65 / 71
65 兄様に愛を届けたい
しおりを挟む
食事後、シオンは皇帝陛下に呼び出された。
シリピリー様の後処理だ。緊急会議が開かれるらしい。
わたしは先に部屋に戻された。
シオンがわたしをカリタに預けた。
そんなことをしたら、カリタが可哀想なのに。
カリタはわたしをお風呂に入れる。
温かなお湯がたっぷり入ったお風呂に、わたしを入れて、指のマッサージをしてくれる。
頭のマッサージは、アロージョ医師に禁止されている。
わたしの頭は奇跡的に治っているが、刺激は与えない方が安全だと言われている。
もし殴られたりしたら、その刺激で、死んでしまう可能性もあると医師団で結論付けたようだ。
そんな儚いわたしを妻にしたシオンは、帝国の皇太子としての責務を果たせるのだろうかと思ったが、今、わたしが生きていられるのはシオンという存在があったからだ。
お風呂から出てから、シルクのネグリジェとガウンを着て、白狐のコートを着た。
3月になったが、まだ冷える日がある。
寝室に暖炉があるが、暖炉に火を入れるほどを点すほどでもない。
その夜は少し寒かった。
「カリタ、今夜は寝てしまうわ。なんだか冷えるもの。クラクシオン様が尋ねてきたら、寝たとおっしゃってね」
「お風邪を召したのでしょうか?お熱を測りましょうか?」
「いいえ、少し寒いだけですわ。早めにベッドに入ります」
「では、コートは脱がれますか?」
「お部屋が寒かったら、掛布にかけますわ」
「そうですか、ではお休みなさいませ」
「おやすみ」
わたしは二人の寝室に入った。
やはり人がいない部屋は、冷える。
わたしはこの部屋から抜け出す方法を知っている。
どこの宮殿にもある。
主の部屋には抜け道が隠されている。
ドゥオーモ王国にも、そこら中に抜け道があった。
国の仕事をするようになってから、極秘書類を見る機会が増えた。
その時に知ったのだ。
だから帝国のこの宮殿も同じように抜け道がある事は予想していた。
塞ぎ込んでいるフリをして、家具や壁、床板等を調べた。すると、床板の四角い板張りが外れた。外してみると、下に道ができていた。その先には行っていないけれど、きっと宮殿の外に繋がっているはずだ。
わたしは床板を外して、下に降りてから、床板を戻した。オイルランプは予め準備していた。暗く狭い道を走っていく。シオンから逃げるわけではない。
わたし一人で、したいことがあるのだ。
皇太子妃となったわたしにも護衛が付いている。
一人になれる時間は、一秒もないのだ。
それに比べて、ドゥオーモ王国は執務に追われていたけれど、誰もわたしを気にかける人はいなかった。
埃っぽくて、暗い道を走ると、咳が出る。
ハンカチで口を押さえて、音を出さないように走り抜ける。
本当は剣かナイフが欲しかった。
自衛するために、戦える物が欲しかったけれど、シオンはくれなかった。
ならば、この細腕で防御するしかない。
出口に扉があった。
そっと耳を押し当てて、気配を探る。
シーンと静まっている。
静かに扉を開けると、そこには空井戸があった。上を見ると、星空が見える。
ロープのはしごがあった。そこを上っていく。
上まで上がると、宮殿の外壁の外だった。
馬が数頭繋がれていた。
護衛の姿はない。
いるのかもしれないが、わたしからは見えなかった。
わたしは馬の手綱を取ると、素早く乗って走り出した。
道を走るつもりでいたが、馬がいたことで、素早く移動ができる。
道は覚えている。
乗馬の練習をしておいてよかった。
ドゥオーモ王国に置いてきた、わたしの愛馬のメルは元気だろうか?
