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第十九章
6 出産
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冬の親睦会で直輝と大輝が誘拐されてから、何事もなく春を迎えた。
晴輝は5年生になり、輝明は3年生、彩花は2年生、直輝は年長に、大輝は年中になった。
優花は、もういつ生まれてきてもいい状態だ。
冬の親睦会で、情緒不安定になった事もあったけれど、直輝と大輝がすぐに日常に戻って、加羅さんと宇賀田さんと武術のトレーニングを始めて、彩花の優しいピアノの曲を聴いていたら、わたしも精神が落ち着いてきた。
優花が生まれるまでにしておきたい事を、思いだした。
作りかけだった、子供の学習プログラムだ。
わたしは手作りの問題集を作っている。
目標は大学受験までだ。どこの学部に行くかは自分で決めればいい。
『どこでも行けます』と学校の先生に言わせてみせる。
高校2年まではできていた。残りの1年は受験対策もある。
授業の解説問題集はすぐにできあがった。
5教科。ポイントにラインを引いて、問題集は穴開けにして、答えも解説付きで、付けておく。
一般教養を終えて、受験対策もしっかりしておく。
数学は、出やすい問題から難解問題も答えには解説を付けておく。
優花が生まれてからでは、時間が取れなくなると思う気持ちと、今、しておかなければ後悔するような気もしてい
た。
どうしてかは、分からない。
今できることを、しっかりやろうと思った。
全て作り終えた問題集を晴輝に見せたら、顔を強ばらせていた。
「これは、大学受験までの問題集だから、自分のペースですればいいのよ」
「でも、すごい量だよ」
「これから、いっぱい勉強しなければならないの。これはママが必要だと思った分だけよ。他にもすべきことは多くあると思うけれど、その時に応じて、きちんと勉強しなさいね」
「はい」
「これは、ママの部屋に置くから、勉強が進んだら、パパの部屋でコピーさせてもらって、使ってね。輝明や彩花、直輝、大輝にも教えてあげて」
「分かった」
わたしは、部屋に専用の本箱を置いてもらった。そこに片付けた。ファイルには、学年、教科が書かれている。
「ママはすごいな」
光輝さんは半分呆れている。
問題集なら、本屋で買える。
けれど、ここが出やすいとポイントで教える方法は、あるかもしれないけれど、ないかもしれない。
「ママはいっぱい勉強したの?」
「いっぱい勉強したよ。中学時代からは寝るのも惜しんで勉強した。晴輝は文字を綺麗に書くけれど、輝明は文字が雑だから、文字は綺麗に書くように教えて欲しいの。漢字と英単語はたくさん覚えなさい。漢字検定も受けるといいわ。ママは勉強をしたけれど、試験を受けるお金がなかったの。だから級は持ってないの。しっかり勉強して試験を受けなさい」
「はい」
「光輝さん、お願いします」
「美緒、どこかに行くようなお願いの仕方は止めてくれ」
「どこにも行かないわ」
光輝さんは、わたしをじっと見ていた。
不安そうな光輝さんに笑顔を見せた。
「お寿司、そろそろ皆で食べに行けるかしら?」
「行ってみるか?大将に相談して、年齢に合わせた物を作ってもらおう」
「晴輝、お寿司を食べに行くから、皆に言ってきてくれる?」
「はい」
「加羅さん達も一緒に行って欲しいとお願いしていてくれ」
光輝さんは、わたしの後に急いで指示を出した。
「分かった」
晴輝は喜んで出て行った。
「美緒、何か不安でもあるのか?」
「もし、わたしか優花を選択しなければならなくなった時に、優花を選んで欲しいの」
「体の具合が悪いのか?」
「元気よ。でも、脅迫文……万が一の事が起きるかもしれない。優花はわたしなの。誰からも愛されなかったわたしの代わりに、彩花にも愛されたい。兄妹達や親からも愛されたい。優花が愛されたら、わたしの孤独だった気持ちが救われるような気がするの。だから、お願いします」
胸が詰まって、涙が流れる。
助けてと叫んでいたわたしが、救われる日が来ると思うと嬉しい。
そこにわたしがいなくても、優花が代わりに愛されてくれれば救われる。
