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3 御曹司と出張
7 新しく辞令をもらえました
しおりを挟む「亜梨子、待ってくれ」
誉は亜梨子を追いかけて、亜梨子の部屋に入った。
亜梨子は洋服を丁寧に畳み、紙袋に入れている。
スーツケースのような高価な物は持っていない亜梨子は、購入した物が入っていた袋を大切にしまってあった。
「このお金はどういう計算で出したか教えて」
誉は亜梨子の横に腰を下ろして、顔を覗き込む。
亜梨子は涙ぐんでいた。
「私に買ってくれた洋服代と化粧品代。毎日の食事代を折半しました。家賃は少ないかもしれないですけど、千代さんに借りていた金額で計算しました」
「これは返すよ。僕は亜梨子にプレゼントをしたくて買ったんだ。食事だって、僕が支払わなくてはいけないくらいだ。料理を作って洗濯もしてくれていた。部屋の掃除もしてくれたよね。家事はなかなか認められないが、家政婦を雇ったら、すごく高額なんだよ」
亜梨子は手を止めて、俯いた。
「新入社員で何もわからない亜梨子に、無理難題を押しつけて検体にさせたことは、僕に責任がある。説明不足で言質を取ったようなものだ。労働基準監督署に訴えられてもおかしくはないことをさせていた。ほんとうにすまなかった」
「もういいの。終わったことだから」
亜梨子はゆっくり洋服を畳んでいる。
「もう検体にはならなくていい。ALICEプロジェクトの資料は、もう揃った。今は製造段階に入っている。だから、亜梨子が体を張って、嫌な検査をする必要はなくなった」
「もうしなくてもいいの?」
亜梨子はやっと顔をあげた。
「出張と言って、本当は亜梨子とデートをしたかったんだ。そのつもりで出かけていた。婚約も結婚も急がなくていい。僕が亜梨子を好きな気持ちは本当だ。いつまでも待つよ。寝室が一緒なのが嫌なら、この部屋にベッドを置いてもいい。家賃も食費もいらない。僕は同棲のつもりだったから」
「エッチもしてくれないのに、同棲ですか?」
視線がまた下がってしまった。
「すまない。昨夜、食事を終えたら、亜梨子を抱くつもりだった」
「本当に?」
「湯あたりして、そのまま眠ってしまったんだ。今日は亜梨子に喜んでほしくてウエディングドレスを見に行った」
「信じてもいいのですか?」
「信じて欲しい。まず、このお金を返したい」
誉はお金の入った封筒を、亜梨子に返した。
気持ちが伝わったのか、亜梨子は現金の入った封筒を受け取り、大切に両手で持っている。
「退職届は預からせてくれ。仕事は、本社の秘書課に任せていた仕事を亜梨子にしてもらう。それでも仕事を辞める?」
「私一人でできるんですか?」
「パソコンが使えれば、できる仕事だ」
「普通の仕事をさせてくれるんですか?」
「データー収集が終わったら、僕の秘書の仕事をしてもらうつもりだった。名刺見ただろう?」
「はい」
「もう出て行く理由はなくなったはずだ」
「はい」
亜梨子の目から涙がポロポロこぼれている。
「泣かないで、亜梨子」
ぎゅっと抱きしめると亜梨子は、誉の背中に腕を回した。
「もう少しここに住まわせてください」
「ずっといてくれていいよ」
「ありがとうございます」
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