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32 変化
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朝目を覚ますと、ベッドの上のジュリアンは、ベッドの真ん中でだらしなく、またボタンを外した状態で寝ていた。
部屋の中が饐えた匂いがするのだ。酸っぱいような気分の悪くなる匂いだ。
その匂いの元凶はジュリアンだ。
顔も洗わず、歯も磨かず、お風呂にも入らず、そのくせ、窮屈なドレスを着たまま眠っているので、暑いのだろう。
ボタンが腹まで外されている。
ベッドの真ん中で、大の字で寝ている。
相変わらず、イビキをかいている。
「ぐかっ、ぐぅ~」と。
酒を飲んで、酒に飲まれて寝ているので、アルコール臭も混ざっている。
この姿を見たら100年の恋も冷めるだろう。
実際、冷静になれた俺は、もうジュリアンの顔も見たくはないのが現状だ。
この部屋の窓は開いているが、風はあまり入ってこない。
臭い匂いが充満して、気分が悪くなる。
外の空気でも吸ってこようかと部屋を出ようと扉を開けると、部屋の外に宰相が歩いていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「今日は早いお目覚めですね。朝食の時間を早く致しましょうか?」
「いいえ、まだ連れは寝ていますので」
「そうですか、ではどちらに?」
「少し外の空気を吸って、シャワーを浴びたいと思いまして」
「この時間のお風呂の湯は流されておりますが、シャワーなら浴びられます。散歩でしたら、この先の階段を降りていただき、騎士が立っている出入り口から、外に出られます。出て右に曲がれば、涼やかな風が吹く東屋があります」
「ご親切、ありがとうございます」
「いいえ」
通り過ぎようとしたが、どうしても気になることがあった。
帝国に来る前の宿屋で、酷く扱ったマリアナの事が気になって仕方がない。
「あの、マリアナの体の具合は如何でしょうか?」
「顔を殴り、腹まで蹴った相手を心配されているのですか?」
「あの時は感情的になってしまったのです。まだ寝込むほど、体調が悪いのかと気になりまして」
「寝込んでおりますが、医師が診ておりますので、ご安心を」
「俺はそれほど強く妻を痛めつけてしまったのか?」
「紳士としては最低な事をなさったと思いますよ」
宰相の瞳が、冷たい刃のように煌めいたのを感じて、瞬時に体に震えが走った。
殺意に似た眼差しに、怯んでしまった。
この男は、ただ者ではない。
俺は、俺達はもしかしたら監視されているのだろうか?
でも、まさか?そこまでされるのか?
帝国に招かれた身だ。
言ってみれば、俺達は客人だ。
でも、確実に俺のことを最低な男だと思っているのだな?
実際に最低な男だな。
「では、食事の時間に迎えに参ります」
宰相は爽やかにお辞儀をして、去って行った。
俺は先にシャワーを浴びに行くことにした。
宰相は『会わせる』とは言わなかった。と言うことは、会わせる気がないのだ。
俺はシャワーを浴びて、教えてもらった東屋を散歩して、部屋に戻ってきた。
ジュリアンはまだ眠っていた。
俺はメイド達を呼んだ。
「すぐに起こして、シャワーを浴びさせ、この臭い匂いをどうにかしてくれ」
「畏まりました」
メイド達は寝起きの悪いジュリアンを起こして、大浴場に連れていき、身支度を調え綺麗にしてくれた。
身支度を調えたジュリアンからは、不快な匂いはしなかったが、アルコールの匂いが残っていた。
酒の飲み過ぎだ。
全く呆れる。
自分の限界も分からず、酒を飲むのも。
魚料理が続いたくらいで、騒ぐのも恥ずかしい。
王族に嫁ぐなら、せめて淑女のマナーくらいは身につけてほしいものだ。
「リオス、ごめんなさい」
「今日は何も欲しがるな」
「今日はまだどこにも行ってないのよ」
「黙れ!文句があるなら、今日はどこにも行かずに部屋におればいい」
「文句なんて、まだ言ってないわ」
「それが文句であろう」
「今日のリオスは、とても冷たいわ」
「自分が情けないと思わぬのか?魚料理くらい、自分で食べられるようになれ。みっともない」
ジュリアンは口を尖らせて、涙を浮かべる。
その顔を可愛いと思っていたが、今はもう思わないのが不思議だ。
俺は、その顔を見たくなくて、窓辺により、新鮮な空気を吸った。
その日の外出は、断った。
ジュリアンは文句を言ったが、どうでもよかった。
自分を振り返る時間が欲しかった。
ジュリアンを部屋に残して、朝出掛けた東屋にいた。
部屋の中が饐えた匂いがするのだ。酸っぱいような気分の悪くなる匂いだ。
その匂いの元凶はジュリアンだ。
顔も洗わず、歯も磨かず、お風呂にも入らず、そのくせ、窮屈なドレスを着たまま眠っているので、暑いのだろう。
ボタンが腹まで外されている。
ベッドの真ん中で、大の字で寝ている。
相変わらず、イビキをかいている。
「ぐかっ、ぐぅ~」と。
酒を飲んで、酒に飲まれて寝ているので、アルコール臭も混ざっている。
この姿を見たら100年の恋も冷めるだろう。
実際、冷静になれた俺は、もうジュリアンの顔も見たくはないのが現状だ。
この部屋の窓は開いているが、風はあまり入ってこない。
臭い匂いが充満して、気分が悪くなる。
外の空気でも吸ってこようかと部屋を出ようと扉を開けると、部屋の外に宰相が歩いていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「今日は早いお目覚めですね。朝食の時間を早く致しましょうか?」
「いいえ、まだ連れは寝ていますので」
「そうですか、ではどちらに?」
「少し外の空気を吸って、シャワーを浴びたいと思いまして」
「この時間のお風呂の湯は流されておりますが、シャワーなら浴びられます。散歩でしたら、この先の階段を降りていただき、騎士が立っている出入り口から、外に出られます。出て右に曲がれば、涼やかな風が吹く東屋があります」
「ご親切、ありがとうございます」
「いいえ」
通り過ぎようとしたが、どうしても気になることがあった。
帝国に来る前の宿屋で、酷く扱ったマリアナの事が気になって仕方がない。
「あの、マリアナの体の具合は如何でしょうか?」
「顔を殴り、腹まで蹴った相手を心配されているのですか?」
「あの時は感情的になってしまったのです。まだ寝込むほど、体調が悪いのかと気になりまして」
「寝込んでおりますが、医師が診ておりますので、ご安心を」
「俺はそれほど強く妻を痛めつけてしまったのか?」
「紳士としては最低な事をなさったと思いますよ」
宰相の瞳が、冷たい刃のように煌めいたのを感じて、瞬時に体に震えが走った。
殺意に似た眼差しに、怯んでしまった。
この男は、ただ者ではない。
俺は、俺達はもしかしたら監視されているのだろうか?
でも、まさか?そこまでされるのか?
帝国に招かれた身だ。
言ってみれば、俺達は客人だ。
でも、確実に俺のことを最低な男だと思っているのだな?
実際に最低な男だな。
「では、食事の時間に迎えに参ります」
宰相は爽やかにお辞儀をして、去って行った。
俺は先にシャワーを浴びに行くことにした。
宰相は『会わせる』とは言わなかった。と言うことは、会わせる気がないのだ。
俺はシャワーを浴びて、教えてもらった東屋を散歩して、部屋に戻ってきた。
ジュリアンはまだ眠っていた。
俺はメイド達を呼んだ。
「すぐに起こして、シャワーを浴びさせ、この臭い匂いをどうにかしてくれ」
「畏まりました」
メイド達は寝起きの悪いジュリアンを起こして、大浴場に連れていき、身支度を調え綺麗にしてくれた。
身支度を調えたジュリアンからは、不快な匂いはしなかったが、アルコールの匂いが残っていた。
酒の飲み過ぎだ。
全く呆れる。
自分の限界も分からず、酒を飲むのも。
魚料理が続いたくらいで、騒ぐのも恥ずかしい。
王族に嫁ぐなら、せめて淑女のマナーくらいは身につけてほしいものだ。
「リオス、ごめんなさい」
「今日は何も欲しがるな」
「今日はまだどこにも行ってないのよ」
「黙れ!文句があるなら、今日はどこにも行かずに部屋におればいい」
「文句なんて、まだ言ってないわ」
「それが文句であろう」
「今日のリオスは、とても冷たいわ」
「自分が情けないと思わぬのか?魚料理くらい、自分で食べられるようになれ。みっともない」
ジュリアンは口を尖らせて、涙を浮かべる。
その顔を可愛いと思っていたが、今はもう思わないのが不思議だ。
俺は、その顔を見たくなくて、窓辺により、新鮮な空気を吸った。
その日の外出は、断った。
ジュリアンは文句を言ったが、どうでもよかった。
自分を振り返る時間が欲しかった。
ジュリアンを部屋に残して、朝出掛けた東屋にいた。
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