《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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35   美しいドレス

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 婚約披露パーティーの日程が瞬く間に決められてしまった。

 まだ、元夫のペリオドス様に、何も告げていないのに、この際、婚約披露パーティーで告げればいいと皇帝陛下に言われた。

 いいのだろうか?

 折角の婚約披露パーティーで騒ぎを起こされるのは、とても嫌だ。

 けれど、クラクシオン様は、わたしをペリオドス様に会わせるつもりはないようだ。

 また手を上げられたらと、心配している。

 今度はクラクシオン様が守ってくださるとおっしゃっていたけれど、それとこれは違うようだ。

 今日は、ドレスを見に行く予定になっている。

 アロージョ医師曰く、順調に体調は戻っていると言う。

 貧血はまだあるが、血液検査の値が正常値まで戻っていると言うので、外出許可も出ている。

 貧血も食事療法で治るらしい。

 よかった。

 お腹の痣も痛まなくなってきた。

 頬の腫れも引いた。切れていた唇も治った。

 実際、体調もよくなっている。

 目の下の隈もすっかりない。


「マリアナ、そろそろ行こうか?」

「はい」


 部屋の中にクラクシオン様が迎えに来た。

 わたしは持っている中で、一番、新しいドレスを着た。

 実際、この一着以外は、丈が短い。体に合っていないのだ。

 痩せていたので、着られたが、どれも古い物ばかりで見窄らしい。

 クラクシオン様は、わたしを見て、微笑む。


「最高に綺麗にしてやろう。古い物ばかりで見窄らしい」


 わたしも微笑む。

 元の素材があるんだから、ドレスに着られると思うの。

 でも、好きな人に飾ってもらえるのを楽しみにしていたから、今日は楽しみにしているの。


「さあ、行こう」


 クラクシオン様はわたしの手を握った。

 メイドは深く頭を下げた。



 ドレス屋に入った瞬間、あまりの美しさに、ポカンと天井を見上げて、並んでいるドレスを見回した。

 天井には、シャンデリアが輝き、ドレスは色別に並んでいる。

 色彩が鮮やかで、まるで虹の中にいるようだ。

 そこはまさしく異世界のごとく煌びやかな世界で、現実を忘れそうになってしまう。

 一歩、踏み出したとき、ドレスの裾から覗いた自分の靴を見て、すぐに現実に戻った。

 わたしは、なんて見窄らしいドレスに靴を履いているのだろうと。


「これは、クラクシオン皇太子、今日はやっと見つけた婚約者様を連れてきたのか?」

「テスタ、俺の愛するマリアナだ。やっと取り戻した」

「約束だったから、いい物を作ってやる」

「それは楽しみだ」


 クラクシオン様は煌びやかな洋服を着た洋服店の男性と、肩を叩きながら話し出した。

 どうやら知り合いのようだ。


「マリアナ、こいつは、俺の友人で人気デザイナーのテスタだ。どんなドレスでも簡単に作るから、どんな無理難題でも言っていいよ」

 わたしは、その言いようにクスッと笑った。

 きっと、気心知れた友人なのだろう。


「初めまして、マリアナと申します」


 わたしはお辞儀をした。

 テスタという男性は、わたしの素性を知っているのか、目を細めて、嬉しそうに頷いた。


「クラクシオンの悪友のテスタ・クラウンです。いちおう、侯爵令息です。幼い貴方とも遊んだ事があります。マリアナ、おかえり」

「えっと、ただいま」


 テスタは手を差し出した。どうやら握手のようだ。

 わたしはテスタと握手をした。

 テスタは幼い頃のわたしを知っているようだ。

 つい、ただいまと言ってしまった。

 握手を終えると、クラクシオン様がわたしの頭をポンポンと撫でる。


「俺もお帰りと言えばよかったな」


 そんな言葉で喜んでもらえるなら、いくらでも言える。


「クラクシオン様、ただいま」

「おかえり、マリアナ」


 クラクシオン様は嬉しそうにわたしを抱きしめた。


「今日は婚約パーティーのドレスと結婚式のウエディングドレスも作っておけ。普段着もいるな。抱き合っていないで、ドレスを見ろよ」


 テスタ様はクラクシオン様の肩をトントンつついて、ドレスが掛かっている方を指さした。

 そうして、テスタ様はスケッチブックを開いた。

 椅子に座ると、絵を描き出した。


「何色が好き?」

「どの色が似合うかしら?」

「好きな物を選んでいいんだよ」

「そうしたら、クラクシオン様の瞳の色のドレスが欲しいです」

「マリアナも同じ色をしているだろう」

「わたしの色ではなく、クラクシオン様の色にしたいの」


 ふわりと額に唇が触れて、クラクシオン様は微笑んだ。


「では、その色のドレスをまず選ぼう」

 濃紺でシルクの輝きで、まるで宝石のようなドレスを一緒に選んだ。

 その後は、クラクシオン様の髪色のドレスを選んだ。

 二着を選んで、わたしはもう満足してしまった。


「二着では足りないであろう。まだ選ぶぞ」

