69 / 184
第八章
7 新しい関係・学校へ復帰
しおりを挟む連休後の診察で、わたしは学校復帰を許された。
貧血はあるものの他の血液検査は正常に戻っていた。
内服は貧血の薬だけになった。過呼吸の薬は、予備に出されたけれど、これはお守りだ。
体重もここに来た頃の38㎏まで戻った。
光輝さんと体を重ねるようになってから、わたしの不安な気持ちは落ち着いた。
体も心も愛されて、今まで以上に光輝さんを身近に感じられて、満たされている。
体調もとてもいい。
わたしが不安にならないように、きちんと避妊もしてくれている。
大学卒業までは妊娠するわけにいかない。
光輝さんは、連休中も時々海外から電話が入っていたが、仕事は休みだと言って、仕事部屋にこもるような事はなかった。
わたしは恵からラインで送られてきたノートの画像を見ながら、ノートを執った。
部屋ではなく、リビングのテーブルの上で、その作業をしていた。
光輝さんが側にいるのに、部屋にこもるのが嫌だっただけだ。当の光輝さんは、わたしが勉強をしている間は、洋書を読んでいる。
光輝さんにとって、英語は日本語と同じく身近な物なのだと感じた。
(わたしもしっかり勉強をしなくては……)
学校に行き、学生課に診断書を提出した。休んでいた間の補講は授業後に少しずつしてくれるらしい。
休んでいた間のノートの提出をしたら、教授が工面してくれた。
大学にあるサークルを探すと、色々あった。英語サークルも華道サークルもあった。
恵も誘ってみたけれど、恵はレストランでバイトをしているらしい。仕送りだけでは生活費が足りないので、毎日、授業後から午後の9時までしっかりシフトを組まれているのだという。
だから、授業中に眠くなってしまうのだと知った。
気ままに生活している自分が恥ずかしくなった。
けれど、勉学特待生を取り、授業料を免除してもらったほうが、計算上経済的には安くなる。
わたしには、この制度を維持させる事が、一番の節約になる事を計算して気付いた。
必要なのは、足りないスキルを身につける事だ。
英会話と華道は身につけた方がいいだろう。
サークルは毎日、行われる物でもなさそうなので、掛け持ちもできなくなさそうだ。
ただ、帰宅がいつもより遅くなる。
光輝さんにサークルに入りたいことをお願いしたら、許可が出た。
ただ、遅くなるときは、光輝さんに連絡して迎えを呼ぶか、タクシーで帰って来ることが条件になった。
「美緒、しっかり覚えておいてくれ。総帥の妻は狙われやすい。俺の弱みになるからね。だから、誘拐されないように日頃から気をつけてくれ。タクシー代など、気にするな」
それだけは、約束させられた。
仕事中の光輝さんを呼び出すことは難しいから、帰りはタクシーになってしまうかもしれないけれど、それも仕方が無い事だ。
桜子さんも出かけるときは、送ってもらっていたし、帰りはタクシーを使っていた。
光輝さんに身分証の代わりになる自動車の免許証を取りに行くといいと言われた。
車の免許など考えた事もなかったけれど、確かに身分証と使われる。
これも、時間を見つけて通わなくてはならない。
何から必要になるのか考えて、まずは自動車学校に通う事にした。学校まで迎えに来てくれる車校を見つけた。大学生が利用している物だ。帰りは自宅まで送ってくれるらしい。
申し込みには、光輝さんが付き添ってくれた。
授業料がかかるが、顔つきの免許証は一般的な身分証となる。
いつまでも、保険証では無理がある。
わたしは最短で取れるコースを選んだ。
運動神経には自信はないけれど、暗記は得意だ。
授業後にすぐに出向いて、帰って来るのは21時過ぎてしまうが、暫くの間、光輝さんにお願いした。
10日で学校を卒業して、試験会場でテストを受けた。
1回目で免許を取れて、ホッとした。できたての免許証を持って、ホテルに戻った。
自宅がホテルなので、何度も確認されたが、現住所がホテルのあの部屋なので、そこの住所と部屋番号まで書かれている。
光輝さんに見せたら、「車を買ってやろうか?」と聞かれて、それは断った。
学校に学生用の駐車場はあるにはあるが、いつも満車で路駐されている。
その事が問題になっていて、できるだけ交通機関を使うようにと言われている。
自分で運転できたら、帰りが遅くなっても、タクシーを頼まなくても良くなるかもしれないけれど、駐車場問題は大きい。
