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第六章
7 親睦会、一族パーティー・お嬢様の反乱
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「おはよう」
「おはよう」
わたしが目を開けると、わたしの横でわたしを見ている光輝さんと目が合った。
光輝さんは、もう着替えていた。ジャケットを着るだけで、お出かけ着になりそうな姿だ。
「どこかに出かけていたの?」
「いや、和真とティファが来たから、着替えただけだよ」
「え?着替えなくちゃ」
慌てて、起きようとしたら、肩を押さえつけられた。数本の指先で、ベッドに戻されてしまった。
そんなに力は入れていないように見えるのに、すごい技だと思う。
「もう帰ったから、寝ていればいい」
「急用だったの?」
「近くで台風が発生したらしい。遊びほうけている連中は、気付かずに海に出ると危ないから、一応連絡事項として皆に連絡することにした。帰る奴も出てくるかもしれないから、まあ、ちょっと様子見だね」
「この辺に来るの?」
「今朝、発生したらしい。予測コースだと今夜、直撃かな」
「そんなに急に?」
日本の近海で突然発生する台風は、上陸までが短いから危ないと聞いた事があった。
わたしがぐっすり寝ている間に、光輝さんは総帥の仕事をこなしてきたのだと思うと、申し訳なさが込み上げてくる。
「美緒は疲れて眠っていると言っておいた」
「はぁ?」
「ティファの顔色が変わった時は、もう腹を抱えて笑いたくなったが。まあ、本当の事だしね?明け方近くまでプールで遊んで、生まれたての子鹿のように足をぷるぷるさせて、支えないと歩けなかったのは本当の事だろう?」
「そんな誤解をさせるような事を言わなくても」
今度は素早く起き上がった。
まるで、光輝さんと熱い夜を過ごしたような言い方だ。
夫婦だから、そうなっていてもおかしくはないけれど……。
「目撃者もいただろう?戻るときに出会った早起きの夫婦、奥さんがモーニングバイキングで、あること無いこと言いふらしていたらしいから、両親が耳にしたら面白いだろうね」
「あること無いこと……///」
光輝さんは誤解された事を楽しんでいる。
「俺たち、夫婦だからね。どんなに誤解だと言ったって、誰も信じないよ」
「確かにそうかもしれないけど」
夫婦になって、ずいぶん経つし、結ばれていない方が不思議だろう。
言ってしまったのなら、もう言葉は取り消せないし、帰るときに目撃されたことも消せない。
仕方が無い。
ベッドの時計を見ると、もうお昼過ぎている。
「お昼はバイキング行くか?届けてもらってもいいけれど。バイキング行ったら、美緒の好きなスイカがたくさん置いてあると思うよ。メロンもあるだろうね」
バイキングに行きたいのだろう。
昨日はずっと部屋に閉じこもっていたから。
「それならスイカとメロンを食べに行くわ」
「着替えておいで」
「うん」
わたしはベッドから下りて、着替えを取りに行って出かける準備を始めた。
…………………………*…………………………
「美緒さん、妊娠したって本当?」
「予定日は来年のゴールデンウィークって話だけど」
「ミオ!光輝は絶倫だから、あまり無理するな!」
「兄さんが美緒ちゃん一筋になってくれて、俺は嬉しいよ。元気な赤ちゃんを産んでね」
テーブルに着くと、まず卓也さんと恵麻さんが来て、ティファさんと和真も来た。来たと思ったら、とんでもない事を言い始めた。
「え?///」
わたしは彼らを見た後に、光輝さんを見た。
光輝さんは機嫌が良さそうな、にこやか笑顔を浮かべていた。
「美緒、体には十分、気をつけてくれ」
また誤解をさせるような事を言っているし……。
「みんなに心配かけてすまないな。まだ不安定な時期だから、そっとしておいてくれるか?」
光輝さんの言葉に、四人はただ頷いた。
「食事前にすみません。恵麻行こう」
「美緒さん、無理しないでね」
まず、卓也さんと恵麻さんが、誤解をしたまま立ち去って行った。
「ほら、ティファ、食事の邪魔をしたら駄目だろ。後で会いに行けばいいだろう?」
「分かったぞ!」
ティファさんと和真さんも誤解をしたまま立ち去って行った。
「どうするの?わたし、妊娠する予定なんてないよ?」
「さあな?」
光輝さんは、トレーを持ってわたしの手を引いた。
「食事を取りに行こう。スイカとメロンは食後のデザートだからな。体のためにもきちんと食事を食べないと駄目だぞ」
「うん」
疑心暗鬼になっているのだろうか?なんだか光輝さんが言う一語一句が、妊婦を気遣っているように聞こえるのは気のせいだろうか?
大量にスイカとメロンをお皿に盛って来てくれたので、わたしは黙々とスイカを食べる。
「どっちが食べたい?」
「今日はスイカかな?種がなくて食べやすいし、すごく甘い」
「それならスイカを持って来よう?」
光輝さんは席を立ってスイカを取りに行った。
席の横に誰かが立って、わたしは顔を上げた。
「あ、おはようございます」
わたしは急いで立ち上がって、お辞儀をする。
おはようございますではなく、こんにちはの時間だったことに気付いたけれど、指摘はされなかった。その代わりに、
「この泥棒猫!光輝の子を宿したんですって?すぐに堕胎しなさい」
突然始まったマンシンガートークの発言者は、光輝さんのお母様だった。
隣にわたしを冷たく睨むお父様が立っている。
「光輝には相応しい女性と結婚してもらいますので、さっさと離縁しなさい」
周りの席がざわめく。
(こんな人の多い場所で、そんな大きな声で言ったら、周りに聞こえてしまうのに)
ランチタイムなので、テーブルは埋まっている。
「失礼、俺の妻に用があるのか?」
お皿にスイカを大盛りにしてきた光輝さんが、ご両親の後ろから声をかけた。
「光輝、いい加減に目を覚ましたらどうなの?泥棒猫から生まれた子など円城寺家に相応しくありませんからね」
「いいえ、美緒は俺の妻です」
テーブルにお皿を置くと、光輝さんはわたしに「座りなさい」と言ってくれた。
わたしは言われた通りに座った。
「食事中に迷惑ですので、お引き取りください。今後、俺がいないときに美緒に声をかけないでください。もうあなた方は一線を退かれた方なので、口出しは無用です。それでも用があるなら面会を取って会いに来てください。俺も多忙ですから順番は守っていただきます」
淡々とした言葉は、その他大勢の人に言っているような言葉だ。光輝さんは両親を、きっと身内だと思っていないのだろう。
ただの生みの親だと言っていたし……。
「光輝はわたしの息子でしょ?息子に会うのに予約がいるって言うの?」
「あいにく、生みの親だと言うだけだと先日も言いました。食事中ですので、どうぞお引き取りください。周りの席の方々にも迷惑になります」
「フン」
母親はわたしを睨んで、二人で去って行った。
わたしたちの周りの席に人は、食事の手が止まっていた。
「ご迷惑をおかけいたしました」
光輝さんは、周りの席の人達に頭を下げた。
「お気になさらず」
「大変ですね」
「相変わらず我が儘でいらっしゃいますね」
周りの席の人は光輝さんに同情的であった事に安心した。
「さあ、食べよう」
「……うん」
光輝さんは席に着くと、わたしの前に大盛りのお皿を置いてくれた。
「好きなだけ食べなさい」
「光輝さんも一緒に食べましょう」
「それなら一緒に食べよう」
光輝さんのご両親は、バイキング会場から出て行った。
わたしは光輝さんと一緒にスイカを食べた。
甘くて美味しい。
「戻ったら、またスイカの解体ショーをしよう」
「うん」
大玉のスイカを目の前で切ってもらうのも楽しかった。
フルーツポンチも美味しかったから、また作ってもらいたい。
わたしは光輝さんのご両親は、もう諦めてくれたと思っていた。
…………………………*…………………………
「光輝、昨日は、姿を見せてくれなくて、寂しかったわ」
バイキング会場から出たら、市条さんが光輝さんの胸に飛び込んできた。
手を繋いで歩いていた。
わたしは衝撃で飛ばされて、わたしを待っていたティファさんが受け止めてくれた。
「ミオ、大丈夫か?」
「うん」
ティファさんはいつもとは違ったお洒落なワンピースを着ていた。スリットから見える長く伸びた足が美しい。
「急に危ないじゃないか?」
光輝さんは市条さんを引き剥がそうとしているけれど、なかなか離れてはくれない。
「昨日は、素敵な浴衣を着て待っていたのに、待ちぼうけでしたわ」
「約束をした覚えはない」
「早く雌猫と別れてください。わたくしが伴侶になった暁には、わたくしが運営している会社とも合併できて、円城寺グループも幅が広まりますわ」
「君の会社に興味は無い。勿論、君にも興味は無い」
「酷いですわね。わたくしが学生の間に起業した会社は、市条物産の中でも業績がトップですのよ。あまり軽く見ないでいただきたいわ」
学生の間に起業をしたのか?と言うことは、市条さんは学生だけれど、既に会社の社長なのね?それは凄い!
