裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第八章

7   新しい関係・学校へ復帰

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 連休後の診察で、わたしは学校復帰を許された。

 貧血はあるものの他の血液検査は正常に戻っていた。

 内服は貧血の薬だけになった。過呼吸の薬は、予備に出されたけれど、これはお守りだ。

 体重もここに来た頃の38㎏まで戻った。

 光輝さんと体を重ねるようになってから、わたしの不安な気持ちは落ち着いた。

 体も心も愛されて、今まで以上に光輝さんを身近に感じられて、満たされている。

 体調もとてもいい。

 わたしが不安にならないように、きちんと避妊もしてくれている。

 大学卒業までは妊娠するわけにいかない。

 光輝さんは、連休中も時々海外から電話が入っていたが、仕事は休みだと言って、仕事部屋にこもるような事はなかった。

 わたしは恵からラインで送られてきたノートの画像を見ながら、ノートを執った。

 部屋ではなく、リビングのテーブルの上で、その作業をしていた。

 光輝さんが側にいるのに、部屋にこもるのが嫌だっただけだ。当の光輝さんは、わたしが勉強をしている間は、洋書を読んでいる。

 光輝さんにとって、英語は日本語と同じく身近な物なのだと感じた。


(わたしもしっかり勉強をしなくては……)


 学校に行き、学生課に診断書を提出した。休んでいた間の補講は授業後に少しずつしてくれるらしい。

 休んでいた間のノートの提出をしたら、教授が工面してくれた。

 大学にあるサークルを探すと、色々あった。英語サークルも華道サークルもあった。

 恵も誘ってみたけれど、恵はレストランでバイトをしているらしい。仕送りだけでは生活費が足りないので、毎日、授業後から午後の9時までしっかりシフトを組まれているのだという。