「そんなに要らないわ」

「欲のない。もっと華やかな物も選びなさい」


 クラクシオン様はいろんなドレスを、わたしに宛てがって、何着か選んでくださいました。

 美しい虹色に輝く白いドレスもありました。

 こんなに美しいドレスは、初めて拝見しました。

 手触りも滑らかで、見た目ほど重くないのです。

 ドゥオーモ王国には、ない物です。


「クラクシオンとマリアナ、ここに来てくれ」


 何着かドレスを選んだ後に、テスタ様に呼ばれて、店の中にあるソファーに座った。

 店の奥から店員が出てきて、テーブルの上にお茶を並べていった。


「いろいろ描いてみた。茶でも飲みながら選んでくれるか?」

「どれ、見せてみろ」

「ついでにおまえのも描いておいた。揃いで作っておけ」

「それは助かる」


 二人は、本当に仲がいいのだろう。

 掛け合う言葉遣いでも、それが分かる。

 クラクシオン様はスケッチブックをわたしが見えるように広げた。


「気に入った物があれば、言って欲しい」

「はい」


 スケッチブックをゆっくり捲っていく。

 見たこともない洗練されたドレス絵が描かれている。

 女性の物だけの時と、男性と一緒に並んだもの。

 どれも素敵で、わたしはうっとりとその絵を見ていた。

 ウエディングドレスも描かれている。

 最初の結婚式の時は、ウエディングドレスすらなかったことを思い出した。


「わたし、ウエディングドレスは初めてなのよ。素敵ね」


 クラクシオン様は、やはり驚いた顔をされたけれど、その後に、嬉しそうに微笑んだ。


「ならば、豪華な結婚式を挙げよう」

「質素でいいのよ。でも、ウエディングドレスは着てみたいわ」

「その願いは必ず叶えよう」


 クラクシオン様は惜しげもなく、わたしの額に再びキスをして、頁を捲っていった。

 一通り見た後は、今度はドレスを選んでいった。

 遠慮をするわたしに、クラクシオン様とテスタ様が選んでくださいました。

 最後に、体の寸法を女性店員に測ってもらい、選んだドレスはわたしのサイズに直されました。

 靴も揃えてくださいました。

 この店は宝の宝庫なのか、ドレス用のバックも出てきます。

 靴もバックも、テスタ様がコーディネートしてくださいました。

 ドレスを選んだ後、わたしは初めて、帝国のレストランに連れて行ってもらった。

 わたしのドレスはテスタ様が選んだ薄紅色のドレスを着ている。

 もう見窄らしいドレスは捨てなさいと、クラクシオン様がおっしゃったのだ。


「そのドレスは、あちらの国王陛下がマリアナに与えた物だろう?もう生地も古いし、何より、人質にした者から贈られたドレスなど着るな」とクラクシオン様は国王陛下がくださったドレスを破棄した。


 その通りだと思った。

 国王陛下のせいで、わたしの人生は変わってしまった。

 母を殺されたかもしれない。父は、殺されたと思えるのだ。

 わたしの味方は、国王陛下しかいなかったが、その国王陛下がわたしを騙していたなら、わたしは両親と兄様の為にも国王陛下は許してはならないと思うのです。

 新しいドレスを着て、レストランに入って、帝国で流行っているという料理をいただいた。

 とても美味しい料理だった。

 宮殿で出される料理も美味しいが、また違った味がした。

 その後に、宝石店に連れて行かれた。

 もう十分よくしてもらったのに、クラクシオン様は宝石でわたしを飾りたいとおっしゃったのだ。

 ドレスに似合うからと、値段もついていないルビーのネックレスを、わたしにはめてくださいました。

 とても珍しいルビーだとか。

 その価値も分からないわたしが身につけていいのだろうかと思ったが、惜しげもなくルビーで飾られたネックレスは、ロング丈でとても珍しい物だということは分かった。

 それをクルクルと二重に巻いたら、ドレスにとっても似合っています。

 それから、婚約披露パーティーの時に身につける宝石や普段着で身につける宝石。

 髪留めやティアラも買ってくださいました。

 もう十分なのに、クラクシオン様はわたしと瞳の色とよく似た宝石を見つけて、それまで追加で買ってくださいました。

 わたしは綺麗に飾られて、恥ずかしいけれど、とても嬉しかった。


「下着や化粧品は、俺では、入れない場所なので、母上と妹達に頼もうと思うのだが、嫌か?」

「いいえ、皇后様達は、ご迷惑ではありませんか?」

「マリアナと話したがっている」

「それでしたら、また紹介ください。この間は、緊張してしまって、頭の片隅に残っているだけですので。失礼のないように致します」

「そう畏まらなくていい。母上も妹達も懇意にしていた者達だ」

「では、お願いします」


 わたしの明日の予定は決まった。

 緊張するけれど、いつまでもクラクシオン様だけと一緒にいてはいけない。

 今、クラクシオン様は公務を休んで、わたしに付き合ってくださるけれど、ずっとではない。

 わたしは自分の足で立って、いろんな方と交流しなくてはならない。

 いずれ、兄様にもう一度会って、きちんと謝罪をしなくてはならないと思うのです。


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