ただの我が儘なお嬢様とは違うのだと知ったら、少しは市条さんを見る目も変わった。
学生の間に、どうしたら起業ができるのだろうか?
プログラミングだろうか?何かを作りだしたのなら、それは素晴らしい。
「確か、ファッション関係だったね。君はデザイナーなのか?」
「デザイナーを雇っているわ」
光輝さんはクスッと笑った。
「君は出資をしているだけだろう?デザイナーがいなくなれば、君の仕事の価値は一気に堕落して0になるかもしれないよ」
「なんですって?」
出資をしているだけだと聞いたら、興味は失せた。
デザイナーなら、その素質を羨ましくなるが、お金で雇っているならば、光輝さんが言うようにデザイナー次第だ。
「こんな所で油を売っていないで、そのデザイナーが逃げ出されないようにした方がいい」
自分に素質があれば、自信を持って威張れるけれど、他人の力を借りた物だったら、いつまで続くか分からない。デザイナーがもっとレベルを上げるために、他社に移ることもある。
水物商売だと思った。
「それでうちの会社に後ろ盾になって欲しいのか?悪いが水物商売に手を貸すほど馬鹿ではない。他を当たってくれ」
「後ろ盾じゃ無いわ。わたくしは光輝のご両親に是非嫁に来て欲しいと推薦されたのよ」
「悪いが、俺を呼び捨てにするのは止めていただきたい。それと俺の両親はただ血の繋がりがあるだけの他人だ。そんな相手が選んだ女と結婚を考えるつもりはないし、俺はもう結婚している」
「わたくしに恥ばかりかかせるのね?」
市条さんは、光輝さんの頬を力一杯、平手で叩いた。
プライドの高いお嬢様のようだ。
パチンと高い音が響いた。
光輝さんの頬が真っ赤になって、すごく痛そうだ。
「気が済んだか?ここは、円城寺グループの親睦会の会場だ。部外者は出て行ってくれないか?」
「わたくしは、光輝のご両親に招待されているわ」
「その両親という相手は、もはや、一線を退いた者だ。隠居をした者も参加は認められるが、これからは参加者を選別しよう」
市条さんは顔を真っ赤にして、ピンヒールの踵で、光輝さんの靴を思いっきり踏んだ。
「あちゃー、あれは痛そうだ」
和真さんが顔を顰めている。
「光輝はオンナナカセだな!」
女泣かせと言うのだろうか?
わたしはティファさんと和真さんに、言い合いをしている二人から離れた場所に連れて行かれた。
周りにも見学者がいるから、いい見世物だ。
総帥の光輝さんには、悪い印象しか与えない。
まるで光輝さんが二股をかけていたようにも見えなくはない。
「もう話すことはないだろう?夜には台風が来るらしい。早く帰った方がいいだろう?」
「帰りません。わたくしの方が妻の座に相応しいと思わせて見せます」
「迷惑だ」
光輝さんはもう興味がないと言うように、背中を見せてわたしを迎えに来ようとしたけれど、市条さんはそんな光輝さんの背中に、駆け寄って跳び蹴りをした。
わたしが呆然としている間に、光輝さんは前のめりに転んだ。その体を素早く跨ぐと、光輝さんにキスをした。背中に乗ってキスしているから唇には触れていないと思うけれど、そこまでは見えない。それにしても、ずいぶん乱暴な事をしている。
咄嗟に光輝さんが起き上がって、背中に乗っていた市条さんはそのまま後ろに転がり落ちた。フロアーに転がっている姿は、みっともない。
「不快だ!出て行け!」
ホテルのホールに響くように、光輝さんは大声を上げた。
こんなに怒った声を出した光輝さんを初めて見た。
卓也さんと恵麻さんが、わたしの傍に近づいてきた。
「これは酷い、見世物だ」
卓也さんはぽつりと呟いた。
「こんな人前で、総帥を蹴り倒して、唇を奪うなんて、恐れ知らずだ」
恵麻さんは、わたしの手をギュッと握った。
和真さんは集まっている人達に、部屋に戻るように告げている。他にも何人かが和真さんのように動いている。
きっと上層部の人達だ。声をかけられた者や声を聞いた者達が、離れて行く。
「俺は君の会社も君の親の会社も潰すことくらい容易くできる。これ以上、怒らすな」
「わたくしを愛してください」
「求愛をするには、ずいぶん乱暴な事をするんだな?俺は猿化した女は嫌いだ。姿を消せ」
「わたくしは猿ではありません」
「君には人としても女としても魅力は感じられない」
光輝さんが背を向けると、何人かの男性が市条さんを確保した。
拘束された市条さんは、必死で藻掻いている。
「美緒、見苦しい所を見せた」
「大丈夫なの?」
ジャケットの後ろには靴跡とピンヒールで引っ掛かったほつれがある。
背中に痣ができたかもしれない。
「ミオに心配をかけるな!」
「すまない。ティファ助かった」
「おう!部屋まで送るぞ!」
「あいつの会社、潰してやろうか!」
光輝さんは本当に怒っていた。
「少し、落ちつこうよ。お部屋でお茶を淹れるわ」
卓也さんと恵麻さんに頭を下げると、わたしは光輝さんの手を握った。
台風の幕開けのような嫌な風向きだった。
…………………………*…………………………
ティファさんが部屋に入るのを和真さんが止めて、部屋の中には光輝さんとわたしだけになった。
光輝さんはジャケットをゴミ箱に捨てて、シャワーを浴びに行った。
わたしは光輝さんのリクエストで緑茶を淹れることにした。
暖かい物が飲みたいと言っていたので、お湯を沸かして、茶葉だけ入れて光輝さんが出てくるのを待った。
光輝さんのご両親は、市条さんと結婚させて、光輝さんを操れると思っているのだろうか?