免許を取ってから、サークルに仮入部した。
英語サークルは、先生がアメリカ人で発音も本場の物だ。
日本語も話せる先生だけれど、サークルの中では、日本語は禁止だ。理解できるまで、ゆっくり話してくれるので、慣れていけばわたしも話せるようになるかもしれない。
華道サークルは週一で、季節の花を上品に生ける事ができる。
学校で生けた花を持ち帰って、ホテルの部屋に飾る。
わたしが早く学校から帰らなくなってから、光輝さんと一緒にいられる時間がぐっと減ってしまった。
食事も決まった19時に食べていたのに、21時過ぎになってしまう。
サークルの後の、食事会や合コンは断っているけれど、帰宅が遅いのは、やはり迷惑をかけてしまう。
わたしの勉強も以前よりできなくなってきて、光輝さんが眠った後に、部屋に戻り勉強をしなくてはならない事も多くなってきた。
レポートを書きながら寝落ちているわたしの部屋に入って来た光輝さんは、わたしの頭を撫でて、わたしを起こした。
「美緒、少し無理をしているんじゃないか?やりたいサークルはしても構わないけど、帰宅も遅い。俺が寝てから勉強をしているのだろう?このままでは、また体を壊すよ」
「でも、英会話を学ばなければならないのでしょう?」
「焦る必要はない。美緒がいなくて、俺は寂しいよ」
「……うん」
確かに、毎日、夜の9時過ぎに帰ってきて、すぐに食事をして、お風呂に入ったら、すぐに寝る時間になってしまう。
宿題のレポートも多く、勉強時間が減っていて、予習の時間まで取れなくなってきている。
このままでは、思い描いた大学生活が送れなくなってしまう。
わたしも限界を感じていたけれど、光輝さんも見て見ぬ振りをできなくなったのだと思う。
「帰宅は夕食の時間までに、帰っておいで。あまり時間が遅いと心配だ」
「……うん」
現状の学力を維持しながら、語学を学ぶのは難しい。
総合大学だから、やりたい勉強は好きなだけできるけれど、必須科目を落としてしまったら意味がない。
季節は秋が深まり、もう11月も半ばになった。
わたしは目標にしていた司法試験を受けるための予備試験に合格できた。
わたしの学校からは、2年生の合格者はわたしだけだった。司法試験は来年の5月だ。
自立するために、わたしは卒業前に司法試験に合格しようと、1年の時から勉強をしていた。
まだ光輝さんに、合格したことは話していないけれど、どのように話していいのか迷っている。
光輝さんは、わたしを専業主婦にしたいようだし、わたしが司法試験を受けて、弁護士やいろんな所に就職したいと話したら反対されそうで話せない。
生理は戻って来て、現在はもう病院に通っていない。
基礎体温を毎日計り、きちんと排卵が起きているのも分かるようになった。
光輝さんとの夜の営みは、現在、わたしの気分が乗らなくて、ずいぶんご無沙汰だ。
「語学が学びたいのなら、俺が教えるのはどうだ?普段の会話を英語で話せば済むことだ」
「でも、言葉が理解できなかったら、わたし、光輝さんと会話もできなくなっちゃう」
光輝さんの英語はネイティブ過ぎて、聞き取れない。電話をしている所をよく見るし、聞くが、さっぱり理解できない。
日常会話で、会話をするなら、光輝さんとは、気を遣わずに日本語で話したい。
「門限は19時だ。いいね?夜、遅くに食事をするのは体に悪い。19時の食事の時間までに帰ってくること」
「分かったわ」
そうしてわたしは、門限を守る約束をした。
二人の時間も勉学も疎かにしてはならない。
「そう言えば、美緒、今度の連休は桜子の結婚式があるだろう。何を着るのか決めてあるのか?」
「和服を着ようかと思っているの。きっと桜子さんはドレスだと思うから」
「足りない物はないか?」
「大丈夫だと思う。今回は叔母さんが選んでくれた円城寺家の紋の入った和服を着ようと思うの。光輝さんはスピーチをするのでしょう?」
「ああ、付き合いが長い二人だ。どちらにも幸せになってもらいたい」
「うん」
桜子さんは、まだ光輝さんの事を好きかもしれないけれど、有喜さんと仲良くして欲しい。
「さあ、学校に遅れてしまうよ。朝食にしよう」
「はい」
わたしはレポートを保存して、ノートパソコンの電源を落とした。
今日は大学にノートパソコンを持って行かなくてはならない。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる