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ヒーローとの出会い
③
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豪邸。そう聞くと、トーキョードーム何個分だとか、広々とした庭だとか、番犬とかSPとか。そんなイメージがあるけれど、これらを基準とするならば、オレが踏み入れた場所は確かに相違なく豪邸だ。
見上げる高層マンションは、確か超セレブでステキな人たちの根城。ガラスがイカした並びで整列し、晴れていたならきっと太陽光にその姿を弾けさせるのだろう。庭はないしSPも…見える範囲にはいないが。
大理石のパネルがはめられた床の、ホテルのロビーみたいなエントランスの脇には入居者用のジムが併設されていて、楽器でも運ぶのかと突っ込みたくなるエレベーターに乗り込み、昇った先はほぼ最上階に位置する部屋。息をのむほどの時間、オレと男はエレベーターに乗っていた。
「いや、フロントの彼には嫌な顔をされたね、ハハハ、愉快だよ」
「あれは嫌な顔ってより、びっくりしてたんだと思うけど……」
「そう? ところで、自己紹介がまだだったけれど、ハハ、こんな姿で自己紹介だなんて笑えるよ」
「自己紹介も済んでいない相手の家に…豪邸に来てしまっていることの方が笑えるけどね。あぁ、全部悪い夢みたいだ」
「それはきみがあの橋の下に落ちなかったところから始まっているのかな? Thomas Hazes だ。よろしくね、パピー」
2人きりの箱の中、オレよりよほど身長が高い、トーマス・ハーゼスと名乗った大男の手が差し出される。子犬扱いされたことに内心むっとしたが抑えよう。
オレはその手をおずおずと握りながら名乗ろうとして、困ったことに気付く。
「あぁオレは、うーんと……」
「きみはジャパニーズ? にしては、よく英語をしゃべるよね。とても上手だけど」
「ありがとう、Mr.Hazes えっと、オレは、ハイネ・アリミヤ。よろしく」
「ハイネ? ハイネさん?」
トーマスが日本語でオレの名前を反復する。
世界の中ではそこそこの難易度なんて言われている日本語だけど、数語聞いただけで、トーマスはなかなか日本語がイケるのではないか? とオレは考えていた。英語の訛りは多少混ざっているけれど、聞き取れないほどではないし、日本語を一通り勉強したといった感触がある。オレもちやほやされるほど英語ができるというわけではないから、できることなら日本語で話したい。
「ハイネ・アリミヤ」
オレは雨に濡れてすっかり冷たくなったスマートフォンに、自分の名前を打ち込んで見せる。
灰音・有宮
「漢字、やっぱり日本人なんですね?」
「そう、日本人だよ。ミスター、は、日本語を話せますか?」
「ええ一通り。ハイネ・アリミヤ。ハイネと呼んでもいい? けれど、日本名。英語名が正しい、ですか?」
「あぁ……そうだね。うん」
首を捻り続けるトーマスに言葉を濁す。日本名、英語名。オレが名乗っているのは日本名。いわば芸名みたいなものだけど、自分でも芸名と称するのはいい気分ではない。
ハイネという名前も無いわけでもないからか、トーマスはすぐに察しがついたようで、いくつかの名前を挙げた。その中の一つを取り上げて、オレは寒さで痒くなってきた首の後ろを引っ掻く。
「そう、それ。 Henry」
「ヘンリー」
「Henry Wolff」
「ヘンリー・ヴォルフ。ヴォルフ?」
「あんまり馴染みが無いかな」
「いや。けれど…いやなんでもない。ああ、ついたよ。パピーではなかったみたいだね」
トーマスの軽口にオレは肩を竦めたが、軽くウインクを返された。気障な男だ。
見上げる高層マンションは、確か超セレブでステキな人たちの根城。ガラスがイカした並びで整列し、晴れていたならきっと太陽光にその姿を弾けさせるのだろう。庭はないしSPも…見える範囲にはいないが。
大理石のパネルがはめられた床の、ホテルのロビーみたいなエントランスの脇には入居者用のジムが併設されていて、楽器でも運ぶのかと突っ込みたくなるエレベーターに乗り込み、昇った先はほぼ最上階に位置する部屋。息をのむほどの時間、オレと男はエレベーターに乗っていた。
「いや、フロントの彼には嫌な顔をされたね、ハハハ、愉快だよ」
「あれは嫌な顔ってより、びっくりしてたんだと思うけど……」
「そう? ところで、自己紹介がまだだったけれど、ハハ、こんな姿で自己紹介だなんて笑えるよ」
「自己紹介も済んでいない相手の家に…豪邸に来てしまっていることの方が笑えるけどね。あぁ、全部悪い夢みたいだ」
「それはきみがあの橋の下に落ちなかったところから始まっているのかな? Thomas Hazes だ。よろしくね、パピー」
2人きりの箱の中、オレよりよほど身長が高い、トーマス・ハーゼスと名乗った大男の手が差し出される。子犬扱いされたことに内心むっとしたが抑えよう。
オレはその手をおずおずと握りながら名乗ろうとして、困ったことに気付く。
「あぁオレは、うーんと……」
「きみはジャパニーズ? にしては、よく英語をしゃべるよね。とても上手だけど」
「ありがとう、Mr.Hazes えっと、オレは、ハイネ・アリミヤ。よろしく」
「ハイネ? ハイネさん?」
トーマスが日本語でオレの名前を反復する。
世界の中ではそこそこの難易度なんて言われている日本語だけど、数語聞いただけで、トーマスはなかなか日本語がイケるのではないか? とオレは考えていた。英語の訛りは多少混ざっているけれど、聞き取れないほどではないし、日本語を一通り勉強したといった感触がある。オレもちやほやされるほど英語ができるというわけではないから、できることなら日本語で話したい。
「ハイネ・アリミヤ」
オレは雨に濡れてすっかり冷たくなったスマートフォンに、自分の名前を打ち込んで見せる。
灰音・有宮
「漢字、やっぱり日本人なんですね?」
「そう、日本人だよ。ミスター、は、日本語を話せますか?」
「ええ一通り。ハイネ・アリミヤ。ハイネと呼んでもいい? けれど、日本名。英語名が正しい、ですか?」
「あぁ……そうだね。うん」
首を捻り続けるトーマスに言葉を濁す。日本名、英語名。オレが名乗っているのは日本名。いわば芸名みたいなものだけど、自分でも芸名と称するのはいい気分ではない。
ハイネという名前も無いわけでもないからか、トーマスはすぐに察しがついたようで、いくつかの名前を挙げた。その中の一つを取り上げて、オレは寒さで痒くなってきた首の後ろを引っ掻く。
「そう、それ。 Henry」
「ヘンリー」
「Henry Wolff」
「ヘンリー・ヴォルフ。ヴォルフ?」
「あんまり馴染みが無いかな」
「いや。けれど…いやなんでもない。ああ、ついたよ。パピーではなかったみたいだね」
トーマスの軽口にオレは肩を竦めたが、軽くウインクを返された。気障な男だ。
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