光輝さんはご両親に愛情の欠片も持っていない。
市条さんと万が一結婚したとしても、ご両親の言いなりになることはないと思うのに、何がしたいのだろう?
単にわたしが気に入らないのなら、わたしを消せばすむことだ。
美衣ちゃんのお母さんの葵さんも、ご両親が操って寄越したのだろうか?
指輪を奪って、カード類を盗んで罪を犯させて、光輝さんの立場を悪くさせて……。
(そうか、光輝さんの立場を悪くさせる事が目的なのかもしれない……)
人目に付くところで、市条さんに騒ぎを起こさせて、フロアーに倒して唇を奪う……人によっては隙があると思う者もいるかもしれない。
市条さんを光輝さんに近づけさせたらいけない。ご両親の思惑に嵌まってしまう。
だからと言って、ずっと部屋にこもっているわけにいかない。
この親睦会は総帥の表の仕事だ。まだ三日しか過ぎていない。
土曜日までだったら、四日もある。
どんなスケジュールか知らされていないけれど、きっと毎日、パーティーがあるのだろう。
わたしのドレスも汚れて着られない。
このホテルにはドレスのレンタルはないのだろうか?
桜子さんに和服を借りてまた汚されたら、弁償できない。和服は同じ物が二つとない。
既製品ではないのなら、一点一点作り手が手作りする物だからオンリーワンだ。
持っている物は浴衣だけだ。それで乗り切ることができるのか、相談してみよう。
市条さんの事だから、またワインをかけることを企むかもしれない。
初めは偶然、汚してしまったとしても、思惑通りになったのだから、同じ手を使う可能性もある。
今度はグラスを投げてくる可能性もあるから気をつけなければ、わたしもまた怪我をしてしまう。
「美緒、お待たせ」
「あ、お帰りなさい」
わたしはポットのお湯を注いだ。
ティーパックのお茶なので、すぐにお茶もできる。
「美緒、消毒してくれ」
「消毒?背中をやはり怪我をしていたの?」
「違う」
光輝さんは、わたしにキスをしてきた。
目を閉じて、光輝さんにしがみつく。
少しずつ慣れてきた大人のキスは、一度離れた後もまた続いた。
呼吸が苦しくなってきた頃に、やっと離れて行った。
照れくさい。
「……光輝さん、背中を見せて、怪我してない?」
「そんな柔な鍛え方はしてない。大丈夫だ」
呼吸を乱しながら聞くと、光輝さんは、わたしの背中を撫でながらわたしを抱き寄せた。
わたしは自分が考えていた事を光輝さんに話した。
「美緒の想像通りだろうね。俺を総帥の座から降ろしたいのだろうね」
光輝さんは、わたしの拘束を解くと、カウンターの前にある背の高めの椅子に座った。
少し濃く出てしまったお茶をマグカップで出した。
器が大きかった事もあり、思ったよりも味は悪くなっていなかった。
「葵を操って犯罪をさせたのなら、葵は被害者だ。扉の外に書かれた『殺す』の文字の意味も理解できる。警察に保護された赤ん坊も被害者だ。母親から引き離された事になる」
光輝さんは熱めのお茶を飲みながら、考えているようだ。
「幹部連中が市条のお嬢さんを取り押さえてくれたが、黙って出て行くとも考えられない。美緒が言うとおり桜子から和服を借りるのは危険かもしれない。浴衣は昨日のための物だ。パーティーでは着ない。ドレスをレンタルできるか聞いてみよう。この際、買い取ってもいい。汚されたら市条家に料金を請求してやる。パーティーは土曜の夜に解散になる。そのまま帰る者と日曜日にゆっくり帰る者もいる。後、四日の間のドレスが必要だ」
わたしは頷いて、マグカップを口にする。
「市条さんの目的は、やはり光輝さんの後ろ盾でしょうね?起業しても不安定なお仕事なら不安に思っているかもしれません」
「そうだろうね。金で雇っているなら、条件のいいところに行きたいと思うだろう」
「お洒落に疎いのでなんとも言えないのだけれど、今日の市条さんのお召し物は、お世辞にもお洒落だとは思えませんでした。昨夜のドレスは綺麗でしたけれど」
光輝さんは笑った。
今日の市条さんは、ロゴが入ったTシャツと裾の開いたパンツスタイルだった。
色目も普通で、上が白で、下がチョコレート色だった。
生地は上下ともTシャツの生地だったから砕けすぎている。
ワンピースを身につけている円城寺家のお嬢様の中では悪目立ちをしていた。
海に遊びに行くならありだと思うけれど、食事の時間は、皆さんワンピースを身につけている。
わたしは元々夏物の服はワンピースしか持ってなかったので、砕けた洋服は着ることはできないのだけど、TPOは大切だと市条さんを見て思った。
「美緒も知らぬ間に、目が肥えてきたようだな?」
「わたしが着ている物は、円城寺家の方に選んでいただいた物ばかりなので、自分の持っている洋服と比較しただけよ」
「古着だったかもしれないが、美緒もお嬢様の洋服を着ていたからね。育ちが違うのだと思うよ」
「持ち物は全部100均だったけれどね?///」
光輝さんの手がポンポンと頭を撫でる。100均の物でも良い物もある。今でも使える物は使っている。
虐待を受けていても、真竹家は名家だったのだろうか?