「美緒が愛さなかったら、優花は寂しい想いをするよ?自分の事を忘れるな」
光輝さんは、わたしの両肩を掴んで、真っ直ぐにわたしを見ている。
母親に愛されたかった。
その想いも思い出した。
「……そうね、そうだったわ。忘れていたわ」
「まだ孤独なのか?」
「今は幸せだよ。でも、不安なの」
「脅迫文の事は忘れなさい」
「はい」
「きちんと守る」
「ありがとう」
わたしは光輝さんに抱きついた。
光輝さんも抱きしめてくれる。
不安だった気持ちが、薄れていく。
…………………………*…………………………
初めて子供達とお寿司を食べに行った。
特上はカロリーが高いので、並を勧められた。幼稚園組は火が通された物とマグロが出された。
マグロには寄生虫はいないらしい。
子供達のお皿は、大将が考えた初めてのお寿司セットになった。
加羅さん達にもご馳走する。
ウニやイクラが苦手だと水野さんと宇賀田さんが言うので、並で頼んだ。
加羅さんは好き嫌いはないと言うので特上で頼んだ。
お産前の最後のお寿司だと思った。
優花の栄養になればいい。
優花の推定体重は2500gだと言われている。
今までで一番大きい。
これ以上、大きく育ちすぎると、自然分娩ができなくなるので、出産日を決められている。
明日の月曜日に、入院して誘発剤を使うと言われている。
お寿司を食べて、お店から出てくると、偶然、桜子さん一家と鉢合わせした。
「こんにちは」
「こんにちは、美緒さん、また妊娠しているの?」
「ええ、もうすぐ出産です」
「あらそう。そんなにたくさん産んでどうするの?」
桜子さんのお母様は、かなり毒舌だ。
「うちの桜子も子供を産みすぎて、大変な事になって、これでは再婚もできないわ」
桜子さんのお母様は桜子さんを再婚させたいのだと知った。
「こんなに子供を産むから、お話も流れるし、縁談もないのよ。全く、有喜に騙されて、桜子は不幸になってしまったわ」
「お母さん、子供達もいるのよ」
桜子さんは、落ち着いた色のネイルをしていた。
チェックのネイルは、桜子さんではないのかもしれない。
直輝と大輝を誘拐した犯人は、結局、まだ見つかっていない。
警察は桜子さんを疑っているが、決定的な証拠が何も見つからない。
捜査は今も続いているが、先が見えない状態だ。
「うちは、跡取りが欲しくて、美緒にお願いしているんですよ。妊娠中は大変なのに、俺のお願いを聞いてもらっているんです」
うちの子達は立って、じっと待っているが、桜子さんの子供達は落ち着きがない。
ふざけ合って、じゃれている。
年齢相応なのかもしれないけれど、有名私立の小学校と幼稚園に通っているなら、もう少し、落ち着きがあってもいいと思うけれど。
「まあ、光輝の仕事は多忙だから、分散しようとすれば、子供はたくさんいた方がいいと思うけれど、女の子は要らないわね」
わたしは、言われた言葉に、衝撃を受けた。
彩花!
思った通り、彩花は驚いた顔をしている。
「彩花も大切な跡取りです。今の時代女性が社長になってもおかしくはありません。うちは分け隔てなく育てていますから」
わたしの中で、感情の糸がプツリと切れた。
わたしは、我慢ができずに、声を張り上げた。
彩花がホッとした顔をした。
晴輝が彩花の手を握った。
泣きそうな彩花を慰めている。
「訂正してください。女の子は要らないと言われましたが、それなら、桜子さんも要らない子ですか?」
感情が爆発してしまいそうだ。
我慢ができない。
「失礼な子ね」
「失礼なのは、叔母さんです。桜子は要らない子ですか?」
光輝さんもわたしの質問を重ねて聞いてくれた。
女の子だから要らないと言われ続けたわたしは、どうしても許せない言葉だった。
「桜子は、わたくしの娘です」
「それなら、彩花に謝罪してください」
光輝さんは、彩花を連れてきて、叔母さんの前に立たせた。
「さあ、謝罪をしてください」
「どうして、こんな子供に謝罪などしなくてはならないの」
叔母さんは、癇癪を起こしている。
みっともない姿だ。
「子供でも感情はあります。彩花は、傷つきました。大人としてのケジメを付けてください」
光輝さんも怒っている。
