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幼少期

新しい命の誕生とアルベルト隔離作戦

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 予定していた王子主催のパーティーは、王妃の出産で立ち消えになった。
 予定日の十日前に、待望の第二王子が生まれた。
 その知らせを聞いた瞬間、私はガッツポーズしたよ。
 王妃ともに赤子の容体は安定しているが、そんな状態で王城に複数の人間が入って来られては警備の面でも非常に困るので、サクッと延期の詫び状を書いた。
 アルベルトの荒れっぷりが酷かったので、絶対に王妃と赤子には近寄らせないように物理的に距離を離した。
 何てことはない。
 私の領へ視察という名の隔離である。
 久しぶりの里帰りに、私の心はサンバを踊っている。
コブアルベルト付きでも、私の可愛い天使たちに会えるなんて…良い。アンダーソン侯爵夫人にはご足労掛けてしまうけれど、こればかりは仕方がない。王妃様と第二王子様の方が、コブよりも大切だからね」
 フンフンと鼻歌交じりに荷造りしていると、ユリアが呆れた顔でツッコミを入れた。
「視察と言いながら、ほぼ監禁するつもりですよね? 王子の教育が遅れて、学園の勉強が付いていけないとなれば大問題ですよぉ。どうするんですか?」
「私としたことが、うっかり忘れてました。王子の教師達も招かねばなりませんね! 家には、優秀な家庭教師もいます。あの腐った脳みそでも基礎くらいなら詰め込めるでしょう」
 寧ろ、詰め込まないと本当に顔だけ王子になってしまう。
 正直、アルベルトを実家に連れて行くのも嫌だ!
 領地に足を踏み入れるのも許せないレベルの嫌悪があるが、将来第二王子が王位を継いでくれるのであれば自分の感情くらいコントロール出来る。
「愛し子よ、我らをここに置いていくつもりか?」
 ファーセリアが、トランクの蓋の上に泊まりジーッとこちらを見ている。
「そうですよ。アルベルトが、貴方の機嫌を損ねないとも限らないので連れて行きません。ノームは適当にダラダラしているでしょうし、ウンディーネはノームがいるところならどこにでも付いてきますからね」
 一番危険思考を持っているファーセリアとアルベルトの組み合わせは、最早最悪を通り越してこの国を消しかねない。
 遺伝子はないのに、愚王イグナーツと性格も思考もそっくりだ。
 小さな精霊達でさえ同じ空間にいると、イラッとして悪戯を仕掛けているのに。
 大精霊相手にどんな不敬な言葉が飛び出すか分からない状況のは、私の精神を確実に蝕む。
「我は、そこまで矮小ではないぞ。お前の実家とやらは、それは面白い物が沢山あるとノームから聞いているからな。暇つぶしには丁度いい」
 王都に比べてアングロサクソン領は栄えている。
 流行の殆どは、アングロサクソン領から発信されていると言っても過言ではない。
 だからと言って、どこに地雷があるか分からないファーセリアを連れて行くような危険行為はしたくない。
「ファーセリア、アルベルトの不要な言動で貴方のうっかりを『今』されるのは非常に困るんですよ。だからお留守番してて下さい。ただでさえ、精霊達を抑えるのに精一杯なのに余計な労力を増やされたら、私の実務に影響が出て損失が出たらどうするんですか」
 私が手広く商売を広げたのも、色々発明したりしていたのも、全て早々に公爵令嬢という人生をリタイアするためだ。
 可愛い双子達が、苦労しなくて済むだけの財力も確保したい。
 その為に勉強も仕事も頑張っているのに、精霊達のご機嫌取りで無駄な精神力と時間を消費したくない。
「確かにイラッとしてうっかり燃やしてしまうかもしれんな。リリアン、今でなければ良いのならば、いつなら良いのだ?」
「十八歳の王立学園を卒業する日に、アルベルトの進退が決まりますわ。愚かなままであれば、存在価値はなしと言うことで今まで掛かった費用を請求させます。使えるなら一家臣として国に仕えて貰います。どちらに転んでも一生飼い殺しにする予定なので寿命が尽きる前なら良いですよ」
「それでは、つまらぬ」
「そう言うと思ってましたよ。軽く炙って即元通りにすることが出来るなら、年一回くらいならやって良いですよ」
 出来ないだろうと高を括って言った条件を真に受けたファーセリアは、対策を用意して戻ってきた。
 光の上位精霊の首を掴んで再び姿を現した時は、思わず絶叫しそうになった。
「ファーセリア……どういうことか説明して頂戴」
「愛し子の言う通り、回復出来る者を連れて来ただけだ」
「その子、凄く怖がっているわ。何してくれちゃってんの?」
 ブルブルと震えている光の上位精霊が哀れだ。
「我が誰かに頭を下げるのは性に合わん。我より下の精霊に命令しただけだ」
「何て命令したのか一応聞かせて下さる?」
「我が燃やした者を即癒せなければ消す」
「それは命令ではなく脅しだから却下。何で精霊は、こうも過激な性格をしているのよ……。燃やすのは寿命が来た時だけにして。それまでは、精々物理的にその鋭い嘴で突くくらいで我慢して下さい。あ、顔は狙わないでね。服に隠れて見えにくい場所なら良いわよ。何なら股間でも宜しくてよ」
 寧ろ、火炙りより物理的に突いた方が鬱憤は腫らせるのではなかろうか?
「……我は、男の股間を突く趣味は持ち合わせておらぬぞ」
「男の一番の急所よ。嫌だわ。あいつの玉を潰した方が良い気がしてきたわ」
 玉を取れば狂暴性が収まると前世で何かの本で見た気がする。
 態と玉を潰して去勢手術を施せば、あの性格も多少はマイルドになるのではないだろうか。
 名案ではないかと本気で考えていたら、
「お嬢様、物騒なことを考えないで下さい。流石に玉を取るのは可哀そうです」
とユリアに窘められた。
「ユリア、去勢することで狂暴な性格がマイルドになるって何かの文献であったのよ。気性の荒さが、少しでもマシになるのであれば去勢も止む無しだと思わない?」
「相手は、腐っても王子ですよ。ダメに決まってるじゃないですか」
 対外的には、アルベルトは王子の肩書なんだよなぁ。
「愛し子は、股間を攻撃させたがっているようだが排泄器官を突く趣味は持ち合わせておらぬ。忠告通り服に隠れる場所を突くとしよう」
 そう言うと、ファーセリアは光の上位精霊を解放した。
 一目散に逃げていく辺り、余程怖かったのだろう。
 ご愁傷様と心の中で呟いておいた。
「今のところ、アルベルト以外に危害を加えないで頂戴。後、擬態は解かないでね。どこで誰が見ているか分からないからね」
「ふむ、何かイラッとしたら愚王の息子を突けば良いのだな」
「アルベルトだけね。第二王子に手を出したら叡智の結晶で跡形もなく消すわよ」
 満面の笑みを浮かべてファーセリアに太い釘を刺すと、彼はコクコクと赤べこの様に頭を上下に振った。
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