上 下
99 / 181
エルブンガルド魔法学園 中等部

お茶会を開くことにしました

しおりを挟む
 私が少人数のお茶会をするという話は、瞬く間に学園中に広がった。
 誘われると思っている者がいるのは知っていたが、アプローチの仕方がウザかった。
 ヘリオトロープの会から最も優秀で最も私に懐疑的で反抗的な人間を選んだ。
 恐らくどこかの誰かさんのスパイなんだろうけど、絡め手で篭絡するのは歴史上の人物から嫌と学ぶことが出来る。
 豊臣秀吉は、人誑しで有名な武将だ。
 敵将を京の都で茶席を設けたり、マメな手紙と贈り物で相手の心を掌握したりと、伝説は様々ある。
 私もそれに倣って、人心掌握をやってみようと思う。
 境界線の夜明けの会と夕焼けの騎士団からも、一人ずつ声を掛けた。
 優秀過ぎるが故に疎まれている者を選択する私も良い性格をしているなと、我ながら思う。
 エマ・レイスは、私から誘うのは得策ではないと判断し向こうから声を掛けてくるか、次回に持ち越しするか保留にした。
 私のお茶会に堂々と参加するつもりでいたアルベルトに、私は先にぶっとい釘を刺しておいた。
「殿下、私のお茶会に参加しようなどと思わないで下さいね」
「何でだよ!!」
 呼ばれないこと自体がおかしいと言いたげなアルベルトに、
「今回のお茶会は全員が女性ですのよ」
と言うと、何かピンときたのかドヤ顔でトンチンカンな事を言って来た。
「巷で言う女子会というやつか?」
 城下で仕入れてくる知識は、徐々にアルベルトの中に女子力が蓄積されつつある。
 女子会とお茶会を一緒にする当たり馬鹿なんだが、説明したところで目の前の駄犬が理解するとは思えない。
 私は悟りの境地で、笑みを浮かべ肯定した。
「古今東西広い意味では、そうですね。男性を交えてのお茶会は後日機会があれば開催しますわ。何分、わたくしも多忙な身の上なので。その時は、殿下もお誘いしますわ。アングロサクソン家秘蔵新作のスイーツの一つでもご賞味下さいね」
「女子会に菓子が出るのなら、出たいが?」
 菓子に釣られんな、馬鹿王子! と心の中で罵倒した。
 頬を引きつらせながら、はっきりと断言する。
「殿下も食べた事のあるものを用意しますわ。じつは、ここだけの話なんですが丁度同じ日にヘリオト商会のお菓子部門で新作スイーツが発売されるんですのよ。この頃、殿下も頑張っていらっしゃるので青薔薇の会に差し入れする予定だったのですけど。その日、青薔薇の会にいらしゃらないのなら食べられませんわね。お可哀そうに」
 目を細め扇子で口元を隠して笑うと、アルベルトは即行で自分の意見を引っ込めた。
「俺は、その日は青薔薇の会で普段通り過ごすことにしよう」
「あら、それで宜しいのですか?」
「問題ない」
「畏まりました。殿下の分もお届けするように、うちの者に伝えておきますわ」
 これでアルベルトの乱入してくる確率は減った。
 0じゃないのが怖いが、アルベルトは奴の友人達に任せよう。
 アルベルトのせいで要らぬ出費が出てしまったが、乱入されて作戦をぶち壊されるよりマシと考えれば安いものである。
 お茶会の招待状も香り付きの押し花が入った和紙を使った。
 毛筆で書かれた文字の斬新さと美しさに見惚れるが良い。
 と言うのは冗談だが、興味を引くものだとは思う。
 派閥の垣根を越えて集めた人をお茶会という席に着かせ、相手に満足して帰って貰わねばならない。
 その為の労力もお金も惜しむ気はない。
 今回は『女子』限定で行うので、お小遣いで買える範囲のカタログを用意している。
 貴族用のカタログのモデルはアルベルトだが、庶民用のチラシにはアルベルトの友人達がモデルになっている。
 約一名、男装の麗人的な雰囲気になる奴がいるので乗馬服を中心にモデルとして起用している。
 時々、男性用のカタログにも掲載しているので、男性か女性かで意見が分かれているらしい。
 まあ、顔も化粧で弄っているので早々バレることはないだろう。
 粛々と招待状を出し、お茶会の段取りを済ませ当日を迎えた。


 王族が使えるサロンを開放して貰い、私は招待客たちを案内した。
 キャロルが連れて来たのは、彼女の幼馴染のデリエラ・ヒルスと親友のベリル・ロンド。
 リズベットの取り巻き達だ。
 リズベットからの扱いは、酷いの一言に尽きる。
 彼女の失敗は押し付けられ、手柄は横取りされる典型的な搾取される人間の立場だ。
 ヘリオトロープの会からはオリバー・フェルト、夕焼けの騎士団からはカリーナ・イエーガー、境界線の夜明けからはレビ・フィルマが参加している。
 カリーナの実力は女性の身でありながら団長のグレイスより上と言うことで不遇の扱いを受けていた。
 レビは、ビックリ箱のような失言と無駄な行動力に除名寸前だそうだ。
 何故レビを招待したかと言えば、そのビックリ箱な失言は視点を変えるだけで助言であることが証明されているからだ。
 表面上の言葉だけを受け取れば、彼女は「なんて無礼な人間なのだろう」と思う人が殆どだろう。
 言葉の裏を読み合う貴族社会で、彼女ほど言葉に本心を隠すのが上手な人はいない。
 ただ上手に伝えられないだけなのかもしれないが、私からすればそんな些細なことはどうでも良い。
「さあ、皆様お座りになって。今日は、ヘリオト商会から新作のお菓子とお茶を取り寄せましたの。是非、感想を聞かせて頂戴」
 パンパンと二回手を叩くと、ユリアとメイド姿のアリーシャが配膳をしていく。
「リリアン様、本当にこのサロンでお茶会なんて良いんですか?」
「ヒルス様、質問の意図が分かりかねますわ。具体的にお願いします」
 扇子で口元を覆い、ニッコリと笑みを浮かべると口ごもるように言った。
「あの……このサロンは、王族しか使えないサロンだと聞いているのですが…」
「ああ、そういう意味でしたの。失礼、ご心配には及ばなくてよ。わたくしも王族ですもの。殿下の婚約が無くても、王家の血は引いておりますの。王位継承権も低いですがありますのよ。だから、このサロンも使えますの。だからご心配には及ばないわ。お菓子がパサついてしまうわ。どうぞ、ご賞味下さいまし」
 私が一口生クリームたっぷりの苺のショートケーキを食べると、皆食べ始めた。
 初めて食べた味に感動している。
 まずまずの出だしと言えるだろう。
 これから、掌握しにかからせて頂きますよ。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。

和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!

はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。 大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。 未だに思春期を引きずって対応は超塩。 それでも、弟が世界で一番かわいい。 彼氏より弟。 そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。 けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

処理中です...