わたしが怒っているのを分かっているのだと思う。
叔母さんは、そっぽを向いている。
桜子さんがやって来て、頭を下げた。
「母が失礼な事を言ってすみません。彩花ちゃん、ごめんね。結婚に失敗しなければ、わたくしのようには、ならないわ」
「……」
彩花は意味が分からないという顔をしている。
光輝さんは、彩花から手を放した。彩花は水野さんにしがみついて、不安そうな顔をしている。
せっかく楽しい時間を過ごしてきたのに、この一家のお陰で台無しだ。
「桜子、女は結婚だけではない。結婚せずに働く者もいるし、結婚してからも働いている者もいる。変な偏見を押しつけるな」
「わたくし、美緒のように頭はよくないの。難しい事は分からないわ」
桜子さんはとぼけることにしたようだ。
これ以上、ここにいても不快になるだけだ。
「帰ろう」
「うん」
子供達が車に乗り始めた。
「でもね、わたくしは小野田家のお嬢様なの。わたくしは溺愛されて育てられたわ。子供の頃から虐待を受けて育った美緒と同じにして欲しくはないわ。身の程知りなさい。野良犬ですごく醜い美緒」
胸に刺さる言葉だった。
桜子さんは、呆然としているわたしの両肩を思いきり突き飛ばした。
「死ねば!」
バランスを崩したわたしは、背後に転んだ。
「うっ!」
尻餅を付いてお腹に衝撃が走り、続いて痛みが襲ってきた。
「あああっ!」
仰向けでいられない。体位を変えて、わたしはお腹を抱えた。
「美緒!」
「「「「「ママ」」」」」
「「「奥様」」」
足を伝い血が流れてきた。
光輝さんは、すぐに救急車を呼んだ。
「10ヶ月の妊婦です。突き飛ばされ転んで出血を起こしています。かかりつけ病院は……」
お店からも店主が出てきて、毛布を借りる事ができた。
駐車場に毛布を敷いて、そこに寝かされた。
スカートは赤く染まり、毛布もすぐに赤くなっていく。
お腹が痛くて、お腹を抱える。
「全く、妊婦がフラフラしているからでしょう」
叔母さんは、謝罪の一つも無い。
「桜子、これは傷害事件だ。分かるか?おまえが殺意を持って美緒を突き飛ばした」
「大袈裟ね、ちょっと押したら、転んだだけでしょう」
「妊婦を突き飛ばしていいと思っているのか?」
「勝手に転んだのは美緒よ。知らないわよ」
「許さないからな」
「わたくしに構ってないで、美緒を見てあげたら?」
「ママ、お腹空いた」
「僕もお腹空いた」
桜子さんの子供達が騒いでいる。
「お店に入りましょうか」
「お寿司を握ってくださいな」
桜子さんと叔母さんは、店主に声をかけた。
七人はお店の中に入っていった。
店主が頭を下げて、お店に戻ったが、奥さんはわたしの腰を撫でてくれている。
「頑張りなさい」と声をかけて。
「ママ、死なないで」
「ママ、嫌だ」
「ママ、負けないで」
「「ママ」」
子供達がわたしの周りに寄って来て、わたしに声をかけてくれる。
わたしは苦しみながら、何度も頷いた。
「美緒、もう少しだ。待っていろ。直ぐに救急車が来る」
救急車がやっときて、救急車に乗せられた。
光輝さんも同乗する。わたしの鞄も持ってきてくれた。
「加羅さん、子供達をお願いします」
「はい」
「「「「「ママ、頑張って」」」」」
子供達の声が聞こえる。
扉が閉められて、救急車はかかりつけの病院に向かった。
…………………………*…………………………
赤ちゃんの心拍が微弱なために、緊急手術が行われた。
まずは、赤ちゃんを取り出して、それから美緒の手術をすると言われた。
中の状態は開けて見ないと分からないと言われた。
ただ見守るだけしかできない。
出血量が多くて、輸血をするそうだ。
出血が止まらなかったら、子宮の摘出をすると言われた。
同意書に名前を書き、ただ待つ。
赤ちゃんがNICUに連れていかれた。
生きているようだ。
ただ泣いてはいなかった。
晴輝の時から出産時の産声を録音してきたが、今回はどう頑張っても取る事はできない。
あそこで桜子達に会わなければ、明日、分娩ができたはずだった。
親同然の叔母を許せない。
妹同然の桜子が許せない。
このままあの家族と親族でいるのが嫌だ。
縁を切ると言ったら、お爺さまは何というか?