一般家庭ではないとは思うけれど、確かに姉はお嬢様に見えた。
住み込みの家政婦もいた。
茶道と着つけができるだけの、少し和服の目が肥えているだけの家庭だったけれど、あの家もわたしにとって役に立つ家だったのだろうか?とふと思った。
…………………………*…………………………
ホテルに問い合わせたら、ドレスのレンタルができると言われた。ただ本職の者は休み中で立ち会いは女性の従業員になった。
光輝さんとレンタルドレスを見て歩く。ホテルだけあって、ウエディングドレスが多い。
「ウエディングドレスでも着ていくか?」
冗談か本気か、わたしは苦笑して受け流した。
ダンスパーティーにウエディングドレスを着ていく者はいないだろう。
「色が白でなければ、普通のドレスだろう?」
「そうね?」
言われてみれば、そうかもしれない。
桜子さんも丈の長いドレスを着ていた。
市条さんも赤い丈の長いドレスを着ていた。他の円城寺家のお嬢様達も丈の長いドレスを着て、ダンスを踊っていた。
光輝さんがドレスを見て、幾つか候補を出していく。
「この辺りは、新品だと思います。まだ値札が付いておりますので」
女性の従業員は別の場所からドレス掛けを引っ張ってきた。
「いいのがあるじゃないか」
光輝さんは新品のドレスを見始めた。
「せっかくだから、4着買うか?」
「1着を着ていてもいいと思うけれど」
「他の者は毎日、着替えているだろう?」
「そうなのかな?」
無駄だと思うけれど、それも事実だ。桜子さんは、毎日、ドレスを替えている。
「パーティー用のドレスもございます」
奥から次のドレス掛けを持ってきた。
そこには、膝丈や長めのワンピースより華やかなドレスが掛かっていた。
「いい物があるな。サイズが揃っているといいのだが」
選んだダンス用のドレスをドレス掛けに掛けると、パーティー用のドレスを見始めた。
わたしの体型だと、どうしても背中のリボンでサイズを調節するタイプの物が合う。
桜子さんのように、体型が成熟していないので、ボディーラインに合った物はなかなかに合わない。
「アクセサリーもいい物があれば見せてくれるか?」
「はい」
女性の従業員はまず入荷したばかりの物をテーブルに置くと、元々ある物も出してきた。
「イミテーションですが、良い素材を使っておりますので、お値段もそれなりにいたします」
パーティー用のドレスは、膝丈の物から踝まで隠れるようなドレスが色々ある。
候補として、幾つか選んでくれる。
「美緒、試着しなさい」
「はい」
背が低いので、ロング丈の物は、どうしても重く見えてしまう。
光輝さんが選んだドレスを女性の従業員に手伝ってもらいながら、着てみる。
どれも華やかで、果たして似合っているのか?
1着ずつ着て、光輝さんがチェックしていく。
「ダンス用のドレスもこの際、ここで買って行くか?せっかくいい物がある」
「はい、お願いします」
何着か試着したダンスパーティー用のドレスは、落ち着きのあるピンクを選んでくれた。
パーティー用のドレスは、背中でコルセットのようにリボンで絞れるような物を中心として色合いを考えてくれた。
スカート部分に白の縁取りのあるネイビーのワンピースは落ち着いているのに華やかで、黒のタキシードの横に並んだときにお揃いに見えそうで、気に入った。
「この5着でいいか?」
「とても気に入りました。ありがとうございます」
パーティー用のドレスは、派手すぎずに地味すぎずに、上品でお洒落なドレスを選んだと思う。
落ちついた色なので長く着られると思う。
「髪はアップした方がいいのでしょうか?」
「そうですね」
女性の従業員はいろんな写真を持ってきて見せてくれる。
自分でできそうな髪型もあった。
この間、桜子さんがしてくれたような髪型も良さそうだ。
ヘアアクセサリーとネックレスも似合う物を選んでもらった。
光輝さんはアクセサリーも新品の中から選んでいる。
ドレスとセットになった物もあったので、使いやすいかもしれない。
(新品のドレスの中から選んだから、購入になるのかな?)
ドレスをもう一度着て、アクセサリーが似合うかどうかを確かめていく。
ドレスに合わせた靴も選んでくれた。
「全て購入する」
「ありがとうございます」
総額幾らになるんだろう?
ダンスパーティー用のドレスは、ウエディングドレスだと思う。
ウエディングドレスを着る機会があれば、これを着てもいいかもしれない。
このドレスを持ち運ぶためのスーツケースは、幾ついるのだろう?
桜子さんはボディーラインが見えるドレスが多かったけれど、光輝さんが選んでくれた物は、シフォンやレースを使ったふんわりした物が多い。
持ち帰るのも大変そうだと思った。
「部屋に運んでくれ」
「畏まりました」
女性の従業員は深く頭を下げた。
ドレスを選んで部屋に戻ると、暫くして卓也さんと恵麻さんが、部屋に訪ねて来た。
「美緒、すまないが、緊急会議がある。俺が戻るまで、二人と過ごしてくれるか?」
「はい」
「卓也君、恵麻君、美緒を頼むよ」
「「はい、行ってらっしゃい」」
「行ってらっしゃい」
光輝さんは急いで部屋を出て行った。
朝の騒ぎや光輝さんのご両親の事もあるし、台風の備えもあるのかもしれない。
「美緒さん、何をして過ごしたいですか?」
「トランプなら持ってきたよ」
「それならトランプにしましょう。でも、わたし、ゲームを知らなくて、教えてもらえますか?」
「ゲームを知らないの?」
「わたし、キャンプや修学旅行も行ったことがなくて、親しい友人もいなくて、遊びを知らないの」
「そうなんだ」
「それなら、俺が教えてあげる」
恵麻さんがわたしをソファーに誘った。
ゲームで遊んでいると、部屋の電話が鳴った。
卓也さんが出てくれる。
〈分かりました〉
電話を切ると、戻ってくる。
「なんだって?」
「総帥から差し入れが届くそうだよ」
暫くすると、扉がノックされた。
卓也さんが部屋を開けてくれた。
「総帥から差し入れです」
「ありがとうございます」
ジュースとケーキが運ばれてきた。ダイニングテーブルに並べられていく。
「それでは失礼しました」
従業員は出て行った。
わたし達はダイニングテーブルに並べられたケーキと青色のソーダーを食べ始めた。
ケーキは、イチゴが乗ったショートケーキだ。
イチゴが酸っぱくて、生クリームが甘い。スポンジはふわふわだ。
「総帥も気が利くね?」
「俺、サンドイッチの方が良かった」
「でも、ケーキなんて、初めて食べるわ。青いソーダーも初めてよ」
「ブルーハワイかな?」
恵麻さんは、青い色の炭酸のジュースを飲んでいる。
「青だからブルーは分かるけれど、どうしてハワイなの?」
「んーとね」
恵麻さんは、卓也さんの方を見た。
「俺も詳しくは知らないけど、ブルーハワイっていうカクテルがあるらしくて、それを真似ている説とハワイの青い空と海の色をイメージしてそう呼ばれるようになった説とかあるね」
「ハワイの空と海は青いのね?」
「そうだね、景色は綺麗だよ。海の色も確かに青いよ」
卓也さんは、説明しながら青いジュースを飲んだ。
光輝さんと一緒に暮らし始めて、初めて提供される食べ物ばかりだった。
ケーキも炭酸ジュースも特に食べたいと思った事はないので、欲しがりはしなかったけれど、とても珍しいと思った。
「ジュースの青い色は着色だけどね」
卓也さんはケーキもジュースも飲むとあくびをした。
青いソーダーを飲むと、なんだか眠くなってきた。
卓也さんと恵麻さんもテーブルに伏せて眠っている。
「こんな所で眠ったら危ないよ?」
二人を起こそうとしたけれど、わたしも瞼が重くなってきた。
(これ変だ。先に食べた二人は、すっかり眠っていて、わたしも眠い。薬でも盛られたんじゃないでしょうね?)
