裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第七章

1   それぞれの立場・総帥の妻の使命

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 ホテルの従業員にスーツケースを運んでもらって、約1週間ぶりにホテルの部屋に戻って来た。
 
 ホテルに住んでいるので、この部屋が我が家になるのだろう。

 洗濯物が多いので、洋服はクリーニングに出すようにと言われた。

 下着と水着は部屋で洗おうと考えている。

 その他の物は干す場所もないので、光輝さんが指示を出したように、区別する。

 光輝さんも部屋で片付けを始めている。

 初めて買ってもらったピンクのドレスはシミが取れないと言われて、破棄しかないようで残念ながらあちらのホテルで破棄してきた。

 浴衣は手を通すこともなく終えてしまったので、そのまま片付けることにした。

 薄汚れてしまったシルクの下着は、ダメ元で漂白剤につけ置きした。

 リビングに下着を干すのに躊躇いがあったので、わたしの部屋に物干しを移動させて、洗い上がった下着を干して、二度目の洗濯で水着を洗った。

 光輝さんの水着も洗ったので、物干しは一杯になった。

 帰宅してすぐにシャワーを浴びたので、初めて恵麻さんが買ってくれたショートパンツの部屋着を着て、洗濯物をリビングに出した。



「片付けはできたか?」

「はい、洗濯物はさすがに多いです。部屋に干そうと思ったら干し場が全く足りないもの」

「ここはホテルの一室だからね。便利な所もあるけど、不便な所も同時にあるからね」



 わたしは頷いた。

 光輝さんは、結婚したら引っ越しも考えていたようだけど、今は引っ越しを考えていないようだ。

 家事の負担を考えたら、わたしが学生の間はホテル住まいが便利だと思ったようだ。

 わたしは料理だって洗濯だって、精一杯するつもりでいるけれど、光輝さんはわたしの負担になる物はすべて排除するつもりでいるみたいだ。



「光輝さんも終わりましたか?」

「ああ、ほとんど洗い物ばかりだ」



 リビングに出された洋服は、本当にたくさんあった。

 毎日、ジャケットやスーツやタキシードを着替えていた光輝さんは、女性並みに着替えをしていたような気がする。

 ホテルの従業員が二人やって来て、洗濯物を持って行ってくれる。

 明日の午前中には、洗い物は綺麗にされて部屋に届けてもらえるようだ。

 洗濯に洋服を出してしまったので、着る物がなくなってしまって、クローゼットの中がさっぱりしている。


「今夜は部屋で食べるか?食べに行ってもいいよ?」

「部屋がいいかな」


 わたしは冷蔵庫からミネラルウォーターを出すと、湯沸かしポットに入れた。美味しいお茶を淹れようと思った。


「その服は初めて見るね?」

「恵麻さんが選んでくれた物なの。洗濯物を出したら着る物がなくなってしまって、これしかなかったの」

 ショートパンツなので、生足を出すのは恥ずかしかったけれど、ティファさんのショートパンツよりは露出は凄くはない。

 ピンクのタオル生地で、肌触りはとても柔らかだ。

 フードが着いていて、フードには小さな耳が着いている。クマのようだけど、色合いはクマらしくない。



「綺麗な足だから人に見せるのは惜しいな」



 バスローブ姿の光輝さんは、わたしを抱きしめてキスをくれた。掌がわたしの太股に触れたとき、ピーと音が鳴る。

 お湯が沸いたのだろう。

 光輝さんは、唇を離すと苦笑をしていた。

 いつもキスをしていたり抱き合っていたりすると、音に邪魔される。そう言いたかったのかもしれない。

 でも、緊張していたので、音に救われたような気もする。



「美味しいお茶を淹れますね」



 二人の湯飲みを出すと、急須に茶葉を入れてお湯を注ぐ。

 光輝さんはカウンターの椅子に座って、待っている。



「洋服をもう少し買い足しておこうか?ちょうどバーゲンも始まっているだろう?俺も少しジャケットとスーツを買い足したい」

「光輝さんが必要なら、わたしもお手伝いしたいです」

「似合う物を選んでくれるのか?」

「選んでみたいです」



 緑茶のいい香りがしてくる。

 湯飲みにお茶を注ぐ。色も香りもすごくいい。


「どうぞ」

「ありがとう」


 茶托はホテルの物だけれど、無いより様になる。


「明日は外出できそうか?」

「はい、できます」

「明日まで休日だから、出かけよう」

「はい」


 いつもわたしの洋服を選んでばかりだったけれど、今回は好きな人の洋服を選べると思うと嬉しい。


「美味しい」

 光輝さんはお茶を一口飲むと呟いた。

 わたしもカウンターの椅子に座って、お茶を飲んだ。