扉が開き、美緒が出てきた。
ICUに運ばれた。
医師に呼ばれて、部屋に案内された。
「胎盤が半分剥がれた状態でした。子宮内に出血した状態で、赤ちゃんを取り出しました。赤ちゃんは仮死状態でしたが、ぎりぎり間に合いました。脳障害が残る可能性は0ではありませんが、今のところ自発呼吸はできるようになりました。美緒さんは出血が多く、子宮の摘出を行いました。なんとか止血ができましたので、意識は直に戻ると思います」
「ありがとうございます」
「お子さんはNICUで様子観察いたしますので、お名前を早めに決めていただけますか?」
「名前は優花です。優しい花で優花です」
「それでは役所に出生届をお願いします」
「分かりました」
俺は市役所に行って出生届を提出した。すぐに病院に戻り入院の手続きをした。
だが、まだ美緒の意識は戻っていない。
美緒の面会が許されて、防護服を着て、美緒に会いに行った。
「美緒、優花が生まれたよ」
自発呼吸はあるが、まだ眠っている。
輸血と点滴が繋がっている。
手を握ると、温かい。
夜になっても目を覚まさない美緒にいろんな検査が行われた。
特に異常は見つからなかった。
優花に会えると言われ面会をした。
点滴をされていたが、元気そうだ。
抱かせてもらえた。
2500gの小さな赤ちゃんだ。
写真を撮ってもいいかと確認すると、「いいですよ」と許可が出た。
スマホで何枚も写真を撮った。
看護師さんが優花を保育器の中に入れた。その様子を動画で撮った。
保育器の中の優花も写真で撮った。
面会が終わり、美緒の所に行くが、美緒は目を覚まさない。
俺は真希さんを訪ねて、美緒の事を聞いた。
麻酔の量を間違えたのではないかと疑った。
真希さんは、すぐに調べてくれた。
「手術にミスは見つからない。もう暫く、待ってみたらどうだ」と言われて、ICUに戻る。
朝になっても目を覚まさない。
美緒は一般病棟に移された。けれど、目は覚まさない。
「美緒、目を覚ましてくれ」
手を握って、願う。
自宅に電話をしていなかったので、宇賀田さんが様子を見に来た。
「仮死状態で生まれたが、子供は保育器の中で生きているが、美緒が目を覚まさない」
「奥様」
宇賀田さんは、眠ったままの美緒を見て家に戻っていった。
俺は被害届を出すことにした。
どうしても許せない。
警察で事情を話して、処罰をしてほしいとお願いした。
警察の鏡に映った自分の姿を見て、一度家に戻ろうと思った。
髭が伸びて、目の下に隈ができている。
こんな姿を美緒に見せられない。
自宅に戻ると、子供達が声をかけてくる。
「後だ」
そう言うとシャワーを浴びて、洋服も整える。
「旦那様、食事を召し上がってください」
急いで作ったのだろう、ダイニングに俺の食事だけが置かれていた。
俺は、それを食べた。
食べている間に、自分がすごく空腹だったことに気付いた。
温かいお茶を飲んでいるうちに、菅原さんがおにぎりを作ってくれた。
「どうぞ、お持ちください」
「ありがとう」
俺は身支度をすると、一度、リビングに入った。
不安そうな子供達に話さなければならない。
「ママが目を覚まさないんだ。暫く、病院にいるからいい子で待っていてくれ」
子供達は目に涙を浮かべて、頷いている。
おにぎりを鞄に入れて、病院に出かけた。
まだ美緒は眠っている。
俺は美緒の手を握って、美緒の傍で眠った。
真希さんが美緒の診察に来てくれた。
「異常は見つからない。目を覚まさない理由が分からない」と言った。
また絶望した。
叔母が訪ねて来た。
「桜子が警察に捕まった」と言った。
「子供は仮死状態で生まれた。美緒は子宮を失って、まだ目を覚まさない。桜子が美緒を突き飛ばしたせいだ。責任を取ってもらうからな」
「軽く押しただけでしょう」と叔母は言った。
「何事もなければ、翌日、出産の予定だった。美緒が子宮を失うこともなかった。子供が仮死状態で生まれることもなかった。美緒が目を覚まさない事もなかった」
「子供は五人もいるんだからよかったじゃない。それよりも桜子を解放してくださらない。桜子は五人の母よ。母親を犯罪者にするつもりなの?」