そう思った時には、もう動けなくて、意識が吸い込まれていった。
「おはよう」
わたしが目を開けると、わたしの横でわたしを見ている光輝さんと目が合った。
光輝さんは、もう着替えていた。ジャケットを着るだけで、お出かけ着になりそうな姿だ。
「どこかに出かけていたの?」
「いや、和真とティファが来たから、着替えただけだよ」
「え?着替えなくちゃ」
慌てて、起きようとしたら、肩を押さえつけられた。数本の指先で、ベッドに戻されてしまった。
そんなに力は入れていないように見えるのに、すごい技だと思う。
「もう帰ったから、寝ていればいい」
「急用だったの?」
「近くで台風が発生したらしい。遊びほうけている連中は、気付かずに海に出ると危ないから、一応連絡事項として皆に連絡することにした。帰る奴も出てくるかもしれないから、まあ、ちょっと様子見だね」
「この辺に来るの?」
「今朝、発生したらしい。予測コースだと今夜、直撃かな」
「そんなに急に?」
日本の近海で突然発生する台風は、上陸までが短いから危ないと聞いた事があった。
わたしがぐっすり寝ている間に、光輝さんは総帥の仕事をこなしてきたのだと思うと、申し訳なさが込み上げてくる。
「美緒は疲れて眠っていると言っておいた」
「はぁ?」
「ティファの顔色が変わった時は、もう腹を抱えて笑いたくなったが。まあ、本当の事だしね?明け方近くまでプールで遊んで、生まれたての子鹿のように足をぷるぷるさせて、支えないと歩けなかったのは本当の事だろう?」
「そんな誤解をさせるような事を言わなくても」
今度は素早く起き上がった。
まるで、光輝さんと熱い夜を過ごしたような言い方だ。
夫婦だから、そうなっていてもおかしくはないけれど……。
「目撃者もいただろう?戻るときに出会った早起きの夫婦、奥さんがモーニングバイキングで、あること無いこと言いふらしていたらしいから、両親が耳にしたら面白いだろうね」
「あること無いこと……///」
光輝さんは誤解された事を楽しんでいる。
「俺たち、夫婦だからね。どんなに誤解だと言ったって、誰も信じないよ」
「確かにそうかもしれないけど」
夫婦になって、ずいぶん経つし、結ばれていない方が不思議だろう。
言ってしまったのなら、もう言葉は取り消せないし、帰るときに目撃されたことも消せない。
仕方が無い。
ベッドの時計を見ると、もうお昼過ぎている。
「お昼はバイキング行くか?届けてもらってもいいけれど。バイキング行ったら、美緒の好きなスイカがたくさん置いてあると思うよ。メロンもあるだろうね」
バイキングに行きたいのだろう。
昨日はずっと部屋に閉じこもっていたから。
「それならスイカとメロンを食べに行くわ」
「着替えておいで」
「うん」
わたしはベッドから下りて、着替えを取りに行って出かける準備を始めた。
…………………………*…………………………
「美緒さん、妊娠したって本当?」
「予定日は来年のゴールデンウィークって話だけど」
「ミオ!光輝は絶倫だから、あまり無理するな!」
「兄さんが美緒ちゃん一筋になってくれて、俺は嬉しいよ。元気な赤ちゃんを産んでね」
テーブルに着くと、まず卓也さんと恵麻さんが来て、ティファさんと和真も来た。来たと思ったら、とんでもない事を言い始めた。
「え?///」
わたしは彼らを見た後に、光輝さんを見た。
光輝さんは機嫌が良さそうな、にこやか笑顔を浮かべていた。
「美緒、体には十分、気をつけてくれ」
また誤解をさせるような事を言っているし……。
「みんなに心配かけてすまないな。まだ不安定な時期だから、そっとしておいてくれるか?」
光輝さんの言葉に、四人はただ頷いた。
「食事前にすみません。恵麻行こう」
「美緒さん、無理しないでね」
まず、卓也さんと恵麻さんが、誤解をしたまま立ち去って行った。
「ほら、ティファ、食事の邪魔をしたら駄目だろ。後で会いに行けばいいだろう?」
「分かったぞ!」
ティファさんと和真さんも誤解をしたまま立ち去って行った。
「どうするの?わたし、妊娠する予定なんてないよ?」
「さあな?」
光輝さんは、トレーを持ってわたしの手を引いた。
「食事を取りに行こう。スイカとメロンは食後のデザートだからな。体のためにもきちんと食事を食べないと駄目だぞ」
「うん」
疑心暗鬼になっているのだろうか?なんだか光輝さんが言う一語一句が、妊婦を気遣っているように聞こえるのは気のせいだろうか?
大量にスイカとメロンをお皿に盛って来てくれたので、わたしは黙々とスイカを食べる。
「どっちが食べたい?」
「今日はスイカかな?種がなくて食べやすいし、すごく甘い」
「それならスイカを持って来よう?」
光輝さんは席を立ってスイカを取りに行った。
席の横に誰かが立って、わたしは顔を上げた。
「あ、おはようございます」
わたしは急いで立ち上がって、お辞儀をする。
おはようございますではなく、こんにちはの時間だったことに気付いたけれど、指摘はされなかった。その代わりに、
「この泥棒猫!光輝の子を宿したんですって?すぐに堕胎しなさい」
突然始まったマンシンガートークの発言者は、光輝さんのお母様だった。
隣にわたしを冷たく睨むお父様が立っている。
「光輝には相応しい女性と結婚してもらいますので、さっさと離縁しなさい」
周りの席がざわめく。
(こんな人の多い場所で、そんな大きな声で言ったら、周りに聞こえてしまうのに)
ランチタイムなので、テーブルは埋まっている。
「失礼、俺の妻に用があるのか?」
お皿にスイカを大盛りにしてきた光輝さんが、ご両親の後ろから声をかけた。
「光輝、いい加減に目を覚ましたらどうなの?泥棒猫から生まれた子など円城寺家に相応しくありませんからね」
「いいえ、美緒は俺の妻です」
テーブルにお皿を置くと、光輝さんはわたしに「座りなさい」と言ってくれた。
わたしは言われた通りに座った。
「食事中に迷惑ですので、お引き取りください。今後、俺がいないときに美緒に声をかけないでください。もうあなた方は一線を退かれた方なので、口出しは無用です。それでも用があるなら面会を取って会いに来てください。俺も多忙ですから順番は守っていただきます」
淡々とした言葉は、その他大勢の人に言っているような言葉だ。光輝さんは両親を、きっと身内だと思っていないのだろう。
ただの生みの親だと言っていたし……。
「光輝はわたしの息子でしょ?息子に会うのに予約がいるって言うの?」
「あいにく、生みの親だと言うだけだと先日も言いました。食事中ですので、どうぞお引き取りください。周りの席の方々にも迷惑になります」
「フン」
母親はわたしを睨んで、二人で去って行った。
わたしたちの周りの席に人は、食事の手が止まっていた。
「ご迷惑をおかけいたしました」
光輝さんは、周りの席の人達に頭を下げた。
「お気になさらず」
「大変ですね」
「相変わらず我が儘でいらっしゃいますね」
周りの席の人は光輝さんに同情的であった事に安心した。
「さあ、食べよう」
「……うん」
光輝さんは席に着くと、わたしの前に大盛りのお皿を置いてくれた。
「好きなだけ食べなさい」
「光輝さんも一緒に食べましょう」
「それなら一緒に食べよう」
光輝さんのご両親は、バイキング会場から出て行った。
わたしは光輝さんと一緒にスイカを食べた。
甘くて美味しい。
「戻ったら、またスイカの解体ショーをしよう」
「うん」
大玉のスイカを目の前で切ってもらうのも楽しかった。
フルーツポンチも美味しかったから、また作ってもらいたい。
わたしは光輝さんのご両親は、もう諦めてくれたと思っていた。
…………………………*…………………………
「光輝、昨日は、姿を見せてくれなくて、寂しかったわ」
バイキング会場から出たら、市条さんが光輝さんの胸に飛び込んできた。
手を繋いで歩いていた。
わたしは衝撃で飛ばされて、わたしを待っていたティファさんが受け止めてくれた。
「ミオ、大丈夫か?」
「うん」
ティファさんはいつもとは違ったお洒落なワンピースを着ていた。スリットから見える長く伸びた足が美しい。
「急に危ないじゃないか?」
光輝さんは市条さんを引き剥がそうとしているけれど、なかなか離れてはくれない。
「昨日は、素敵な浴衣を着て待っていたのに、待ちぼうけでしたわ」
「約束をした覚えはない」
「早く雌猫と別れてください。わたくしが伴侶になった暁には、わたくしが運営している会社とも合併できて、円城寺グループも幅が広まりますわ」
「君の会社に興味は無い。勿論、君にも興味は無い」
「酷いですわね。わたくしが学生の間に起業した会社は、市条物産の中でも業績がトップですのよ。あまり軽く見ないでいただきたいわ」
学生の間に起業をしたのか?と言うことは、市条さんは学生だけれど、既に会社の社長なのね?それは凄い!
