裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十四章

4   クリスマス

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 晴輝も1歳2ヶ月歳を迎えて、一人でもトコトコ歩いて行ってしまうので、目が離せない。

 水野さんと五十鈴さんが、二人がかりで、晴輝を追いかけている。

 晴輝は追いかけっこだと思っているのか、キャキャ叫びながら、芝の張られたお庭を走り回っている。

 わたしは積み木を片付けている。

 晴輝が産まれる前に、光輝さんの所有している玩具メーカーに、積み木を発注したのだ。

 5㎝×5㎝で厚さは1.5㎝。そのブロックを大量に作ってもらった。

 そこには平仮名が書かれた物とアルファベットが書かれた物がある。

 平仮名の裏には関連の絵が描かれている。

『あ』なら『あひる』の絵とか、それに色付けてもらった。アルファベットの裏面にも同様に絵と色が付いている。

 二つのブロックで24色ある。

 予備のブロックは色だけ付けられている。

 2段の箱に並べて片付けられるようになっている。

 これは晴輝の勉強道具だ。

 文字と言葉を教えるために、わたしが考案した。

 似たような物は売っていると思うけれど、晴輝には日本語と英語を小さい頃から教えるつもりでいる。

 わたしも英語を光輝さんやティファさんに習った。

 大学や弁護士事務所に入ってからも実践で話していたので、教えられると思う。

 晴輝はまだ『ママ』『パパ』『ミーズ』『イスス』『スカ』と同居しているわたし達の事を呼べる。

『じーじ』と、よく遊びに来てくれるお爺さまのことを呼ぶ。

 平仮名のブロックは、文字の形で覚えたのか、ブロックを見せると『あ』とか『い』とか言うようになった。

 全ての文字を言えるようになったら、絵の名前を教えて、言葉も覚えるだろう。

 色集めもできるだろう。

 単語も同じように教えて、最終的に平仮名で文字を並べたり英語で単語を並べたりできるように教えるつもりでいる。

 絵の下には、カンニング用に横文字が書かれている。

 真似れば、文字は並べられると思う。

 予備のブロックは、重なる文字の時に書けるようにしてある。

 光輝さんは、その商品を見て、商品化も考えている。

 晴輝は頭がいいので、もう絵の言葉を言える物もあるし、色も判別できる。

 ベビースイミングにも通い出した。

 近くのスポーツクラブでは、ベビースイミングは6ヶ月から入れる事を知った。

 夏の親睦会の後に入会した。

 プールに入ったことのないわたしも一緒に晴輝とプールを楽しんでいる。

 わたしの生理の時は、代わりに五十鈴さんが入ってくれる。今のところ、二人の生理が被った事はない。

 被ってしまった時には、水野さんもいる。

 ベビースイミングは入園まで入れるようなので、週2回通っている。

 我が家に専属の運転手が配属された。

 わたしや五十鈴さんが運転していたけれど、晴輝が活発になってきたので、話し相手になるように言われた。

 チャイルドシートに縛られているけれど、泣きだしたら泣き止まないし、お喋りしだしたら、相手になってくれとせがんで泣きだしてしまうようになった。

「事故を起こす前に」と言われた。加羅さんと言う男性で、この方も有段者だと言っていた。

 光輝さんが留守にする時に、男性がコック一人になるのも心配だと言っていたので、SPの紹介で40代の男性が住み込んでくれるようになった。

 晴輝の誘拐予防だと光輝さんは言っていた。



 …………………………*…………………………




 晴輝も普通食が食べられるようになって、クリスマスは盛大にお祝いした。

 大きなクリスマスツリーが珍しくて、12月の初めからダイニングに入るのを楽しみにしていた晴輝は、クリスマスの夜のメニューがいつもより綺麗で豪華なのが嬉しいようでご機嫌だった。

 わたし達もホテルの料理に負けない料理が並んで、二人で乾杯した。

 美味しいチキンに、わたしが密かに好きになっていたパエリアも並んだ。

 ゼリーと大きなクリスマスケーキも並んだ。

 わたしは家政婦さん達も一緒に食事を食べたらいいと思っているけれど、光輝さんは、区別として同じ食卓に並ぶことは許していない。

 同じ食事を食べることは許しているけれど、これは子供の教育の為だと説明された。

 わたし達が食事を食べている間に、晴輝がぐずりだしたら、水野さんや五十鈴さん達が面倒を見ていてくれる。

 その代わり、わたし達の食事の後は、晴輝の世話はわたし達がしている。

 彼女たち彼ら達に食事の時間を与える。

 その間に、お風呂に入ったり、映画を見ていたりする。

 家族の団らんの時間は、彼女たちは席を外してくれる。

 どんなに仲良くしていても、家族と使用人を同列に見てはいけないと言われた。

 そう言われて、実家の事を思いだした。

 確かに、実家でも使用人とは馴れ合ってはいなかった。

 彼女等は仕事をしている。

 光輝さんは使用人にお金を払って、家のことをしてもらっている。

 人は増えたけれど、家族は光輝さんと晴輝とわたしの三人家族なのだと自覚した。


「美緒、そろそろ二人目が欲しいね」

「うん」


 避妊はしていない。

 できたら、その時に産もうと自然に任せている。



 …………………………*…………………………




 今年も年末年始の親睦会が始まる。

 恒例の親睦会は、今年の年末は草津温泉になった。

 山なので花火は打ち上げられないけれど、その代わりに湯もみショーや温泉の外に湯畑も有名らしい。

 温泉街歩きが楽しい温泉地と有名なので、観光をしてもらう事になっているそうだ。

 今年の予定が発表されて、光輝さんに教えてもらった。

 今年は本格的な催し物は29日に集まり自由行動、30日にダンスパーティーが行われて、31日はカウントダウンで日付変更と共に乾杯をして、元旦は食事会、2日、3日は自由行動となっている。

 4日の12時までにチェックアウトと書いてあった。

 “見て、飲んで、飲んだくれよう”

 と案内に書いてあった。

 お酒の美味しいところかもしれない。

「観光地でもあるから、遊びたい奴もいるだろう」

「晴輝が遊べるところはあるかしら?」

「冬でなければ、プールもあるし散策ができるんだが、風邪を引かせると厄介だから、早めに帰ってきてもいいだろう」

「そうね」

 親睦会は、真夏と真冬にある。

 大人達がお酒を飲んで、美味しい物を食べるために企画されているので、子連れで行っても、楽しめる場所はあまりない。


「今年もカウントダウンと乾杯だけして帰って来てもいい」


 わたしは微笑んだ。

 光輝さんは、きっと面倒なのだと思う。

 年末の挨拶を聞き、新年の挨拶を聞き、ただ座って、円城寺家の人達の顔を見て、時々、縁談のお願いを聞くだけだ。

 最近では縁談のお願いはメールでも来るようになったそうだ。

 温泉街を歩いてみたい気持ちもあるけれど、小さな晴輝を連れて行くのは大変かもしれない。


「まあ、俺が抱いて、散歩程度に見て歩いて、それで満足してくれ。温泉は白いぞ。場所によっては確か数種類の色があったと思うが、温泉巡りは、晴輝がもうちょっと大きくならないと無理だろう」

「うん」


 光輝さんの言うとおりだ。

 晴輝は今、とても好奇心旺盛で道に下ろしたら、勝手に歩き出して、お店の物を手当たり次第に触るだろう。

 ずっと抱っこされているのも嫌がる。


「2日で帰りましょうか?」

「和真とティファは我が家に来ると思うが、我が家で騒いだ方が楽だ」


 わたしは頷いた。


「旅行は季節のいい時期に、どこかに行こうか?晴輝も楽しめる場所を探しておこう」

「本当に?」


 わたしは、まだ光輝さんと親睦会以外の旅行に行ったこともないし、パスポートも使ったこともない。

 学生の頃は勉強尽くしで、弁護士事務所に入ってからも、夜遅くまで勉強していて、弁護士になってからも、ずっと仕事漬けだった。遅くまで仕事をしていて、自分が既婚者だということも忘れる事もあったほどだった。

 光輝さんと一緒に夕食も食べられない日もあった。

 でも、わたしは仕事の後の誘いに乗ったことはない。飲み会にも食事会にも行ってない。

 歓迎会も遠慮した。仕事だけしかしていない。

 働かせてもらっているという負い目があって、ホテルに一人で待っている光輝さんの事を思うと誘いに乗ることはできなかった。

 妊娠して仕事を辞めて、つわりで入院して、退院してからも、部屋で横になっていることが多かった。

 散歩は駅までの道で、通学時の頃と変わりない。

 晴輝が生まれてからも、育児に忙しくて、デパートすら行ってはいない。


「新婚旅行すら連れて行っていない不甲斐ない夫ですまない。せめて、美容院に行っておいで。晴輝のことは見ているから」


 光輝さんは、ずっとほったらかしにされたわたしの髪を撫でた。

 わたしも自分の髪に触れる。

 夏の親睦会の前にも、「行っておいで」と言われたような気がする。


「変かな?」


 長い髪を低い位置でツインテールにしている。

 まるで高校生の頃のような髪型だ。


「可愛いけど、また写真を撮られると思うから、美容院に行っておいで。晴輝を預けることはできるのだから、買い物やエステやネイルに行ってもいいのだよ」

「できるだけ、自分で育てたくて」

「美緒らしいが、今日は美容院に行っておいで」

「急に予約取れるかな?」

「予約なら取っておいたから」

「ありがとう」


 わたしは、最初に桜子さんに連れて行ってもらったお店ではなく、光輝さんが通っている美容院に通っている。雑誌にも名前が載るような有名な美容師さんが、わたしの髪も切ってくれる。


「美容院の後は、食事に行きなさい。警護に五十鈴をつけよう。その後は買い物に出かけてもいいよ。たまには気分転換をしてくるといい」

「それならお願いします」


 今年は光輝さんにもクリスマスプレゼントを買ってない。

 晴輝のプレゼントは光輝さんと買いに行ったけれど、和真さんとティファさんのプレゼントも買ってない。


「予約時間は10時だ。お昼はお店を五十鈴に教えてある。楽しんでおいで」

「はい」


 光輝さんからのクリスマスプレゼントかもしれない。



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