叔母は謝罪すらしない。
「何しに来たんだ?謝る気もないなら帰ってくれ」
俺は叔母を追い出した。
「美緒、起きてくれ」
手を握って、額に寄せる。
晴輝は5年生になり、輝明は3年生、彩花は2年生、直輝は年長に、大輝は年中になった。
優花は、もういつ生まれてきてもいい状態だ。
冬の親睦会で、情緒不安定になった事もあったけれど、直輝と大輝がすぐに日常に戻って、加羅さんと宇賀田さんと武術のトレーニングを始めて、彩花の優しいピアノの曲を聴いていたら、わたしも精神が落ち着いてきた。
優花が生まれるまでにしておきたい事を、思いだした。
作りかけだった、子供の学習プログラムだ。
わたしは手作りの問題集を作っている。
目標は大学受験までだ。どこの学部に行くかは自分で決めればいい。
『どこでも行けます』と学校の先生に言わせてみせる。
高校2年まではできていた。残りの1年は受験対策もある。
授業の解説問題集はすぐにできあがった。
5教科。ポイントにラインを引いて、問題集は穴開けにして、答えも解説付きで、付けておく。
一般教養を終えて、受験対策もしっかりしておく。
数学は、出やすい問題から難解問題も答えには解説を付けておく。
優花が生まれてからでは、時間が取れなくなると思う気持ちと、今、しておかなければ後悔するような気もしてい
た。
どうしてかは、分からない。
今できることを、しっかりやろうと思った。
全て作り終えた問題集を晴輝に見せたら、顔を強ばらせていた。
「これは、大学受験までの問題集だから、自分のペースですればいいのよ」
「でも、すごい量だよ」
「これから、いっぱい勉強しなければならないの。これはママが必要だと思った分だけよ。他にもすべきことは多くあると思うけれど、その時に応じて、きちんと勉強しなさいね」
「はい」
「これは、ママの部屋に置くから、勉強が進んだら、パパの部屋でコピーさせてもらって、使ってね。輝明や彩花、直輝、大輝にも教えてあげて」
「分かった」
わたしは、部屋に専用の本箱を置いてもらった。そこに片付けた。ファイルには、学年、教科が書かれている。
「ママはすごいな」
光輝さんは半分呆れている。
問題集なら、本屋で買える。
けれど、ここが出やすいとポイントで教える方法は、あるかもしれないけれど、ないかもしれない。
「ママはいっぱい勉強したの?」
「いっぱい勉強したよ。中学時代からは寝るのも惜しんで勉強した。晴輝は文字を綺麗に書くけれど、輝明は文字が雑だから、文字は綺麗に書くように教えて欲しいの。漢字と英単語はたくさん覚えなさい。漢字検定も受けるといいわ。ママは勉強をしたけれど、試験を受けるお金がなかったの。だから級は持ってないの。しっかり勉強して試験を受けなさい」
「はい」
「光輝さん、お願いします」
「美緒、どこかに行くようなお願いの仕方は止めてくれ」
「どこにも行かないわ」
光輝さんは、わたしをじっと見ていた。
不安そうな光輝さんに笑顔を見せた。
「お寿司、そろそろ皆で食べに行けるかしら?」
「行ってみるか?大将に相談して、年齢に合わせた物を作ってもらおう」
「晴輝、お寿司を食べに行くから、皆に言ってきてくれる?」
「はい」
「加羅さん達も一緒に行って欲しいとお願いしていてくれ」
光輝さんは、わたしの後に急いで指示を出した。
「分かった」
晴輝は喜んで出て行った。
「美緒、何か不安でもあるのか?」
「もし、わたしか優花を選択しなければならなくなった時に、優花を選んで欲しいの」
「体の具合が悪いのか?」
「元気よ。でも、脅迫文……万が一の事が起きるかもしれない。優花はわたしなの。誰からも愛されなかったわたしの代わりに、彩花にも愛されたい。兄妹達や親からも愛されたい。優花が愛されたら、わたしの孤独だった気持ちが救われるような気がするの。だから、お願いします」
胸が詰まって、涙が流れる。
助けてと叫んでいたわたしが、救われる日が来ると思うと嬉しい。
そこにわたしがいなくても、優花が代わりに愛されてくれれば救われる。
「美緒が愛さなかったら、優花は寂しい想いをするよ?自分の事を忘れるな」
光輝さんは、わたしの両肩を掴んで、真っ直ぐにわたしを見ている。
母親に愛されたかった。
その想いも思い出した。
「……そうね、そうだったわ。忘れていたわ」
「まだ孤独なのか?」
「今は幸せだよ。でも、不安なの」
「脅迫文の事は忘れなさい」
「はい」
「きちんと守る」
「ありがとう」
わたしは光輝さんに抱きついた。
光輝さんも抱きしめてくれる。
不安だった気持ちが、薄れていく。
…………………………*…………………………
初めて子供達とお寿司を食べに行った。
特上はカロリーが高いので、並を勧められた。幼稚園組は火が通された物とマグロが出された。
マグロには寄生虫はいないらしい。
子供達のお皿は、大将が考えた初めてのお寿司セットになった。
加羅さん達にもご馳走する。
ウニやイクラが苦手だと水野さんと宇賀田さんが言うので、並で頼んだ。
加羅さんは好き嫌いはないと言うので特上で頼んだ。
お産前の最後のお寿司だと思った。
優花の栄養になればいい。
優花の推定体重は2500gだと言われている。
今までで一番大きい。
これ以上、大きく育ちすぎると、自然分娩ができなくなるので、出産日を決められている。
明日の月曜日に、入院して誘発剤を使うと言われている。
お寿司を食べて、お店から出てくると、偶然、桜子さん一家と鉢合わせした。
「こんにちは」
「こんにちは、美緒さん、また妊娠しているの?」
「ええ、もうすぐ出産です」
「あらそう。そんなにたくさん産んでどうするの?」
桜子さんのお母様は、かなり毒舌だ。
「うちの桜子も子供を産みすぎて、大変な事になって、これでは再婚もできないわ」
桜子さんのお母様は桜子さんを再婚させたいのだと知った。
「こんなに子供を産むから、お話も流れるし、縁談もないのよ。全く、有喜に騙されて、桜子は不幸になってしまったわ」
「お母さん、子供達もいるのよ」
桜子さんは、落ち着いた色のネイルをしていた。
チェックのネイルは、桜子さんではないのかもしれない。
直輝と大輝を誘拐した犯人は、結局、まだ見つかっていない。
警察は桜子さんを疑っているが、決定的な証拠が何も見つからない。
捜査は今も続いているが、先が見えない状態だ。
「うちは、跡取りが欲しくて、美緒にお願いしているんですよ。妊娠中は大変なのに、俺のお願いを聞いてもらっているんです」
うちの子達は立って、じっと待っているが、桜子さんの子供達は落ち着きがない。
ふざけ合って、じゃれている。
年齢相応なのかもしれないけれど、有名私立の小学校と幼稚園に通っているなら、もう少し、落ち着きがあってもいいと思うけれど。
「まあ、光輝の仕事は多忙だから、分散しようとすれば、子供はたくさんいた方がいいと思うけれど、女の子は要らないわね」
わたしは、言われた言葉に、衝撃を受けた。
彩花!
思った通り、彩花は驚いた顔をしている。
「彩花も大切な跡取りです。今の時代女性が社長になってもおかしくはありません。うちは分け隔てなく育てていますから」
わたしの中で、感情の糸がプツリと切れた。
わたしは、我慢ができずに、声を張り上げた。
彩花がホッとした顔をした。
晴輝が彩花の手を握った。
泣きそうな彩花を慰めている。
「訂正してください。女の子は要らないと言われましたが、それなら、桜子さんも要らない子ですか?」
感情が爆発してしまいそうだ。
我慢ができない。
「失礼な子ね」
「失礼なのは、叔母さんです。桜子は要らない子ですか?」
光輝さんもわたしの質問を重ねて聞いてくれた。
女の子だから要らないと言われ続けたわたしは、どうしても許せない言葉だった。
「桜子は、わたくしの娘です」
「それなら、彩花に謝罪してください」
光輝さんは、彩花を連れてきて、叔母さんの前に立たせた。
「さあ、謝罪をしてください」
「どうして、こんな子供に謝罪などしなくてはならないの」
叔母さんは、癇癪を起こしている。
みっともない姿だ。
「子供でも感情はあります。彩花は、傷つきました。大人としてのケジメを付けてください」
光輝さんも怒っている。
わたしが怒っているのを分かっているのだと思う。