ただの我が儘なお嬢様とは違うのだと知ったら、少しは市条さんを見る目も変わった。
学生の間に、どうしたら起業ができるのだろうか?
プログラミングだろうか?何かを作りだしたのなら、それは素晴らしい。
「確か、ファッション関係だったね。君はデザイナーなのか?」
「デザイナーを雇っているわ」
光輝さんはクスッと笑った。
「君は出資をしているだけだろう?デザイナーがいなくなれば、君の仕事の価値は一気に堕落して0になるかもしれないよ」
「なんですって?」
出資をしているだけだと聞いたら、興味は失せた。
デザイナーなら、その素質を羨ましくなるが、お金で雇っているならば、光輝さんが言うようにデザイナー次第だ。
「こんな所で油を売っていないで、そのデザイナーが逃げ出されないようにした方がいい」
自分に素質があれば、自信を持って威張れるけれど、他人の力を借りた物だったら、いつまで続くか分からない。デザイナーがもっとレベルを上げるために、他社に移ることもある。
水物商売だと思った。
「それでうちの会社に後ろ盾になって欲しいのか?悪いが水物商売に手を貸すほど馬鹿ではない。他を当たってくれ」
「後ろ盾じゃ無いわ。わたくしは光輝のご両親に是非嫁に来て欲しいと推薦されたのよ」
「悪いが、俺を呼び捨てにするのは止めていただきたい。それと俺の両親はただ血の繋がりがあるだけの他人だ。そんな相手が選んだ女と結婚を考えるつもりはないし、俺はもう結婚している」
「わたくしに恥ばかりかかせるのね?」
市条さんは、光輝さんの頬を力一杯、平手で叩いた。
プライドの高いお嬢様のようだ。
パチンと高い音が響いた。
光輝さんの頬が真っ赤になって、すごく痛そうだ。
「気が済んだか?ここは、円城寺グループの親睦会の会場だ。部外者は出て行ってくれないか?」
「わたくしは、光輝のご両親に招待されているわ」
「その両親という相手は、もはや、一線を退いた者だ。隠居をした者も参加は認められるが、これからは参加者を選別しよう」
市条さんは顔を真っ赤にして、ピンヒールの踵で、光輝さんの靴を思いっきり踏んだ。
「あちゃー、あれは痛そうだ」
和真さんが顔を顰めている。
「光輝はオンナナカセだな!」
女泣かせと言うのだろうか?
わたしはティファさんと和真さんに、言い合いをしている二人から離れた場所に連れて行かれた。
周りにも見学者がいるから、いい見世物だ。
総帥の光輝さんには、悪い印象しか与えない。
まるで光輝さんが二股をかけていたようにも見えなくはない。
「もう話すことはないだろう?夜には台風が来るらしい。早く帰った方がいいだろう?」
「帰りません。わたくしの方が妻の座に相応しいと思わせて見せます」
「迷惑だ」
光輝さんはもう興味がないと言うように、背中を見せてわたしを迎えに来ようとしたけれど、市条さんはそんな光輝さんの背中に、駆け寄って跳び蹴りをした。
わたしが呆然としている間に、光輝さんは前のめりに転んだ。その体を素早く跨ぐと、光輝さんにキスをした。背中に乗ってキスしているから唇には触れていないと思うけれど、そこまでは見えない。それにしても、ずいぶん乱暴な事をしている。
咄嗟に光輝さんが起き上がって、背中に乗っていた市条さんはそのまま後ろに転がり落ちた。フロアーに転がっている姿は、みっともない。
「不快だ!出て行け!」
ホテルのホールに響くように、光輝さんは大声を上げた。
こんなに怒った声を出した光輝さんを初めて見た。
卓也さんと恵麻さんが、わたしの傍に近づいてきた。
「これは酷い、見世物だ」
卓也さんはぽつりと呟いた。
「こんな人前で、総帥を蹴り倒して、唇を奪うなんて、恐れ知らずだ」
恵麻さんは、わたしの手をギュッと握った。
和真さんは集まっている人達に、部屋に戻るように告げている。他にも何人かが和真さんのように動いている。
きっと上層部の人達だ。声をかけられた者や声を聞いた者達が、離れて行く。
「俺は君の会社も君の親の会社も潰すことくらい容易くできる。これ以上、怒らすな」
「わたくしを愛してください」
「求愛をするには、ずいぶん乱暴な事をするんだな?俺は猿化した女は嫌いだ。姿を消せ」
「わたくしは猿ではありません」
「君には人としても女としても魅力は感じられない」
光輝さんが背を向けると、何人かの男性が市条さんを確保した。
拘束された市条さんは、必死で藻掻いている。
「美緒、見苦しい所を見せた」
「大丈夫なの?」
ジャケットの後ろには靴跡とピンヒールで引っ掛かったほつれがある。
背中に痣ができたかもしれない。
「ミオに心配をかけるな!」
「すまない。ティファ助かった」
「おう!部屋まで送るぞ!」
「あいつの会社、潰してやろうか!」
光輝さんは本当に怒っていた。
「少し、落ちつこうよ。お部屋でお茶を淹れるわ」
卓也さんと恵麻さんに頭を下げると、わたしは光輝さんの手を握った。
台風の幕開けのような嫌な風向きだった。
…………………………*…………………………
ティファさんが部屋に入るのを和真さんが止めて、部屋の中には光輝さんとわたしだけになった。
光輝さんはジャケットをゴミ箱に捨てて、シャワーを浴びに行った。
わたしは光輝さんのリクエストで緑茶を淹れることにした。
暖かい物が飲みたいと言っていたので、お湯を沸かして、茶葉だけ入れて光輝さんが出てくるのを待った。
光輝さんのご両親は、市条さんと結婚させて、光輝さんを操れると思っているのだろうか?
