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65   兄様に愛を届けたい

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 食事後、シオンは皇帝陛下に呼び出された。

 シリピリー様の後処理だ。緊急会議が開かれるらしい。

 わたしは先に部屋に戻された。

 シオンがわたしをカリタに預けた。

 そんなことをしたら、カリタが可哀想なのに。

 カリタはわたしをお風呂に入れる。

 温かなお湯がたっぷり入ったお風呂に、わたしを入れて、指のマッサージをしてくれる。

 頭のマッサージは、アロージョ医師に禁止されている。

 わたしの頭は奇跡的に治っているが、刺激は与えない方が安全だと言われている。

 もし殴られたりしたら、その刺激で、死んでしまう可能性もあると医師団で結論付けたようだ。

 そんな儚いわたしを妻にしたシオンは、帝国の皇太子としての責務を果たせるのだろうかと思ったが、今、わたしが生きていられるのはシオンという存在があったからだ。

 お風呂から出てから、シルクのネグリジェとガウンを着て、白狐のコートを着た。

 3月になったが、まだ冷える日がある。

 寝室に暖炉があるが、暖炉に火を入れるほどを点すほどでもない。

 その夜は少し寒かった。


「カリタ、今夜は寝てしまうわ。なんだか冷えるもの。クラクシオン様が尋ねてきたら、寝たとおっしゃってね」

「お風邪を召したのでしょうか?お熱を測りましょうか?」

「いいえ、少し寒いだけですわ。早めにベッドに入ります」

「では、コートは脱がれますか?」

「お部屋が寒かったら、掛布にかけますわ」

「そうですか、ではお休みなさいませ」

「おやすみ」


 わたしは二人の寝室に入った。

 やはり人がいない部屋は、冷える。

 わたしはこの部屋から抜け出す方法を知っている。

 どこの宮殿にもある。

 主の部屋には抜け道が隠されている。

 ドゥオーモ王国にも、そこら中に抜け道があった。

 国の仕事をするようになってから、極秘書類を見る機会が増えた。

 その時に知ったのだ。

 だから帝国のこの宮殿も同じように抜け道がある事は予想していた。

 塞ぎ込んでいるフリをして、家具や壁、床板等を調べた。すると、床板の四角い板張りが外れた。外してみると、下に道ができていた。その先には行っていないけれど、きっと宮殿の外に繋がっているはずだ。

 わたしは床板を外して、下に降りてから、床板を戻した。オイルランプは予め準備していた。暗く狭い道を走っていく。シオンから逃げるわけではない。

 わたし一人で、したいことがあるのだ。

 皇太子妃となったわたしにも護衛が付いている。

 一人になれる時間は、一秒もないのだ。

 それに比べて、ドゥオーモ王国は執務に追われていたけれど、誰もわたしを気にかける人はいなかった。

 埃っぽくて、暗い道を走ると、咳が出る。

 ハンカチで口を押さえて、音を出さないように走り抜ける。

 本当は剣かナイフが欲しかった。

 自衛するために、戦える物が欲しかったけれど、シオンはくれなかった。

 ならば、この細腕で防御するしかない。

 出口に扉があった。

 そっと耳を押し当てて、気配を探る。

 シーンと静まっている。

 静かに扉を開けると、そこには空井戸があった。上を見ると、星空が見える。

 ロープのはしごがあった。そこを上っていく。

 上まで上がると、宮殿の外壁の外だった。

 馬が数頭繋がれていた。

 護衛の姿はない。

 いるのかもしれないが、わたしからは見えなかった。

 わたしは馬の手綱を取ると、素早く乗って走り出した。

 道を走るつもりでいたが、馬がいたことで、素早く移動ができる。

 道は覚えている。

 乗馬の練習をしておいてよかった。

 ドゥオーモ王国に置いてきた、わたしの愛馬のメルは元気だろうか?

 またメルに乗って走りたい。

 わたしは兄様の邸に向かっているのだ。

 二人で話したい。

 寂しかったこと。辛かったこと。孤独だったこと。いろんな話しをしたら、お互いに忘れていても、わかり合えると信じている。

 父様も母様も、きっとそれを望んでいると思う。

 今しなければ、きっと将来後悔すると思うのだ。

 わたしは、ひたすら夜道を駆けた。


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