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40 裏切り
しおりを挟む俺はジュリアンを俺の近衛騎士達に預け、散歩に出掛けて、ふと外から部屋を見上げた。
甘えたジュリアンの声が聞こえたような気がした。
情事の間にあげる声だ。
まさか?
相手は誰だ?
俺は真相が知りたくて、急いで階段を上がっていった。
部屋を覗くと、ジュリアンは、俺の近衛騎士達と3人で楽しんでいた。
なんと欲張りな。
3人で抱き合うこともあるとは知識では知っていたが、まさか自分の第二夫人が夫以外の男と不倫しているなどと。
俺は部屋に入った。
俺の近衛騎士達が驚いて、ジュリアンからいきなり離れた。
「貴様達、今、何をしていた」
「すみません」
2人の近衛騎士達は、俺に慌てて謝罪をしたが、乱れた騎士服に下半身を出した状態では、とても謝罪を受け入れることはできない。
「リオスがいけないのよ。可愛いわたしを一人にして、ずっと放置しているんですもの」
「なんだと?」
俺は、剣を抜くと、剣を向けた。
俺の近衛騎士達は、なんと剣を俺に向けたのだ。
忠誠心はどこへ行ったのだ?
「おまえ達、何をしているのか分かっているのか?」
「殺されたくはありません」
「馬鹿な奴だ。おまえ達は今日をもって、近衛騎士の任務を剥奪。剣は捨てろ」
二人は呆然と、剣を落とした。
ガチャンガチャンと金属が落ちた音が二つした。
「主に刀を向け、主の妻に手を出すとは愚か者め。ここで自害するか、極刑を言い渡すか、どちらがいい?」
「ペリオドス王太子殿下、申し訳ございません」
「今更、遅いわ。ここで、自害せぬなら、極刑を言い渡すか。どちらも死だ。どちらが名誉を保てるか?」
近衛騎士達は自害する気になったようだ。
「だが、部屋が汚れる。外で死ね」
近衛騎士達は、着崩れた騎士服を身につけると、そのまま逃走した。
俺は追わなかった。
「ジュリアン、おまえは、どんな淫乱なのだ?俺の妻ではなかったのか?」
ベッドの下には、帝国で買ったドレスが落ちている。
俺に強請って、買ってもらったドレスで、俺の近衛騎士達を誘惑したのだろう。
なんとけしからん。
恥と言うものは、ないのか?
この女は、心根が腐っておる。
体臭も臭いが、ジュリアン自体が腐っておるのだ。
「ジュリアン、今から出掛けるぞ」
「怒ってないの?」
「どうかな?」
ジュリアンは情事の残った体に、真新しいドレスを身につけた。
「馬車の準備をしてもらってくる」
「はい」
俺は、いったん部屋から出ると、すぐに宰相が現れた。
俺を監視している事は、ずいぶん前から気づいている。俺が動けば、この男は姿を現す。
「娼館のある場所を教えて欲しい」
「それならば」
宰相は帝国で有名な娼館を教えてくれた。
「いや、そうではなく、平民が利用するような、汚い場所で構わない」
「では、こちらはどうでしょう。貧民街の近くにある薄汚い建物で……」
ついでに馬車の手配もした。
ジュリアンを連れて、馬車に乗った。
ジュリアンは化粧を直したのか、ずいぶん色っぽい顔をしている。
つい先ほどまで、3人で楽しんでいたのだから、色っぽい顔もするだろう。
馬車は、娼館の前で止まった。
「降りなさい」
「はい、ずいぶん殺伐とした場所ね」
「ああ、ジュリアンには似合いの場所だろう」
「なんですって?」
俺はジュリアンをエスコートして、娼館の奥へ入っていった。
これは旦那、今日はどんな要件で」
「この女を売りたい」
「なんですって」
「黙れ」
俺はジュリアンの腹を蹴った。
こんな女など欲しいと思った自分が恥ずかしい。
蹲ったジュリアンを放置して、話を付ける。
「幾らで買ってくれる?こいつは、ドゥオーモ王国の第二夫人だ」
「ほう」
「俺はドゥオーモ王国の王太子だ」
「それは旦那、いえ、王太子様、奥さんを売るのですか?」
「誰にでも足を開く女など、もう、いらんわ」
「そうか、ならば、10000ペルでどうですか?」
「いいだろう」
「どうもありがとうございます」
「では、後は頼む」
俺は金をもらうと、ジュリアンを置き去りにした。
追いかけてこようとしたジュリアンは、娼館の男に捕まった。
「おまえとは離縁だ」
「リオス」
「喧しい!」
俺は馬車に乗った。
10000ペルで、なんとかドレス代は取り戻せただろう。
誰にでも足を開く女ならば、娼館におれば、嬉しかろう。
第二夫人の座は、自分で捨てたのだから。
俺は宮殿に戻った。
馬車が止まると、宰相が出てきた。
「ジュリアン様は?」
「娼館に売ってきた」
「これは、また」
宰相は面白そうに口元で嗤った。
「誰にでも足を開く女など要らぬ」
「そうでございますね」
宰相はにこやかに相槌を打った。
その日の夕食から、焼き魚は出てこなくなった。
久しぶりに食べる肉は、やはり旨い。
ドゥオーモ王国では手に入らないフルーツは甘くて美味しい。
最初から、父上が言ったように、平民上がりの男爵家の三女など嫁にもらわなければよかったのだ。
間違ったのは、母の歪んだ教育のせいだろう。
父の言うことを聞いておけばよかったのだ。
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