63 / 184
第八章
1 新しい関係・美緒
しおりを挟む「美緒」
髪を撫でられて、わたしは目を覚ました。
「よく寝ていたね」
「……うん、眠くなるのは薬の副作用だって言われたの」
起き上がって乱れた髪を梳かす。
寝る度に体調が良くなっているような気がする。それほど、わたしは疲れていたのだろうか?
光輝さんはバスローブを着ていた。
お風呂も済ませたのだろう。
「夕ご飯だよ」
「……はい」
ベッドから下りて、スリッパを履くと、光輝さんが手を引いてくれる。
ダイニングテーブルには、洋食の食事が並んでいた。
「あれ、今日は和食だと思っていたのよ?」
「肉は肉になる。美緒には血肉が必要だ。和食も並んでいるだろう」
久しぶりにステーキが並んでいた。
それこそ10日以上ぶりだ。
「光輝さんはお肉に飽きているのでしょう?」
「いいや、ここで食べる物とあちらで食べていた物は違うからね」
「そう言う物なの?」
海外旅行に行ったことがないので、食事の事はよく分からない。
この部屋に運ばれる料理は、シェフと栄養士がカロリーや栄養の偏りのないように決められている。
リクエストメニュー以外は決まったカロリーを摂取できる。
二人で並んで「いただきます」をして、食事を食べる。
「美味しい」
「美味しいね」
パンではなく、ご飯にされていた。
お櫃が置かれていて、光輝さんに大盛りで付けて、わたしは少なめに盛り付けた。
洋食の時は、わたしはパンを一切れ頼んでいたけれど、光輝さんが変更したのだと思う。
「暫くはご飯が食べたい」
「はい」
久しぶりに食べるホテルの食事は、まるで我が家に帰ってきたように、美味しく感じる。
お肉も柔らかく、ミディアムレアに焼かれたお肉は、肉汁も美味しくてご飯も進む。
「美緒、もう少しご飯を食べたらどうだ?」
「それなら、もう少し」
わたしは、ここに来て、初めてお代わりをした。
「俺の分も付けてくれるか?」
「はい」
光輝さんからお茶碗をもらって、ご飯をよそう。
今日は和洋折衷になっている。
ステーキを食べながら、煮物も食べられる。
味の染みた穀物の煮物も美味しくて、ご飯が進む。
「これは、リンゴではないですね?何でしょうか?」
「梨だよ。和梨だね」
「和梨」
「見たことがないのかな?今度、見に行こうか?リンゴに似た形をしているんだよ」
わたしは頷いた。
サクリとして、ジューシーだ。リンゴとは舌触りも歯ごたえも違うし、甘さも違う。
「今夜はたくさん食べられたね」
「久しぶりに美味しいご飯で、食が進んだみたい」
いつもは残るお櫃の中は空っぽになっている。
光輝さんはコーヒーをカップに注いでいる。わたしは久しぶりに紅茶をカップに注いだ。
食後のお茶は、小さなポットに入れられてくる。
「着替えは部屋に置いてあるから、明日から順に片付けるといい」
「ありがとう。叔母さん、怒っていませんでしたか?」
「怒っていたが、気にするな。俺も叔母の一面を見られて良かったと思う。親同然だと思っていたが、私欲の塊だな。俺が総帥になった事で、いろいろ期待させたのかもしれないな」
家族同然の人に裏切られたと感じたのなら、光輝さんの事が気がかりだった。
「寂しくなかったですか?」
光輝さんは、微笑んだ。それからわたしの指先を掴んで、指先にキスをした。
とても恥ずかしいけれど、光輝さんがずっとわたしを見ているから、視線を逸らすことはできなかった。
「俺は美緒と家族になりたい。一緒に家族を作ってくれるか?」
「はい。家族になりたいです」
腕を引かれて、唇が重なる。
舌の絡まるキスは、とても久しぶりで、わたしは光輝さんにしがみついた。
「なあ、美緒。美緒の初めてをもらってもいいか?俺も美緒も不安にならないように、体でも結ばれたい」
光輝さんは呼吸を乱しているわたしの背をさすりながら、初めて求めてきた。
顔を上げて、光輝さんを見ると、真っ直ぐにわたしを見ていた。
すごく真剣な顔をしている。
わたしは頷いて、光輝さんにしがみついた。
「抱いて欲しい」
ずっと求められなくって、不安だった。
体重が元に戻るまで抱かないと言っていたけれど、それを持っていたらいつになるか分からない。
「そうか、良かった。拒絶されたら、ショックを受けたかもしれない」
「拒絶なんてしない。ずっと求められなくて、不安だったの」
光輝さんは、わたしの手を握り、ダイニングテーブルから立ち上がると、広い部屋を横切って、わたしをリビングのソファーに連れて行った。
二人で並んで座る。
手を握っているだけなのに、ドキドキする。それは、光輝さんも同じみたいだ。
光輝さんを見ると、光輝さんの頬も赤くなっていた。
