《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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51   婚礼のお願いと処罰

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 クラクシオン様は、パーティーから帰ってきた皇帝陛下と皇后様をサロンに招くと、わたしが結婚を承諾した事を報告した。

 婚約はしたが、結婚の日付までは、決められていなかった。

 それは、わたしがまだ迷っているので、その事を考慮されたものだった。

 クラクシオン様を好きになっているが、結婚の覚悟がなかなかつかなかった。

 王妃教育はされていたので、皇帝陛下も皇后様もわたしを皇太子妃にするつもりだったけれど、わたしの覚悟が着くのを待っていてくれたのだと思う。

 その優しい心遣いに感謝しながら、その好意に甘えていた。

 今日のお月見パーティーで、わたしはしっかりと結婚をしたいと思えたのだ。

 クラクシオン様がどれほど、わたしを愛しているのか、わたしとの未来を考えてくださっていることを嬉しく思えたのだ。


「それで、先に婚礼だけ済ませて、他国へは披露宴という形で招待したらどうかと思うのですが」


 クラクシオン様のお言葉に、わたしは、ポカンとしてしまった。

 結婚式は、他国の要人を招いてするものだと思っていたのですが、クラクシオン様は先に婚礼だけは済ませたいようでした。


「そう来たか」


 皇帝陛下は笑い声をあげた。

 皇后様も微笑んでいらっしゃいます。


「他国の要人を招いていては、婚礼は早くて半年、おおよそ一年後が目安になる。それまで、待てぬと言うのだな?」

「当然です。もう待つのは懲り懲りなので」

「そうか、そうか。クラクシオンがそうしたいのなら、いいだろう。マリアナの許可が出たのなら、私達は反対をしない」


 わたしは皇帝陛下と皇后様を見て、それからクラクシオン様を見た。


「嫌なのか?」

「いいえ」

「では、マリアナの気が変わらないうちに、式場を決めたいと思いますが、父上、母上、宜しいでしょうか?」

「好きにするがいい。確かに、クラクシオンは、マリアナが行方不明になってから11年も待っていた。これ以上、待たせるのも可哀想だ」

「マリアナの妃教育も、さすが神童と呼ばれただけあり、一度で覚えるようで、家庭教師も驚くほどの早さで進んでいますからね。もう終盤だと報告もされていますから、妃教育も直に終わるでしょう」

「父上も母上もありがとうございます。では、明日にでも教会に空いている日付を確認してきます」


 クラクシオン様は、ご機嫌だった。

 わたしの気が変わる?

 わたし、そんなにコロコロと気分を変えたりしたかしら?

 不思議に思いクラクシオン様のお顔を見れば、クラクシオン様は、わたしの頭を撫でてくださった。


「マリアナに欠点があるとしたら、時々、心が不安定になるくらいだ。記憶がないことを悲しみ、両親を自分が殺してしまったと思い込み、人の心ない言葉に、深く傷つく。実の兄に恨まれていることを悲しくないといいながらも、心の底から悲しんでいる事だろう。どうだ?」

「はい」


 その通りなので、わたしは素直に返事をした。

 夢にうなされ泣いているので、目覚めたとき目が赤く腫れている事もある。

 隠していても、きっと皆さんは気づいているのでしょう。


「夜、一人で泣かせたくはないのです」

「よかろう。明日、教会に行くがいい。結婚式を先に行い、一年後を目安に、他国を招いたお披露目会を行おう」

「父上、ありがとうございます」

「それで、今日捕らえてきた令嬢達はどのようにするのだ?」

「あの令嬢達は、マリアナの悪口を言っておりましたが、マリアナを通して、俺が皇帝の座に就いたときの悪口を、貴族が集まるパーティーで笑いながら大声で話していたのです。今後の事を考慮して捕らえました」

