裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第八章

1   新しい関係・美緒 

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「美緒」


 髪を撫でられて、わたしは目を覚ました。


「よく寝ていたね」

「……うん、眠くなるのは薬の副作用だって言われたの」


 起き上がって乱れた髪を梳かす。

 寝る度に体調が良くなっているような気がする。それほど、わたしは疲れていたのだろうか?

 光輝さんはバスローブを着ていた。

 お風呂も済ませたのだろう。



「夕ご飯だよ」

「……はい」



 ベッドから下りて、スリッパを履くと、光輝さんが手を引いてくれる。

 ダイニングテーブルには、洋食の食事が並んでいた。


「あれ、今日は和食だと思っていたのよ?」

「肉は肉になる。美緒には血肉が必要だ。和食も並んでいるだろう」


 久しぶりにステーキが並んでいた。

 それこそ10日以上ぶりだ。



「光輝さんはお肉に飽きているのでしょう?」

「いいや、ここで食べる物とあちらで食べていた物は違うからね」

「そう言う物なの?」


 海外旅行に行ったことがないので、食事の事はよく分からない。

 この部屋に運ばれる料理は、シェフと栄養士がカロリーや栄養の偏りのないように決められている。

 リクエストメニュー以外は決まったカロリーを摂取できる。

 二人で並んで「いただきます」をして、食事を食べる。



「美味しい」

「美味しいね」



 パンではなく、ご飯にされていた。

 お櫃が置かれていて、光輝さんに大盛りで付けて、わたしは少なめに盛り付けた。

 洋食の時は、わたしはパンを一切れ頼んでいたけれど、光輝さんが変更したのだと思う。



「暫くはご飯が食べたい」

「はい」



 久しぶりに食べるホテルの食事は、まるで我が家に帰ってきたように、美味しく感じる。

 お肉も柔らかく、ミディアムレアに焼かれたお肉は、肉汁も美味しくてご飯も進む。



「美緒、もう少しご飯を食べたらどうだ?」

「それなら、もう少し」


 わたしは、ここに来て、初めてお代わりをした。


「俺の分も付けてくれるか?」

「はい」


 光輝さんからお茶碗をもらって、ご飯をよそう。

 今日は和洋折衷になっている。

 ステーキを食べながら、煮物も食べられる。

 味の染みた穀物の煮物も美味しくて、ご飯が進む。


「これは、リンゴではないですね?何でしょうか?」

「梨だよ。和梨だね」

「和梨」

「見たことがないのかな?今度、見に行こうか?リンゴに似た形をしているんだよ」


 わたしは頷いた。

 サクリとして、ジューシーだ。リンゴとは舌触りも歯ごたえも違うし、甘さも違う。



「今夜はたくさん食べられたね」

「久しぶりに美味しいご飯で、食が進んだみたい」


 いつもは残るお櫃の中は空っぽになっている。

 光輝さんはコーヒーをカップに注いでいる。わたしは久しぶりに紅茶をカップに注いだ。

 食後のお茶は、小さなポットに入れられてくる。



「着替えは部屋に置いてあるから、明日から順に片付けるといい」

「ありがとう。叔母さん、怒っていませんでしたか?」

「怒っていたが、気にするな。俺も叔母の一面を見られて良かったと思う。親同然だと思っていたが、私欲の塊だな。俺が総帥になった事で、いろいろ期待させたのかもしれないな」



 家族同然の人に裏切られたと感じたのなら、光輝さんの事が気がかりだった。



「寂しくなかったですか?」



 光輝さんは、微笑んだ。それからわたしの指先を掴んで、指先にキスをした。

 とても恥ずかしいけれど、光輝さんがずっとわたしを見ているから、視線を逸らすことはできなかった。



「俺は美緒と家族になりたい。一緒に家族を作ってくれるか?」

「はい。家族になりたいです」



 腕を引かれて、唇が重なる。

 舌の絡まるキスは、とても久しぶりで、わたしは光輝さんにしがみついた。


「なあ、美緒。美緒の初めてをもらってもいいか?俺も美緒も不安にならないように、体でも結ばれたい」


 光輝さんは呼吸を乱しているわたしの背をさすりながら、初めて求めてきた。

 顔を上げて、光輝さんを見ると、真っ直ぐにわたしを見ていた。

 すごく真剣な顔をしている。

 わたしは頷いて、光輝さんにしがみついた。


「抱いて欲しい」


 ずっと求められなくって、不安だった。

 体重が元に戻るまで抱かないと言っていたけれど、それを持っていたらいつになるか分からない。


「そうか、良かった。拒絶されたら、ショックを受けたかもしれない」

「拒絶なんてしない。ずっと求められなくて、不安だったの」


 光輝さんは、わたしの手を握り、ダイニングテーブルから立ち上がると、広い部屋を横切って、わたしをリビングのソファーに連れて行った。

 二人で並んで座る。

 手を握っているだけなのに、ドキドキする。それは、光輝さんも同じみたいだ。

 光輝さんを見ると、光輝さんの頬も赤くなっていた。

 ダイニングテーブルの片付けに、ホテルの従業員が訪れる。

 甘えたいけれど、人に見られるのは恥ずかしい。



「あの、食後のお薬と、寝る支度をしてきます」

「そうだね、映画でも観るか?」

「うん」


 わたしは立ち上がると、自室に戻って、薬を机に出して、寝る支度すると冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して、マグカップにミネラルウォーターを注いだ。

 残りのミネラルウォーターのペットボトルは冷蔵庫に片付ける。

 薬を飲んでリビングルームのセンターテーブルにマグカップを置いた。

 眠る前の薬も出しておく。

 迷いながらスマホも持ってきた。

 恵と姉に退院した事を知らせないと、間違って病院を訪ねてしまうかもしれない。



「美緒は元気になっていたよ。声が聞きたいって?」



 寝室から出てきた光輝さんは、電話をしていた。



「美緒、少し代わってやって。ティファが心配して、美緒の声を聞かせろとうるさい」

「うん」



 わたしは光輝さんのスマホを受け取ると、電話に出た。

 光輝さんのスマホは、わたしのより大きいから少し重い。両手で持って、耳に当てた。



「美緒です。心配かけてごめんなさい」

『美緒!無事か?』



 元気なティファさんの声が聞こえた。



「今日、退院したの。あと1週間自宅療養して、それから学校に通えそうなの」

『それは良かった!無理はするな!』

「はい」


 ティファさんは、心から心配していたようだ。


『声を聞いたら安心した!光輝と代わってくれるか?』

「光輝さん、ティファさんが代わって欲しいそうです」


 光輝さんの眼差しが優しい。わたしからスマホを受け取ると、英語で話し始めた。早口の英語は聞き取りづらい。

 わたしは自分の部屋に行くと、恵に退院したことを知らせた。

 ラインを入れると、すぐに返信が来た。


 《良かったよ、ノート取ったところをメールで送るね》

 〈ありがとう〉

 《でも、無理はしたら駄目だからね》

 〈うん〉

 《静が電話するって、ちょっと待って》


 すぐに恵のラインから電話がかかってきた。


『美緒、具合は良くなったのか?』

「おね……お兄さん、あと1週間休んだら学校に行けるそうなの」

『ゆっくり休んでおけよ。ああ、そうだ。明日、和服を持って行こうかと思っていたんだ。自宅に持って行ってもいいか?』

「いいよ」

『午後からバイトがあるから10時頃に行くよ』

「○○ホテル、部屋番号はA棟60階の○○○号室だよ」

『了解、また明日な』


 姉は電話を切った。

 姉が明日来ると思うと、ソワソワしてしまう。

 大嫌いだと思っていた姉から歩み寄ってきてくれた事が嬉しい。

 大変な想いをしながら持ち出した和服を分けてくれる気持ちも嬉しい。

 スマホを充電器に繋げて部屋から出ると、光輝さんが部屋の電気を消している。


「お姉さんから電話か?」

「うん、明日の10時頃に来るって」

「静美さんか……」

「その名前を言ったら、きっと不機嫌になるよ。今は静也だから、お姉ちゃんって言っても怒られるもん。お兄さんって呼ぶように言われているの」

「そうか……」



 光輝さんは笑って、ダイニングとリビングの電気を消してしまった。

 足元灯の明かりが灯っているだけになってしまった。



「電気を消してDVDを観るの?」

「いや、今夜はもう寝よう」

「まだ早くない?」



 食事を片付けに来てくれる時間は20時だ。指定をしなければ、時間は決まっている。

 連絡をしている間に、片付けに来てくれていたから、今度、この部屋にホテルの従業員が来るのは、明日の朝だ。


「家族にになるんだろう?」


 頬が熱くなる。

 本当に?夢ではなくて?

 わたしは光輝さんにしがみついた。


「夜の薬はいらないと思うけど、医師の指示だ。飲んでおくか?」


 わたしを抱いたままソファーに座ると、出しておいた錠剤をわたしの口に入れると、光輝さんはマグカップの水を口に含んで、口移しで水をくれる。

 ドキマキしながら経口でもらった水でコクリと薬を飲み込んだ。


「ちゃんと飲めたか?」

「……うん///」

「それなら寝室に行こうか?」


 光輝さんは、わたしを抱いたまま立ち上がると、そのまま寝室に向かった。

 掛布を捲られた布団に寝かされると、そのまま光輝さんが重なってきた。



「美緒、愛している」

「わたしも、愛しています」



 見つめ合いながら、キスをする。

 誓い合うようなキスの後に、大人のキスをして、キスだけで気持ちが良くて、体がホテホテと熱くなる。

 10日分のキスをするように、たくさんキスをして、そして――――――――。



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