変態御曹司の秘密の実験

６ 亜梨子が消えた

２ 亜梨子が見つからない

　翌朝、早く亜梨子の卒業した大学に行ったが、亜梨子の姿は見つけられない。
　登校してくる大学生が不審な目で見てくる。
　学生課を聞いて、そこに行ったが、亜梨子の姿はなかった。
　亜梨子の事を聞いたが、来てないと言われた。
　しばらく大学で待ってみたが、亜梨子は来なかった。
　家を探しているのかもしれないと気付いて、誉は不動産屋を検索して、次々に回ったが、人捜しだとわかると、不動産屋に冷たくあしらわれ、追い出された。
　途方に暮れて町中を歩く。
　亜梨子が以前住んでいた場所に、もう一度来てみたが、亜梨子は見つからない。
　電話をかけても電源が入ってない。
「会いたい。会って謝りたい。本物のウエディングドレスを見せたい」
　指輪もできている。
　ALICEプロジェクトが完成したら正式に結婚を申し込むつもりだったのに。
　空き地に手を合わせ、亜梨子の無事と再会を願った。
　亜梨子の履歴書には経歴にメイド喫茶と書かれていた。
　この空き地になった場所から通えるメイド喫茶を探そうと、誉は仕事を末長に任せて、亜梨子探しに必死になった。


　検索して、一軒ずつ回っていく。
　外から中を覗き、店員の顔を見ていく。
　いきなり訪問して逃げられたくはない。
　厨房に入っている可能性もある。
　亜梨子は料理が上手い。
　ゆっくり観察して、メイド喫茶に入り飲み物を注文して店員に亜梨子の写真を見せる。
「知りません」
　どこの店でも同じ言葉が返ってくる。
　何件か回ったとき、紅茶を注文した。紅茶を飲んだとき、懐かし味がした。
　店員に亜梨子の写真を見せたが「知りません」と答えが返ってきた。
　それでも、その紅茶の味は、舌が覚えている。
　店の外から、その店を何日も観察した。
　店内に現れた懐かしい姿を見て、やっと見つけて、誉は心の中で喜んだが、亜梨子はこの店に守られている。 
　いきなり入って亜梨子を抱きしめても、きっと拒まれる。
　毎日、その店を外から観察した。
　シフトがあるのか、亜梨子はいろんな時間にやってくる。
　店内にはあまり出てこないので、厨房を任されているのかもしれない。
　思い切って、店長を指名して亜梨子の写真を見せて、「この子を探しているんですが」と訊ねたが、やはり「知らない」と答えられた。
　会わせてもらえない。
　それでも、誉はお店の外から店内を見ていた。
　時々現れる、亜梨子は笑顔を浮かべている。
　仕事仕様の笑みだろうが、泣き顔よりマシだ。
　２５体のALICEは配送されて、もう購入者の元に届いている。
　亜梨子に危害が与えられないといいと、誉は今頃、亜梨子と同じ顔で作ったリスクを感じ取っていた。
　愛しすぎて、目の前が見えていなかった。
　愛おしい亜梨子が、何体もいたら幸せだと思っていたが、それは売り物だと言うことを失念していた。
　一度だけ、末長に「この顔で、この声で作るのか？」と確認された。
　末長は気付いていたのだ。亜梨子が傷つき、傷つけられる可能性があることを。
　長年一緒に過ごしてきた相棒の、真意を舞い上がった誉は掴み取れなかった。