「それでは捕らえられても仕方がないな。見せしめの為にも罰を与えなければならぬ。修道院でいいな?」

「はい、それで構わないと思います」

「では、何年捕らえる?」

「五年で十分だと思います」

「では、その様に処罰するが、クラクシオン、おまえが処罰を与えなさい。これは次期皇帝陛下になる者としての試練だ。罰を与えられた令嬢の家庭は、今後、冷遇されるであろう。五年後、令嬢が罪を償って出てきた後、婚礼の相手は見つからない可能性も出てくる。罪を与えるという事は、そういう事であることをしっかりと受け止めるように」

「はい、皇帝陛下。謹んで勤めさせて戴きます」


 クラクシオン様は、深くお辞儀をした。

 わたしもクラクシオン様と一緒にお辞儀をした。

 クラクシオン様は、父上とは呼ばずに、皇帝陛下と呼ばれた。

 仕事を学ぶという事は、そういう事なのだろう。

 



 お月見パーティーの夜、皇帝陛下の宮殿に四人の令嬢の家族が集まっていた。

 だが、面会はできず、「令嬢の処罰は明日10時からなされます」と、宰相から告げられて、四人の令嬢の家族は帰っていった。

 そして、翌日、10時に宮殿の中にある中ホールを開けて、そこに家族を招いた。

 謁見室を使うか考えたが、これは令嬢の父親に帝国の貴族のあり方を教える為もある。

 騎士を大勢並べて、恐れさせる方が薬になろう。

 と、言うことで、中ホールの中には、厳つい顔の騎士達が大勢並んでいる。

 家族席には椅子が並び、そこに騎士が家族を案内している。

 まず、俺がホールの中に入り、その後に、皇帝陛下が入室した。

 皇帝陛下の椅子が置かれていて、父上はそこに座った。

 後ろ手に縄で縛られた令嬢達、四人が順番にホールに入ってきた。

 一人ずつに騎士が二人、付き添っている。

 令嬢は伯爵の位が三人、侯爵の位の令嬢が一人。

 準備しておいた椅子に座らせた。

 どの令嬢がどんな発言をしたのかは、昨夜のうちに取り調べを行った。

 令嬢達は泣くばかりで、話はろくに進まなかったが、会話はマリアナが覚えていた。

 さすが神童と呼ばれただけある。

 一語一句迷うこともなく、文字を起こしていく姿は、凜々しささえ感じられた。

 それと同時に、これほど記憶がいいとなると、他人に言われる罵詈雑言は、きっとマリアナを苦しめていると思える。
 
 自分の悪口を文字に起こして、「どうぞお使いください」と俺に手渡したマリアナの心が心配になる。

 だが、令嬢に処罰を与えるためには、マリアナの記憶力が必要になる。マリアナを連れて牢屋にやって来た。

 牢屋の外から中を見て、令嬢の番号を言っていった。

 マリアナは令嬢の名前を知らないので仕方がない。

 マリアナが文字を起こした文末に、俺が印を付けた。



『……皇太子殿下は、記憶を無くしたドゥオーモ王国に監禁され、第一夫人となった女と婚約したそうね』①

『同情したんじゃないかしら?子供の頃、婚約者だったらしいから』②

『幼い頃は神童と呼ばれた令嬢だそうですけど婚約式で見た令嬢は、痩せた普通の令嬢でしたわ。少しお話をしましたけれど、ごくごく普通でしたわ』③

『記憶を失って、特別な才能もなくされたのでしょう』④

『傷物の令嬢など皇太子妃にする気が知れませんわ。この帝国の未来は期待できないかもしれないわ』①

『血眼になって、娘を探していた父親が亡くなったというのに、ドゥオーモ王国の国王陛下が処刑されたときに泣かれていたとか。馬鹿よね、どっちが親かも理解できなくなったのかしら?』②