光輝さんはご両親に愛情の欠片も持っていない。
市条さんと万が一結婚したとしても、ご両親の言いなりになることはないと思うのに、何がしたいのだろう?
単にわたしが気に入らないのなら、わたしを消せばすむことだ。
美衣ちゃんのお母さんの葵さんも、ご両親が操って寄越したのだろうか?
指輪を奪って、カード類を盗んで罪を犯させて、光輝さんの立場を悪くさせて……。
(そうか、光輝さんの立場を悪くさせる事が目的なのかもしれない……)
人目に付くところで、市条さんに騒ぎを起こさせて、フロアーに倒して唇を奪う……人によっては隙があると思う者もいるかもしれない。
市条さんを光輝さんに近づけさせたらいけない。ご両親の思惑に嵌まってしまう。
だからと言って、ずっと部屋にこもっているわけにいかない。
この親睦会は総帥の表の仕事だ。まだ三日しか過ぎていない。
土曜日までだったら、四日もある。
どんなスケジュールか知らされていないけれど、きっと毎日、パーティーがあるのだろう。
わたしのドレスも汚れて着られない。
このホテルにはドレスのレンタルはないのだろうか?
桜子さんに和服を借りてまた汚されたら、弁償できない。和服は同じ物が二つとない。
既製品ではないのなら、一点一点作り手が手作りする物だからオンリーワンだ。
持っている物は浴衣だけだ。それで乗り切ることができるのか、相談してみよう。
市条さんの事だから、またワインをかけることを企むかもしれない。
初めは偶然、汚してしまったとしても、思惑通りになったのだから、同じ手を使う可能性もある。
今度はグラスを投げてくる可能性もあるから気をつけなければ、わたしもまた怪我をしてしまう。
「美緒、お待たせ」
「あ、お帰りなさい」
わたしはポットのお湯を注いだ。
ティーパックのお茶なので、すぐにお茶もできる。
「美緒、消毒してくれ」
「消毒?背中をやはり怪我をしていたの?」
「違う」
光輝さんは、わたしにキスをしてきた。
目を閉じて、光輝さんにしがみつく。
少しずつ慣れてきた大人のキスは、一度離れた後もまた続いた。
呼吸が苦しくなってきた頃に、やっと離れて行った。
照れくさい。
「……光輝さん、背中を見せて、怪我してない?」
「そんな柔な鍛え方はしてない。大丈夫だ」
呼吸を乱しながら聞くと、光輝さんは、わたしの背中を撫でながらわたしを抱き寄せた。
わたしは自分が考えていた事を光輝さんに話した。
「美緒の想像通りだろうね。俺を総帥の座から降ろしたいのだろうね」
光輝さんは、わたしの拘束を解くと、カウンターの前にある背の高めの椅子に座った。
少し濃く出てしまったお茶をマグカップで出した。
器が大きかった事もあり、思ったよりも味は悪くなっていなかった。
「葵を操って犯罪をさせたのなら、葵は被害者だ。扉の外に書かれた『殺す』の文字の意味も理解できる。警察に保護された赤ん坊も被害者だ。母親から引き離された事になる」
光輝さんは熱めのお茶を飲みながら、考えているようだ。
「幹部連中が市条のお嬢さんを取り押さえてくれたが、黙って出て行くとも考えられない。美緒が言うとおり桜子から和服を借りるのは危険かもしれない。浴衣は昨日のための物だ。パーティーでは着ない。ドレスをレンタルできるか聞いてみよう。この際、買い取ってもいい。汚されたら市条家に料金を請求してやる。パーティーは土曜の夜に解散になる。そのまま帰る者と日曜日にゆっくり帰る者もいる。後、四日の間のドレスが必要だ」
わたしは頷いて、マグカップを口にする。
「市条さんの目的は、やはり光輝さんの後ろ盾でしょうね?起業しても不安定なお仕事なら不安に思っているかもしれません」
「そうだろうね。金で雇っているなら、条件のいいところに行きたいと思うだろう」
「お洒落に疎いのでなんとも言えないのだけれど、今日の市条さんのお召し物は、お世辞にもお洒落だとは思えませんでした。昨夜のドレスは綺麗でしたけれど」
光輝さんは笑った。
今日の市条さんは、ロゴが入ったTシャツと裾の開いたパンツスタイルだった。
色目も普通で、上が白で、下がチョコレート色だった。
生地は上下ともTシャツの生地だったから砕けすぎている。
ワンピースを身につけている円城寺家のお嬢様の中では悪目立ちをしていた。
海に遊びに行くならありだと思うけれど、食事の時間は、皆さんワンピースを身につけている。
わたしは元々夏物の服はワンピースしか持ってなかったので、砕けた洋服は着ることはできないのだけど、TPOは大切だと市条さんを見て思った。
「美緒も知らぬ間に、目が肥えてきたようだな?」
「わたしが着ている物は、円城寺家の方に選んでいただいた物ばかりなので、自分の持っている洋服と比較しただけよ」
「古着だったかもしれないが、美緒もお嬢様の洋服を着ていたからね。育ちが違うのだと思うよ」
「持ち物は全部100均だったけれどね?///」
光輝さんの手がポンポンと頭を撫でる。100均の物でも良い物もある。今でも使える物は使っている。
虐待を受けていても、真竹家は名家だったのだろうか?