ダイニングテーブルの片付けに、ホテルの従業員が訪れる。
甘えたいけれど、人に見られるのは恥ずかしい。
「あの、食後のお薬と、寝る支度をしてきます」
「そうだね、映画でも観るか?」
「うん」
わたしは立ち上がると、自室に戻って、薬を机に出して、寝る支度すると冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して、マグカップにミネラルウォーターを注いだ。
残りのミネラルウォーターのペットボトルは冷蔵庫に片付ける。
薬を飲んでリビングルームのセンターテーブルにマグカップを置いた。
眠る前の薬も出しておく。
迷いながらスマホも持ってきた。
恵と姉に退院した事を知らせないと、間違って病院を訪ねてしまうかもしれない。
「美緒は元気になっていたよ。声が聞きたいって?」
寝室から出てきた光輝さんは、電話をしていた。
「美緒、少し代わってやって。ティファが心配して、美緒の声を聞かせろとうるさい」
「うん」
わたしは光輝さんのスマホを受け取ると、電話に出た。
光輝さんのスマホは、わたしのより大きいから少し重い。両手で持って、耳に当てた。
「美緒です。心配かけてごめんなさい」
『美緒!無事か?』
元気なティファさんの声が聞こえた。
「今日、退院したの。あと1週間自宅療養して、それから学校に通えそうなの」
『それは良かった!無理はするな!』
「はい」
ティファさんは、心から心配していたようだ。
『声を聞いたら安心した!光輝と代わってくれるか?』
「光輝さん、ティファさんが代わって欲しいそうです」
光輝さんの眼差しが優しい。わたしからスマホを受け取ると、英語で話し始めた。早口の英語は聞き取りづらい。
わたしは自分の部屋に行くと、恵に退院したことを知らせた。
ラインを入れると、すぐに返信が来た。
《良かったよ、ノート取ったところをメールで送るね》
〈ありがとう〉
《でも、無理はしたら駄目だからね》
〈うん〉
《静が電話するって、ちょっと待って》
すぐに恵のラインから電話がかかってきた。
『美緒、具合は良くなったのか?』
「おね……お兄さん、あと1週間休んだら学校に行けるそうなの」
『ゆっくり休んでおけよ。ああ、そうだ。明日、和服を持って行こうかと思っていたんだ。自宅に持って行ってもいいか?』
「いいよ」
『午後からバイトがあるから10時頃に行くよ』
「○○ホテル、部屋番号はA棟60階の○○○号室だよ」
『了解、また明日な』
姉は電話を切った。
姉が明日来ると思うと、ソワソワしてしまう。
大嫌いだと思っていた姉から歩み寄ってきてくれた事が嬉しい。
大変な想いをしながら持ち出した和服を分けてくれる気持ちも嬉しい。
スマホを充電器に繋げて部屋から出ると、光輝さんが部屋の電気を消している。
「お姉さんから電話か?」
「うん、明日の10時頃に来るって」
「静美さんか……」
「その名前を言ったら、きっと不機嫌になるよ。今は静也だから、お姉ちゃんって言っても怒られるもん。お兄さんって呼ぶように言われているの」
「そうか……」
光輝さんは笑って、ダイニングとリビングの電気を消してしまった。
足元灯の明かりが灯っているだけになってしまった。
「電気を消してDVDを観るの?」
「いや、今夜はもう寝よう」
「まだ早くない?」
食事を片付けに来てくれる時間は20時だ。指定をしなければ、時間は決まっている。
連絡をしている間に、片付けに来てくれていたから、今度、この部屋にホテルの従業員が来るのは、明日の朝だ。
「家族にになるんだろう?」
頬が熱くなる。
本当に?夢ではなくて?
わたしは光輝さんにしがみついた。
「夜の薬はいらないと思うけど、医師の指示だ。飲んでおくか?」
わたしを抱いたままソファーに座ると、出しておいた錠剤をわたしの口に入れると、光輝さんはマグカップの水を口に含んで、口移しで水をくれる。
ドキマキしながら経口でもらった水でコクリと薬を飲み込んだ。
「ちゃんと飲めたか?」
「……うん///」
「それなら寝室に行こうか?」
光輝さんは、わたしを抱いたまま立ち上がると、そのまま寝室に向かった。
掛布を捲られた布団に寝かされると、そのまま光輝さんが重なってきた。
「美緒、愛している」
「わたしも、愛しています」
見つめ合いながら、キスをする。
誓い合うようなキスの後に、大人のキスをして、キスだけで気持ちが良くて、体がホテホテと熱くなる。
10日分のキスをするように、たくさんキスをして、そして――――――――。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる