裸足のシンデレラ

綾月百花   

文字の大きさ
上 下
105 / 184
第十一章

6   復讐   100億円

しおりを挟む
 遺伝子検査の結果が出てきた。

 5人の毛髪と美緒に付着していた精液が一致した。

 まずは首謀者である菅原家に電話をした。

 玲奈の父親に代わってもらい、今回の事件のあらましを話した。

 日本の警察からも連絡が行っているようで、菅原家はバタバタしているようだった。

 玲奈は刑事事件として裁かれるだろうが、円城寺家としては妻を穢されて、黙ってはいられない。

 玲奈の父親は、幼なじみだし和真の婚約者だから、許して欲しいと情に訴えてきたが、俺は突っぱねた。

 まず、円城寺家の親睦会で起こした玲奈の不埒な婚約破棄発言。

 礼儀作法も挨拶もできない規格外の常識破綻者であること。

 上流階級のお嬢様として一般的な事柄すら満足にこなせない。

 その事からも、和真の婚約には相応しくないので婚約破棄したい事を告げた。

 勿論、玲奈が先に婚約破棄したいと言い出した事を告げた。

 その後に玲奈の指示で、オルビスという男を始め5人がプライベートジャットで日本まで来て、妻を誘拐し、暴行とレイプをした事を話した。

 DNA検査でも一致している事も告げた。

 賠償金として100億円請求した。

 さもなくば、菅原家が所有している会社を倒産させると忠告した。

 返答は翌日とした。

 オルビス・M・グランド家にも同様の電話をした。

 父親はオルビスと絶縁すると言ったが、それだけで済ませるはずもない。

 監督不行き届きより賠償金の100億円を請求した。

 払えなければ、会社は倒産させると告げた。

 その他の4人も同じく電話をした。

 簡単に作れる金額では、謝罪にはならない。

 本人達は、日本の刑務所で処罰を受けるだろうが、円城寺家に喧嘩をふっかけたら、どうなるのか世間に知ってもらわなくてはならない。

 これは円城寺家の総帥の裏の顔だ。

 美緒が薬で眠っている間に、病室で話を進めた。

 目の前には、和真とティファもいる。

 二人は株式市場の様子を見ている。

 年始の株式市場は毎年高値が付きやすい。

 価格の変動を見ている。

 アメリカに連絡した後に、日本の警察から6人が、自供をし始めて事件を認めたと連絡が来た。

 近いうちに検察に送検されるらしい。


 円城寺家の顧問弁護士に連絡をして、相談する。

 相談するときは、ティファに美緒を見てもらって、俺のホテルのダイニングで密談をした。

 美緒が被害に遭った事を告げた言葉は、ボイスレコーダーに録音している。

 日本の裁判は、弁護士に任せた方がいい。

 打ち合わせを終えて、病院に戻ると、美緒はティファと英会話をしていた。

 久しぶりに、美緒の笑顔を見た気がした。

 和真とティファを昼食に行かせて、俺は美緒と英会話で遊ぶ。

 簡単な言葉遊びだ。

 美緒はゆっくりなら言葉も理解できているし、簡単な会話はできるようだ。

 気が紛れるのか、普段と違った話をすると一生懸命に考えて会話を返してくる。



「美緒、学校がそろそろ始まるだろう?恵ちゃんにノートを頼んだ方がいいんじゃないのか?」

「本当だ……でも……」



 フッと視線がずれて、外の景色を見ている。

 どんな言葉でお願いしたらいいのか悩んでいるようだ。

 見舞いに来たいと言われても、今は会いたくないのかもしれない。



「事故に遭って今は会えない状態だと伝えたらどうだ?」

「心配掛けちゃう」

「それなら俺がかけようか?」

「……自分でするよ」



 ラインを開いて、文字を並べるが、直ぐに消してしまう。

 暫く、スマホを持っていたが、美緒はスマホを置いて、掛布を引き上げて、目を閉じてしまった。


「少し休みなさい」


 頷いて、静寂が訪れる。

 美緒には時間が必要かもしれない。

 事件に遭って、まだ3日も経っていない。

 美緒の寝息に釣られて、俺も美緒の横で眠った。



 …………………………*…………………………




 菅原家の家長と長男が、日本に到着したと和真を通して連絡が入った。

 幸い、美緒は薬で眠らされている。明日の朝まで起きないだろう。

 自宅ホテルに戻り、隣の部屋をキープして菅原家との対談場所にした。

 玲奈の父、一成と長男、雅之は部屋に入ると、深く頭を下げた。


【玲奈が非常識な事をして申し訳ない。奥様は無事であろうか?】


 一成は謝罪をして、美緒の身を案じた。


【内臓破裂一歩手前だ。今、様子を見ているところだ。自力で動けないほどの傷を負っている。勿論、レイプされて心も病んでいる。玲奈の指示で行われた暴行だ】

【本当に申し訳ございません】


 一成と幼なじみの雅之が、深く頭を下げた。


【玲奈と一緒に過ごしていましたが、玲奈は俺と一緒にいると息が詰まるから婚約破棄をしてくれと、言い出しました。俺もマナーの一つもできない玲奈とこの先、結婚をする事はできないと思いましたので、玲奈の言葉を受け取り、別部屋で過ごしておりました。何事も起きなければ、帰国後に菅原家に向かい婚約破棄のお願いに向かうつもりでした】


 和真は玲奈と過ごした時間と礼儀知らずの玲奈の事を説明した。


【俺への愛はないそうです。俺も今の玲奈を愛することはできません】


 二人の関係は、終わっていることも和真は、目の前にいる菅原家の者に言い放った。


【婚約破棄は受け入れます】


 一成は和真に頭を下げた。


【光輝君、100億円の事だが、我が家にそれほどの資産は無い。会社を売却しても、それほどの額にはならない】

【そうだろうか?各地にある会社を手放し、城を売って、一族全ての高級車や自家用ジェットも手放せば、それくらいの金額になるはずだ】


 俺は冷酷に一族全員底辺に墜ちろと申し渡した。


【光輝、頼む。俺たちが路頭に迷ってしまう】


 雅之が俺の前に跪いた。


【幼なじみで親友だったじゃないか?】

【幼なじみで親友だった俺の妻の顔と体と心に傷を付けた。顔は殴られすぎて脳出血を起こしている。可愛い顔にナイフで傷も付けられた。雅之の妻を同じ目に遭わせて見ろ。結婚式を挙げた翌日にレイプされた】


 一成も雅之も目を見開いた。

 その直後に二人で土下座をした。


【申し訳ございません】

【妻に後遺症が残ったら、どうしてくれよう?内臓が必要になったら、玲奈から内臓をもらうか?それとも雅之が提供者になってくれるのか?妻に適合しなければ、菅原一族の全てを検査して適合者を探すか?例え赤子からでも臓器をもらうぞ】


 二人は頭を擦りつけるように、深く頭を下げている。


【妻の護衛の二人も入院している。その保障もしなくてはならない。臓器は足りるか?足りなければ従業員からも、探させてもらうがいいか?】

【なんとか、100億円工面いたします】


 一成は絞り出すような声で、叫んだ。

 一成と雅之は、立ち上がり深く頭を下げると、逃げ出すように部屋から出て行った。


「兄さん、脅しすぎだよ」

「これくらいなんてこともない。実際、美緒の腎臓は心配だ」


 部屋を出て、それぞれの部屋に戻った。

 オルビスの家主、グランド家は、謝罪の後に支払いが無理なので、資産とブランドを売ると電話が入った。

 オリバーのブラウン家も同様に、謝罪をして、支払いができないので資産とブランドを売ると申し出があった。

 テイラー家も同様に、資産とブランドを売ると連絡が入った。

 ムーア家は一流ステーキ店で、資産もあまりないが、ある物はすべて売るから助けてくれと連絡が入った。

 ミラー家は倒産寸前の会社だが、それでも、あるだけの物を売って支払いたいと言ってきた。100億円には及ばないだろうが勘弁してくれと連絡が入った。

 5人の犯罪者の親は、集まって相談したに違いない。

 順番に電話がかかってきた。

 円城寺家に喧嘩を売った事を取引先に知られて、手を引かれたのだろう。

 どこも資産はゼロになっているはずだ。

 円城寺家で吸収できる物は吸収して、いらない物は捨てる。

 オルビスの家、グランド家のブランドは100年以上の歴史のあるブランドだ。

 靴職人のブラウン家も一流店と名は知れている。テイラー家も同様だ。吸収して損はない。 

 ゴミに見えている倒産寸前の貿易会社は、海路を持っている。会社は倒産させても海路を円城寺家の物にできる。

 俺はティファに電話をして、俺の部屋に呼んだ。

 和真とティファにアメリカでやらなければならないことを話して、この先の打ち合わせをした。

 菅原家が所有する会社全て、乗っ取るつもりでいる。

 もともと親友であった友は温情で、子会社で働かせるくらいはしてやってもいい。

 俺はシャワーを浴びて、食事をしてから病院に戻った。

 夜中に美緒が目を覚ました時に、側にいてやりたい。

 成人式に出してやれない事が悔やまれる。




しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

想い出は珈琲の薫りとともに

玻璃美月
恋愛
 第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞をいただきました。応援くださり、ありがとうございました。 ――珈琲が織りなす、家族の物語  バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。  ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。   亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。   旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

処理中です...