またメルに乗って走りたい。
わたしは兄様の邸に向かっているのだ。
二人で話したい。
寂しかったこと。辛かったこと。孤独だったこと。いろんな話しをしたら、お互いに忘れていても、わかり合えると信じている。
父様も母様も、きっとそれを望んでいると思う。
今しなければ、きっと将来後悔すると思うのだ。
わたしは、ひたすら夜道を駆けた。
シリピリー様の後処理だ。緊急会議が開かれるらしい。
わたしは先に部屋に戻された。
シオンがわたしをカリタに預けた。
そんなことをしたら、カリタが可哀想なのに。
カリタはわたしをお風呂に入れる。
温かなお湯がたっぷり入ったお風呂に、わたしを入れて、指のマッサージをしてくれる。
頭のマッサージは、アロージョ医師に禁止されている。
わたしの頭は奇跡的に治っているが、刺激は与えない方が安全だと言われている。
もし殴られたりしたら、その刺激で、死んでしまう可能性もあると医師団で結論付けたようだ。
そんな儚いわたしを妻にしたシオンは、帝国の皇太子としての責務を果たせるのだろうかと思ったが、今、わたしが生きていられるのはシオンという存在があったからだ。
お風呂から出てから、シルクのネグリジェとガウンを着て、白狐のコートを着た。
3月になったが、まだ冷える日がある。
寝室に暖炉があるが、暖炉に火を入れるほどを点すほどでもない。
その夜は少し寒かった。
「カリタ、今夜は寝てしまうわ。なんだか冷えるもの。クラクシオン様が尋ねてきたら、寝たとおっしゃってね」
「お風邪を召したのでしょうか?お熱を測りましょうか?」
「いいえ、少し寒いだけですわ。早めにベッドに入ります」
「では、コートは脱がれますか?」
「お部屋が寒かったら、掛布にかけますわ」
「そうですか、ではお休みなさいませ」
「おやすみ」
わたしは二人の寝室に入った。
やはり人がいない部屋は、冷える。
わたしはこの部屋から抜け出す方法を知っている。
どこの宮殿にもある。
主の部屋には抜け道が隠されている。
ドゥオーモ王国にも、そこら中に抜け道があった。
国の仕事をするようになってから、極秘書類を見る機会が増えた。
その時に知ったのだ。
だから帝国のこの宮殿も同じように抜け道がある事は予想していた。
塞ぎ込んでいるフリをして、家具や壁、床板等を調べた。すると、床板の四角い板張りが外れた。外してみると、下に道ができていた。その先には行っていないけれど、きっと宮殿の外に繋がっているはずだ。
わたしは床板を外して、下に降りてから、床板を戻した。オイルランプは予め準備していた。暗く狭い道を走っていく。シオンから逃げるわけではない。
わたし一人で、したいことがあるのだ。
皇太子妃となったわたしにも護衛が付いている。
一人になれる時間は、一秒もないのだ。
それに比べて、ドゥオーモ王国は執務に追われていたけれど、誰もわたしを気にかける人はいなかった。
埃っぽくて、暗い道を走ると、咳が出る。
ハンカチで口を押さえて、音を出さないように走り抜ける。
本当は剣かナイフが欲しかった。
自衛するために、戦える物が欲しかったけれど、シオンはくれなかった。
ならば、この細腕で防御するしかない。
出口に扉があった。
そっと耳を押し当てて、気配を探る。
シーンと静まっている。
静かに扉を開けると、そこには空井戸があった。上を見ると、星空が見える。
ロープのはしごがあった。そこを上っていく。
上まで上がると、宮殿の外壁の外だった。
馬が数頭繋がれていた。
護衛の姿はない。
いるのかもしれないが、わたしからは見えなかった。
わたしは馬の手綱を取ると、素早く乗って走り出した。
道を走るつもりでいたが、馬がいたことで、素早く移動ができる。
道は覚えている。
乗馬の練習をしておいてよかった。
ドゥオーモ王国に置いてきた、わたしの愛馬のメルは元気だろうか?
またメルに乗って走りたい。
わたしは兄様の邸に向かっているのだ。
二人で話したい。
寂しかったこと。辛かったこと。孤独だったこと。いろんな話しをしたら、お互いに忘れていても、わかり合えると信じている。
父様も母様も、きっとそれを望んでいると思う。
今しなければ、きっと将来後悔すると思うのだ。
わたしは、ひたすら夜道を駆けた。
0
お気に入りに追加
1,985
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる