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12 使者
しおりを挟むクラクシオン皇太子殿下が帰国して、1週間後帝国から使者が訪れた。
使者は帝国の宰相のようで、手紙を預かってきていた。
その手紙には、先日の視察のお礼と両国の親睦を深めるために王太子、王太子妃を招待します。と書かれていた。
帝国の宰相様は、第二夫人の訪問も是非にと言われておりますと、付け加えた。
国王陛下は、是非、訪問致しますと答えた。
わたしも使者の宰相様にお辞儀をした。
折角、帝国からの使者が訪れたと言うのに、肝心のペリオドス王太子殿下は第二夫人と出かけて留守だった。
最近、あの王子と第二夫人は、街に来ている遊園地に夢中なのだ。
興行期間は三ヶ月。各地を回っている為に、その期間だけしか遊べないと言っていた。
夢中になっているのは、第二夫人の方で、毎日のように遊びに連れて行って欲しいと強請っている。
馬に乗ってくるくる回るメリーゴーランドという乗り物が楽しいのだと夕食の時に話していた。
馬なら、本物の馬に乗る練習をすればいいのに……と思っても、口が裂けてもそんな生意気なことは言えない。
ペリオドス王太子殿下は、そんなジュリアン様が可愛いと言っているから、国王陛下が仕事をしろと言っても聞かないのは、もう今更といった感じだ。
今日もキラキラに着飾ったジュリアン様を連れて遊園地に出掛けている。
帝国の使者は返事を聞くと帰国していった。
国王陛下は、使者を見送るとホッとしたように息を吐いた。
我が国のような小国は、帝国に目を付けられたら、ほんの数日のうちに制圧されてしまう。
いざこざは起こさないようにしなくてはならない。
「マリアナ、どうか無事に帝国との関係を護ってくれ。あの王子は信用ならん」
「国王陛下、ペリオドス様はきちんとするところでは、きちんとしてくださると思います」
「ジュリアンを伴っていく事が、まず心配なのだ。あの王子はジュリアンの言いなりだ。全く、威厳という物がない。その上、執務もしない。情けない息子だ」
「……国王陛下」
心労が絶えないのだろう。
ペリオドス王太子殿下の行動や言動は、とてもこの国の王太子とは思えない。
わたしも彼を情けないと思うが、挿げ替えようもない。
第一王子は、ペリオドス様なのだから、どうしようもない。
「国王陛下、一つ伺いたいことがあります」
「なんだ?」
「わたしの母の事です」
「ああ、カナール女史であるか?」
「カナール、母様の名前ですね」
「ああ」
「わたしは事故の時に記憶を無くしております。あの事故は、どうして起きたのでしょう?馬車の車輪はそんなに簡単に外れたりはしないと思うのです。郊外であっても街道で、そんなに早く馬車が走ることはあるのでしょうか?」
「あの事故は、不幸が重なった事故であった」
「本当に、ただの事故だったのですか?母様は殺されたのではありませんか?」
国王陛下はわたしをじっと見て、「見たのか?」と尋ねられた。
「はい、わたしが大金で買われてきた契約書を読みました」
「そうか、女史の子であるなら、賢い子であろうと、次期王太子妃にするために、父親と契約した」
「わたしは父の顔すら思い出せません。父は愛人を連れてきました。父が母様を殺したのではありませんか?」
「あの事故は、正真正銘、事故であった」
「本当に?」
「私は今まで、マリアナに嘘など言ったことはあったか?」
「ありません」
味方は、国王陛下だけでした。
「もう忘れてしまった過去のことを考えるのは止めなさい。あの事故は不幸な事故だった。検証もしっかり成された物だ」
「はい」
母様は本当に事故で亡くなったのだと、わたしの心に刻まれた。
「父親に会いたければ、会わせることはできるが、もう新しい家庭を作っておるが会いたいか?」
「いいえ、会いたいと思った事はありません。新しい家庭にも興味はございません」
「会いたくなったら、言いなさい」
わたしは、首を左右に振って、頭を下げた。
心の中でくすぶっていた物が少し晴れた気がした。
「マリアナは私の子だ。帝国に行くのなら、ドレスを新調しようか?」
「わたしの予算はありません」
「私の予算を使おう。第二夫人の予算を使わせてもらおう」
「いいえ、わたしはある物で構いません」
わたしはお辞儀をして、国王陛下の前から下がった。
国王陛下の子であると言われた事が嬉しかった。
飾るドレス等なくても、どうでもいいことだ。
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