裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十七章

8   夏の親睦会

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 今年も夏の親睦会に出かけた。

 8日にバイキング、9日にダンスパーティー、10日に花火大会、11日に会議とパーティー、12日から自由となるスケージュの中で、今年は8日から出かけた。


 晴輝と輝明に、美味しいと言われているお肉を食べさせてあげたいと思った。

 バイキングは、五十鈴さんと加羅さんに付き添ってもらう事にした。

 わたしと光輝さんは、面会の人と会話をしなければならない。

 彩花は母追いが激しいので、ベビーカーに乗せて、わたしの横に座らせる。

 ぐずった時の為に、水野さんに手伝ってもらえるようにした。

 まず、光輝さんがスピーチをして、乾杯をした。

 それから、皆がバイキングに並ぶ。

 晴輝と輝明は、もう列に並んでいる。

 子供達用のテーブルも今年は用意してもらっている。

 面会に、一番に並んでいたのは、男性三人組だった。まだ学生に見える。


「総帥、初めまして、僕は円城寺雅人言います。T大の3年生です」

「総帥、初めまして、僕は円城寺巧己と言います。僕もT大の3年生です」

「総帥、初めまして、僕は円城寺琉真と言います。同じく、僕もT大の3年生です」


 彼らは、まず自己紹介をした。

 わたしと光輝さんは顔を見合わせた。

 どこかで聞いた事のある名前だ。


「桜子さんの?」

「同じ名前だな」


 こそっと囁きあう。

 三人は真面目な顔で、光輝さんを見ている。



「それで、何の用があったんだろう?」

「探している女性がいるのです」


 雅人と名乗った男の子が口を開いた。


「俺たちが高校2年の時に初めて出会った女性なんですけれど、毎年、ダンスパーティーの日に海辺で花火をして、朝方まで一緒に過ごしてきた女性がいるんです」


「去年の夏の親睦会の時に、今年、結婚するから、もう会えないと言われたんです」


 巧己が、そう続けた。


「けれど、俺たちは彼女が好きで、もし、政略結婚を無理矢理させられるなら、助けたいと思うし、もし、もう結婚して、幸せになっているなら、おめでとうと言ってあげたいんです」


 琉真が続けた。


「思い当たる女性はいませんか?今年もダンスパーティーの日に、海辺で待っていようと思っているんですけれど、来てくれないかもしれないから、女性が誰か知りたいのです」

「どうしても会って、今、幸せなのか、確かめたいのです」

「幸せだったら、お祝いを言って、それで後は、彼女の幸せを見守っていきたいのです」


 彼らは、順に話して、黙って、光輝さんの言葉を待っている。

 年数的に、桜子さんの妊娠と被る。

 もしかしたら、桜子さんの子供のお父さん?