『実の兄とも不仲だとか』③

『不仲にもなりますわよ。実の母が亡くなって、そこで誘拐されたのに、暢気な馬鹿ね。父親も殺されたのも同然なのに、泣くなんて、ご両親も報われないわね』④


 そうして、令嬢達を落ち着かせて、会話を読み聞かせていると、令嬢達は誰がどの言葉を言ったのか口々に言い出した。

 斯くして、マリアナの言った通りだった。

 ニクス侯爵令嬢であるミニエ令嬢は①だった。

 一番、俺を、この帝国の次期皇帝陛下を侮辱した言葉を発した令嬢だった。

 ニエベ伯爵令嬢であるリリス令嬢は②だった。

 ブレッサ伯爵令嬢であるアン令嬢は③だった。

 ロマンゾ伯爵令嬢であるリース令嬢は④だった。

 どの言葉も本当は許せない言葉であるが、俺自身を舐められていると思われる言葉を発したのが、侯爵令嬢だった。

 侯爵令嬢からその言葉が出ると言うことは、侯爵家当主は俺を舐めていると言うことだ。

 普段から、話されない言葉を口にする者はいない。普段から父親である侯爵自身が、俺を軽く見ているから、その言葉が出てくるのだ。

 反逆者は早めに芽を摘んでおく必要がある。

 ここで見つけることができて、よかった。

 伴侶となるマリアナもこれから、誰もが敬う存在になっていくだろう。

 俺は、そうなるように気を配る。


「この者は、昨夜のシャイン公爵家のお月見パーティーで、次期皇帝陛下になる私を侮辱する発言をした。また、その伴侶となるマリアナを侮辱する発言をした。笑いながら大声で、淑女であるまじき行動を、たくさんの客人のいる場で行った。それ故、その場で捕らえた」

「クラクシオン皇太子殿下、どうぞ、未熟な娘がしでかしたこと故、どうぞお許しください」


 そう発言したのは、ニクス侯爵であった。

 皇帝陛下に忠誠を誓っておきながら、心では忠誠など誓っていなかったのだろう。


「ニクス侯爵令嬢であるミニエ令嬢は幾つであるか?」

「17歳であります」

「そうか、我が帝国で成人とみなされるのは16歳からだ。立派な成人ではないか?歪んだ躾をしてきたのか?」

「いいえ、そうではありません。きっとどこかで、誰かに唆されたに違いない」

「では、歪んだ思想を適正に正さねばなるまい。侯爵家として、きちんと躾をしてこなかった故に、あの場で帝国を揺るがすような発言をされたのであろう。17歳では、もはや我々の手により罰を与えるより歪んだ思想を元に戻す事はできまい」

「いいえ、子供の教育は親の務めですので、もう一度、どうか猶予をくださいますように」


 ニクス侯爵は、椅子から降りて跪くと、それを真似るように伯爵達も跪いている。

 俺は、その言葉を無視した。


「判決を言い渡す。ニクス侯爵令嬢であるミニエ令嬢には、北の修道院にて、5年の刑に処す。ニエベ伯爵令嬢であるリリス令嬢は、東の修道院で5年の刑に処す。ブレッサ伯爵令嬢であるアン令嬢には西の修道院で5年の刑に処す。ロマンゾ伯爵令嬢であるリース令嬢には、南の修道院で5年に処す。清く正しい令嬢に戻る事を願っている」


 令嬢達は目に涙を浮かべて、頭を垂れた。

 けれど、その判決に物申す者もいた。

 侯爵が声を上げた。

 想定内だ。


「どうか、お助けください」

「己の娘に正しい教育を行わなかった親の処罰も必要ですか?皇帝陛下?」

「そうであるな」


 父上は立ち上がると、皆を見下ろした。

 侯爵夫妻以下、八人が、深く頭を下げた。


「この件は、後継者であるクラクシオン皇太子に任せた」

「皇帝陛下、仰せつかります。それでは、各当主は一ヶ月の自宅謹慎を申しつける」

「はい」


 四人の当主は、声を揃えた。

 一ヶ月の謹慎の間に、邸に訪ねてきた者は、仲間としてマークするように、手はずを整えるつもりである。

 一つも悪い芽を残さずに、摘んでおく。

 俺とマリアナが帝国を治めるときに、平和な帝国にしておくのは、俺の務めだ。

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