 本当に美味しい。


「お茶も買ってこよう」

「はい」


 ささやかな贅沢だ。




…………………………*…………………………




 久しぶりに光輝さんのホテルの料理を食べて、ゆったりとした時間を過ごす。

 食器も片付けられたので、寝間着に着替えて寝る支度までしてしまうと、お茶を淹れてリビングに運んでおく。

 何もしない時間の使い方を知らないわたしは少し緊張したが、光輝さんはDVDを出してきて、リビングの大きなテレビに映画を映した。

 二人で並んで映画を観る。

 新作のDVDを手に入れたらしい。

 SFアクション映画だと言っていたが、言葉は英語だ。

 字幕に日本語が書かれているのは、わたしを気遣っての事か?

 簡単な英語だったので、必死にヒアリングをした。

 仮想現実空間を舞台にした人類とAIの戦いのようだが、この話は3話目の話のようだ。前の話は最初に語りで告げられたので、なんとなく話について行けた。

 本場の英語に触れたことのないわたしには、英語の語りはけっこう難しい。

 二時間以上の映画を見終えると、光輝さんは満足そうにDVDを取り出して片付け始めた。


「面白かったか?」

「えっと、うん」


 初めて観る映画なので、前作の繋がりがとても気になる。


「できたら、1話から観てみたい」

「そうだったね。いきなり3話からだと話が分からなかったかもしれないね。1話からあるから、今度は1話から観ていこうか?」

「うん」

「英語は理解できた?」

「あはは……たぶん」


 初めて観る映画が、内容がとても難しくて、英語だとは思わなかった。

 全て理解できたかと聞かれて「はい」とは、さすがに言えない。

 光輝さんの妻になるには、英語もペラペラにならなくてはいけないのだろうか?

 大学で英会話部があると思ったので、見学に行ってみようかな?アルバイトをしなくても良くなったのなら、大学生活を充実させるのも悪くはない。

 スキルアップもしなくてはならないだろう。



「英語が必要なのね?」

「まあ、そういうことだ。外国人のパーティーに参加することも出てくるから、できたら慣れておいて欲しい」

「はい」



 これはアルバイトに通うより、もっと大変そうだ。

 光輝さんはアメリカと日本を行き来していたので、英語はペラペラなのだろう。

 ティファさんは日本語がペラペラで、和真さんはアメリカで会社を任されているので、英語はペラペラなのだろう。

 これは大変な宿題をもらったような気がする。

 後期の授業から英会話を受講してもいいかもしれない。

 総合大学なので、時間が許せば受けたい学科も受けられる。


「そろそろ寝ようか?」

「は、はい///」


 わたしはテーブルの上から湯飲みをお盆に載せるとミニキッチンに運んで、丁寧に洗って布巾で拭くと食器棚に片付けた。

 急須の茶葉を捨てて、急須をゆすぐとミニキッチンの横に布巾を乗せてふせた。

 小さな物でもいいから、ふせておける物があるといいな……。


「洗い終わったのなら、電気を消すよ」

「はい」


 タオルで手を拭くと、光輝さんが消灯していく。

 光輝さんの寝室だけ明るくなっている。


(深呼吸して、落ち着かないと)


 わたしは手を引かれて、寝室に入って行った。




…………………………*…………………………




 まだ同じベッドで寝るのにも慣れていなくて、部屋に入っただけでドキドキしてしまう。


「いきなり襲ったりしないから安心しなさい」

「うん」


 このベッドもダブルベッドが二つ並んだベッドなので、とても広い。

 わたしが横になると、光輝さんがわたしの横に膝行ってきた。


「一緒に寝よう」

「うん」


 腕枕をしてくれて、間近に見つめ合う。


「キスをしたい」

「うん」


 わたしは頷いた。

 光輝さんの事はとても好きだ。信頼もしているし、わたしを大切にしていてくれる。

 早く結ばれるべきだと思う。

 触れられることも怖くなくなった……はずだ。

 わたしは初めてだから、光輝さんに身を任せればいいと思う。

 見つめ合って、何度もキスをする。戯れるようなキスだ。触れては離れて、時々舌が絡む。

 わたしの背中を撫でながら引き寄せて、キスは終わったようだ。

 体重が激減したばかりなので、光輝さんは触れるのも最低限にしているのかもしれない。

 わたしの体重が元に戻るまで、本当に抱かないつもりだと分かった。



「もう、寝よう。おやすみ」

「おやすみなさい」



 静かな空調の音と光輝さんの心音を聞いていたら、いつの間にか眠っていた。 



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