一般家庭ではないとは思うけれど、確かに姉はお嬢様に見えた。
住み込みの家政婦もいた。
茶道と着つけができるだけの、少し和服の目が肥えているだけの家庭だったけれど、あの家もわたしにとって役に立つ家だったのだろうか?とふと思った。
…………………………*…………………………
ホテルに問い合わせたら、ドレスのレンタルができると言われた。ただ本職の者は休み中で立ち会いは女性の従業員になった。
光輝さんとレンタルドレスを見て歩く。ホテルだけあって、ウエディングドレスが多い。
「ウエディングドレスでも着ていくか?」
冗談か本気か、わたしは苦笑して受け流した。
ダンスパーティーにウエディングドレスを着ていく者はいないだろう。
「色が白でなければ、普通のドレスだろう?」
「そうね?」
言われてみれば、そうかもしれない。
桜子さんも丈の長いドレスを着ていた。
市条さんも赤い丈の長いドレスを着ていた。他の円城寺家のお嬢様達も丈の長いドレスを着て、ダンスを踊っていた。
光輝さんがドレスを見て、幾つか候補を出していく。
「この辺りは、新品だと思います。まだ値札が付いておりますので」
女性の従業員は別の場所からドレス掛けを引っ張ってきた。
「いいのがあるじゃないか」
光輝さんは新品のドレスを見始めた。
「せっかくだから、4着買うか?」
「1着を着ていてもいいと思うけれど」
「他の者は毎日、着替えているだろう?」
「そうなのかな?」
無駄だと思うけれど、それも事実だ。桜子さんは、毎日、ドレスを替えている。
「パーティー用のドレスもございます」
奥から次のドレス掛けを持ってきた。
そこには、膝丈や長めのワンピースより華やかなドレスが掛かっていた。
「いい物があるな。サイズが揃っているといいのだが」
選んだダンス用のドレスをドレス掛けに掛けると、パーティー用のドレスを見始めた。
わたしの体型だと、どうしても背中のリボンでサイズを調節するタイプの物が合う。
桜子さんのように、体型が成熟していないので、ボディーラインに合った物はなかなかに合わない。
「アクセサリーもいい物があれば見せてくれるか?」
「はい」
女性の従業員はまず入荷したばかりの物をテーブルに置くと、元々ある物も出してきた。
「イミテーションですが、良い素材を使っておりますので、お値段もそれなりにいたします」
パーティー用のドレスは、膝丈の物から踝まで隠れるようなドレスが色々ある。
候補として、幾つか選んでくれる。
「美緒、試着しなさい」
「はい」
背が低いので、ロング丈の物は、どうしても重く見えてしまう。
光輝さんが選んだドレスを女性の従業員に手伝ってもらいながら、着てみる。
どれも華やかで、果たして似合っているのか?
1着ずつ着て、光輝さんがチェックしていく。
「ダンス用のドレスもこの際、ここで買って行くか?せっかくいい物がある」
「はい、お願いします」
何着か試着したダンスパーティー用のドレスは、落ち着きのあるピンクを選んでくれた。
パーティー用のドレスは、背中でコルセットのようにリボンで絞れるような物を中心として色合いを考えてくれた。
スカート部分に白の縁取りのあるネイビーのワンピースは落ち着いているのに華やかで、黒のタキシードの横に並んだときにお揃いに見えそうで、気に入った。
「この5着でいいか?」
「とても気に入りました。ありがとうございます」
パーティー用のドレスは、派手すぎずに地味すぎずに、上品でお洒落なドレスを選んだと思う。
落ちついた色なので長く着られると思う。
「髪はアップした方がいいのでしょうか?」
「そうですね」
女性の従業員はいろんな写真を持ってきて見せてくれる。
自分でできそうな髪型もあった。
この間、桜子さんがしてくれたような髪型も良さそうだ。
ヘアアクセサリーとネックレスも似合う物を選んでもらった。
光輝さんはアクセサリーも新品の中から選んでいる。
ドレスとセットになった物もあったので、使いやすいかもしれない。
(新品のドレスの中から選んだから、購入になるのかな?)
ドレスをもう一度着て、アクセサリーが似合うかどうかを確かめていく。
ドレスに合わせた靴も選んでくれた。
「全て購入する」
「ありがとうございます」
総額幾らになるんだろう?
ダンスパーティー用のドレスは、ウエディングドレスだと思う。
ウエディングドレスを着る機会があれば、これを着てもいいかもしれない。
このドレスを持ち運ぶためのスーツケースは、幾ついるのだろう?
桜子さんはボディーラインが見えるドレスが多かったけれど、光輝さんが選んでくれた物は、シフォンやレースを使ったふんわりした物が多い。
持ち帰るのも大変そうだと思った。
「部屋に運んでくれ」
「畏まりました」
女性の従業員は深く頭を下げた。
ドレスを選んで部屋に戻ると、暫くして卓也さんと恵麻さんが、部屋に訪ねて来た。
「美緒、すまないが、緊急会議がある。俺が戻るまで、二人と過ごしてくれるか?」
「はい」
「卓也君、恵麻君、美緒を頼むよ」
「「はい、行ってらっしゃい」」
「行ってらっしゃい」
光輝さんは急いで部屋を出て行った。
朝の騒ぎや光輝さんのご両親の事もあるし、台風の備えもあるのかもしれない。
「美緒さん、何をして過ごしたいですか?」
「トランプなら持ってきたよ」
「それならトランプにしましょう。でも、わたし、ゲームを知らなくて、教えてもらえますか?」
「ゲームを知らないの?」
「わたし、キャンプや修学旅行も行ったことがなくて、親しい友人もいなくて、遊びを知らないの」
「そうなんだ」
「それなら、俺が教えてあげる」
恵麻さんがわたしをソファーに誘った。
ゲームで遊んでいると、部屋の電話が鳴った。
卓也さんが出てくれる。
〈分かりました〉
電話を切ると、戻ってくる。
「なんだって?」
「総帥から差し入れが届くそうだよ」
暫くすると、扉がノックされた。
卓也さんが部屋を開けてくれた。
「総帥から差し入れです」
「ありがとうございます」
ジュースとケーキが運ばれてきた。ダイニングテーブルに並べられていく。
「それでは失礼しました」
従業員は出て行った。
わたし達はダイニングテーブルに並べられたケーキと青色のソーダーを食べ始めた。
ケーキは、イチゴが乗ったショートケーキだ。
イチゴが酸っぱくて、生クリームが甘い。スポンジはふわふわだ。
「総帥も気が利くね?」
「俺、サンドイッチの方が良かった」
「でも、ケーキなんて、初めて食べるわ。青いソーダーも初めてよ」
「ブルーハワイかな?」
恵麻さんは、青い色の炭酸のジュースを飲んでいる。
「青だからブルーは分かるけれど、どうしてハワイなの?」
「んーとね」
恵麻さんは、卓也さんの方を見た。
「俺も詳しくは知らないけど、ブルーハワイっていうカクテルがあるらしくて、それを真似ている説とハワイの青い空と海の色をイメージしてそう呼ばれるようになった説とかあるね」
「ハワイの空と海は青いのね?」
「そうだね、景色は綺麗だよ。海の色も確かに青いよ」
卓也さんは、説明しながら青いジュースを飲んだ。
光輝さんと一緒に暮らし始めて、初めて提供される食べ物ばかりだった。
ケーキも炭酸ジュースも特に食べたいと思った事はないので、欲しがりはしなかったけれど、とても珍しいと思った。
「ジュースの青い色は着色だけどね」
卓也さんはケーキもジュースも飲むとあくびをした。
青いソーダーを飲むと、なんだか眠くなってきた。
卓也さんと恵麻さんもテーブルに伏せて眠っている。
「こんな所で眠ったら危ないよ?」
二人を起こそうとしたけれど、わたしも瞼が重くなってきた。
(これ変だ。先に食べた二人は、すっかり眠っていて、わたしも眠い。薬でも盛られたんじゃないでしょうね?)
そう思った時には、もう動けなくて、意識が吸い込まれていった。
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