 わたしも光輝さんを見た。

 光輝さんは、なんと言葉を発するか考えているようだ。


「俺たちの初恋の相手なんです。個人情報の漏洩になるって分かっているんです。でも、どうしても確かめたいのです」

「彼女は、自分の名前を教えてくれませんでした」

「俺の初めての女性なんです。ちゃんと幸せになっているか、どうしても確かめたいんです」


 彼らは、必死に光輝さんにお願いしている。

 すごく一生懸命で、その女性を愛していることを感じる。


「そうしたら、ダンスパーティーの日に待っていなさい。会えるようにしよう」

「「「ありがとうございました」」」

「思い当たる人物は、一人しか浮かばない。もし、違ったらすまない」

「いいえ、ありがとうございます」

「希望が繋がりました」

「どうしても会いたかったので、待っています」


 三人は立ち上がると、深く頭を下げた。それから、速やかに立ち去った。



「桜子さんしか、思い浮かばないわ」

「たぶん、彼らが子供達の父親なのだろう」


 光輝さんは、頭を抱えた。



「離婚前だから、この事は極秘だ」

「そうね」

「桜子は、明日、来る予定だ。会うつもりがあるのかは、分からないが」

「でも、彼らが、桜子さんの孤独を救っていたんだと思うわ。素敵な話だと思う」


 立ち去って行った男の子たちは、きちんとタキシードを着て、身だしなみもきちんとしていた。

 どこからどう見ても、円城寺家の男子だ。

 光輝さんは、ノートに名前を書き込んでいた。


 合図をして、秘書が次の面会者を招いた。

 3時間、面会者の話を聞く。

 途中で彩花が飽きて、抱っこをせがんできたが、なんとか3時間おとなしくしていてくれた。

 今日も縁談の話が多かった。

 桜子さんのように、夫の浮気で悩んでいる妻もいた。

 その人には、弁護士事務所の名刺を渡した。

 部屋に戻ると、晴輝と輝明は既に部屋に戻って、パジャマを着ていた。



「五十鈴さんが洗ってくれたんだ」

「ジュースをこぼしてしまったので、お風呂に入れました。歯磨きはまだです」

「ありがとうございました」

「どうだった?バイキングは」


 光輝さんは彩花をコットンマットの上に下ろすと、二人の息子に向き合った。

 彩花はハイハイをしている。玩具の場所まで移動すると、お座りをして遊び始めた。


「すごく、美味しかった。また次も食べたい」

「そうか、よかったな。五十鈴さんと加羅さんにお礼は言ったか?」

「言ったよ」

「僕も言ったよ」


 二人とも胸を張っている。


「今日は、ありがとうございました」

「いいえ、混んでいたので、子供だけでは危険ですから」

「そうですね、ジュースもぶつかって、こぼれてしまったので」

「ぼく、泣かなかったよ」


 輝明が、胸を張った。


「ぶつかった相手に、ごめんなさいはしたか?」

「それはしなかった。ぶつかって来たのは、大人のほうだったよ」


 今度は、晴輝が輝明を庇った。


「酔った男性が、ぶつかって来たのです。輝明様は悪くはありません」


 五十鈴はそう言った。


「そうか、悪い、大人にならないように、勉強しような」

「「はい」」


 水野さん、五十鈴さん、加羅さんは、部屋を出て行った。

 これから、彼女らは食事をして、ゆっくり休んでもらう。

 ルームサービスでもレストランでも、好きな所で食べられるようにしてある。

 大浴場の温泉があるので、ゆっくり過ごせるだろう。


 まず、ドレスを脱いでマタニティーウエアーを着る。

 晴輝と輝明の歯磨きをすると、光輝さんが二人をダブルベッドのあるゲストルームに連れて行く。

 二人は勝手に寝るだろう。

 その間に、彩花の手を洗って、パーティーの間に、お菓子を食べさせたので、歯磨きをさせる。

 それから、トイレに連れて行き、トイレトレーニングをさせて、オムツをすると、パジャマに着替えさせる。

 どうにか、左手は使えるようになったが、少々、もどかしい。

 光輝さんが出てきた。

「眠った」と言った。

「着替えてくる」とクロークルームに入っていった。

 わたしは寝室に入って、母乳を与えて、彩花を眠らす。

 子守歌を歌って、母乳を与えると、彩花は眠り始めた。

 そっと添い寝をしていると、すっかり眠ってくれた。

 扉を開けたまま、洗面所に行って、メイクを落とすと、クロークルームに寄った。

 脱いだドレスを片付けようとしたら、光輝さんがハンガーに掛けておいてくれた。


「ありがとう」

「眠ったか?」

「ぐっすり」

「久しぶりに一緒に温泉に入るか?」

「うん」


 食事は先に食べたので、ゆったり過ごせる。

 二人で温泉に入って、光輝さんは折れた左腕のマッサージをしてくれる。


「まだ痛むだろう?」

「前よりはマシよ」

「彩花は俺が抱くか?」

「総帥が赤ん坊を抱っこしたまま話を聞くのは、誠実じゃないわ」

「そうか、無理はするな」

「うん」


 熱いので長くは入っていられない。

 光輝さんが、髪を洗ってくれる。

 体は自分で洗って、その間に、光輝さんは自分の髪を洗っている。

 お湯で体を流して、少し冷たいお湯にする。

 今夜も暑い。

 シャワーを光輝さんに渡して、わたしは先にお風呂を出て、洗面所で肌を整えて、髪を乾かす。

 光輝さんが入って来て、光輝さんの髪を乾かす。


「気持ちがいいな。明日は、俺が乾かしてやる」

「楽しみ」


 髪を櫛で整えたら、男前の出来上がりだ。


「今夜はまだ早い、少し酒を飲むか」

「お注ぎしましょう」


 ダイニングに行く前に、彩花の状態を見てから、ダイニングに行った。

 シャンパンが、冷やされている。

 光輝さんは、シャンパンを取り出すと、タオルでボトルを拭いた。

 無音で栓を抜くと、二つあるグラスの一つに少しだけ入れてくれた。

 後は、自分の分を入れた。


「乾杯をしよう」

「うん」


 チンとグラスが鳴った。

 わたしは一口飲んだ。

 光輝さんは、美味しそうに飲み干した。


「明日、桜子さんが来た時、席を外した方がいいかな?」

「明日は分かって来るのだから、隣にいてもいい。あいつも変わったと思うよ」

「うん」


 わたしは光輝さんのグラスに、シャンパンを注いだ。




 …………………………*…………………………




 朝食後に光輝さんのスマホが鳴った。


「和真とティファだ」


 光輝さんが扉を開けに行くと、晴輝と輝明も一緒について行く。

 扉が開いたと同時に、子供達が訪問者に抱きついた。


「おお、元気だな」

「吃驚したぞ!」


 和真さんは輝明を、ティファさんは晴輝を抱いて、部屋の中に入って来た。


「今回は、遅かったな」

「ああ、ちょっと会社でトラブルがあって、出発が遅れた」

「最近、会社の社員の質が落ちてきたのか、プライベートなトラブルを起こす者が増えた!」

「不倫……」


 すっと和真さんの口を、光輝さんは人差し指で止めた。


「子供の前だ、その話は、また後だ」

「ああ、そうだったな」

「ふりんってなに?」

「それはプリンの話だ」


 和真さんは、言葉を置き換えた。


「プリン食べたい」

「ぼくも、ブリン食べたい」

「そうか」


 和真さんもティファさんも光輝さんも、笑っている。

 子供は、どんな言葉にも興味を示す。


「和真とティファは食事をしてきたのか?」

「いや、まだだ」

「空港で食べるより、こっちに先に来た方が、うまいものが食べられるからな!」

「それなら、バイキングに行くか?おやつの時間だ」

「「わーい」」


 うまく誤魔化せたことにホッとして、微笑んだ。


「美緒ちゃん、久しぶり」

「ミオ、会いたかったぞ!」

「わたしも会えるのを楽しみにしていたよ」


 二人にハグされて、挨拶を終えた。


「晴輝にトラックに轢かれたって連絡が来た時は、どうなるか心配したけれど、元気そうだ」

「すみません。何でも連絡してしまって」

「すぐに飛行機の手配をしようかと思ったぞ!」

「兄さんに連絡して、状態を聞いて、安心した。もう手は大丈夫?」

「なんとか大丈夫です」

「そうか、よかった!」


 子供達が、「プリン」「プリン」と歌っている。

 光輝さんが彩花を抱いてくれた。



「出かけてきます」


 お手伝いに来てくれている水野さんや五十鈴さん、加羅さんに声をかけた。


「行ってらっしゃいませ」


 三人に見送られて、今年もSPが付いてきてくれている。

 多岐さんと男性SPが一緒に来てくれる。

 バイキングレストランで、広いテーブルを作ってもらって、子供用の椅子も用意してもらった。

 彩花を座らせると、わたしは留守番した。



「美緒は、フルーツでいいか?」

「うん、彩花の取り皿とホークも持って来て」

「ああ、分かった」



 彩花は喜んで、テーブルを叩いている。

 何気なく、空いたレストランの中を見渡すと、有喜さんが女性と一緒に座っていた。

 スマホを取り出して、ズームで写真を撮る。

 その後は、彩花の姿も写真に収めた。

 あと数ヶ月で、立って歩き出すだろう。

 この赤ちゃんのような姿から、子供らしく見えてくるようになってくる。

 子供の成長は早い。


「彩花はスイカとメロン、どっちが好きかな?」

「マンマ」



 晴輝がプリンを持って帰って来た。

 輝明は、彩花のお皿とホークを持って来てくれた。


「輝明、ありがとうね」

「お兄ちゃんだもん」


 光輝さんはフルーツの盛り合わせと輝明のプリンを持っている。

 輝明が喜んでいる。


「光輝さん」

「なんだ?」


 わたしは、視線で有喜さんの位置を教えた。



「ちょっと行ってくる。和真、ティファ、ここを頼むな」

「分かった」

「おう!」


 和真さんとティファさんは、食事をたっぷり持って来ている。


「どうかしたの?兄さん」

「プリンね」


 二人とも頷いた。




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