3 / 184
第一章(前半)
2 存在が消えたわたし
しおりを挟む
祖母は急性心不全と診断された。
意識を取り戻した時、祖母からわたしの存在が綺麗に消えていた。
自己防衛本能でも働いたのか、わたしの姿を見て、「静美ちゃん」と手を伸ばしてきた。
「わたしは美緒よ」
「美緒?誰だ、そいつは?うっ!」
祖母の凄みのある声がして、その後に胸を押さえた。
「あまり興奮させないでください。今度、発作を起こせば、命の保証はできません」
医師はきっと悪気はなく、祖母の病状の説明をしただけだと思う。
そうじゃなかったら、わたしは、きっと殴りかかっていたに違いない。
「静美ちゃん、お婆さまの手を握ってあげて」
「そうよ、静美ちゃん、お婆さまを励ましてあげて」
両親はわたしを静美ちゃんと呼び、わたし、美緒は家族の中から消されてしまった。
「静美ちゃんは思いやりのある優しい子よ。お婆さまは静美ちゃんが大好きよ」
(あらそう。そうよね、お婆さまはわたしを嫌いだったものね。その大嫌いなわたしを身代わりにするの?変じゃない?)
祖母はわたしの手を放そうとはしなかった。
「病院は寂しいわ。静美ちゃん、一緒にいてくれるわよね?」
「学校があるわ」
絶対に無理。
少しでも一緒にいるなんて、わたしの胃に穴が開くわ。
蕁麻疹も出てきそうよ。
「静美ちゃん、それならお婆さまが眠るまで一緒にいてあげたら、どうかしら?」
「お母さん!」
(とんでもない!なんてことを言うの?)
「静美、頼むよ」
「お父さん!」
(冗談でも止めて!)
「静美ちゃん、お願いよ」
「……眠るまでね」
医師の目が、縋るようにわたしを見ている。
他人からは、わたしは冷酷非道な娘に見えたかもしれない。
意志の弱いわたしは、祖母の手を振り払えなかった。
大嫌いな人なのに……。
「さあ、椅子に座りなさい」
母が椅子を持って来た。
わたしは仕方なく、椅子に座った。
「では、家族の方に病状の説明と入院に必要な物を説明しますから、別室に移動しましょう」
医師は両親を連れて、部屋から出て行った。
「静美ちゃんがいてくれて、助かったわ」
祖母はわたしの手をしっかり握って、目を閉じた。
(もう、早く寝てよ!わたしは帰りたいの!わたしは静美じゃないの!)
怒りで怒鳴り散らしそうで、必死に堪えた。
祖母が寝たのは、0時近かった。
死にかけたなら、さっさと寝てくれたらいいのに、わたしがいるか、時々目を開けて確かめている。
ニコニコ微笑む笑顔が気持ち悪いわ!
絶対にわたしに向けられなかった笑顔を、静美だと思っているわたしには向けるのね?
(お姉ちゃんもストレスだったかもしれないわね。こんなに溺愛されて)
祖母を起こさないように、ゆっくり手を布団の中に入れて、わたしは急いで病室から出た。
ナースステーションに寄って、帰宅することを伝えてから、自宅に帰った。
意識を取り戻した時、祖母からわたしの存在が綺麗に消えていた。
自己防衛本能でも働いたのか、わたしの姿を見て、「静美ちゃん」と手を伸ばしてきた。
「わたしは美緒よ」
「美緒?誰だ、そいつは?うっ!」
祖母の凄みのある声がして、その後に胸を押さえた。
「あまり興奮させないでください。今度、発作を起こせば、命の保証はできません」
医師はきっと悪気はなく、祖母の病状の説明をしただけだと思う。
そうじゃなかったら、わたしは、きっと殴りかかっていたに違いない。
「静美ちゃん、お婆さまの手を握ってあげて」
「そうよ、静美ちゃん、お婆さまを励ましてあげて」
両親はわたしを静美ちゃんと呼び、わたし、美緒は家族の中から消されてしまった。
「静美ちゃんは思いやりのある優しい子よ。お婆さまは静美ちゃんが大好きよ」
(あらそう。そうよね、お婆さまはわたしを嫌いだったものね。その大嫌いなわたしを身代わりにするの?変じゃない?)
祖母はわたしの手を放そうとはしなかった。
「病院は寂しいわ。静美ちゃん、一緒にいてくれるわよね?」
「学校があるわ」
絶対に無理。
少しでも一緒にいるなんて、わたしの胃に穴が開くわ。
蕁麻疹も出てきそうよ。
「静美ちゃん、それならお婆さまが眠るまで一緒にいてあげたら、どうかしら?」
「お母さん!」
(とんでもない!なんてことを言うの?)
「静美、頼むよ」
「お父さん!」
(冗談でも止めて!)
「静美ちゃん、お願いよ」
「……眠るまでね」
医師の目が、縋るようにわたしを見ている。
他人からは、わたしは冷酷非道な娘に見えたかもしれない。
意志の弱いわたしは、祖母の手を振り払えなかった。
大嫌いな人なのに……。
「さあ、椅子に座りなさい」
母が椅子を持って来た。
わたしは仕方なく、椅子に座った。
「では、家族の方に病状の説明と入院に必要な物を説明しますから、別室に移動しましょう」
医師は両親を連れて、部屋から出て行った。
「静美ちゃんがいてくれて、助かったわ」
祖母はわたしの手をしっかり握って、目を閉じた。
(もう、早く寝てよ!わたしは帰りたいの!わたしは静美じゃないの!)
怒りで怒鳴り散らしそうで、必死に堪えた。
祖母が寝たのは、0時近かった。
死にかけたなら、さっさと寝てくれたらいいのに、わたしがいるか、時々目を開けて確かめている。
ニコニコ微笑む笑顔が気持ち悪いわ!
絶対にわたしに向けられなかった笑顔を、静美だと思っているわたしには向けるのね?
(お姉ちゃんもストレスだったかもしれないわね。こんなに溺愛されて)
祖母を起こさないように、ゆっくり手を布団の中に入れて、わたしは急いで病室から出た。
ナースステーションに寄って、帰宅することを伝えてから、自宅に帰った。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる