裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十一章

5   復讐   検査 

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 検温の時には光輝さんが、既に来ていた。


「ここに泊まったの?」

「ああ、荷物やら色々持ってきたが、ここで寝たな」 


 この部屋は、きっと特別室だと思う。

 ベッドも寝心地がいいし、ベッドの他にもカウチが二つも置かれている。

 椅子としても使えるけれど、ベッドとしても使える。

 冷蔵庫も他の個室よりちょっと大きめな物が置かれていて、ミニキッチンもある。きっとお風呂も立派な物があるのだろう。

 わたしは精液を洗い流されて以来、タオルで体を拭くくらいしかしてもらえない。

 発熱はまた続いている。



「今朝は婦人科で検査があります。早いですが行きましょうか?」



 婦人科の検査と聞いて、急にドキドキしてきた。



「俺も一緒に行くよ。怖かったら俺の手を握るんだ」

「うん」



 部屋の中にストレッチャーが入って来て、わたしは寝台に寝かされた。わたしに繋がっている付属品も一緒だ。

 光輝さんはずっと手を繋いでくれている。

 まだ誰も来ていない外来に、先生はもういた。

 生理が止まった時に診てくれたお医者様だ。


「おはようございます」

「……おはようございます」

「お願いします、先生」

「はい」


 光輝さんは、わたしを抱き上げて診察用の椅子に座らせた。

 カーテンで仕切られるけれど、この椅子は高くなると足が開いていく。

 看護師さんが下半身の寝間着と下着を脱がしていく。


「外で待っていて」

「手を繋いでいる約束だよ」

「うん」


 光輝さんは、わたしの手を握っている。


「椅子が上がりますよ」


 わたしは目を逸らして、素数を心の中で数える。


「今日は性感染症の検査をしますね。既に感染している可能もありますので、治療も併せて行っていきます」

「……はい」


 ひんやりした物が恥ずかしい場所に入り、検体を取っているのだろうか?


「まだびらんが酷いですね。出血はどうですか?」

「減ってきています」


 付き添いの看護師が答えた。


「痛みはありますか?」

「はい」

「抜糸は1週間後にしましょう」

「はい」

「お薬はいくつか出ますから、お水で飲んでください」

「はい」

「では、椅子が下がりますよ」



 椅子が下がると、看護師さんが下着と寝間着を着せてくれた。

 それから、光輝さんがわたしを抱き上げてくれる。

 看護師さんがわたしに付いた付属品を持ってくる。

 ストレッチャーに寝かされて、毛布を掛けられる。

 診察室で、「ワクチンを打ちますね」と言って、腕に注射を打った。



「レイプの状況を話せますか?」

「……え?」

「少しずつで構いません」



 光輝さんの手がわたしの手を握る。

 辛い話を何度も話さなくてはならないのだろうか?

 診察室の中には、見知らぬ白衣の男性が椅子に座っていた。

 彼は精神科の医師だと、自己紹介した。江波と名乗った。



「怖かったら、次にしてもらうか?」



 光輝さんは、優しく囁いてくれる。

 わたしはその優しい言葉に、左右に首を振って答えた。

 誘拐される前から、目を覚ましどんなことが起きて、車を見送った所までを話した。

 涙は出なかった。

 ただ虚しくて、悲しくて、悔しくて苦しい。その気持ちも伝えた。

 全て話し終わったら、涙が止まらなくなった。



「辛い、苦しい、怖い、痛い」


 涙で顔が濡れると、顔が痛くなる。

 顔を押さえて藻掻くと、痛み止めの点滴が再開されて、精神安定剤も追加されたようだ。



 …………………………*…………………………




 目を覚ますと夜だった。

 病室には光輝さんの他に和真さんとティファさんがいた。


「ミオ!早く元気になれ!ショッピングに行く約束をしていただろう?」

「美緒ちゃん、食べられるようになったら寿司が食べたいな」

「うん……今日、何日?」

「1月4日だよ!」

「あと2日で学校が始まっちゃう」


 こんな所で、横になっている時間はない。

 起き上がろうとするが、起き上がれない。体が痛くて動けない。


「美緒、今回ばかりは、学校は休んでもらわなくてはならない。医者の許可が下りるまで外出禁止だ」

「そんな……単位を落としちゃう」

「早く学校に行きたければ、早く治すことだ」


 わたしはベッドの上で、ため息を付いた。

 検温の看護師が入って来て、体温を測ったり、点滴の状態を看たりしている。


「体位変換しますね」


 左向きから仰向けにさせられた。

 自分で身動きできない不自由さに辟易してしまう。


「いつ治るの?留年したらどうするの?」

「そうしたら、もう一年大学に行きなさい」

「絶対に嫌!」


 それだけは嫌だ。

 成績が下がるのも、留年するのも、わたしの矜持が許さない。


「勉強道具は持ってきた。できる元気があるなら、勉強しなさい。無理なら寝ていなさい」


 問題集とノートを枕の横に置かれたが、動けない。

 今日の光輝さんは厳しいのか優しいのか分からない。


「学校には俺から連絡しておこう。オンライン授業ができるか打診してみよう」

「本当に?」

「どんな返事が来るかは分からないがな」


 わたしは頷いた。

 望みがあるなら賭けてみたい。



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