憑依転生~手違いで死亡した私は、悪女の身体を乗っ取り聖女となる~

もっけさん

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旅立ち

準備は必要です

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 晴れて自由の身になったのは良いが、ノア達の蛮行が父デュークの耳に入る前に国境を越えたい。
 罪人の刻印を態と入れさせたのも、連れ戻されない保険である。
「これがあると、行動が制限されてしまうのよねぇ」
 左手の甲に刻まれた罪人の刻印を眺めながら溜息を吐く。
 まず、公的機関の利用が出来ない。
 一般の宿なども敬遠されて断られる方が多い。
 極めつけは、外国への入国審査で弾かれることだ。
 国外追放とは名ばかりで、私は野垂れ死にを望まれたというわけだ。
 リリスの記憶では、どの選択ルートに入っても悲惨な死を遂げる。
 特に国外追放ルートは、リリスの乗った馬車が襲われ女性の尊厳を踏みにじられた挙句、娼館に売り飛ばされ性病を患って死ぬ。
 これを何回も体験してループを繰り返していたら、そりゃ精神こころが摩耗するわ。
(ググル先生、罪人の刻印を隠蔽して他国に渡ることは可能?)
(可能ですが、他国で活動するなら罪人の刻印を消す事を推奨します)
(確かにそうだけど、連れ戻されても嫌なんだけど)
(必要な時に、罪人の刻印を刻み直す事を推奨します)
(罪人の刻印を自分で刻むのって意味無くない?)
(フッ、そこは抜かりありません。個体名ジョンフィズ・ルイスが施した罪人の刻印をコピーしました)
 心無しか、ググル先生のドヤ顔が見える。
 仮に罪人の刻印を消しても、ググル先生の能力で再現出来るなら拘る必要はない。
(よし、じゃあ消しちゃって)
(了。罪人の刻印を削除しますか?)
(YES)
 右手に刻まれた罪人の刻印は綺麗さっぱりと消えている。
 自分を鑑定しても、犯罪歴の記載がないので街を出る時に引っかかることはなさそうだ。
 制服のままで城下をうろつくと目立つので、手持ちのドレスを売って服を新調するべきだろう。
(先生、良心的でドレスを高値で買ってくれそうなお店と平民の服が買えるお店を教えて)
(カブリオレ大通りを400m直進し、右折後した先に『アンジェリーク』という店があります。幼少期のドレスを売り払い、乗馬服を購入する事を推奨します。カブリオレ大通りまで転移可能です)
 ドレスを売る店と服を買う店を梯子するより、同じところで売買した方が時間も手間も省けるということか。
 いつ追手が掛からないとも限らないし、今日中に王都を出たい。
(その案採用で! 念のため、髪と瞳の色を変えることは可能?)
(可能です。どの色を希望されますか?)
(金髪碧眼!)
(了。認識阻害魔法作成。成功しました。髪と瞳の色を変更します。出来できました)
 ググル先生、仕事が早い。
 空間収納から鏡を取り出して自分の顔を見ると、髪も瞳も注文通り金髪碧眼になっている。
 学園のマジックローブを取り出して、頭からスッポリと被り隠密を発動させて準備は万端。
(先生、転移しちゃって下さい!)
(了)
 一瞬で景色が変わり、大勢の人で賑わう道のど真ん中に立っていた。
 隠密を使っているため、誰も私に気付いていない。
 ググル先生の道案内でアンジェリークの前までやってきた。
 店の外から見えるドレスやタキシードは、古着を流行に合わせてリメイクされた物が飾られている。
 皇室お抱えの店よりランクは下がるが、デザインは悪くない。
 隠密を切ってドアを開けると、髪をオールバックにした店員が丁寧に迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。本日は、何をお探しですか?」
「着れなくなったドレスの買い取りと、動きやすい乗馬服を探しています」
「畏まりました。買い取るドレスを見せて頂いても宜しいですか? 査定に時間が掛りますので、その間にご要望の服をお探しになられては如何でしょう」
「そうさせて貰うわ。ドレスは、ここに置けばいいかしら? 三着買い取って貰いたいのだけど」
 会計テーブルを指さすと、
「はい、構いませんよ」
と答えが返ってきた。
 空間収納から幼少期に着ていたドレスを三着取り出した。
 普段着のドレスだが、高級な生地を使った代物だ。
 装飾に使われている宝石も外せば、それなりの値にはなるだろう。
「デザインは古いですが、良い代物ですね。装飾の石も上質です。本当にお売りになられるのですか?」
「着れない服を持っていても仕方ないと思うのだけど」
 フゥと溜息を吐くと、
「確かに、仰る通りですね。では、買い取り額を計算します。乗馬服は、左奥の棚になります」
「ありがとう」
 私は、左奥の棚に近付きジャケット一着とシャツ三着、乗馬ズボン二着を選ぶ。
 流行を追いかけないシンプルなデザインだが、その恰好で外を出歩いても違和感はない。
 乗馬靴も欲しいが、買取金額によっては断念せざる得ない。
「買い取り額の算出が出来ました」
「お幾らですか?」
「青色のドレスは金貨二枚と銀貨三枚、群青色のドレスは金貨五枚、白色のドレスは金貨一枚です」
(ググル先生、この価格は適正なの?)
(否。装飾の宝石を入れれば、最低でも金貨二十枚は下りません)
 どこが良心的な値段で買い取ってくれるだ。
 ぼったくられているじゃん。
「生地の値段なら打倒ですね。でも、装飾品に使われている石を含めるなら金貨三十枚でも安いと思うのですけど?」
 ニッコリと笑みを浮かべて返すと、
「買い取りをしなくても良いのですよ?」
と返された。
 完全に足元を見られている。
 学生だと思って舐められているのだろうか。
「そうですか。残念です。この店は、正当な価格で買い取りをされると伺ってきたのですが本当に残念です。買い取りは、結構です。他のお店を当たるとしましょう」
 ドレスを空間収納に戻そうとしたら、店員は慌てた様子で私の手を握って言った。
「お待ち下さい! 金貨三十枚で買いましょう」
「それは最低額の話ですよね? こちらの商品も付けて頂けるなら、その金額で売りますわ」
 選んだ乗馬服一式と靴を指さすと、店員は苦い顔をしている。
 暫く沈黙が続き、
「……分かりました。それで構いません」
と肩をガックリと落としている。
マスター、ボッタクリですよ)
(だまらっしゃい)
 ググル先生をピシャリと叱り、私は金貨三十枚と乗馬服と靴を手に入れた。
 試着室で着替えさせて貰い、荷物とお金は空間収納に仕舞った。
「ありがとう御座います」
 店員にお礼を言って店を出た。
 必要な物を市場で買い揃えたら、王都とはおさらばだ。
 私は、温かくなった懐にフフフと笑みを零した。
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