《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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 朝目を覚ますと、ベッドの上のジュリアンは、ベッドの真ん中でだらしなく、またボタンを外した状態で寝ていた。

 部屋の中が饐えた匂いがするのだ。酸っぱいような気分の悪くなる匂いだ。

 その匂いの元凶はジュリアンだ。

 顔も洗わず、歯も磨かず、お風呂にも入らず、そのくせ、窮屈なドレスを着たまま眠っているので、暑いのだろう。

 ボタンが腹まで外されている。

 ベッドの真ん中で、大の字で寝ている。

 相変わらず、イビキをかいている。

「ぐかっ、ぐぅ~」と。

 酒を飲んで、酒に飲まれて寝ているので、アルコール臭も混ざっている。

 この姿を見たら100年の恋も冷めるだろう。

 実際、冷静になれた俺は、もうジュリアンの顔も見たくはないのが現状だ。

 この部屋の窓は開いているが、風はあまり入ってこない。

 臭い匂いが充満して、気分が悪くなる。

 外の空気でも吸ってこようかと部屋を出ようと扉を開けると、部屋の外に宰相が歩いていた。


「おはようございます」

「おはようございます」

「今日は早いお目覚めですね。朝食の時間を早く致しましょうか?」

「いいえ、まだ連れは寝ていますので」

「そうですか、ではどちらに?」

「少し外の空気を吸って、シャワーを浴びたいと思いまして」

「この時間のお風呂の湯は流されておりますが、シャワーなら浴びられます。散歩でしたら、この先の階段を降りていただき、騎士が立っている出入り口から、外に出られます。出て右に曲がれば、涼やかな風が吹く東屋があります」

「ご親切、ありがとうございます」

「いいえ」

 通り過ぎようとしたが、どうしても気になることがあった。

 帝国に来る前の宿屋で、酷く扱ったマリアナの事が気になって仕方がない。

「あの、マリアナの体の具合は如何でしょうか?」

「顔を殴り、腹まで蹴った相手を心配されているのですか?」

「あの時は感情的になってしまったのです。まだ寝込むほど、体調が悪いのかと気になりまして」

「寝込んでおりますが、医師が診ておりますので、ご安心を」

「俺はそれほど強く妻を痛めつけてしまったのか?」

「紳士としては最低な事をなさったと思いますよ」


 宰相の瞳が、冷たい刃のように煌めいたのを感じて、瞬時に体に震えが走った。

 殺意に似た眼差しに、怯んでしまった。

 この男は、ただ者ではない。

 俺は、俺達はもしかしたら監視されているのだろうか?

 でも、まさか?そこまでされるのか?

 帝国に招かれた身だ。

 言ってみれば、俺達は客人だ。

 でも、確実に俺のことを最低な男だと思っているのだな?

 実際に最低な男だな。


「では、食事の時間に迎えに参ります」


 宰相は爽やかにお辞儀をして、去って行った。

 俺は先にシャワーを浴びに行くことにした。

 宰相は『会わせる』とは言わなかった。と言うことは、会わせる気がないのだ。

 俺はシャワーを浴びて、教えてもらった東屋を散歩して、部屋に戻ってきた。

 ジュリアンはまだ眠っていた。

 俺はメイド達を呼んだ。


「すぐに起こして、シャワーを浴びさせ、この臭い匂いをどうにかしてくれ」

「畏まりました」


 メイド達は寝起きの悪いジュリアンを起こして、大浴場に連れていき、身支度を調え綺麗にしてくれた。

 身支度を調えたジュリアンからは、不快な匂いはしなかったが、アルコールの匂いが残っていた。

 酒の飲み過ぎだ。

 全く呆れる。

 自分の限界も分からず、酒を飲むのも。

 魚料理が続いたくらいで、騒ぐのも恥ずかしい。

 王族に嫁ぐなら、せめて淑女のマナーくらいは身につけてほしいものだ。


「リオス、ごめんなさい」

「今日は何も欲しがるな」

「今日はまだどこにも行ってないのよ」

「黙れ!文句があるなら、今日はどこにも行かずに部屋におればいい」

「文句なんて、まだ言ってないわ」

「それが文句であろう」

「今日のリオスは、とても冷たいわ」

「自分が情けないと思わぬのか?魚料理くらい、自分で食べられるようになれ。みっともない」

 ジュリアンは口を尖らせて、涙を浮かべる。

 その顔を可愛いと思っていたが、今はもう思わないのが不思議だ。

 俺は、その顔を見たくなくて、窓辺により、新鮮な空気を吸った。

 その日の外出は、断った。

 ジュリアンは文句を言ったが、どうでもよかった。

 自分を振り返る時間が欲しかった。

 ジュリアンを部屋に残して、朝出掛けた東屋にいた。


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