 だから、授業中に眠くなってしまうのだと知った。

 気ままに生活している自分が恥ずかしくなった。

 けれど、勉学特待生を取り、授業料を免除してもらったほうが、計算上経済的には安くなる。

 わたしには、この制度を維持させる事が、一番の節約になる事を計算して気付いた。

 必要なのは、足りないスキルを身につける事だ。

 英会話と華道は身につけた方がいいだろう。

 サークルは毎日、行われる物でもなさそうなので、掛け持ちもできなくなさそうだ。

 ただ、帰宅がいつもより遅くなる。

 光輝さんにサークルに入りたいことをお願いしたら、許可が出た。

 ただ、遅くなるときは、光輝さんに連絡して迎えを呼ぶか、タクシーで帰って来ることが条件になった。


「美緒、しっかり覚えておいてくれ。総帥の妻は狙われやすい。俺の弱みになるからね。だから、誘拐されないように日頃から気をつけてくれ。タクシー代など、気にするな」


 それだけは、約束させられた。

 仕事中の光輝さんを呼び出すことは難しいから、帰りはタクシーになってしまうかもしれないけれど、それも仕方が無い事だ。

 桜子さんも出かけるときは、送ってもらっていたし、帰りはタクシーを使っていた。

 光輝さんに身分証の代わりになる自動車の免許証を取りに行くといいと言われた。

 車の免許など考えた事もなかったけれど、確かに身分証と使われる。

 これも、時間を見つけて通わなくてはならない。

 何から必要になるのか考えて、まずは自動車学校に通う事にした。学校まで迎えに来てくれる車校を見つけた。大学生が利用している物だ。帰りは自宅まで送ってくれるらしい。

 申し込みには、光輝さんが付き添ってくれた。

 授業料がかかるが、顔つきの免許証は一般的な身分証となる。

 いつまでも、保険証では無理がある。

 わたしは最短で取れるコースを選んだ。

 運動神経には自信はないけれど、暗記は得意だ。

 授業後にすぐに出向いて、帰って来るのは21時過ぎてしまうが、暫くの間、光輝さんにお願いした。

 10日で学校を卒業して、試験会場でテストを受けた。

 1回目で免許を取れて、ホッとした。できたての免許証を持って、ホテルに戻った。

 自宅がホテルなので、何度も確認されたが、現住所がホテルのあの部屋なので、そこの住所と部屋番号まで書かれている。

 光輝さんに見せたら、「車を買ってやろうか?」と聞かれて、それは断った。

 学校に学生用の駐車場はあるにはあるが、いつも満車で路駐されている。

 その事が問題になっていて、できるだけ交通機関を使うようにと言われている。

 自分で運転できたら、帰りが遅くなっても、タクシーを頼まなくても良くなるかもしれないけれど、駐車場問題は大きい。

 免許を取ってから、サークルに仮入部した。

 英語サークルは、先生がアメリカ人で発音も本場の物だ。

 日本語も話せる先生だけれど、サークルの中では、日本語は禁止だ。理解できるまで、ゆっくり話してくれるので、慣れていけばわたしも話せるようになるかもしれない。

 華道サークルは週一で、季節の花を上品に生ける事ができる。

 学校で生けた花を持ち帰って、ホテルの部屋に飾る。

 わたしが早く学校から帰らなくなってから、光輝さんと一緒にいられる時間がぐっと減ってしまった。

 食事も決まった19時に食べていたのに、21時過ぎになってしまう。

 サークルの後の、食事会や合コンは断っているけれど、帰宅が遅いのは、やはり迷惑をかけてしまう。

 わたしの勉強も以前よりできなくなってきて、光輝さんが眠った後に、部屋に戻り勉強をしなくてはならない事も多くなってきた。

 レポートを書きながら寝落ちているわたしの部屋に入って来た光輝さんは、わたしの頭を撫でて、わたしを起こした。



「美緒、少し無理をしているんじゃないか?やりたいサークルはしても構わないけど、帰宅も遅い。俺が寝てから勉強をしているのだろう?このままでは、また体を壊すよ」

「でも、英会話を学ばなければならないのでしょう?」

「焦る必要はない。美緒がいなくて、俺は寂しいよ」

「……うん」


 確かに、毎日、夜の9時過ぎに帰ってきて、すぐに食事をして、お風呂に入ったら、すぐに寝る時間になってしまう。

 宿題のレポートも多く、勉強時間が減っていて、予習の時間まで取れなくなってきている。

 このままでは、思い描いた大学生活が送れなくなってしまう。

 わたしも限界を感じていたけれど、光輝さんも見て見ぬ振りをできなくなったのだと思う。


「帰宅は夕食の時間までに、帰っておいで。あまり時間が遅いと心配だ」

「……うん」


 現状の学力を維持しながら、語学を学ぶのは難しい。

 総合大学だから、やりたい勉強は好きなだけできるけれど、必須科目を落としてしまったら意味がない。

 季節は秋が深まり、もう11月も半ばになった。

 わたしは目標にしていた司法試験を受けるための予備試験に合格できた。

 わたしの学校からは、2年生の合格者はわたしだけだった。司法試験は来年の5月だ。

 自立するために、わたしは卒業前に司法試験に合格しようと、1年の時から勉強をしていた。

 まだ光輝さんに、合格したことは話していないけれど、どのように話していいのか迷っている。

 光輝さんは、わたしを専業主婦にしたいようだし、わたしが司法試験を受けて、弁護士やいろんな所に就職したいと話したら反対されそうで話せない。

 生理は戻って来て、現在はもう病院に通っていない。

 基礎体温を毎日計り、きちんと排卵が起きているのも分かるようになった。

 光輝さんとの夜の営みは、現在、わたしの気分が乗らなくて、ずいぶんご無沙汰だ。



「語学が学びたいのなら、俺が教えるのはどうだ?普段の会話を英語で話せば済むことだ」

「でも、言葉が理解できなかったら、わたし、光輝さんと会話もできなくなっちゃう」


 
 光輝さんの英語はネイティブ過ぎて、聞き取れない。電話をしている所をよく見るし、聞くが、さっぱり理解できない。

 日常会話で、会話をするなら、光輝さんとは、気を遣わずに日本語で話したい。



「門限は19時だ。いいね?夜、遅くに食事をするのは体に悪い。19時の食事の時間までに帰ってくること」

「分かったわ」


 そうしてわたしは、門限を守る約束をした。

 二人の時間も勉学も疎かにしてはならない。


「そう言えば、美緒、今度の連休は桜子の結婚式があるだろう。何を着るのか決めてあるのか?」

「和服を着ようかと思っているの。きっと桜子さんはドレスだと思うから」

「足りない物はないか?」

「大丈夫だと思う。今回は叔母さんが選んでくれた円城寺家の紋の入った和服を着ようと思うの。光輝さんはスピーチをするのでしょう?」

「ああ、付き合いが長い二人だ。どちらにも幸せになってもらいたい」

「うん」


 桜子さんは、まだ光輝さんの事を好きかもしれないけれど、有喜さんと仲良くして欲しい。


「さあ、学校に遅れてしまうよ。朝食にしよう」

「はい」


 わたしはレポートを保存して、ノートパソコンの電源を落とした。

 今日は大学にノートパソコンを持って行かなくてはならない。


 
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