叔母さんは、そっぽを向いている。
桜子さんがやって来て、頭を下げた。
「母が失礼な事を言ってすみません。彩花ちゃん、ごめんね。結婚に失敗しなければ、わたくしのようには、ならないわ」
「……」
彩花は意味が分からないという顔をしている。
光輝さんは、彩花から手を放した。彩花は水野さんにしがみついて、不安そうな顔をしている。
せっかく楽しい時間を過ごしてきたのに、この一家のお陰で台無しだ。
「桜子、女は結婚だけではない。結婚せずに働く者もいるし、結婚してからも働いている者もいる。変な偏見を押しつけるな」
「わたくし、美緒のように頭はよくないの。難しい事は分からないわ」
桜子さんはとぼけることにしたようだ。
これ以上、ここにいても不快になるだけだ。
「帰ろう」
「うん」
子供達が車に乗り始めた。
「でもね、わたくしは小野田家のお嬢様なの。わたくしは溺愛されて育てられたわ。子供の頃から虐待を受けて育った美緒と同じにして欲しくはないわ。身の程知りなさい。野良犬ですごく醜い美緒」
胸に刺さる言葉だった。
桜子さんは、呆然としているわたしの両肩を思いきり突き飛ばした。
「死ねば!」
バランスを崩したわたしは、背後に転んだ。
「うっ!」
尻餅を付いてお腹に衝撃が走り、続いて痛みが襲ってきた。
「あああっ!」
仰向けでいられない。体位を変えて、わたしはお腹を抱えた。
「美緒!」
「「「「「ママ」」」」」
「「「奥様」」」
足を伝い血が流れてきた。
光輝さんは、すぐに救急車を呼んだ。
「10ヶ月の妊婦です。突き飛ばされ転んで出血を起こしています。かかりつけ病院は……」
お店からも店主が出てきて、毛布を借りる事ができた。
駐車場に毛布を敷いて、そこに寝かされた。
スカートは赤く染まり、毛布もすぐに赤くなっていく。
お腹が痛くて、お腹を抱える。
「全く、妊婦がフラフラしているからでしょう」
叔母さんは、謝罪の一つも無い。
「桜子、これは傷害事件だ。分かるか?おまえが殺意を持って美緒を突き飛ばした」
「大袈裟ね、ちょっと押したら、転んだだけでしょう」
「妊婦を突き飛ばしていいと思っているのか?」
「勝手に転んだのは美緒よ。知らないわよ」
「許さないからな」
「わたくしに構ってないで、美緒を見てあげたら?」
「ママ、お腹空いた」
「僕もお腹空いた」
桜子さんの子供達が騒いでいる。
「お店に入りましょうか」
「お寿司を握ってくださいな」
桜子さんと叔母さんは、店主に声をかけた。
七人はお店の中に入っていった。
店主が頭を下げて、お店に戻ったが、奥さんはわたしの腰を撫でてくれている。
「頑張りなさい」と声をかけて。
「ママ、死なないで」
「ママ、嫌だ」
「ママ、負けないで」
「「ママ」」
子供達がわたしの周りに寄って来て、わたしに声をかけてくれる。
わたしは苦しみながら、何度も頷いた。
「美緒、もう少しだ。待っていろ。直ぐに救急車が来る」
救急車がやっときて、救急車に乗せられた。
光輝さんも同乗する。わたしの鞄も持ってきてくれた。
「加羅さん、子供達をお願いします」
「はい」
「「「「「ママ、頑張って」」」」」
子供達の声が聞こえる。
扉が閉められて、救急車はかかりつけの病院に向かった。
…………………………*…………………………
赤ちゃんの心拍が微弱なために、緊急手術が行われた。
まずは、赤ちゃんを取り出して、それから美緒の手術をすると言われた。
中の状態は開けて見ないと分からないと言われた。
ただ見守るだけしかできない。
出血量が多くて、輸血をするそうだ。
出血が止まらなかったら、子宮の摘出をすると言われた。
同意書に名前を書き、ただ待つ。
赤ちゃんがNICUに連れていかれた。
生きているようだ。
ただ泣いてはいなかった。
晴輝の時から出産時の産声を録音してきたが、今回はどう頑張っても取る事はできない。
あそこで桜子達に会わなければ、明日、分娩ができたはずだった。
親同然の叔母を許せない。
妹同然の桜子が許せない。
このままあの家族と親族でいるのが嫌だ。
縁を切ると言ったら、お爺さまは何というか?
扉が開き、美緒が出てきた。
ICUに運ばれた。
医師に呼ばれて、部屋に案内された。
「胎盤が半分剥がれた状態でした。子宮内に出血した状態で、赤ちゃんを取り出しました。赤ちゃんは仮死状態でしたが、ぎりぎり間に合いました。脳障害が残る可能性は0ではありませんが、今のところ自発呼吸はできるようになりました。美緒さんは出血が多く、子宮の摘出を行いました。なんとか止血ができましたので、意識は直に戻ると思います」
「ありがとうございます」
「お子さんはNICUで様子観察いたしますので、お名前を早めに決めていただけますか?」
「名前は優花です。優しい花で優花です」
「それでは役所に出生届をお願いします」
「分かりました」
俺は市役所に行って出生届を提出した。すぐに病院に戻り入院の手続きをした。
だが、まだ美緒の意識は戻っていない。
美緒の面会が許されて、防護服を着て、美緒に会いに行った。
「美緒、優花が生まれたよ」
自発呼吸はあるが、まだ眠っている。
輸血と点滴が繋がっている。
手を握ると、温かい。
夜になっても目を覚まさない美緒にいろんな検査が行われた。
特に異常は見つからなかった。
優花に会えると言われ面会をした。
点滴をされていたが、元気そうだ。
抱かせてもらえた。
2500gの小さな赤ちゃんだ。
写真を撮ってもいいかと確認すると、「いいですよ」と許可が出た。
スマホで何枚も写真を撮った。
看護師さんが優花を保育器の中に入れた。その様子を動画で撮った。
保育器の中の優花も写真で撮った。
面会が終わり、美緒の所に行くが、美緒は目を覚まさない。
俺は真希さんを訪ねて、美緒の事を聞いた。
麻酔の量を間違えたのではないかと疑った。
真希さんは、すぐに調べてくれた。
「手術にミスは見つからない。もう暫く、待ってみたらどうだ」と言われて、ICUに戻る。
朝になっても目を覚まさない。
美緒は一般病棟に移された。けれど、目は覚まさない。
「美緒、目を覚ましてくれ」
手を握って、願う。
自宅に電話をしていなかったので、宇賀田さんが様子を見に来た。
「仮死状態で生まれたが、子供は保育器の中で生きているが、美緒が目を覚まさない」
「奥様」
宇賀田さんは、眠ったままの美緒を見て家に戻っていった。
俺は被害届を出すことにした。
どうしても許せない。
警察で事情を話して、処罰をしてほしいとお願いした。
警察の鏡に映った自分の姿を見て、一度家に戻ろうと思った。
髭が伸びて、目の下に隈ができている。
こんな姿を美緒に見せられない。
自宅に戻ると、子供達が声をかけてくる。
「後だ」
そう言うとシャワーを浴びて、洋服も整える。
「旦那様、食事を召し上がってください」
急いで作ったのだろう、ダイニングに俺の食事だけが置かれていた。
俺は、それを食べた。
食べている間に、自分がすごく空腹だったことに気付いた。
温かいお茶を飲んでいるうちに、菅原さんがおにぎりを作ってくれた。
「どうぞ、お持ちください」
「ありがとう」
俺は身支度をすると、一度、リビングに入った。
不安そうな子供達に話さなければならない。
「ママが目を覚まさないんだ。暫く、病院にいるからいい子で待っていてくれ」
子供達は目に涙を浮かべて、頷いている。
おにぎりを鞄に入れて、病院に出かけた。
まだ美緒は眠っている。
俺は美緒の手を握って、美緒の傍で眠った。
真希さんが美緒の診察に来てくれた。
「異常は見つからない。目を覚まさない理由が分からない」と言った。
また絶望した。
叔母が訪ねて来た。
「桜子が警察に捕まった」と言った。
「子供は仮死状態で生まれた。美緒は子宮を失って、まだ目を覚まさない。桜子が美緒を突き飛ばしたせいだ。責任を取ってもらうからな」
「軽く押しただけでしょう」と叔母は言った。
「何事もなければ、翌日、出産の予定だった。美緒が子宮を失うこともなかった。子供が仮死状態で生まれることもなかった。美緒が目を覚まさない事もなかった」
「子供は五人もいるんだからよかったじゃない。それよりも桜子を解放してくださらない。桜子は五人の母よ。母親を犯罪者にするつもりなの?」
叔母は謝罪すらしない。
「何しに来たんだ?謝る気もないなら帰ってくれ」
俺は叔母を追い出した。
「美緒、起きてくれ」
手を握って、額に寄せる。
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