないかと心配して、きちんと話しを聞かなかった。
母上も、剣もナイフも持っている。
自分に危害が与えられた時に、自衛できる手段がないことは不安なのだろうか?
ドゥオーモ王国では、もしかしたら、持っていたのかもしれない。
きちんと話しを聞いてやるべきだ。
侍女達と茶会をしていてくれると安心できるのだが、アナはアメリアの婚約パーティーで、アルギュロスに他人だと言われてから塞ぎ込んでいた。
ずっと何かを考えていた。
アナの思考はとても複雑で、裏を読むと表が出たり表を読むと明後日の事を考えていたり、予想も付かない。
子供の頃も変わった思考の持ち主で、幼いアナに振り回されていたが、成長したアナは、口に出して考えないので、もっと複雑になった感じがする。
ただ愛おしさは、昔より深い。
辛い思いをしてきたアナを、必ず幸せにしてみせると決意している。
アナの部屋の前に立つと、アナに付けている護衛の男が敬礼した。
「何もなかったな?」
「何もございません」
「今夜は夜勤か?」
「はい」
「しっかり護衛を頼む」
「承知しました」
男は敬礼した。
俺は扉をノックして、扉を開けた。
アナがいると思っていたが、そこにいたのは、アナの侍女達だった。
やることがないのか、部屋の片付けをしていた。
「奥様はお眠りになりました。寝室にずいぶん前に入られました」
「ずいぶん早いな?どこか具合が悪いのか?」
「寒いとおっしゃって、白狐のコートをお召しになったまま部屋に入っていかれました」
「確かに今夜は冷える」
「寒いとおっしゃって出てこられたら、暖炉を付けるつもりでしたが、とても静かで眠られたのかもしれません」
「部屋の中を見てこよう。皆も休んでいいぞ」
「はい、お部屋の具合を見てくださってから休ませてもらいます。暖炉が必要なら、どうぞおっしゃってください」
侍女長のカリタは頭を下げた。
他の侍女も頭を下げている。
俺は寝室の扉を開けた。
確かに冷える。
ベッドを覗き込んだら、アナはいなかった。
「護衛は何をしていた。いないではないか」
俺の声を聞いた侍女達と扉の番をしていた護衛の騎士が駆け込んでくる。
「どちらの扉も開いておりません」
「まさか」
俺は床にある隠し扉に触れようとしたら、埃が隠し扉の周りに散っている。
「いつの間に?」
間違いなく、この隠し扉から逃げ出したのだ。
「騎士を集めよ!マリアナを捜索してくれ。外に出ておる」
「はっ!」
今日の当番の騎士が駆けだした。
侍女達はおろおろしている。
「すみませんでした」
皆が揃って頭を下げる。
「おまえ達には落ち度はない。では、行ってくる」
俺はこの通路の先を知っている。
そこに向かって走った。
0
お気に入りに追加
1,990
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる