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52   教会

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 午前中に令嬢に処罰を与えたクラクシオン様は、令嬢達が修道院に搬送されるのを見送ってから、わたしを迎えに来た。

 わたしも気になっていたので、令嬢が搬送されるところを見ていたのだ。


「そんなところで隠れて見てなくても」


 クラクシオン様は、わたしを笑ったけれど、クラクシオン様も隠れて見ていたのだから、どちらも同じだと思うのだ。


「お疲れ様でした。クラクシオン様の優しいお言葉が令嬢に届くといいわね」

「どこで聞いていたのだ?」

「宰相様にお隣のお部屋に連れて行ってもらいました」

「また、節介なことをする」

「いいえ、わたしには見る権利がありますわ。昨夜もお手伝いしましたし」

「確かに昨夜は助かった」

「いいえ、わたしは特技を披露しただけですわ」

「そうだな。これからも助けてもらう事はあるかもしれない」

「はい、いつでもお力になりたいと思います」

「だが、俺の前では辛いときは辛いと言ってくれ」

「クラクシオン様が守ってくださったので、辛くはなかったです」

「そうか」


 クラクシオン様は、わたしの手を握ると、外に出ていく。


「教会に行こうか」

「はい」


 クラクシオン様の近衛騎士達は、既に準備をしていたようで、馬車もあり、護衛の騎士が馬を引いていた。

 馬車に乗ると、二人で並んで座った。

 暫くすると、馬車はゆっくり走り出した。


「教会は決まっているのですか?」

「ああ、我が一族が代々世話になっている教会だ」

「まあ、素敵ね。古い教会なのかしら?」

「古いが、この帝国で一番立派だ」

「楽しみね」

「マリアナが洗礼を受けた教会だ。俺も洗礼を受けた。互いに縁深い教会であるな」

「わたしは覚えていないけれど、神様は覚えているわね」

「神だからな?それに、皆がマリアナの無事を祈っていた」

「わたしは幸せ者ですね」

「マリアナ」

「知らないところで、祈られていたなんて。皆様のおかげで、生きて戻って来られたと思えるようになってきました」

「そうか」

「11年も待っていてくださりありがとうございます。記憶がなくて、本当にごめんなさい。でも、これからのことは絶対に忘れません。お側にいさせてください」

「これから、一緒に時を刻んでいこう」

「はい」


 手をしっかり握られ、その手を引かれた。

 自然と体がクラクシオン様にもたれかかってしまう。

 もう片方の手が、わたしの左肩を抱き寄せて、わたしはクラクシオン様に抱きしめられた。

 とても安心できるのです。

 愛が滲み出てくるようで、心が安らかになる。

 馬車が止まると、クラクシオン様の温もりが離れていった。

 それを寂しいと思う。

 扉がノックされ、クラクシオン様は返事をなさった。

 扉が開かれて、エスコートされながら馬車を降りた。

 目の前に、立派な教会がある。

 煉瓦造りの大きな建物の扉は開いている。

 騎士が一人駆けていった。

 教会の中を見ているようだ。

 騎士が戻ってきて、「誰もおりません」と言った。

 近衛騎士の中にクラース殿が戻っていることに安心して、護衛に囲まれながら、教会の中に入っていく。

 クラクシオン様は、扉をノックすると、白い装束の牧師が出てきた。


「これは、クラクシオン皇太子殿下、今日は何かご用ですか?」

「ビュシス牧師、マリアナが無事に戻ってきました」


 わたしは、ビュシス牧師にお辞儀をしました。


「マリアナです。事故に遭い、記憶を失っておりますが、保護されました」

「そうですか?カナール様がお守りになったのでしょう。よく無事に戻って来られた」


 ビュシス牧師は、十字を切って神に祈った。

 わたしは頭を軽く下げた。


「そこで、私はマリアナと結婚したいのです。いつなら式を挙げられそうですか?」

「どんな式を?」

「まずは両親と兄弟を招いた結婚式を、少し友人も来るかもしれません」

「国を挙げてしないのですか?」

「それは改めて行うつもりだ」

「それならば、いつでも行えます」

「では、明日だ」

 え?

 明日?

 わたしも驚いたけれど、クラクシオン様の近衛騎士達も驚いている。

 いいの?明日で。

 皇帝陛下に相談もなく決めていいの?

 警備とか大丈夫なのかしら?


「いいな、マリアナ」

「いいんですか?」

「こちらは、明日でも構いませんが」


 ビュシス牧師は、笑いを堪えているようだ。


「明日だ。では、明日頼む」

「お時間は?」

「10時だ」

「はい、承りました」

「では、頼む」


 クラクシオン様は、わたしの手を繋ぐと、部屋から出た。

 教会から出る前に聖壇の前に寄り、わたしの手を繋いだまま、頭を下げ神に祈っていた。

 わたしも真似て神に祈った。

 今ある幸せが続きますように……と。

 わたしが頭を上げると、クラクシオン様は、わたしに微笑んで、今度こそ教会から出て行った。

 宮殿に戻って、皇帝陛下と皇后様に明日結婚式を挙げると告げると、「なんだと!」と皇帝陛下は声を上げた後に、腹を抱えて笑い出した。

「好きにしろ。弟妹達に伝えて、アルギュロスに伝えなさい」

「では、父上、母上、よろしくお願いします」

 兄様には、簡潔に手紙を書いて届けてもらうようだ。

 シリピリー様もアメリア様も驚きながら、わたしを囲んで、緊急お茶会が始まった。

 王妃様も参加されて、皆さん、笑い転げています。

「クラクシオンは、あれでも、我慢したのでしょう。マリアナ、急にごめんなさいね。ふふふ、でも、これからは幸せになれるわ」

「皆様、これからよろしくお願いします」

「もう、一緒に住んでいるんですもの」

「そうよ、何も変わらないわ」

 シリピリー様もアメリア様も優しく微笑んでくださいました。



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